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発掘とお散歩

「これがそうか。……なかなか本格的だな」

 目の前に広がる光景を眺め、感心したような口調でヘイズが呟く。レックスには見られてしまっているが、テフラは今姿を消している。

『すごいね……この人たち皆宝石を発掘する為に来たの……?』

 見えなくても声の調子からテフラの表情は予想できる。

 目の前には黄色い土肌を剥き出しにした地面と、そこに開けられた無数の巨大な穴。穴の数のざっと五倍はいるかと思われる、筋骨逞しい男どもの姿。……一様にその視線を大地、あるいは穴の中に落とし、必死で何かを掘り出そうとしている姿は、かなり異様だ。

「テフ」

『何?』

「……お前何があっても絶対姿見せんじゃねーぞ」

『う、うん』

 いつになく真剣な面持ちで、ヘイズが注意する。その言葉の意味するところを敏感に察し、テフラも気を引き締める。

「こんな無遠慮な男どもに見つかったら大変だものね。でも大丈夫よ、万が一の時にはお姉さんが助けてあげるから」

 軽く言ってウインク一つ、何もない空間に向けるライア。

「ライアさん……素敵です……」

「………………」

 この沈黙はヘイズだ。折角緊張感込めて言った台詞のすぐ後で、これだ。レックスにはヘイズの姿も言葉も、届かないらしい。

「ところで、あなたは発掘に参加しないのかしら?」

 ライアが視線をレックスに向ける。ライアの一挙手一投足に目を奪われていたレックスは、一瞬考えたあとで、はたと言われた言葉の意味を理解したようだ。

「あ、そ、そうですね! 僕も宝石を発掘して来て、貴女にプレゼントします! 道具借りて来なきゃ」

「道具ならあそこのテントで貸し出してるみたいよ。有料だけど。……ボロい商売ね」

「行ってきます! 必ず、大きな宝石を掘り出してみせますよ!」

 言うなりライアが指差したテントへ向かって走り出すレックス。途中何度か躓き、一度転んだが、めげることなく元気だ。

「……あいつ根性だけはあるな……。で? ライア、何か気になることでもあるのか?」

「声が聞こえるのよね。……ヘイズ」

「ん?」

「あなた、片目なのに見るとこ見てるのね?」

「あんな両目節穴と一緒にすんな」

「……それはどういう意味かしら?」

「あ。……いや、今のは失言」

 ヘイズは片手を挙げて謝る素振りを見せると、発掘現場へと視線を戻す。

 小高い丘をぐるりと取り囲むように、掘り起こされた地面は、黄色い河のように見える。

元々緑の乏しい土地であったのか、巨大な岩や小さな茂みの残骸のようなものが、現場の外れに積み上げられている。現場の周囲には、休憩用の簡易テントが数多く並び、食事や仮眠をとることもできるようだ。

 あちこちに急ごしらえの梯子や縄梯子がかけられ、自在に行き来できるようだが、どうやら男達は数人ずつのグループを作って作業に当たっているらしい。互いの様子を抜け目なく観察しながら競い合うように地面を掘り返している。血の気の多い者が多いらしく、時折怒号が響いてくる。

『ねえお姉さん』

 現場の様子を怖々と見ながら、テフラが少しだけ震えた声を出す。姿は勿論見えないまま。

「何? テフちゃん」

『声って誰の声? 僕には聞こえないんだけど』

「お前ら二人とも聞こえるんじゃないのか?」

 テフラの言葉にヘイズが疑問を投げかける。てっきりテフラもライアと同じものを感じていると思っていたからだ。

『ううん、僕には聞こえないよ。……あのおじさん達の恐い声なら凄く聞こえるけど……』

 テフラの声がますます小さく、震えている。ヘイズがマントのフード部分を広げると、テフラは迷うことなく飛び込んでフードにくるまった。……背中に小さなふろしき包みを背負ったように見える。

「そうね……多分私以外には聞こえないのかもしれないわ。今はね」

「今は?」

「私もテフちゃんと同じように遠くの話し声とかは聞こえるわ。でもね、ドラゴンには別に聞こえるものもあるのよ」

「そういうもんなのか……お。あいつ帰ってきたぞ」

 ライアの言葉の意味については深くその場で追求しなかった。レックスの様子を観察した方が面白そうだったのと、今追求するべき話題ではないと判断したからだ。

 周囲では怒号の他にも発掘作業の音が響き渡っているが、いつどこで誰が聞き耳を立てているか分からない。ライアはドラゴンだから心配はしていないが、今へイズのフードの中で怯えている火の精霊、彼の存在を知られてはいけない。特に、欲に駆られて宝石の発掘に躍起になっている輩には。

 レックスはヘイズ達からは見えるが、声は届かないくらいの場所に陣取っているグループに声をかけているようだ。グループに加わって発掘しようというのだろう。

「ちょっと行ってみましょうか? テフちゃん、私もヘイズもちゃんと守るから大丈夫よ」

「ま、ライアなら、この辺の男どもなんて鼻息で吹っ飛ばしてくれるだろうぜ」

 一瞬ライアの視線が刺さったが、フードの温もりある丸みをぽんぽんと叩きながら、黄色い大地へと踏み出した。……ヘイズは平然を装っていたが、後から付いて来る彼女の視線がやはり痛い。

「あとで説明してくれるか? 『声』ってやつの」

 ちらりと後ろを振り返り、ライアに言う。

「勿論よ。……あなたも何か気付いたの?」

「何となく、な」

 態度や表情を変えることなく、ヘイズは辺りへの注意を強めている。そのことに気付くライアも、良く観察しているということらしい。

『ねえ、僕にはさっぱり分かんないんだけど』

「お前怖くて震えてたんじゃねーのかよ」

『守ってくれるんでしょ?』

「ま、そうだけどな。……お前今集中できる状態じゃねーからさ、俺たちに任せとけ」

『うん』

 素直に返事をすると、ヘイズとライアの会話の聞き役に回った。だが、折角のテフラの素直な行為も、次のレックスの言葉に遮られてしまう。

「あ、ライアさーん! 僕、頑張ってますからね! 待ってて下さいねっ!」

 レックスの叫び声は意外にも良く通り、周囲の男どもの不審な視線を集めるのに十分だった。これまで地面しか見ていなかった男どものむさ苦しい視線を一気に集めてしまった。

 これほどまでに居心地の悪さを感じたのは初めてだったが、ただ一人、さすがと言うべきか……ライアだけは笑顔だった。

「楽しみにしてるわ。ただ待ってるのも暇だし、私たちは散歩してくるから」

「ええっ? 見ててくれないんですかぁ? そ、そんなにヘイズさんと一緒に居るのがいいんですか?」

「え? いえ、そういうワケじゃないけど……」

 これにはさすがにライアもたじろいだ。

「じゃあ僕も『お散歩』に同行します! 良いですね? ヘイズさん」

「え? 俺? 俺は別にどうでも……」

 ヘイズの視線はライアとレックスを行ったり来たり。そして思った。

(……こいつ、人の話聞きゃしねえ……)

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