第十六章 1世紀
白髪の人物は、中田にゲームの具体的な「ルール」を説明し始めた。
「実を言うとね、歴史が少し捻じ曲がってきていてね。それを直さないといけないんだ。放置しておけば、生きているはずの人が死んでいたり、死んでいるはずの人が生き残っていたりと、因果が狂ってしまう。そしてその歪みは、君のいる現代にまで深刻な影響を及ぼすことになるかもしれない」
中田は混乱した頭で、その言葉の意味を咀嚼しようとした。
「……歴史の修復? それを俺がやるのか?」
「そうだ。僕が出すミッションに従って、綻びを直してきて欲しいんだ」
「質問してもいいか」と中田が許可を求めると、相手は「いいよ」と短く頷いた。
「俺がその時代に行くっていうことか?」
「そうだね。それぞれの歴史の舞台は1世紀から23世紀まであるんだけど、君にはそれぞれの時代の人物に『乗り移って』もらうことになる」
「えっ……俺がそのまま行くんじゃないんですか?」
中田の困惑に、白髪の人物は当然のことのように首を振った。
「それは無理なんだ。君がそのままの姿で現れれば、それこそが新たな歴史の歪みになってしまうからね。君という意識を、その時代に存在する誰かの肉体へ宿らせる。それが最も安全な方法だ」
中田が驚きに固まっていると、相手は淡々と選択肢を突きつけた。
「さて、どうする? 1世紀から始めるか、それとも一気に23世紀から始めるか。どっちからでもいいよ。君に選ばせてあげよう」
「……1世紀から23世紀って、幅が広すぎるだろ。どっちにしろ、準備が必要だ」
中田が悩み始めたその時、白髪の人物は退屈そうに目を細めた。
「悩む時間が長いね。……もう、1世紀でいいかい」
「おい、待て! 勝手に決めるな! まだ何も聞いてないぞ。誰に会えばいいんだ? 俺が乗り移る体は誰なんだ? そもそも、何をすればいいんだよ!」
慌てて問いかける中田の声を聞きながら、白髪の人物は指を鳴らした。途端に、中田の意識が眠気に襲われたような感覚に陥る。
「おっと、忘れていたね。何をすればいいか、その目的だけは答えておくよ」
中田の体が白光に包まれ、空間が高速で遠ざかっていく。遠のく意識の端で、白髪の人物の声が微かに響いた。
「今回のミッションは――『イエ……』」
重要な名前の最後が聞こえる前に、中田の意識は完全に遮断された。
――西暦1世紀。 吹き抜ける乾いた風と、照りつける太陽の熱。 次に中田が目を開けたとき、彼は自分のものではない、見知らぬ誰かの体の中にいた。




