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4. 食事と王子

突然の出来事に困惑した表情を見せていたラヴィニアだったが、料理を口にすると和らいだ表情に安堵する。

とはいえ、途中で食事の手を止めてしまうほど屋敷に気になる存在があるようだ。

今すぐにでも倒れそうだった顔色は少し改善したが、本当ならもっと食事をして欲しいがあまり強引なことはしたくないと視線を向ける。


彼女を見つけたのは偶然だった。


いつまでも結婚しない事を心配した父が主催した夜会。

未婚の令嬢達が様々なアピールをしてくるが、興味を引くことはなかった。

角の立たない程度に当たり障りのない会話を交わしてからテラスへ逃げ出すと、カーテンの後ろに見えた先客。

白銀の髪をした彼女は綺麗な翡翠色の瞳を寂しげに揺らしながら月を見上げてからシャンパンを口にした。

月明かりに照らされた姿は女神のようで、その美しさに目を奪われる。

気になって声をかけると明らかにやせ細った頬と化粧で隠しきれない顔色の悪さに居ても立ってもいられず、無理矢理ここへ連れてきてしまったのだ。

2週間ほど前にキャンベル家へと嫁いだ他国の令嬢。

それが彼女だろう。

あまり良い噂を聞かなかったが、ラヴィニアの姿を見れば一目瞭然。

政略結婚とはいえ、この仕打ちは許されるものではない。

どうしたものかと考えていると閉めていたはずの扉が開け放たれた。


「ラヴィニア!何をしている。」


いきなり現れたアルフォンスの怒鳴り声に驚いたようで、彼女の身体がびくりと飛び跳ねる。

彼の隣にはギセラも立っており、怯えているのかと心配になったが、声に驚いたというだけでそれ以上の感情はないようだ。


「私の妻として相応しい対応をするようにと言ったはずだ!セシル殿下、非礼をお許し下さい。」


謝罪するアルフォンスの言葉でセシル=王子であることを理解したラヴィニアの瞳が揺れているのが見える。

そんな彼女を土下座をさせるような勢いで無理矢理頭を下げさせるギセラ。


「…申し訳ございませんでした。」


されるがままラヴィニアから聞こえたその声に小さくため息をこぼして近づいていけば、誠意が足りないからだと理解したギセラが手を上げようとするのが見えた。

彼女に振り下ろされる前にその手を掴んで遮れば、何故だと不満げな表情をしている。


「非礼というのは君達のことだよ。僕はラヴィニアと食事を楽しんでいたんだ。邪魔するってことはそれ相応の理由があるんだろう?」


「…そ、それは。」


「ギセラさん、あまり勝手な行動はしないでもらえないかな。僕が温厚じゃないってこと、知ってるよね。」


「ひっ。」


「ペトロネア。」


「はい。」


「ラヴィニアの髪、崩れてしまったからね。別室で直してくれないか。」


「かしこまりました。ラヴィニア様、こちらへ。」


その言葉で現れたのは金色の髪をポニーテールにした女性で、切れ長の青い瞳を緩ませながら優しい笑みを浮かべると、ラヴィニアと共に別室へと移動していった。

それを見届けてから改めて二人へと向き直る。


「この結婚が不服なようだね。」


「いえ!そういうわけでは…。」


「ならどういうことかな。ラヴィニアの身体は明らかに痩せ過ぎている上に、化粧をしていてもわかるほど顔色が悪い。もしかして彼女を死なせるつもりだったの。」


「まさか!」


「なら、普段のラヴィニアはどう過ごしてるのかな。とても気になるから明日、屋敷にお邪魔することにするよ。まさか何処かに閉じ込めたりなんてしてないよね。」


「っ。」


図星を突かれたギセラは言葉に詰まってしまう。

全てお見通しのようだ。

しばらくするとペトロネアに連れられ、戻ってきたラヴィニアは化粧も全て手直しされたようで、濃くひかれていた黒いアイラインは目を縁取る程度のブラウンへと変化し、アイシャドウも赤紫色から透明感と光沢のあるピンク色に。

ぽってりとした赤いリップはマゼンタピンクになり上品に仕上げられている。

きつい印象の化粧しか見たことのなかったアルフォンスも彼女の姿に目を奪われてしまった。


「ペトロネアの見立ては流石だね。」


「恐れ入ります。」


「さぁ、食事の続きをしよう。見惚れているところ悪いけど、君たちはお呼びじゃないんだ。パトリック、二人にご退席願ってくれ。」


「かしこまりました。」


燕尾服姿の金髪に蒼眼の青年は無表情のまま二人を外へと促している。


「あぁ、言い忘れた。彼女は(ここ)に泊まるから。僕に文句なんて言えるとは思えないけど、意見があるなら聞くよ。」


満面の笑みを浮かべるセシルに滅相もないと逃げるようにして部屋から出ていった。

居なくなれば彼らになど一切興味はないと再び席に促されたラヴィニアへと視線を向ける。


「心配なのはわかるけど、今は君の身体もあまり良い状態とは思えない。だから少しでも食べてほしいな。」


彼女にそう言ってみれば、躊躇しながらもゆっくりと食事を進めていった。

それにしてもラヴィニアが食事を止めてまで心配する存在とは一体何者なのだろう。

気になってはいるものの、信頼関係の出来ていないこの状態では詳細等話せるはずもないかと小さくため息をこぼすのだった。

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