Act115-またいつか
誠也から聞いたおおよその位置に到着した俺は、無造作に置かれたスナイパーライフルを発見した。
「よっ……と」
一度抱えるように持ち上げてみると、触ったことのない銃器の重さが両手を通して体全体に伝わってくる。 いつも使う銃剣の二、三倍の重さはあるが、扱えないほどではない。銃剣士の装備可能武器のカテゴリに適しているため、ふと発砲してみたくなる衝動に駆られる。
ちなみに職業的に装備不可の武器を使ってみようと試みたプレイヤーは何人かいたらしいが、近接武器の場合は標的に当ててもダメージが発生せず、銃や弓のような遠距離武器はシステムに遮断されてそもそも引き金を引けないらしい。
「一発くらいなら……」
どうせ誰もいない。現実世界で触る機会なんてもう訪れないだろうし、貴重な体験だと思って長銃を構える。
スコープと思しきところを覗きながら、適当な木に向けて狙いを付ける。
あとは銃剣でアーツを使う時と同じ要領で、イメージを流しながら引き金を――。
「うわっ!?」
キーンという耳障りな音を残したまま、俺の体は大きく後方へと吹き飛ばされた。
――これが……スナイパーライフル。
昔、少しだがシューティング系のゲームも触れていた俺は、もちろんスナイパーライフルの存在も知っていたが、ここまで反動が大きいなんて知らなかった。
「あいつらこんなもん持って走ってたのか……」
”あいつら”というのは、現実世界でのゲーム内の兵士だ。特にゲームが上手いプレイヤーなんかはスナイパーライフルを接近戦で使い、一発で敵を仕留めるという、通称QSなんて芸当をやっていた。
兵士はその度にこの反動を味わっていたのか。――まぁゲームだと言われればそれまでだが。
ゆっくりと起き上がった俺は、標的にした木を横目に見ながらため息をつく。
そこに弾痕は無く、撃ったはずの弾はあさっての方向に飛んでいったようだ。
「うん。……これはしまっておこう」
静止した状態からも的に当てられない素人が使える代物じゃない。
――戻るか。
みんなが待ってる。この世界に来て唯一の不安要素であった、香澄と誠也とも再会することができた。あとは、無事に残りの半年間を過ごすだけだ。
何もなければいい。そんな願いが不幸へのフラグだとわかっていても、ただただ祈ることしかできない。
◇◆◇◆◇◆
「お待たせ。帰るか」
「悪いな蒼汰兄、俺が変なとこに捨ててきたばっかりに」
「まったくだよ……万が一誰かに拾われたらどうするんだよ」
「ま、まぁまぁ」
フィリアが喧嘩かと止めに入るが、「これがいつも通りなんだ」と返して安心させる。
「うちも似たようなもんだったよ」
「そういやミユも兄弟いるんだっけか」
まだダンジョンエリアだということも忘れ、つい気が緩んでしまう。
「まぁね。……そう言えば、これから二人はどうするの?」
「俺たちと一緒に来るんじゃないのか?」
香澄も誠也も、てっきり俺たちと行動を共にすると思い切っていた俺は、ミユの発言に対してつい聞き返してしまう。
だが当の二人は、既に答えを決めているとでも言いたげな表情でこちらを見据えている。
「お兄ちゃん。私たちはしばらく、二人で行動するよ」
「え、何で!?」
「さっき香澄と相談したんだ」
――誠也まで、どうして……。
「もちろん、お兄ちゃんと会えたのは嬉しい。でも、皆さんを見てて思ったんだ」
ユズハ、ミユ、フィリアを順に見ながら、香澄は続ける。
「互いに信頼し合ってるのが伝わって来る。これがMMORPGなんだ……って」
「あぁ、今まで触れたことなかったけど、何だか蒼汰兄がオンラインゲームにのめり込んでいた理由が、今ならわかる気がする」
「香澄……誠也……」
ここまで聞くと、何だか二人が別行動したいと言い出した理由がわかった気がした。
「時間はかかるかもしれないけど、私たちもこういう仲間と出会ってみたい。……ダメかな?」
わずかに考えるが、自分の中でもう答えは出ていた。
「ダメなわけ……ないだろ」
現実世界のオンラインゲームと違って危険は多い。だが、二人が今まで見向きもしなかったMMORPGというジャンルに興味を持ってくれた嬉しさの方が、今は勝っていた。
「ありがとう、お兄ちゃん。いつか、お兄ちゃんを超えるギルドを作ってみせるから」
「あぁ、楽しみにしてる」
「私たちを超えるのは難しいよー?」
茶化すユズハに対して、「俺たちも負けませんよ」なんて返す誠也は、輪つなぎをはしゃぎながら作っていた頃とは別人のように思えた。
会話に夢中になっていて気がつくと、俺たちは森の出口に到着していた。
「ここでお別れか?」
「うん。……と言いたいところだけど」
「頼む蒼汰兄、今晩だけ飯おごってくれ」
ログインしてから一ヶ月間別行動していたらしい二人だが、ソルが底をつきるタイミングはほぼ同時だったようだ。
「色々話も聞きたいしね。よし、今晩は私たちに任せなさい!」
どん、と胸を張るミユ。隣を歩くフィリアに小声で「お金あったっけ?」と聞かれて「え、ソウちゃんがいるじゃん」と返した会話を、俺はあえて聞かないふりをした。
その夜、食事会を終えた二人はお礼をして街の人垣へと消えていった。
宿代も出そうかと聞いたが、それは二人でどうにかするらしい。
――次に会う時、香澄と誠也はどうなっているだろう。
俺はこの危険で不安な世界の中でまた一つ、楽しみが増えた気がした。
お久しぶりです。前回の投稿から本当に間が空いてしまったことをお詫びします。
また少しずつではありますが投稿を続けていくつもりなので、最後までお付き合いいただければ幸いです。




