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困惑と老竜

久々の更新です。宜しくお願いします。

「ちょっ、おいライア! どーすんだよ? こいつマジでヤバいって……っ」

『お姉さん! どうしようこの人……目つきがアブなくなってるよっ』

 小声でライアに向かって捲し立てる一人と一匹。レックスは完全に別世界の住人になってしまっているので、ヘイズ達の様子には目もくれない。ライアも真っ白になって固まっている。

「こ、ここまでタチ悪いとは思ってなかったわ……どうしようかしら?」

 二人と一匹は完全に言葉と取るべき行動を見失い、壊れたオモチャのように、ただその場で意味の無い微妙な動きを繰り返すだけ。……彼らの思考回路は今、完全に停止していた。そこにレックスの声が届く。

「ああ……ライアさん……いえ、ライア様! 何と神々しいお姿……!」

『………………』

 レックスだけが自分の世界を作り上げて酔いしれている。またしても沈黙。……この先どうしたら良いのか、すでに誰にも分からない。

 ……と、その時。

「ん? 何か聞こえないか……?」

 硬直状態から脱したヘイズ。遥か彼方まで助けを求めた無意識の意識が何かをキャッチした。

『何っ?』

「どうしたのよ?」

 レックスの視線と放射される『何か』から逃れるように、テフラとライアが疾風のごとくヘイズの傍に移動した。

「……声だ。何か聞こえる」

 ヘイズは視線を巡らせて、穏やかさの象徴のような景色に、目と耳の意識を集中させる。ライアもテフラもそれに倣う。

『…………聞こえるような気がするけど……ええ? 何でヘイズに聞こえて僕には聞こえないのっ?!』

「それはドラゴンの言葉だからよ。……ヘイズに聞こえるのは、彼の第六感みたいな部分じゃないかしら」

「んん〜確かに、声っちゃ声なんだけどな、何語か分かんねーしな。気配と音って言った方が早いか」

『そうなの? でも僕も聞きたいよー』

「ワガママ言うなよ、こんな時に」

『だって』

「だってじゃねーだろ。……後ろのヤツに掴まったらどうするよ?」

『ゔっ……』

 今やテフラに取ってレックスの存在は、何故か発掘現場の屈強な男どもにも匹敵する脅威になっていた。

「ああ……ライア様……僕に背を向けて何を見ているのです?」

 口調まで変わってしまった。彼の言葉は無視。二人と一匹の視線は同じ方向、空の一点に定められている。ようやく彼らの様子を見たレックスは、彼らに倣って同じように空を見る。

 見上げた空には真っ白な雲。真っ青な空に一つだけ、ぽっかりと浮かんでいるだけだ。だがヘイズの感が言っている。……何かが来る、と。

「お出ましになるようね」

 余裕の笑みさえ浮かべ、言ったのはライアだ。今度は彼女に倣って一歩下がり、強風に備えるように袖で顔や頭を防御する姿勢になる。その刹那!

 ゴヒュウウウうぅっっ!

『っ!?』

 突風が彼らを襲った。立っていれば間違いなく薙ぎ倒される勢いの風は一瞬で通り過ぎたが、その間ヘイズ達は目を庇うことに必死だった。

 唐突に風が収まると、また元の静けさ、穏やかさが戻ってきた。ゆっくりと目を開けるヘイズ、テフラ、ライア。レックスはライアの後ろで頭を抱えて踞ったまま。

「おあ……あんたが、コハクか?」

 見上げる高さにある顔に向かって、ヘイズが初対面とは思えない無礼な口をきく。

『ふむ、中々に肝が据わっている人間のようじゃな。……お前本当に人間か?』

 ヘイズの言葉に気を悪くした様子もないそれは、ヘイズに対しても少々不躾な質問をした。互いにふっと笑うと、まるで人間同士のように自己紹介と挨拶を交わす。

 突風が収まったあと、彼らの目の前に現れたのは一匹の巨大なドラゴンだった。顔の大きさがヘイズの身長くらいある。

 明るい琥珀色をしていた皮膚は、年齢を重ねた所為で深みを増し、至る所にある傷跡は勲章のように誇らしげだ。背中にあるのは二対の翼。ドラゴンには珍しい形に思える。長い長い尻尾の先には、魚のヒレのようなものが備わっている。

『久しいな、ライアよ』

「ええ、お久しぶりね、コハク」

『ふははは、師匠を呼び捨てにするとは、相変わらずのようじゃな。……変わり者め』

「ほっといてよ」

 楽しそうに会話する老ドラゴン・コハク。話のテンポや声のトーンからすると、案外気さくなタイプなのかも知れない。

『ねえ、僕も混ぜてよ!』

「おい……」

『大丈夫なんでしょ?』

 テフラはヘイズとコハクの両方に、満面の笑みを見せる。

『これはこれは……お主は火の精霊じゃな? 人間と共にいるとは、随分と珍しい取り合わせのようじゃ。ライア、お主の後ろにいるのは普通の人間のようじゃが……?』

「私に惚れてついて来ちゃったのよ。そのうち私をご神体に新しい宗教でも始める気なんじゃないかしら」

『ふん、お主が教祖になるのか? 流行るのかそれ?』

「ちょっとどういう意味よ?!」

 ……中々にお茶目な老ドラゴンだ。ライアと対等か、それ以上に掛け合いに興じている。二人のやり取りを聞いていたヘイズとテフラは、完全に警戒を解いていた。何とか立ち上がったレックスだったが、何かに取り憑かれたような先ほどの様子は、取り敢えず仕舞ってあるらしい。コハクが怖いらしく、コハクの隣にいるライアの傍には寄ることができず、仕方なくヘイズのマントに隠れている状況だ。

「んもう! そんなことはどうでも良いわよ! 私をここに呼んだでしょ? 何の用なの?」

『ふぅむ、久し振りなんじゃし、もう少し昔話でもしたいんじゃがな』

「面倒臭いわよ。それにどうせ私の修行中の話とかしたがるんだし」

「ライア様のお話が聞けるのですか?! それなら是非!」

 いきなり復活したレックスが、ヘイズのマントを破り取る勢いで押しのけて割り込んできた。……へイズは無理矢理押しのけられた所為で奇妙な体勢。少し身体を動かして痛みがないか確認すると、今度はマントをチェックする。……何ヶ所か千切れかかった場所が……レックスの爪の所為だ。

「絶っっ対に……アンタなんかに聞かせるもんですか……」

 振り返って放った言葉は怒気を孕み、その一睨みでレックスは石と化した。

「ははっ、ライアにも知られたくない過去があるんだな」

 ここでヘイズにもその鋭い視線が突き刺さる。

「俺は遠慮しとくよ。過去話なんてもんに興味はねーしな。それよりもコハクさんよ」

 レックスだけがヘイズの言動に驚き、尊敬どころか畏敬の念さえ込めてこちらを見ている。……目つきがアブない。

「俺にはあんまはっきり聞こえなかったんだけどさ、どうにも助けを求められた気がしたんだが……それはアンタだったのか?」

『ほうほう……ワシの思念を捕まえるとは、中々じゃな』

「で? 本当のところはどうなのよ?」

 ライアが話に混ざる。テフラは、コハクが敵ではないことを確信しているのか、ヘイズのフードから飛び出してコハクの周りをうろちょろと飛び回っている。最終的には、コハクの頭の上、二本の長く立派な角の間にちょこんと収まった。コハクはまるで気にする様子もなく、むしろ可愛がっているようだ。

『ふむ……ワシとしてはもう少し主らと話していたいのじゃが、どうやらそうも言ってられんようじゃな』

 微妙に声のトーンを落として、コハクが考え込むような仕草をする。……ドラゴンの骨格で人間の言葉を話す……思っていたよりも違和感がなかったことに心中で驚いているのはヘイズだけだったようだ。

『主ら、この丘の周辺で起こっていることは知っておるじゃろう? それを目にして来た筈じゃが』

「ええ、過去の大河を掘り返してる、アレね」

『そう。あの辺りに宝石が出て来るのは当然のことなのじゃが、ああも喧しくされると正直腹が立ってな。あいつらをどこかに吹き飛ばしてやりたくての』

「吹き飛ばすって……」

『あんな人間どもなぞゴミと一緒よ……ワシの鼻息で吹っ飛ばしてくれる。……が、今お主らの目の前にいるのは幽体じゃからな。あんな輩の為に力を使いたくはないんじゃ』

「それで私を呼んだのね?」

 ライアが大きく溜め息をつく。腕を組んで、コハクを睨みつけるが、さすがは師匠。余裕の表情。……ドラゴンなので確信は持てないが。

「ちょっと待てよ、それだけじゃないだろ?」

 コハクとライアの間に割って入るヘイズ。彼の台詞に、誰もがきょとんとした表情を浮かべるが、そのすぐあとでコハクの目が少しだけ嬉しそうに細くなった。

『只の人間ではないと思っていたが、ここまでとはのぅ』

「何? どういうことヘイズ?」

 コハクの頭の上からテフラが問う。彼の身体はすでにテフラの遊び場になってしまったようだ。鼻面を滑り降りるようにしながら、ヘイズの横に並ぶ。

「ん? あの発掘現場は確かに喧しいから、コハクの安眠を妨げるだろうし、叩き起こされたコハクの怒りも分かるよ。でも、まだ他に理由があるんだろ?」

 言葉の最後はコハクに向けられる。ライアも興味津々で聞いていた。レックスはそのやり取りを黙って見ているだけ。その表情は、何事も見逃さないよう、聞き逃さないように物凄い集中力を発揮していた。

『誤摩化しはきかなそうじゃのぅ』

 諦めたようなコハクの声。

『ここじゃと落ち着いて話も出来んからの……ワシの寝床に来て貰えるかいの?』

 急に好々爺のような口調になると、コハクは頭(というより顎)を地面に付け、彼らに自分に乗るように誘導する。迷わず飛び乗ったのはテフラで、続いてヘイズ。ヘイズはライアの手を取って、自分の前に座らせると、最後にレックスも乗り込んだ。

……ヘイズがライアの手を取ったことに怒り出すかと思ったのだが……レックスはそれどころではなかったらしい。……恐ろしく嫌な予感がヘイズたちの思考を巡ったが、羽ばたく風圧の強さに、一同は振り落とされないことを願って、ドラゴンの背が導く先へと空の旅に出るのだった。


お読み下さってありがとうございます。今回のお話は成り行きで進みます。

ちゃんとプロットを立ててなかったので、伏線を張った記憶がありません;;

続きがどうなるか、自分でも分からなくなっておりますが、一応ちゃんと終わらせるつもりではありますので、どうぞ次の更新をお待ち下さい。

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