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ヒロインは早々にシナリオから離脱したい  作者: 朔島 涼
七章.新たな展開、伏線回収

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58.推しの皮を被ったアーノルド

翌朝、我々の指輪を見て勘違いしたメンバーから「おめでとう!」「違います!」というやり取りを3回ほど繰り返した後でミーティングが始まった。ミーティングの座席もたくさん場所は空いているのに、アーノルドはシルヴィアの隣にぴたりと距離を空けずに座る。3回ほどズレて座り直したが、3回ともそれ以上に詰めて座り直されたのでシルヴィアはもう諦めた。これ以上やると、膝の上に座られそうだ。顔と声だけは推しと一緒なので、心臓に悪いからやめて欲しい。お気づきの方もいらっしゃるかもしれないが、私の精神衛生上の理由で、今日から推しとアーノルドは別の人物だと認識を改めている。


「次の目的地はラナロッソの洞窟だ。ここより北上して1番近くの街まで今日中に移動する。」

「今日は移動日だな。」


この旅を初めて以降、『移動日』『浄化の日』『移動日』『浄化の日』というルーティーンで進めてきている。そして、先ほどランドルフが声に出した通り、今日は移動日である。


昨日、メンバーの半数以上が魔力を失うという異常事態に陥ってしまったが、今朝にはすっかり元に戻っている。『ロゼ恋』のゲームシステムとして、一晩寝たら体力・魔力が全て回復するという何とも都合の良いルールがあったが、それは現実となった今でも適応されているらしい。そして、それに対して誰も疑問に思わないところがやはりゲームが元になっている世界なんだなと思い知らされる。一晩寝たら魔力全回復ってどういう事やねん。


「ああ、それと言い忘れていたが、ヴィアとアーノルドおめでとう!」

「違います。」

「ありがとう、エミリオ。」

「ややこしくなるんで、アーノルドは黙っててもらえますか?」

「アーノルドは意外と尻に敷かれるタイプなのね。」

「イレーネ、悪ノリはやめてください。」

「そうだね、ヴィアの言う事なら何でも聞いてしまうかも…。」


誰も私の話を聞いてくれない。


「解散!」


ミーティングでもう重要な内容は残ってないと思われるため、シルヴィアが勝手に解散してしまった。


「待ってよ、ヴィア。」

「待ちません。」

「怒ってるの?」

「怒ってますよ。」

「どうしたら許してくれる?」

「この指輪外してくれたら許します。」

「それは出来ないんだ、ごめんね。」

「仕方がない。指ごと落とすか…。」

「わーーーー、ごめんってば。何か外す方法考えるから、それはやめて下さい。」


アーノルドは慌てて、シルヴィアの手を握り込む。


「動けないんですけど。」

「手を離したら、指を落とすんでしょ?」

「すぐにイレーネに繋いでもらうから大丈夫です。」

「そう言う問題じゃないし、万が一神経に障害でも残ったらどうするの?」

「どうもしません。新薬でも研究します。」

「もう二度とやらないから許して下さい。」

「その前に外す方法。」

「はい、探します。」

「なる早で。」

「そんなに嫌?」


アーノルドは眉を下げて、シルヴィアの顔を覗き込む。昨日までのシルヴィアであれば、この必殺技で毎度クリティカルヒットのダメージを受け、正常な判断が出来なくなっていた。しかし今日からは違う。コレは推しの皮を被ったアーノルドだ。


「騙されてはいけない。」

「え?」


声に出てしまった。


「順番が違います。」


話を無理やり元に戻した。


「結婚しよう?」

「無理です。」

「ほら、順番も何も進まないもん。」

「では、出発の準備がありますので私はコレで。」


シルヴィアは部屋に入り、バタンと扉を閉めた。

……。ぐすん、ぐすん。

騙されてはいけない。これは推しの皮を被ったアーノルド。可哀想じゃない。絶対に。ここで情けを見せたら、困るのは自分。


……。ぐすん、ぐすん。

……。ぐすん、ぐすん。


「あーもう!ほんの少し、ほんの1ミリだけ前向きに考えますから、とっとと準備しなさい!」

「はーい。」


扉を開けながら叫ぶと、満遍の笑みを浮かべたアーノルドが、自分の部屋に入っていくのが見えた。


「や、やってしまった。」


シルヴィアは優しいのだ。困った人を放っては置けない。そして、アーノルドはそれを本当によく分かっている。あざと腹黒い。シルヴィアはがくりと項垂れて部屋の中に戻って行った。

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