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縁の迷宮と、邂逅と。  作者: 銀筆
第一章
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02:迷宮の中の迷宮

 涙は欠伸をすると出てくるものだ。そしてそれ以外では見せてはいけないのだ。

 朝の日課である魔力操作の鍛錬をしつつ、ぼんやりとそんなことが頭に浮かんだ。

 この宿屋にも長くお世話になった。他の魔族が流した嘘だらけな俺の噂にも一切耳を貸さず、俺に優しくし続けてくれた数少ない店主家族には感謝してもしたりない。出て行く俺にお弁当を持たせてくれた。

 俺はこの国を出ることにした。


 迷宮と言うものは世界中にある。その全ては水辺にある洞窟から進んだ水底にある。迷宮のある場所の共通点は巨大な湖か、もしくは海ということらしい。

 謎の多き迷宮であるが、その中でも特別とされている迷宮がある。太古の迷宮、始まりの迷宮と言われているその迷宮の名は『時と縁の迷宮』という。

 誰がそう呼び始めたのかは判らない。迷宮自体に古代文字でそう書かれていたという噂もある。

 その迷宮は他の迷宮とは比べようがないほどの異質さを持っているらしい。


 迷宮ギルドの説明にはこう書かれている。


 ・時と縁の迷宮は他の迷宮に比べて突出して行方不明になるものが多い。

 ・一定階層以降は探索者、パーティーによってその姿を変える。

 ・他の迷宮とは比べようがないほど広大である。


 そして、


 ・『世界樹の苗木』を見つけた際は必ず迷宮ギルドに告げること。建国する場合には迷宮ギルドはあなた方に全面協力をします。


 などと強調されてかかれており、また他には、


 ・『邂逅のカード』を手に入れられた方は、その情報を秘匿することを薦めます。


 という、伝説に出てくるアイテムの名まで明記されていたりする。

 とにかく特別な迷宮なのだ。迷宮の中の迷宮と言われているのも頷ける。

 ならば! ここならばもしかするともしかするのではないだろうか!?

 少し興奮してきた。

 もっと早くに出るべきだったのだろうか? いや、最後まで諦めなかったからこそ今になってしまっただけなのだ。問題ないのだ。

 迷宮の魔物を狩ると魔力量が増えるっていうのはガセだったのではと思ったことは数え切れないほどにある。だがそれでも、もしかしたら、もっと強い魔物なら、迷宮の更に奥にいけたなら、などと考え続けた結果なのだ。そして結論は出た。ここでは無理だと。


 この『時と縁の迷宮』はその行方不明が多いと言う特徴ゆえ、入るためには条件がある。

 行方不明になるものが多いあまりに、実は迷宮の中に地上よりよっぽど暮らしやすい場所でもあるんじゃないかなんて噂があるほどなのだ。

 まだまだ人類の数は少ないため、人材を無闇に減らすわけにはいかない。そのため条件の一つには、帰還率を高めるために他の迷宮での探索実績が一定以上あること。そしてもう一つは年齢制限で、男女共に20歳を迎えていなければいけないのだ。俺も20歳を迎える頃には心揺らいだが、その頃ちょうど探索迷宮の最下層が見えてきたこともあり、そこへ辿り着くまでは挑戦し続けるべきでは?と思ったこともあって今に至ってしまった。

 ちなみにこの年齢制限には例外があり、結婚し子供を持った者ならその対象外となる。人類の数を維持できているならいいらしい。

 とにかく、俺が時と縁の迷宮への探索条件をクリアしている事は確認が取れている。その確認を取りに迷宮ギルドへ行った際、迷宮探索者の一人の魔族が俺の『時と縁の迷宮』への挑戦を応援してくれた。あいつも最初は他の魔族と同じように俺を嫌っていたはずだが、いつからか味方に回ってくれるようになった。結局その理由は教えてもらえなかったが、影で助けてくれたことも多く感謝している。

(ありがとうガットさん。今思えばここ一年程はあなたのおかげで頑張ってこられたんだと思う)


 時と縁の迷宮がある場所は、再生都市レクラースと呼ばれている。

 どの国家にも属さず協力関係にあり、中心地に聳え立つ世界樹のこともあり、人類の聖域とまで言われている。

 今居る国からは割と近く、馬車で一週間ほどで着くことが出来る。両親とはたまに手紙のやり取りもしているし肝心の目的を果たせていないので、実家に帰るのはまだ先になるだろう。

 有名な場所ということもあり定期便も多く、その一つに乗る。この国で別れを告げるような間柄の人も少なくなってしまったものだ。

 馬車へ乗車時に迷宮ギルド証を見せると御者に喜ばれた。俺の許可証は迷宮ギルドの中でも魔物討伐中心の組合から発行されているものだったからだろう。

 国家間、迷宮間を結ぶ道は、先人たちの努力の甲斐もあってかなり安全になった。道から少し離れた両側には『希望の樹木』が植樹されており、汚染された大気や魔物の侵入を防いでいる。迷宮から発掘された『希望の樹木』を迷宮ギルドが優先的に主要の街道への植樹へと回したらしい。おかげで国家間の連絡がずいぶん楽になったという。

 だがそれでも魔物に襲われること完全に無くなった訳ではなく、街道で魔物に襲われる事も少なくない。だから迷宮で魔物狩りをしている俺は、道中の保険になりうるのだ。


 国を出て5日が経った。

 魔物に出くわすこともなく、とても安全な旅であった。

 道中に脇へと逸れる小道がいくつかあったが、きっとあの先には開拓地があるのだろう。主要街道への植樹をほぼ終えた現在、希望の樹木の大半は開拓地へと送られている。少しずつでも人類の版図を広げてほしいものだ。


 今日も良く晴れた日だ。雲ひとつ見当たらない。

 現在この馬車に乗っているのは迷宮ギルド員の御者と利用者である俺だけだ。国を出たときには7人居たのだか、一つ前の町が目的地だったのでお別れとなった。御者と軽く言葉を交わしつつ、街道からの景色を楽しむ。

 しばらく後方を眺めていた視界が唐突に陰る。


「鳥か?」


 視線を向けた頭上から何かが降ってくる。


「……ぅぁぁあああーーーー!!」


 突然の事に、反射的に体は避け無意識的に魔法を使う。


「風壁!」


 ごうと音が鳴り、起こした風が落下してきた何かにぶつかるとその速度を緩める。

 それはどこから落ちてきたかは分からないが、ずいぶんと勢いを落として地に落ちた。


「あぐっ!」


 落ちてきたのは人間の若い男だった。

 馬車は無事だった。

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