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3.猫さんの小屋

知らない場所にいた。衝撃だ。

女の子になっていた。さらに衝撃だ。


そして今

目の前の男の頭には犬みたいな耳が生えてピクピクと動いている。


もうヤだ。グレんぞコラ。



☆.:*:・' .:*:・'゜☆' .:*:・'゜☆' .:*:・'゜☆'



よく見ると頭に生えている耳は犬というより猫っぽかった。

黄色をベースにオレンジ色でトラ柄模様が入っている。

キジトラ?茶トラ?よくわからんが見覚えのある柄だ。


普通なら作り物と思うんだろうが、状況が状況だし何より作り物とは思えないリアルな見た目なんだ。

髪の毛は耳に沿うように生えていて被り物のようには見えないし、肉質はこの上なくリアルだ。ピクピク動くしな。


『俺は女になったけど、アンタは耳が生えたのか!』

思い切ってそう聞けたらさぞかしスカッとするだろうな……。

これ以上迂闊な事はしたくないから当然自重するけど。


思わずボヤいちまった事で『第一印象を良くする』って作戦はメタメタに失敗してしまったわけだが、これからの頑張りで取り返していくしかねぇ。

幸い相手もキョトンとしててよく聞いてなかったっぽいし。

失地はサクサクッと挽回しておこう。


「あの……こんにちは」

俺は深々と頭を下げ挨拶した。

頭を下げたまま相手の言葉を待つ。


「あ……あぁ、こんにちは」

やがて、頭の上から呆けたような返事が聞こえた。

後に続く言葉がなさそうだったので頭を上げると改めてニコリと微笑んだ。


子供の笑顔っていうのはある意味最強の交渉スキルだ。特に大人には効果てきめんだ。

証拠に、俺の笑顔に男も慌てたように笑い返してきた。

人の良さそうな笑顔だ。何より目が優しい。


「あーと……ごめんなー。嬢ちゃんみたいな子供が訪ねてくるなんて思ってもなくてよ、ちょっと呆けちまった」

中腰になり俺と視線の高さを会わせて猫耳男は穏やかな口調でそう言った。

やっぱコイツはいいヤツだ。こりゃイケる。


「まぁとりあえず中に入ってくれ」

猫耳男は俺の頭をグリグリと撫でながらそう言うと、立ち上って小屋の中へ入るように促してきた。


「おじゃまします」

行儀よく挨拶して中へ入ると、背後で猫耳男が「狭めぇところだけどな」と言いながらドアを閉める。


小屋の中はキッチンのような作りになっていた。

簡易な流し台とテーブルと椅子がある。椅子の1つには大柄な男が座っておりこちらを見つめている。コイツがさっきまで猫耳男と会話してたヤツなんだろう。

猫耳男と一緒でキョトンとコチラを見てるので、先ほどと同じように俺は頭を下げた。


「こんにちは」

頭を下げたまま男の反応を待つ。しかし男の返事よりも先に右膝がまたもやヘタレやがった。

前のめりな体制だったこともあり抵抗する間もなく倒れこむ。とっさに両手を顔の前で組み、衝撃に備えて全身に力を入れたところでフワリと身体が宙に浮いた。


「大丈夫かい?嬢ちゃん」

見ると猫耳男の腕が俺の腰に巻かれている。こけそうになった俺の事を助けてくれたらしい。

礼を言う間もなく猫耳男に抱え直されると、


「疲れてんだろ。このまま運んでやるからジッとしてな」

お姫様だっこで抱えたまま頭をグリグリ撫でられた。器用なヤツだ。

お姫様だっこ『される』側というのは、男として物悲しいものがあるが今は少女だしノーカンだ。忘れよう。


ふと足先へ視線を向けるとドス黒く変色した靴下が目に入った。

そういや靴下で歩いてたからドロドロのグッチャグチャになってるんだった……。


「あの、私足が汚れるので、このままじゃお部屋を汚してしまいます」

だからまず靴下を脱ぐから下ろしてくれ。

そういう意味を込めて言ったんだが、男にはうまく伝わらなかったようだ。


男はチラリと俺の足を確認すると

「後で手伝ってヤルからちょっと待ってろ」

抱きかかえたままテーブルまで歩くと椅子の上にフワリと俺を下ろす。

そのまま俺の前で跪くと靴下に手をかけた。


「じ、自分でできますよ」

慌てて訴えるも


「いいからジッとしてな」

一刀両断され靴下を脱がされる。

ついでとばかりにテーブルにあった布巾を手に取ると両足を拭われた。

猫耳男は靴下をテーブルしたのカゴに入れると布巾で自分の手も拭いた。


「あ、ありがとうございます」

礼を言うとまたも頭をグリグリと撫でられた。度重なるグリグリで乱れた髪を軽く撫で付けると猫耳男は立ち上がり俺のとなりの椅子へと腰かける。

大柄な男とテーブルを挟んで向かい合う形になった。


これまで興味深そうに俺と猫耳男のやり取りを眺めていた男が

椅子に座ったばかりの猫耳男へ遠慮がちに尋ねる。


「アゼル、この子は……」


対する猫耳男の返答はシンプルだった。


「客だ」

「客って……この子一人なのか?」

「あー……うん。他には誰もいなかったな」

「そうか……」


何やらドンドン声が陰鬱になってきているようだが……。

やはり俺一人だけっていうのが気になってるみたいだ。


「まー、色々あったんだろ」

猫耳男はうやむやにそう結論付け俺の頭に手を置く。

見上げると目があった。


「でももう大丈夫だからな。なんも怖いことはねぇぞ」

優しい優しい声だ。本気で俺の事を心配して安心させようとしてるのがわかる。

その心遣いにうかつにも泣きそうになっちまった。ホントによかったと思う。


ホントにホントによかった。お前がいいヤツで。

ホントにホントにホントによかったよ。





きっとお前からなら――





思う存分必要な情報を搾り取れそうだ。





我ながらゲスい。

けど馬鹿と善人は御し易いからこの機会を逃すわけにゃいかんのよ。


それに何かの機密情報みたいな情報が欲しいわけじゃねぇ。

欲しいのは現状が認識できる程度の常識レベルのものだ。

利用するみたいで気が引けるが、別にコイツらに迷惑かけるわけじゃねぇし。いたしかたないだろ。


いまは与えられる優しさにつけこんで

返せる時が来たら返せばいいんだ。


ここはおかしい事が多すぎる。

森で目覚めてからこの方俺の『常識』の及ばないことばっかりだ。


まずは知らないといけない。

『知って』そして『考える』事からはじめてみよう。


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