20女神殺しの銃槍士
なんとか自然の女神に「俺は結構楽しんでいる」ということを理解してもらい。次の話に移る。
美人剣士は席を外すことすら諦め、抜刀の用意をしたまま待機。少年はどう押さえるかと素振りをしていた。
「それで、俺はどう動いたらいいんだ? 七つの神殿を巡って手に入るアイテムを使うと――みたいな目的があると助かるんだけど」
「そんな手間をかける必要はないよ。かつて全知全能を超えた人間が作った武器があるんだ。それを回収しに行ってほしい」
伝説の武器とやらを手に入れる展開は中々にロマンがあって燃える展開。しかし、人間が作った武器ならば俺だっていくつも扱える。彼女はそれを知っているはずだし、残した武器は戦闘車両のような兵器なのだろうか? その疑問を見越したように、言葉は続いた。
「一見何の変哲もない全鉄製の槍。でも、大事なのは素材じゃない。彼が女神に対しての悪意を込めて鍛えた武器は、どんな伝説級の武器よりも女神の弱点となる。キミの能力と合わさることで、女神殺しの性質を格段に上昇させられるはずだよ」
今までの話から察するに、今世紀と前世紀の裏側に登場する、強化兵と呼ばれる生体兵器だと思われる。圧倒的な身体能力や再生能力を持っているが、思考回路は人間とほぼ同じ。そんな男が作った槍は、どんな形状をしているのか楽しみだ。
「じゃ、俺は明日の朝にでも出発するか。――で、どこに行けばいいんだ?」
「本当は私も行きたいんだけど、想定外に早く復活されちゃったからね。色々準備とか話し合いがしたいんだ。そこで、彼女達に案内を頼んである」
そう言うとドヤ顔で指パッチンをするが、音量がどうも足りていない。指先の皮膚がシュッと音を立てるだけで、額に汗を浮かべながら何度も繰り返した。
「あれっ、おかしいな。さっきは出来たのにっ!」
場に気まずい空気が流れ、人間達は「誰かなんとかしろ」というアイコンタクトをぶつけ合う。
ちびっこ女神は諦めたらしく、頬を染めながら手を叩いた。
すると、ベッドの下から何かがニュッと飛び出し、反対側の壁にぶつかってうめき声を上げる。
「ぐえっ!」
その正体は、共にディザの潜む館へ乗り込んだメイス娘だった。台車で滑り出てきたが、勢いが強すぎたようだ。
ということは――
落ち着いた色のクローゼットが開き、中から服に絡みつかれた魔女っ子が出てきて、当たり前のようにすっ転ぶ。
「ぶにゃっ!」
次はどこだ? 天井か?
俺の予想は外れ、レンジャー娘が窓の外からひょっこりと顔を出す。こいつは何事もなく入ってくるかと思いきや、窓は押しても引いても開かない。
なぜなら、鍵がかかっているからだ。誰かが無意識に鍵を閉めて、そのままになったのだろう。
「うわー、誰か開けてくれっス!」
窓を叩いて開けるように求めるレンジャー娘。自然の女神が慌てて開けようとしたので、俺はその手を掴んで止める。代わりに、カーテンをぴしゃりと閉めた。
「よし。俺は一人で行くから、槍がある場所を教えてくれ」
能力で生成した地図を取り出し、ちびっこ女神に見せる。
「あ、うん。そっちのほうがいいような気がしてきた……」
ぐだぐだがぐだぐだを引き起こし、呆れるしかないちびっこ女神は、諦めて地図を覗き込む。
メイス娘は頭頂に、魔女っ子は額にたんこぶを作っている。涙目になりながら杖を振るい、回復魔法を浴びていた。
レンジャー娘は仕方なくバルコニーから飛び降りて、ここまでダッシュで来たので息切れを起こしている。
「ひぃ……ひぃ……。そりゃないっスよぉ……」
普段の探索程度ならともかく、二つの世界を揺るがす問題に彼女達は連れて行きにくい。
単純に誤射されそうで嫌なのが一つ。もう一つは、自らの判断違いで死なせたら毎晩うなされそうだという理由。
「女神様よぉ、絶対チョイスミスだろ」
くろすけはそれに同意するよう、後ろの方で腕組みして頷く。
「そ、それでもっ! 他の人間よりはずっと役に立つはずだよ! この子達は、全知全能を超えた人間と旅した娘と仲が良かった!」
「友達の友達という、一番微妙なポジションのやつじゃ……」
げんなりする俺を納得させるため、目の前の女神様はせかせかと言葉を被せてくる。
「彼女達は人間でありながら、全知全能に関する記憶の消去を受けていない。だから、アレに対して一際悪いイメージを持っている。それこそ、キミの悪意に匹敵するほど、あの女神を傷付けられる力があるんだ」
なるほどと思いつつも、レンジャー娘の頬をつねりながら反論した。
「ほーう。そりゃ悪くなさそうだ。でも、攻撃が全部俺に当たるんじゃダメだろ」
「ふぁにすりゅんスかっ!(なにするんスかっ!)」
自然の女神は目を細めて頭を指先で掻いて、自分の判断ミスを自覚し始める。
「それにしても、なんでヤツは自分の痕跡を消したんだ? 信仰心とやらも消えてマズいんじゃ――」
俺の話に魔女っ子が反応し、少し溜めを作ってから口を開いた。
「それは、人間と彼女の考えに大きな溝があったからなんです」
「溝?」
「はい。この世界の人間は、意思疎通が出来る混沌種と友好関係を結ぼうとしていました。それこそ、ディザのように会話ができて、戦争を望まない相手とです。でも、この世界の人間だけを愛し、この世界の人間だけを守る全知全能の女神はそれを望みませんでした。それだけじゃなく、転生者と呼ばれる人達が生まれる地球を、奇跡を起こすためのエネルギー源にしようとしたことも原因だと思います。一つの世界の人間を犠牲にすることで、私達の世界は飢えも苦痛もない世界になろうとしていたんです」
それ以降はなんとなく想像ができる。その女神を受け入れる人間と、そうでないもの。仲間内での戦争は望まないから、一旦リセットしたという感じか。植民地やエネルギー源と言われるほどなのだから、地球人に相当無様な生き方をさせる予定だったのだろう。
「そこで疑問なんだが、どういうタイミングでちびっこ女神みたいなのは登場したんだ?」
目の前の安全な方の女神は、びくっと小さく怒ってから語り始める。
「ちびッ……! ――私達は、急場しのぎだよ。人間に殺されたことと、記憶や痕跡の削除。それらで消耗した力の復活に時間がかかることを見越して、私達を創った。その辺の少女を突っ捕まえてね」
女神達は、人間を強制的に進化させた存在。俺が彼女に感じた人間味の正体はあまりにも残酷で、そのことを語る彼女は悲しげだった。
「それは、女神が不在になったくらいで滅びるほど脆い世界ってことなのか?」
「この世界の人間は温厚で闘争心が低いから、女神無しではその辺の魔物にすら滅ぼされかねない。地球に住む人間の闘争心は、他のどの世界から見ても恐ろしいよ。特に、覚悟の質が違う。だからこそ、全知全能ですら化学的に強化された人間に負けたんだろうね。それに、魂の数の調整は常に必要な状況だったんだ。――この世界を守ろうとする気持ちは一緒だなんて、皮肉なものだよ」
「その人間に会ってみたいなぁ。ぜひ稽古をつけて欲しいし、一緒に戦ってくれればいいんだけど」
ちょっとした希望は、容易く否定される。
「その人間は、そう簡単には死なないから連れてこれないと思うよ。急造の女神程度じゃ、どうやっても生きた人間をこっちに引っ張ってくることは出来ないんだ」
「じゃ、俺がそいつの代わりになるしかないか」
本心では「代わり」どころか「超える」つもりだ。そいつが完全に破壊できなかった女神を、俺が破壊してみたいという好奇心。覚悟も人間の強さだが、好奇心はそれを上回ることがあるのを知っていた。
ふと邪悪で頼もしい気配を感じて、一度は発した言葉を訂正する。
「いや、俺達だったな」
くろすけは小さく頷き、俺の中へ消えた。
大まかな状況を理解したので、誰かが次の話題を繰り出す前に、最重要事項を伝える。
「とりあえず、槍の回収をすりゃあいいんだな? 腹減ったからメシ食おうぜメシ!」
真面目な話で陳腐な脳みそを酷使したので、余計に腹が減った。空腹で思い出したのだが、両指の先に美味しそうなもちもち感。これは、レンジャー娘の頬をつねったままの感触。あまりにも落ち着く感触だったので、無意識に身体が手放すことを惜しんでいたようだ。
「ふぁなしてくりゃさいっしゅよー(離してくださいっスよー)」
「あ、忘れてた」
畏まった話の最中に、頬をつねられてアホ面晒してたと思うと面白かったので良しとする。
期待に胸を膨らませ、腹を凹ませた夕飯は、よそ見をしている間にほとんどポンコツ娘達に食われてしまう。結構ムカついたので、レンジャー娘だけこめかみをぐりぐりしておいた。
食後に自然の女神と細かな打ち合わせをし、明日行くべき場所を確認する。彼女が地図上で示した場所は【群青の谷】と記されていて、その名の通り群青で塗り潰された場所。ここに、俺が使うことになる槍が安置されていると思うと、今すぐにでも出発したいと浮足立った。
――。
ここから、女神殺しの物語が始まる。
それは、誰もが憧れるような素晴らしいものとは呼べないかもしれない。
なぜなら俺は、この世界が望む主人公ではないからだ。
世界は異物を排除しようと、乗り越えられない試練を与える。
しかし、内なる何かが囁き、それすらも乗り越えさせようと唆した。
終わったけど終わっていないので、決して打ち切りエンドではありません。ある程度書き直して、新作として再開します。
再開時はキャラクター名の明確化や、端折った風景描写を加筆修正して、序盤には地球での話が追加されます。
元々書いていた小説のキャラクターや、時系列が肥大化してきて「これじゃ書くのも読んでもらうのもハードルが高すぎる」という考えに。そこで、ほぼ本筋から切り離した何かを書こうと、これを試運転がてら執筆しました。
それにより、キャラクターや方向性が定まったので、【女神殺しの銃槍士】として再開させます。
書き始めの「狙撃と策略で他の転生者を狩る」話から「全知全能の女神を狩り、そのついでに転生者が敵として現れることもある」話に昇華してしまいました。ゴーレムを操っていたアイツは、その部分の文章を書く直前まで、「今作ではまだ語っていないある事件が起こることを知っていたので、あの少女だけを守るために、無敵の軍団を作ろうとしていた」というキャラクターだったのです。しかし、手が滑ってもっと危険な敵が生まれてしまったので、試運転とは恐ろしいですね。
作者が同じ世界観で進めているストレンジャーシリーズ自体、主人公に手が届かない人間がテーマの一つ。なので、今作も例に漏れず、作品としての主人公はどこかズレてスレています。そして、過去も褒められた生き方ではない。それもこれも、近衛鑪という男のミームが引き起こした喜劇。
一方、異世界に訪れた直後に出会う少年は、誰よりも優しく、世界に愛された主人公のような存在です。順風満帆な物語を歩むはずが、悪い男|(主人公)に引っかかってしまい、ちょっと道を外れてしまいます。
それぞれ真逆の存在ですが、確実にお互いを尊敬する関係となってくれるでしょう。
※女神殺しの銃槍士として再開したとき、この小説の最後に続きへ誘導する章を追加します。それ以降はこのページでは更新を行っていかないので、そちらの方のブックマークをよろしくおねがいします。




