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縁の迷宮と、邂逅と。  作者: 銀筆
第一章
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00:プロローグ

 目の前の光景に言葉を失っていた。

 唐突に現れたのは人工物ではない自然の岩肌がむき出しの壁面に天井。更にその先には一切の光を通さなそうな真っ黒な壁。これまで歩いてきた場所とは明確に違う空気が、匂いが鼓動を早くさせ、嫌に緊張していることに気付く。

(まだ一階層だぞ、だまされたか?)

 地図を購入したときのことを思い返すが、それも無駄だとすぐにやめる。初めての迷宮だ。念には念を入れてと情報源が別ルートのものであろう地図を三箇所で購入し、しっかりと比較してきたのだ。それにギルド公式の地図には8階層までは全てが人工物で出来ていると記されていた。

 そもそも一階層に記録漏れがあるとは考えにくい。確かに2層へ進む扉より奥にきた所ではあるが、若い探索者たちも少なからず巡回しているはずだ。迷宮の壁は傷をつけてもすぐに修復されるし……。


「まさか、ここが噂に聞く『行方不明者の町』……に続く道なのか?」


 ここ『時と縁の迷宮』では他の迷宮と比べて行方不明者が多いと言われている。この迷宮だけ突出して行方不明になるものが多いので、この迷宮の何処かには地上よりも暮らしやすい場所があり、そこへ辿り着いた者たちが町を作っている、という話が実しやかに囁かれている。


 一階層だし、迷宮のルールを考えれば危険は少ないはず。……進むか。


 どこにチャンスがあるかわからないのだ。目的のためには躊躇いなど無用!

 不思議な匂いのある空気の中、一度深呼吸する。


「よし」


 可能性へと踏み出す。

 ゴンと頭を打った。


「あがっ!」


 勢い勇んで前傾姿勢で踏み出したらこれである。


 なんだこれ? 壁……なのか?


 頭を打った場所を手でぺたぺたと探る。まさか見えない壁などというものが在るとは思いもしなかった。

 いきなり行き詰まった。こうなっているから地図に記載がなかった? いやそんなわけあるか。こんな珍しいものが未記載であるわけがない。

 さてどうしたものか、しばらく色々試してみようかと透明な壁越しに洞窟の奥を眺めていると、突然目の前の景色がぐにゃりと歪みだした。

 驚き数歩後ずさると、その歪みは先程まで見ていた場所の一点だけで起こっていることがわかる。その歪みは平面的で円から楕円に、そして長方形へと形を変えていき、淡い紫に輝くとその状態で固定した。空中に浮かんだ一枚のカードの誕生である。


「えぇ……どうしようか」


 未知の通路へは踏み出せた。だが未知の現象はさすがに戸惑う。放置して帰るという選択肢は最初からないので、であるならば結局とる行動に差異はない。それに近づき手を伸ばすと、すっとカードが手のひらに入る。カードが動いた。やだ怖い。

 恐る恐るカードを見る。紫の輝きは失われていた。カードには文字が書いてあるようだ。


『邂逅カード

  主・アマツカ=ロウ レベル7

  対象・ミラネミス=ユカリ レベル1

  窮地難易度 レベル7


  挑戦シマスカ?  Y/N 』


「ふむ……なるほど。これは、えー、あれか」


 カードの一部が点滅している。Y/Nの所である。

 カードと見えない壁を見比べる。手で壁を確認するが変わりはない。カードの一部が点滅している。


「つまり、こうだな」


 カードの点滅している部分に触れる。すると壁に当てていたほうの手から壁の感触が消える。


「やっぱりかぁ。こういう仕掛けもあるんだな。さすがは最古の迷宮」


 まだここが一階層というのもありそれほど危険な罠はないと思っていたが、さっそくこんな不思議な体験を出来るとは思ってもいなかった。だがおかげで期待が高まる。これまでの迷宮探索で果たせなかった俺の目的に可能性を感じられたから。

 壁は消えたようだがカードは手元に残ったままだ。


 このカードは貰っていいのかな? これがあればこの道を通ることが出来るとかそういう感じか。


 カードを改めて見る。たぶん変わりはない。いや、点滅していた部分が少し変わったか? あまり自信はないが、たぶん変わっている。

 が、だとしてもどうしようもない。読めないので意味を理解できないからだ。このカードに書かれているのは古代文字である。

 古代文字は迷宮で発見されるアイテムに書かれている文字で、読めるのはごく一部の人だけらしい。解読されている部分も何故か秘匿されている。一般民の俺には学べる機会なんてなかった。

 それでも迷宮探索者達の常識として数字だけは理解している。なのでこのカードに7と1が書かれているのは解る。だがそれだけだ。そして当然それだけでは意味など解らない。

 考えていても仕方がないのでこの洞窟の先へと進むことにした。


 入り口から見えていた真っ黒な壁の前に立つ。一切の反射がないため不気味だ。恐る恐る片手で触れると、それは最初から存在していなかったかのように消え、先に続く通路となった。

 驚くと同時に異変に気付く。

 魔物の気配、けどこれは一階層にしては強すぎる。

 魔物の強さはある程度は気配で感じることが出来る。これは魔族特性らしいが、魔族以外になったことがないので比べようがない。そして今感じている魔物の気配は到底一階層の魔物に出せるものではなく、俺が前回まで探索していた迷宮でも深い場所に居た魔物のものと比べても遜色はない。

 逃げるか?


「誰か! 誰か助けて!」


 誰かの声が聞こえたと思った瞬間には走り出していた。

 予感はあったのだ。

 カードを目にした時から何故か急かされているような気分になっていた。

 声と魔物の気配がした場所へとたどり着くと、そこには黄緑色をした粘りのある巨大な物体と、それに襲われている一人の少女が居た。


「スライム!? そこの人! 大丈夫!?」


 一瞬だけ少女に目線をやり声をかけてみる。正直無事だとは思っていないが、とっさに言葉が思い浮かばなかった。

 

「ご、ごめんなさい! 足を怪我していてうまく動けません!」

「わかった! こっちでなんとかする!」


 少女のすがるような気配を感じながら考える。なんとかしなければ。

 そう思いつつ、同時に思うことがあった。

(まさかあのカード)

 今は胸ポケットに入れてある先程手に入れたカードを思い浮かべる。

(伝説の『邂逅のカード』だったのか!?)

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