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キンモクセイは夏の記憶とともに  作者: 広崎之斗
昔の話、今の話。
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昔の話、今の話。(11)

 高速道路に乗ると車はまっすぐ道なりに走り続ける。行き交う車の流れも早く、自然と純一の車も速度が少し上がっていた。

「悠人が出て行くまで、俺に会わなかったじゃん? 完全に閉め出し食らったっていうか、拒絶されたっていうか」

 そう始めた言葉に悠人は横目で見ると、再び視線を前に戻した。

 普段見上げるビル群が同じ高さにあるのは高速道路ならではの面白い風景だ。


「それで結局、俺の方も受験とか忙しくなったし。知らない間に悠人は上京してたしで、おばさんに聞いても悠人から言われてるから教えられないとか言われて。まぁ、とにかく俺もその後すぐにαだって分かって、息苦しいし、田舎はさっさと出るに限るって思って」

「それでこっちの学校に出たってこと?」

「そう。まぁその時の進路は凄い悩んだけどね。結果的には専門学校に進んで、大学にも編入して、今の仕事に就くことにしたけど」

「え、なにそれ」

 思わず声をだして悠人は純一を見た。

「最初から大学行くほどの金も、頭も、技術もなかったから専門に行ったんだよ。そんで勉強して、編入して。大学に行くといろんな人がいるだろ? そこで先輩とか知り合いつくって。バイトさせてもらって、コンペだして、そのまま卒業と共にバイトしつつフリーランスでもやって、事務所作って……て感じ?」


 想像していたよりも遙かに大変ではないかと思ったが、事もなげに言う純一に悠人は器用だなと素直に思った。

 元々彼はそういうところがあったのは確かである。

 何事も器用にこなすから、昔の純一は器用貧乏でもあった記憶がうっすらとある。

 絵が上手いから、ポスターを描いてほしい、しおりの表紙を、文集の扉を。

 元々絵を描くことは好きだったらしいので、それに対して苦に思っている節はなかった。むしろ必要とされることが嬉しいと思っているように、他から見れば思えたのだ。

 一緒に宿題をするという名目でどちらかの家に行った際にも、よくそういったものを息抜きと称して描いていたのを見ていた。


「今は第二性って、書類に必要じゃない場合は書かないようになったけど、昔は書いてたでしょ? 専門学校の時のコンクールも、大学編入の書類審査も、全部俺はαだから楽だったっていうのがある。コレは俺がαであることを最大限使ったって自覚があるところ」

「就職も楽だって話だったもんな、昔は特に」


 今でも見た目で第二性は大体予想がつく。だからこそ容姿によっての潜在的差別意識がなくはないと悠人は想う。

 それは自分が会社勤めをしていた時にあったことだし、多分、今もなおあることだ。

 人は頭では分かっても簡単に変わることなんて出来はしない。

 現在だって社会問題の一つとして提起されているが、表立っては是正していても、内なる部分では全然変わっていない。それはΩだからこそ悠人は肌で感じている。


「そう。だから俺はαだってことを最大限利用して大学も行った。でもαだからって評価されるのは違う。俺は俺がやったことで、作ったもので、きちんと評価されたい。そう思ったから、努力は止めなかった」

「そこまでしたのも、俺のためっての?」

「そう」

 流れる街並みが徐々に都市部から郊外へと移り変わっていく。

 住宅地も一軒家や低層のマンションが増えて行くのを見つめて、悠人は一言呟いた。


「どうして?」

「まず、俺はこっちに来た時にすぐ悠人を探そうと思った。でも、それじゃ多分ダメだって考えた。だって悠人は一筋縄でうまく行くとは思わないから。だから、まずは学生生活を。その後に繋がる仕事、名誉、財産、なにもかも、俺が出来うる最高の状態にして、悠人を探さなきゃダメだって思ってね」

「俺そんなにがめついかぁ?」

「がめついとかじゃなくって。現に今もだけど、自分じゃ勿体ない、もっとイイ人はいる、本当の運命の番は別にいる。って、言って絶対逃げると思ったから」


 インターチェンジに近づいて速度を落としながらカーブを滑り降りて行く。

 重力に任せて身体を少し振り回されながら、悠人は力が抜けたように息を吐き出した。

「分かってんじゃん」

「分かってるよ。だから絶対、納得いくまで追いかけられるようにしようと思って。それで準備が整ったところで、今の事務所を借りた。それも、先に悠人があそこで働いてるって見つけてからだけど」

「まじかよ。一歩間違えたらストーカーじゃん」

 誤魔化すように口笛を吹いて純一は笑う。

 悠人も少し笑っていた。


「でも、久々に悠人を見た時は本当は嬉しくて、抱きつきたかったし、すぐに名乗りたかったし。でもまぁ、大人な姿を見せた方がいいなんてアイツが言うから……」

 悠人の頭に浮かぶのは、事務所のマネキンだ。

 あれを作った相棒でもある慎二という男の顔は、あまりよく思い出せない。

「でも、多分間違えてなかった」

 自信ありげにいった純一は、速度を更に落として料金所のゲートを走って行く。

 ETCが反応した音がして少しアクセルを踏むと速度が戻る。

「あれはまぁ……確かに」

 すぐに交差点に突き当たり、ウィンカーを出して右へ曲がる。

 すでに街並みは自然が多い。どこへ行くのかはさっぱり分からないが、久しぶりに都会の喧噪から抜け出したことに気分は良かった。

 悠人は外を硝子越しに見つめたまま、小さく微笑んで言った。


「正解だったと思うよ」

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