第八章 麗しの強敵 セバス
数日間にわたる険しい山越えを終えたヒロミチと大亀の前に、エメラルドグリーンに輝く広大な河川が現れた。
「ヒロミチさん、見てください! 最高の水浴びスポットですよ!」
大亀は子供のようにはしゃぎ、ピンクのリュックを放り出すと、豪快に川へと飛び込んだ。大きな水しぶきが上がり、虹が架かる。
ヒロミチもまた、旅の汚れを落とすべく服を脱いだ。覚醒した彼の肉体は、無駄な脂肪が削ぎ落とされ、大理石の彫刻のように滑らかで光沢を放っている。
「ふぅ……気持ちいいな。大亀くん、水が冷たくて最高だよ」
二人は川のせせらぎに身を任せ、束の間の平和を楽しんでいた。しかし、その静寂は、川上から流れてくる「圧倒的な美のプレッシャー」によって破られることになる。
「……おや。私が心地よく使っている川に、迷える子羊が二匹紛れ込んだようですね」
鈴の鳴るような、だが心臓の奥を直接掴むような鋭い声が響いた。
ヒロミチと大亀が顔を上げると、そこには信じられない光景があった。
激しく流れる川の真ん中で、一人の男が水面に直立していた。
白金色の長い髪をなびかせ、肌は透き通るように白く、そしてその瞳は深いサファイアの色。
男の名はセバス。
「水の上に……立っているのか!?」大亀が驚愕の声を上げる。
セバスは指先で髪をかき上げ、優雅に微笑んだ。その動作一つで、周囲の空気が薔薇の香りに包まれる。
「私の名はセバス。この美しき自然と、美しき男を愛する放浪の求道者です」




