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NPCs  作者: 米川 米三
12/18

第12話 選択

 夜明けだ。

 死亡強制エリアの境界線をまたぎ、安堵する。

 馬を留めておいた場所まで戻って一度休憩。

 みんなで草むらにしゃがみ込んだり寝転がったり。

 食事をしてから街に戻ろうって事になった。


「それじゃ、私はこれで」


 小十郎の姿ではなくなった彼女は、独り立ち上がる。


「どこへ行くんだ?」


「別の場所に私の馬がいるから。さよなら」


 エビさんが引き止めようとするけど、彼女は黙ったまま歩き始めた。


「鶴見さん、やっぱり五人がいい。行かないで」


 凛が彼女の前に立って、両手をつかんだ。


「ボクもそう思うな」


 メイビーも凛と一緒に彼女の腕をつかむ。


「でも、私……」


 鶴見楓。

 この人は卑怯者だから、本当は引き止めて欲しいんだろうなと思った。

 あと一押し、パーティから外れた元凶の僕が引き止めれば彼女は留まると思った。

 でも残念ながら僕はそんなに人間が出来ていない。

 どこへなりと行けって思う。

 だから最後のサヨナラを言おうとして、彼女の横に立った。


「早く食事の支度しないと。川まで水を汲みに行きましょう。……先輩」


 僕は考えてる事と真逆の言葉を彼女にかけていた。

 思考と行動がズレてる。

 カッコ悪い。

 先輩はコクコクうなずきながら、両手で顔を覆って泣き始めた。


 みんなで作った羊肉のバーベキューを食べながら、先輩は泣き続けていた。

 泣けば済むと思ってる。

 内心で計算して同情してもらおうとしている。

 きっと美人に多いタイプだ。

 鶴見楓はそんなズルい人間なんだって、僕は頑張ってそう思ってた。

 だから、先輩の泣き顔を出来るだけ見ないようにしていた。




 食事を済ませ、明るくなってから五人それぞれで馬に乗って、移動を開始する。


「グラスハーバーへ行かないか。温泉でゆっくりしたいな」


 エビさんの提案にみんながうなずく。

 GOF内に閉じ込められてからすでに三カ月以上。

 ほとんどの街や村は中世ヨーロッパ風のおもむきで彩られている。

 建物と言えば丸太小屋、しっくいの壁、石壁、それにレンガ。

 食べ物はパンや干し肉にチーズ。

 飲み物はミルクやエール酒にワイン。

 洋風のオンパレードだ。

 いくら好きで始めたゲームと言っても和風テイストが恋しくなる気持ちは日本人として止めようがない。

 凛は布団で寝たいって言うし、メイビーはかつ丼が食べたいって言う。

 エビさんは日本酒が飲みたいそうで、先輩はお茶漬けが食べたいって言ってる。

 僕は温泉に入りたくて仕方ない。

 だから僕ら五人は久しぶりにグラスハーバーの街へ向かう。

 そこには和風テイストの温泉宿が軒を連ねていたからだ。


 馬を歩かせながら、エビさんは馬上でみんなに詫びてから話し始めた。


「俺はGOF運営会社ポッポンの社員だ。デバッグの仕事のために参加していた。今まで黙っていてすまなかった」


「じゃあエビさんも管理用コンソール画面を開いて操作出来るんですか」


「いや、俺は所詮デバッカーだ。バグの報告とテクスチャーやメッシュデータの調整までしか権限が無い。水野さんがやったようなシステムへの干渉は出来ない」


「デバッカーか。だから色々と細かい設定を知っていたんですね」


「そうだ。だが追加クエストに関しては何も知らないし、核ミサイル云々の話以降は俺もみんなと同じ立場だよ。だから獅子内さんが言った事が本当かどうか俺にも分からない」


 確かにエビさんも主人格からの召還を受けてない。同じ立場って言うのは本当だろう。


「獅子内って、どういう人なんですか」


「彼は俺と同じポッポンの社員で、NPC思考ルーチンのシステムエンジニアだ。役職は部門長だったが、今はどうか分からない。見た感じ出世していそうだ。彼は上昇志向が強い人だからな」


 核が落ちた後に出世したのか。なんとなく胡散臭く感じる。


「もう一つ教えて下さい。あの水野って人、何者なんですか」


 エビさんは少し表情を硬くする。

 慎重に言葉を選んでるように見えた。


「彼女は史上初めて、電脳領域への人格移植に成功した人物だ」


「では、実験台だったんですか」


「研究者の一人だ。脳に深刻な病気を抱えて、苦肉の策で電脳移植を受けたらしい」


「それが成功したと言うワケですね」


「いや、失敗だったらしい」


「えっ、あれで失敗? あんなにしっかりコミュニケーションがとれてたのに」


「移植後に精神分裂を起こして、彼女の人格は複数に分かれたらしい。俺たちが会ったのはその内の一人だろう」


「そんな事が……。彼女もポッポンの社員ですか」


「違う。静岡にある先進技術開発機構の職員で、脳神経接続専門の技術者だった人だ。ポッポンへ技術協力で出向していた事があったから、俺や獅子内さんとは面識がある」


〝先進技術開発機構〟は僕も聞いた事がある。

 国内の優秀な医師やエンジニアを集めて最先端の技術研究をしている団体だ。

 僕なんかが足元にも及ばない秀才集団。


「彼女は俺たちMBNPCと似ているが、本質的に違う」


「どう違うんですか」


「俺たちMBNPCは完全な記憶移植ではなく、ブレインスキャンで低負荷のシナプス分析を行い、そのデータを予め用意されたプリセットボディに割り振って創られている。だから主人格とは若干のズレがあって、曖昧さも含んでいる」


 僕らは主人格と記憶の共有が出来る。だけど、本質的には別の存在なのかも知れない。人間ではないのかも知れない。


「だが水野さんは違う。オリジナルの彼女の脳細胞は移植の負荷がかかった時に死滅した。その代わり純粋な人格移植が量子コンピューター内で実現している。完全な記憶の置換。その技術は業界では〝コピー化〟と言われている」


「つまり僕らは人格の模倣で、彼女は人格の完全複製と言う事ですか」


「そう言う事だ」


「その水野さんが何故GOFにいるんですか」


「目的は分からないが。おそらくGOFサーバーに空けたバックドアからハッキングしてアクセスしたんだろう。本体がどこにいるのか俺は知らない。多分誰も知らない」


「外部からか、だったら尚更彼女と話がしたいですね」


「そうだな。俺が彼女について知っているのはここまでだ」


 僕とエビさんは一通り話し終えた。

 僕は後ろを振り向き、同じくエビさんの話を聞いていたはずの三人の意見も聞こうとしたけど、みんなポカーンとした顔をしてる。


「今の話、解った人は手を上げて」


 僕がそう言っても、三人は顔を見合わせて、目を伏せたり、苦笑い。

 ダメだこりゃ。

 そう思った僕も苦笑い。




 グラスハーバーに到着した僕らは騒然とした雰囲気にたじろぐ。

 温泉宿の前には二百人以上の人だかりができていて、言い合いや殴り合いを繰り返している。

 誰がこの宿に泊まるのか、このおにぎりは誰のものか、この緑茶は誰が飲むのか。

 そんな事で目を血走らせ、憎しみをぶつけ合う。


「考える事はみんな一緒か」


 エビさんが溜息をついた。

 日本人なら誰だって和風の環境が恋しくなる。

 それは僕らだけじゃない。

 もめ事に首を突っ込む気は無かったから、僕らはこの街から離れようとしていた。


 その時、獅子内が現れた。

 町中のいたるところに同じ背広、同じたたずまいの獅子内が、全てのMBNPCたちの前に現れる。

 僕ら五人は、五人の獅子内に囲まれていた。

 そして僕らはやはり身動きが取れない。

 言葉も出せない。

 時間が止まっている。

 獅子内から新しい情報が聞けると思うと同時に、どんな悪い情報がもたらされるのだろうかと不安になっていた。


「そろそろ日本人としての生活が恋しくなって来た頃合いだろう。どうだね、ファンタジー世界から離れて現実の日本に近い環境へ移住してみないか」


 別の環境?

 そんなモノがGOFに在るのか?


「エリア九〇というサーバーが在る。懐古趣味の政治家を慰めるための仮想空間だ。平成の日本を再現した場所だが、すでに過疎化が進んでいてね。全員を収容できる」


 平成って、何十年前の設定だよ。


「移住希望者は死んでくれたまえ。エリア九〇の病院で蘇生される」


 死ねって、この人は随分簡単に口に出してくれるな。


「MBNPC諸君の心のケアをおもんばかっての提案だ。ちなみにGOFでの所持金、所持品は持ち込めない。一度移住したらGOFには戻れなくなる。慎重に検討してくれたまえ。以上だ」


 用件を伝え終わり、獅子内は姿を消した。



「どうする? 選択の余地は無い気がするが」


 エビさんがみんなの顔を順番に見て、意見を求めた。


「ボクは日本がいいな。どんな場所かは分からないけど」


「私も、和風の環境の方が落ち着くわ」


「翔ちゃんが行くなら、私も行く」


 どうやら満場一致だ。


「行きましょう。やはり僕は日本に住みたい」


 みんながうなずく。


「じゃあ、最後は派手に行こうか」


 町外れの草原で防具類を脱いだ僕らは、メイビーを中心にして円陣を組む。


「いいかい? いくよ!」


 メイビーは習得していた最大級の自爆魔法を炸裂させた。

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