4.純古代種
陰鬱な空気を断ち切ったのは
猫耳男の無理に明るい声だった。
「そういや、名前も名乗ってなかったな。
俺はアゼル。見ての通り猫の獣人だ。今はこんな格好してっけど警国調査員してる」
ネコノジュウジン――
一瞬何を言ってるか分からなかったがすぐに気がつく。
え?『猫の獣人』ってことか?
ケイコクチョウサインについては、恐らく猫耳男の仕事だろうが意味がわからない。
警告調査員か?何かを調査して誰かに警告すんのか?
言ってる意味は分かるが話をうまく飲み込めない。
猫は知ってる。ニャーと鳴く愛らしい毛玉だ。昔見た身体がデカいオス猫はギャーと鳴いていた。それ聞いてビビった覚えがある。
で『猫の獣人』ってことはアレか。猫人間ってことだろうか。
モッフモフな猫耳が生えてる人間だから猫人間?アゼル、オマエもデカいからギャーとか鳴くの?
確かに頭の上の猫耳は本物にしか見えねぇけど
はっきりと『俺、猫なんだ』と言い切られると若干動揺してしまう。あ、またピクピク動いた。
しかもコイツ『見ての通り』とか言ったな。
まるで俺が『猫の獣人』を知ってて当然って顔して堂々と告白しやがった。
ここの『常識』では。猫耳生やした男の事は『知ってて当然』とでも言いたいのだろうか。冗談キツイぜ。
いかんな……。
たったの一言でグルグルと回る思考に囚われてる。
情報が足りん。考えるだけの情報がまるで足りない。
だからまだ考えてはダメだ。必要な情報を入手するまでは相手に合わせて怪しまれないようにするんだ。
相手が『見ての通り』というのなら、当然知ってるような顔をする。
相手が『猫人間だ』というのなら、疑問を押し殺して受け入れよう。
俺は動揺をひた隠して頭の猫耳を見つめながら
ここまで得た知識を最大限に活かして告げた。
「アゼルさんの耳の色、私が大好きなお花の色に似てますね」
ここに来る道程で見かけた小さな花を思い出す。
確か目の前の猫耳のような色をしていたはずだ。
猫耳男――アゼルは自分の耳に触れ照れくさそうな顔で引っ張った。
「花の色に例えられたのは始めてだ。
気にもしたことなかったけど、嬢ちゃんに気に入ってもらえるなら茶トラも悪くねぇな」
なるほどココでもその柄は茶トラって言うんだな。
『アゼルは茶トラの猫人間』得た情報で猫人間の情報を上書きする。
グイグイと自分の耳を弄ぶアゼルへ
向かいに座る大型の男が呆れた調子で声をかける。
「アゼル。デケェ図体で気持ち悪く照れてるところ悪いけど
今のはお嬢ちゃんの世辞だと思うぜ」
向かいの男に目を転じれば、からかうようなニヤニヤした表情でアゼルを見ている。
その言葉にアゼルは明らかにムスッとした顔になった。
地面でペシンペシンと音が鳴っているので見てみるとアゼルの尻から生えた尻尾が床を叩いている。
尻尾も生えてたのか……。
「お世辞じゃないですよ。耳も尻尾も綺麗な色だと思います」
ニコリと笑って褒めてやると荒ぶっていた尻尾が止まり、また照れた表情に戻る。
大柄な男はそれまでのニヤニヤした表情を止め俺に向かって微笑んだ。さっきまでのゲスい表示が嘘みたいな爽やかな笑顔だ。
「こんにちはお嬢ちゃん。さっきはごめんねせっかく挨拶してくれたのに。
俺はシシリ。アゼルの保護者としてここまで着いて来たんだ。よろしくね」
「はい、よろしくおねがいします」
横でアゼルが『何が保護者だ』とか抗議してるが
無視して大柄な男――シシリへペコリと頭を下げた。
シシリは見たところ頭から耳が生えるでもなくケツから尻尾を垂らしてるでもない、言わば普通の人間に見える。
アゼルに同伴してここまで着たみたいな事を言ってたので二人はどこか別の場所から一緒にここまで来たのだろう。
「それで、お嬢ちゃん。お名前は?」
頭で情報を整理しているとシシリから尋ねられた。
二人は既に名乗ったんだから、まぁ当然の流れだ。
名前か……どうしたもんかね。
気になる点は幾つかあるが、名前聞かれて黙りするのもおかしな話だしなぁ。
1秒ほど頭をフル回転させ、俺は二人に向かって答えた。
「私の事はコータって呼んでください」
本名を名乗る。苗字については二人が名乗らなかったので割愛した。
一応逃げ道を用意して答えたつもりだが、果たしてどうなるか。
「コータか、可愛い名前だな」
シシリが笑顔のまま褒めてくれる。コータって名前がどう捉えられるかが一番不安だったが違和感なく受け入れてもらえたようだ。
変な名前だと怪しまれなくて俺は心の中でホッと溜め息を吐いた。
妙な顔をされたら『コータ』は愛称ってことにするつもりだったがこの様子なら本名のまま通しても大丈夫そうだ。
二人の目が俺を捉えている。
これから色々質問される気配がムンムン漂ってくるが、名乗るだけでもいっぱいいっぱいなんだよコッチは。
まずは情報収集。先手を切ってこちらから質問させてもらおう。
「あの、シシリさん」
「ん、何だい嬢ちゃん」
「シリリさんは、アゼルさんの保護者なんですよね?
という事はシシリさんもケイコクチョウサインのお仕事をされてるんですか?」
「コイツは俺の保護者じゃねぇぞ」
せっかくシシリに質問してるのに、横からアゼルが横槍を入れる。
先ほどシシリの『保護者』発言で不機嫌になってたから何かしら反応するかと思ったが案の定入ってきやがった。巻き込み完了。会話ってのは大人数を巻き込んだ方が長く続けられるからな。
「そうだったんですね。ごめんなさい
シシリさんがそうおっしゃってたので、てっきりそうだとばかり……」
少しトーンを落として申し訳なさそうに詫びると
「お前が変な言ったせいでコータが謝ってんぞ。反省しろシシリ」
アゼルが俺を擁護する。
オレとアゼルの注目を浴びたシシリはグッと言葉に詰まり、バツが悪そうな調子で訂正してきた。
「ごめんごめんコータ。保護者っていったのは冗談なんだ。
俺はアゼルの警国調査の同伴者だ。警国調査員なのはそこの子猫ちゃんだけだぜ」
「誰が子猫ちゃんだ!」
「警国調査を一人で出来ねぇ半人前のうちは子猫ちゃんだろ」
「あー、クソッ!コータがまた本気にするだろうーが!」
いちいち一言多いなシシリ。
でも使える情報が少ねぇなシシリ。
この辺でケイコクチョウサインってのについて探りを入れてみるか?
そんな事を考えていると、シシリが思い出したかのような口調で聞いてきた。
「あ、そうだ。コータは警国調査員って言って何のことか分かるか?」
前言撤回だシシリ。
お前はなんて使えるヤツなんだシシリ。
「えっと、よくわからないです」
正直に答えると、シシリは『ウム』と偉そう頷いた。
「まぁアゼルみたいなのでも務まってるから大した仕事じゃねぇんだが――」
「お前は黙れ。俺が話す」
やっぱり一言多いシシリの説明を遮って、アゼルは椅子ごとこちらに向けてきた。
「えっとな警国調査員ってのは、騎士団が遠征して魔物退治をした地域に魔物が残ってないか確認するスゴく大事な仕事なんだよ」
【キシダントウバツ】は『騎士団討伐』か……?
【マモノタイジ】は『魔物退治』か……?
騎士団に魔物と来やがったか……。
アゼルめ……一言でこんなにも訳分からない情報を盛り込んでくるとは。さすが有能なバカだ。
溢れ出す疑問を押さえ込み、俺はアゼルの話に興味深そうに頷いてみせた。
「で、このメヒルの森は先週討伐が終わったんだ。
そこで俺とシシリが調査に来たってわけだ」
ここはメヒルの森っていうのか。
「でだ、警国調査っていうのは魔道士1名以上を含む2名以上のチームで行うって決まりがあってな。
だからアイツがさっき言ったように"一人で警国調査できなきゃ半人前"っていうのはデマカセなんだよ。絶対2人以上じゃねぇとダメなんだぞ?分かるかコータ?」
【マドウシ】は『魔道士』か?……魔道士って。
アゼルさん。必死に俺の誤解を解こうと頑張ってるんだろうが、そろそろこっちの頭もパンクしそうなんだ。そろそろ整理させてくれ。
シシリの方へ視線を移してからアゼルの方へ戻すと、おずおずとした態度で質問した。
「あの……ということはシシリさんはマドウシなんですか?」
「そうだ。つってもショッパイ魔法しか使えねぇヒヨッコ魔道士だけどな」
「おい、コータに嘘教えんじゃねーぞ。子猫ちゃん」
アゼルの反撃を受けシシリが抗議の声を上げる。
流れから察するに【マホウ】は当然『魔法』なんだろうな……
にわかには信じられないが、これまでの異常な状況を考えると否定することも出来ねぇ。
俺がグルグルと思考を巡らせている最中、目の前の男たちはというと
お互いに「どちらがスゲェか」で牽制し合っていた。馬鹿だ。コイツらは本当に愛すべき馬鹿たちのようだ。
そんな愛すべき馬鹿の片割れ――シシリが
「コータは俺の味方してくれるよなー?」
ニヤけた顔で俺に同意を求めてくる。
アゼルを話に巻き込んで三つ巴にしたのは確かに俺だが、正直こんな話に巻き込まれたくはない。
というかそもそもこんな会話はしたくない。どうせならもっと実のある話をしてくれ。
ここらで軌道修正しとかんと、どこまでも拗れそうだ。
何て声をかけて場を収めようが思案する。
そして『幼女スマイルで和ませればいいか』と結論に達した瞬間
「いや、コータは俺の方がスゲェって思うだろ?」
もう片方の馬鹿も、シシリに張り合って俺に同意を求めきた。ウゼェ。
「現実みろよ子猫ちゃん。コータは俺の味方になるぜー?」
「フンッ、そんな虚勢は見てて痛々しいぜヒヨッコ?」
「これだから脳筋は好かねぇなぁ。お前はもっと物事を観察するってことを覚えねぇといけねぇなぁ。
仮にも警告調査員なんだろ?そんなスカスカな洞察力じゃ調査もザルになっちまうぜー?」
なぁコータ。自信満々で同意を求められても俺としては何も返せない。
何かしら返せば本格的に巻き込まれる。そんなのは嫌だ。シシリの野郎マジウゼェ。
「そんなことねぇよな?コータは俺の方が好きだよな?」
趣旨変わっとるぞ脳筋。こっちもこっちでマジウゼェ。
返答するわけにもいかず固まっていると
「オイオイ、小さなガキ困らせてんじゃねーよ」
「困らせてねぇよ」
アゼルが即答すると、シシリはどこか自信たっぷりな様子でハァと溜め息を吐いた。
そしてその自信たっぷりな態度のまま俺の顔を見つめる。
「目。見てみろよ」
その言葉に促されるようにアゼルが俺の目を覗き込む。
目が合う。淡褐色の綺麗な瞳としばし見つめ合う。
「あー……濃紺か」
どこが苦々しい様子でアゼルがボヤく。
濃紺?俺の目の色か?生憎今の目の色は把握してないので確証はないが、二人の様子からして間違いないようだ。
「わかったか子猫ちゃん」
「ウルセェ。確かにコータが魔道士に憧れてんのは認めるけど、
オレとテメェのどっちが好きかは別問題だッ」
いやいい加減気づけ。そもそも問題自体履き違えとるぞ脳筋。
それよりなんで俺が『魔道士に憧れる少女』と断定されたかを説明しろ。
目の色が関係してるのはわかったからもっと詳細な情報を今すぐ吐け。お前得意だろ俺に必要な情報吐くの。
「おいおい、負け惜しみが過ぎるぜアゼル。
憧れの魔道士が目の前にいるんだぜー?負けを認めちまえよ子猫ちゃん」
お前もかシシリ。一体お前たちは何を競っているというのだ。
しかし俺の思考なんてお構いなしにアゼルはウググと言葉に詰まっている。
その表情はとても悔しそうだ。ダメだ。このまま馬鹿共に任せておいても埒が開かん。
「私はお二人とも同じくらい好きですよ……?」
少し照れた感じでそう告げると、アゼルはあの人好きするような笑顔で俺の髪をグリグリと撫でてきた。
シシリはその様子を見て肩をすくめる。
「コータはいい子だなぁ」
言外に『本当は俺の方が好きだけど、アゼルを気遣ってやって』
というニュアンスをたっぷりと含ませ褒められた。どうしていつもこう喧嘩腰なんだか……。
アゼルがまた噛み付くかなとも思ったが今回は自重したようだ。
恐らく俺の頭をグリグリやってそれなりに満足したんだろう。
場が落ち着いたところで改めて俺は情報収集に乗り出した。
今回は一芝居うたせてもらおう。
「何かに憧れてるのってやっぱり子供っぽいですか?
何だか少し恥ずかしいです……」
「いやいやそんなことねぇぞコータ。憧れるってことはいいことなんだぞ」
シシリがあやすように告げてくる。
だが、ただの優しい言葉からじゃ何の情報も入手できない。お前はしばらく黙ってろシシリ。
そんな心情をおくびにも出さず困ったように笑い「ありがとうございます」とシシリに告げると、便乗してアゼルも口を開く。
「そうだぞ。憧れを持つってことはいいことだ。コータの周りにもいただろ?
騎士に憧れてるヤツは腰に木剣差すし、コータみたいに魔道士に憧れるヤツは目を濃紺に変える。
それでいいんだよ。それが普通だ。
……でもだからってずっと憧れ続けなきゃいけねぇってことじゃねぇからな?
魔道士が嫌になったらスグにそんな色ガラスなんて外しちまっていいんだからな?」
言外に『魔道士なんぞに憧れるのは止めちまえ』というニュアンスを残す辺りが馬鹿っぽくていい。
なるほど魔道士に憧れるガキ共は色グラスで目を濃紺に変えるんだ。
ホントにお前はなんて有能な馬鹿なんだアゼル。シシリも少しはこの馬鹿を見習え。
照れたような態度で「ありがとうございます」とアゼルにも感謝する。
ただこの情報に関してはもう一歩踏み込んだものが欲しい。
なんとしても知っておきたいことなんだ。
「本当の魔道士になると、やっぱり濃紺の目にはしないものなんですか?」
シシリへそう尋ねると、彼は自分の目を指差して笑った。
「いやいや今は仕事中だから色グラスを外して来てんだよ。
騎士団討伐後の調査とはいえ魔物に会う確率は0じゃねぇから衝撃に弱い色ガラスは危ねぇんだ。
街では俺も色ガラスをつけてるよ」
「そうなんですね」
欲しい情報まで届かない。チリチリした気持ちで先を促す。
「大人になっても憧れを持ち続けるなんて素敵ですね」
「んー……まぁな。
アゼルの話じゃねぇけど本物の騎士になれば本物の剣を帯剣できるだろ?
だから騎士になっちまえば木剣なんていらなんだけど、魔道士の場合はちっと勝手が違うからな」
相変わらずなんてダメな答えだろうか。マジでアゼルを見習って欲しいもんだ。
しかも今更ながら『憧れを持ち続ける自分』に照れてしまったのか恥ずかしそうに頬なんぞ掻き始めた。
シシリ……どこまでもお前はダメなヤツだ。
恥ずかしがってもうこの話題にはまともに答えてくれそうにないシシリを見て
もう無理かと落胆する。しかし――
救世主は現れた。
「いつまでたっても純古代種に憧れて濃紺の目のままでいるなんてよぉ。
オリャてっきり惰性で続けてるもんだとばっかり思ってたぜ。勘違いしてて悪かったな。
純粋なガキみたいで大いに結構なことじゃねぇか!
ただよぉ……人のこと子猫なんて馬鹿にしてる場合ではねぇんじゃねぇかなぁ?」
「ウルセェな。黙れよ子猫ちゃん」
怖い怖いとうそぶいてなおもアゼルがシシリにちょっかいをかける。
いけアゼルさん。他人に情報を漏らすっていうことがどういうことなのかシシリの野郎にキッチリ教育してやってください。
「俺は褒めてんだぜ?いつまでも憧れを大事にすんのは素晴らしいことじゃねぇか。
純古代種なんて最後に目撃されたのはいつだ?800年以上も前の話だろ?
最早神話クラスといっても過言じゃねぇ大魔道士様を信奉するオッサン。ロマンだねぇ」
「黙れ。それは魔道士全員を敵に回す発言だぞ」
本気でシシリがアゼルを睨む。
その視線を受けてようやく溜飲が下ったのか、アゼルは満足気にフンッと鼻から息を吐きだした。
「さっきの意趣返しだ。これに懲りたら二度と俺のこと子猫なんて言うんじゃねぇぞ」
「ホザけ。いつか事故を装って自慢の尻尾を燃やしてやんよ。子猫ちゃん」
負け惜しみのようなシシリの言葉で馬鹿共の戦いは終わった。
アゼル様。素晴らしい程のだだ漏れっぷりでございました。
知りたかったことの肝は全てアゼルがゲロってくれやがった。
思わず手が震える。怖い。いや怖くなんてねぇ。
これは単なる武者震いだ。怖くなんてねぇ。
まとめると魔道士が色ガラスで目を濃紺に変化させるのは
【ジュンコダイシュ】ってスゲェ魔道士の目の色に似せるためだ。
"最後に目撃されたのは"という言葉から察するにこれは個人を差す名前じゃなく別の何かを差す言葉なんだろう。最後にシュってついてるからさしずめ【ジュンコダイ種】とかそういうものじゃねぇのかな。
で、この【ジュンコダイ種】
一番最後に目撃されたのが800年前とかいうメガトン級のレアポップのようだ。
レアポップする原因は推測するしかねぇけど恐らくスゲェ低確率で起こる先祖返りみたいなもんじゃねぇかと思う。
そうじゃなきゃ
どっか別の世界から連れてくるとかでもしない限り無理だろうからな。
突然森で目覚めた時の記憶がフラッシュバックした気がした。
そして考えてしまう。
仮に、そう仮にどこか別の場所から連れられて来ると過程した場合
――ジュンコダイシュはこの世界のどこで目を覚ますんだろうなと
一端ここで思考を切り頭をまっさらにする。だって今俺はとてもつまらないことを考えている。
俺にしては珍しく目をつぶって真っ白な頭でゆるゆると思考を始める。
だとしたら1つ問題があるんだよ。
そんな事を考える。
こんな馬鹿な考えありえねぇ。と切り捨てればいいのかもしれない。
いやそんなことしなくとも目の前の馬鹿二人に話を合わせて情報収集すれば、別の可能性を得ることができるかもしれない。
でも、俺は――
いまだ自分では確認したこともない自分の目の事を思う。
アゼルが一目みただけで断定した濃紺の目。シシリが憧れる濃紺の目。
だって俺色グラスなんて持ってねぇんだよ。
なのに断定された。深い深い紺色の目。
全くもって、ウザすぎる……。
知りたいことを知っていくにつれ
どんどん気分は全く落ち着かなくなっていく。
今は考えなくていい。後で考えればいいことだ。
自分に言い聞かせるようにそう念じると、手の震えがピタリと止まった。
言い聞かせるというよりもまるで自分で自分を騙してるみたいだな。
幸いそんな考えは浮かんでこなかった。