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10. 王子

あれから一通り露店を見て周り、そろそろ戻らないとペトロネアが心配すると城へ続く道を歩いていると子犬の姿に戻っていたオスカルが唸り始めた。


「グルルル!」


「オスカル、どうしたの?」


落ち着かせるようにその場にしゃがみ毛並みに沿って撫でてみるが、態度は一向に変わらない。


「ラヴィニア。」


「…どうして、ここに…。」


名を呼ばれた彼女は振り返ると目を見開いた。

そこに立っていたのはラヴィニアが好意を抱いていた王子。

トライル・シーベルトだ。

彼が居たからこそ彼女はヒロインに数々の悪行を行い、婚約破棄と断罪によってアルフォンス・キャンベルとの政略結婚をするに至った。

なぜここに居るのだろうか。

驚きはしたものの彼女は以前のラヴィニアではないため、後ろめたさはない。


「キャンベル家との婚姻を破棄したと聞いた。どういうつもり?」


「…どういうつもりと言われましても私はこの件に関わっていませんけど。」


「まだ罪を重ねる気かい?君が婚姻を一方的に解消してきたと抗議の連絡が来たんだ。」


なるほど。

セシル殿下に向けられるはずだった矛先を変えたわけだ。

さてどうしたものか。

この感じだと私が何を言っても聞く耳を持つつもりはないのだろう。

ラヴィニアの悪行はヒロインの嘘の噂を流すシーンもあったことを踏まえると自業自得だけど。


「ラヴィニア様、これ誰ですか?悪意の匂いがします。」


「い、犬が喋った!?」


「ここが魔獣の国なのは存じているのですよね?それほど驚くことですか。オスカル、先にお城に戻っていてくれる?」


「嫌です。」


「ペトロネアさんが心配しているだろうから、ね?きっと美味しいご飯もあるよ?」


「だったらラヴィニア様も一緒です。こいつ嫌い!」


魔犬の姿にはならないもののトライルの前に立ち塞がるようにしたままだ。

一触即発の雰囲気の中、足音が近づいてくる。


「シーベルト王国の王子様が何用ですか。」


「パトリックさん…?」


「ラヴィニア様、ペトロネアが城内を探し回っていますよ。」


「ご、ごめんなさい。もう少し早く戻るつもりだったのだけど。」


「彼が邪魔ですね。」


「邪魔とは失礼な。僕はラヴィニアに用があって来たんだ。」


「先程のお話の件ですか?キャンベルとの婚姻破棄はセシル殿下の指示です。ラヴィニア様に言うのは筋違いですよ。」


「しかし、キャンベル家から連絡を…!」


「朝から騒がしいね。」


やれやれといった表情しながら現れたセシルは唸っているオスカルを横目にトライルへと視線を移した。

お互い王子という立場のため、何度か顔を合わせたことはあるもののあまり仲が良いという雰囲気ではない。


「ラヴィニア、おはよう。城下町で変な輩に絡まれていたみたいだけど、大丈夫だったかな。」


彼女の掴まれた腕を取り、怪我をしていないか確認すると安心したように笑みを浮かべる。

目の前に居たトライルなどお構い無しだ。


「あれは本当に不愉快でしたね。オスカルが食していなければ私が後ろからと思っていたのですが、惜しいことをしました。」


「え?後ろからってパトリックさん、城下町にいらしていたのですか?」


「パトリックには護衛も任せているからね。」


「僕が居るから大丈夫なのに…。」


ブーブーと文句を言いながらも皆が現れたことで警戒心を緩めたようで、ラヴィニアのドレスに顔を埋め至福の表情をしている。

彼等が自分よりも上の存在であるということは理解しているようだ。


「なぜ、ラヴィニアがセシル殿下と親密に…?まさか、それで…?」


嫌悪感を含んだ視線を向けたトライルに仕方ないと近付いたセシルはラヴィニアに聞こえないように何かを耳打ちする。


「…わ、わかったよ。父上には僕から伝える。」


「うん、理解してくれて良かった。キャンベルにはちゃんとこちらから話しておくよ。」


笑顔で見送るセシルだが、トライルは明らかに顔を真っ青にさせ逃げるように馬車に乗り込んでいたようだ。

何を言ったのだろうと不思議そうに見ていると内緒とウインクされる。

漫画でしか見たことのないようなその仕草にイケメンなら何をしても似合うのかと納得していると城への道を促されるのだった。

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