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2.それ、お子様の必殺技ですから!

 





「…………」


 よく思い出せ、あたし。

 さっき、ザ・執事が彼を呼んでいたじゃないか。

 ずっとフェイリスート様と呼んでいたと思っていたけど、それは思いこみ。

 だから、しっかり思い出せ。



『お話し中、失礼致します。―――様』



『どうした、ファゼル?』

『はい、こちらを……』



『……返事は少し後にする。それまでに関連資料を用意しておくように』



『はい。フェイスリート様』



 フェイスリート。



 頭の中で反芻(はんすう)した言葉にあたしはゴクリと喉を鳴らした。


 まさか、そんな……?



「……………すみません、す、少しだけ席を外させていただいてよろしいですか?」

「? ええ、構いません。私も、仕事の連絡が来ていたのでその返事をしてきます」

「あ、ありがとうございますっ……!」



 あたしは新人執事(疑)……ではなく、フェイスリート様のお姿を見送った後、グリンっと父様の方へ振り返った。



「とととと父様!! どうしてフェイスリート様(・・・・・・・・)がここにいらっしゃるの!?」

「ははは、面白い子だなビアンカ。お前が、フェイスリート様(・・・・・・・・)との縁談を望んだんだろ?」

「ち、ちがうわ!! 私が言ったのはフェイリスート様(・・・・・・・・)!!」



 あたしは愛しい彼の名を叫ぶ。

 すると、その名前を正しく聞き取れたようで、父様の顔から笑顔が消えた。



「…………マジ?」

「マジですわ!! 父様!! そもそもどうして、男爵家から侯爵家の方に縁談なんてお願いしてるのよぉ!!」

「可愛い娘の為に頑張るのが父親だろ?」

「ううっ!! それは確かにうれしい! 嬉しい言葉よ!! でも、お名前を間違えるって……!!」

「…………てへ☆」

「いくら童顔だからって、四十超えてから『てへ☆』で、誤魔化されるわけないでしょぉぉ!!」



 あたしがいくら絶叫しても父様は『てへ☆』ポーズを崩さない。

 ちびっこのお得意ポーズを使いこなすとは、我が父ながら恐るべし……。



 とはいえ、このまま何もせずフェイスリート様がお戻りになるのを待つ訳にはいかない。

 だからあたしは状況を整理する事にした。




 まずあたしが縁談を申し込みたかったのは、フェイリスート様(・・・・・・・・)

 笑顔が可愛い悪戯好きな彼。


 そして父様が縁談を申し込んでしまったのが、フェイスリート様(・・・・・・・・)

 髭と眼鏡がそれなりに似合う執事みたいな人。

 フェイスリート様といえば、たしか侯爵家のご長男でありながら社交界が嫌いで、あまりそのお姿を知るものは少ない、という話を聞いた事があるぐらいで、それ以外全く分からない。



 ……うん。名前だけはものすごく似ている。

 多分、聞き間違える可能性は七割ぐらいあるんじゃないだろうかと、勝手に予想する。

 でも、やっぱり似ているのは名前だけで髪の色から骨格に至るまで類似してる点はなかった。

 あたりまえっていったら、あたりまえなんだけど。……他人、だしね。



 現状としてはどうやら私がフェイスリート様を密かにお慕いしていて、父様がいろいろ頑張った結果、フェイスリート様は侯爵家であるにもかかわらず、男爵家からの縁談提案を聞き入れ、今日のこの場を用意してくれた……。



「……って、断れないじゃない」

「まあ、相手から申し込んできたのなら門斬払いしてやるけどな」

「いやいやいや、父様。格上の貴族からでそれはないでしょう」

「バカだな、ビーは。お前の望んでいない縁談なんて格上も王族もないさ」

「……すっごい心強いけど、男爵家の行く末を心配するわ」

「娘に心配されるほどヤワじゃないさ」



 そう言って笑う父様は、少年のように(まぶ)しかった。

 いや……四十過ぎなんだけどね。



「……でも、困ったわ。どうしましょう……」

「? 『どうしましょう』って、断ればいいじゃないか」

「どうやって?」

「ん? 正直に『間違えました!!』で、いいんじゃないか?」

「ううぅ……聞いたあたしがバカでした……」



 ダメだ。父様はストレートすぎる。

 同じ断るでも、これはマズイだろう。

 そもそも男爵家から断るなんてありえないし、フェイスリート様のお顔に泥を塗る事になる。

 間違えただけでも失礼この上ないのに、さらに泥まで塗るなんて申し訳なさすぎた。


 ……じゃあ、どおする?



「……フェイスリート様から断ってもらうわ」



 あたしは至極当然の流れにもっていく事にした。



「……まどろっこしいな。……だが、ビーがそう考えたらなそれが一番いいんだろうな」

「多分。そう思いたい……。 父様、もしあたしが地雷を踏みかけたら助けてね」

「ははは。お前が踏む前に俺が踏んでるよ」

「…………ダメだってそれ」



 父様の会話は半分本気、半分冗談で出来てるから油断ならない。

 ただ、本当に困った時は必ず助けてくれると分かっているから、安心できる。



「まあ、お前の思う通りにやってみてな」

「わかったわ…………って、そもそも誰のせいでこうなっていると思っているの? 父様?」

「てへ☆」

「って、言っても無駄ね……」



 そんなこんなで家族会議(?)を終え、あたしは再びフェイスリート様と対面した。







お読みいただきましてありがとうございます(*^_^*)

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