表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は、思ったよりも楽じゃない  作者: 琥雫狐
第二章 魔王軍 セレーヌ編
9/10

7. 洞窟の焔

 洞窟って言われると、薄暗くて要り組んでいて、尚且つモンスターが多いイメージがある。

 実際、大抵のゲームの洞窟はモンスターの巣窟で、薄暗く迷路じみた構成になっている。

 異世界はそんなことはないと思っていたが…。

「暗っ!?」

 まさか物理的に一寸先が闇になるとは思わなかった。

 幸いカストリアが松明を持っていたから視界は確保できたが、大して変化はない。

 むしろ光の届かない所が更に暗く感じられた。

「これぐらい暗いと、ドキドキするね、タクトきゅん!」

 そう言ってカゲロウが俺の腕にしがみつくが、俺は彼女を振り払うとか、そんな暇はなかった。

 これだけ暗くて、松明で片手が使えないというのに、モンスターが襲ってくるのだ。

 大抵は弱小モンスターだが、洞窟は暗いしカゲロウはしがみついてくるしで、非常に戦い辛い。

「タクトさん…右」

「は?…うおっと!?」

 俺はゴブリンの攻撃を紙一重で回避する。

「あっぶな…」

 俺は一息ついて刀を出そうとしたが、手が届かない。

「…おい、お前どけよ」

「嫌だ」

 死にたいのかお前は。

 とりあえずエルザとカストリアに戦ってもらうことにしたが…。

 相手はたかがゴブリン一体。

 こいつらには役不足だろう。

「これ、私の出る幕ないですよね?」

「…よく考えろ、エルザ。そいつはカストリアだぞ?」

 よく酒に溺れる、な。

「…あぁ、それもそうですね」

「どういう意味だ?」

 俺とエルザの会話を聞いて、カストリアはキョトンととしている。

「なんでもなーーーうわっ!?」

 話してる途中で攻撃するんじゃねぇよ!

「ちょ、お前ら!何見てるんだよ!戦えよ!」

「いえ…その方が面白いのでもう少し耐えて下さい」

「はぁ!?」

 俺はゴブリンの棍棒を回避しながら、エルザの方に歩み寄る。

「…なんでこっちにくるんですか?」

 エルザが俺を睨みつけながら訊いてくる。

「ふっふっふ、お前らも巻き添えにしてやろうと思ってな!」

「…仕方ないですね」

 エルザがため息を一つ。

 そして杖をゴブリンに向けると、

「エレクティリカ」

 その一言で杖からは雷が放たれ、ゴブリンを黒焦げにした。

 相変わらずの威力だ。

「できればカゲロウさんにも戦ってほしいんですが…」

 エルザはカゲロウをジト目で見た。

 ほんとだよ、お前も戦えよ。

「嫌だ!」

「子供か、お前は」

 俺がため息を吐きながら一歩下がると、腕に痛みが走った。

「いってー…なんだこれ?」

 俺の背後にあった不思議なオブジェを観察していると、明らかなボタンが設置されていた。

「このボタン、どう考えてもトラップだよな…」

 俺がそう言うと、カストリアがそれを覗きこんで、顔をひきつらせた。

「もしかしたら、先に進むための仕掛けかもしれませんよ?」

 その横でエルザがそう囁く。

 押すべきか…それとも、押さずに行くべきか…。

 苦渋の決断の末、俺が決めたのは…。

「エルザ、死んだら責任とれよっ!」

 俺は決死の覚悟でそのボタンを押した。

 そしたら正面の扉が開いたからびっくりだ。

「…エルザの言う通りだったな?」

「…みたいだな」

 俺がカストリアにそう言うと、彼女は少し残念そうな顔をした。

 トラップ、期待してたんだな。

 俺達が扉の奥へ行くと、扉は勝手に閉まりだした。

 しかもここは密室のようだ。扉は今来たもののみで、他の壁には何もない。

「おーっと、これは?」

「トラップ…ですかね」

「いや、どう見てもトラップだろ…」

 そして、扉が完全に閉まった時、俺達の目の前に現れたのはーーー。


「これ…倒せってことか…?」


 見たこともない、巨大なモンスターだった。

 その姿は竜というよりトカゲに近く、赤熱した甲殻に炎を纏っていて、鋭い眼光が印象的だ。

「サラマンダー…」

 エルザが目を見開いて呟く。

 サラマンダーと言えば、炎を司る精霊のことだ。

 確かに、本とかに載っている絵画と比べれば面影はある。

「成る程、サラマンダーか。これは倒し甲斐がありそうだぜっ!」

 カストリアが槍を手に取り、サラマンダーに突っ込む。

「おい、少しぐらい警戒しろよ!」

「大丈夫だって、私を誰だと思ってるんだ?」

「誰って…酒癖の悪いカストリア?」

 次の瞬間、サラマンダーに突っ込んだはずのカストリアの脚が、俺の目の前にあった。

「あっぶねぇな!何で俺を攻撃するんだよ!?」

「全部お前が悪いんだよ!」

 だって事実だろ。事実を言って何が悪い。

「そんなことより早く倒すぞ…」

「そうですね、茶番は後にして下さい」

 エルザはそう言いながら詠唱を開始する。

「黒雷を紐解き、仇為す者に滅亡を」

 エルザが詠唱している間もサラマンダーは攻撃してくる。

「障壁斬!」

 俺が刀で一閃すると、その軌跡に障壁が発生する。

 障壁斬は魔力を障壁に変える斬撃を行うスキル。障壁の耐久力は高く、エルザの本気の魔法でも一回だけ防御できる事が判明した。

 つまり、大抵のモンスターの攻撃なら余裕で耐えられると言う事だ。

これをエルザを中心に、弧を描くように発生させると、

「轟斬!」

 カゲロウが微振動する大太刀で、サラマンダーの右肩を切り裂いた。

 サラマンダーは苦痛で咆哮を挙げる。

 すると、その傷口から炎が噴き出した。

「うわっ!?」

 炎はカゲロウを呑み込んだ。

「熱っ!?」

 彼女は火の着いたマントを脱ぎ捨てる。燃えたのがマントだけだったのが不幸中の幸いだろう。

「なるほど、傷口から炎が出るのか…厄介だ」

 魔法で対抗すべきだろうか。

「エルヴォルグ・サンダー!」

 エルザの魔法陣から黒い轟雷がサラマンダーへ迸る。

 それはサラマンダーに命中したが、同時にサラマンダーの身体からエルザに向かって炎が噴き出す。

 幸い障壁があるから助かったものの、なかったら恐らく即死だっただろう。

「どうやら物理的損傷だけでなく、魔力にも反応するようです」

 エルザが囁く。

 もし彼女の言うことが事実ならば、非常に厄介な敵である。

 斬撃が駄目なら刺突も駄目だろう。

 攻撃と同時に防御、もしくは回避するほどの素早さと判断力が要求される。

 遠隔攻撃や魔法で攻めるべきだろうが、カストリアとカゲロウは遠隔攻撃技を持っていない。

 彼女らの身体能力を信じるべきか。

「空刃!」

 俺は真空波でサラマンダーを攻撃する。

 やはり傷口から炎が噴き出すが、遠隔なら回避するだけの余裕はある。

 ただ、追撃はできなさそうだ。

「マジックドライヴ!」

 カストリアの槍が蒼く輝き、サラマンダーを一突き。

 その瞬間、彼女の槍は肥大化し、サラマンダーを肩から脇腹にかけて貫通した。

 噴き出した大量の炎はカストリアを巻き込もうとするが、カストリアは素早くその場を退散すると、その炎を振りきった。

 だが次の瞬間、サラマンダーは彼女に向かって腕を振り下ろした。

「あぶねっ!?」

 カストリアはなんとか回避したものの、彼女の足許から火柱が噴き出した。

 咄嗟の判断で右に転がったが、彼女の左腕は火柱に巻き込まれた。

「くっ…そぉ…!」

 彼女が呻き声を挙げると、サラマンダーは咆哮した。

 大広間のそこらじゅうから火柱が上がる。

 なんとか避けつつ火柱が収まったころにサラマンダーに目をやると、口許には炎弾が。

 それは、俺に向けられていた。

「なっ…!?」

 あの規模だと間違いなく即死、或いは重体だろう。少なくとも戦闘に参加できなくなるのは明確だ。


 どうする?


 自問自答を繰り返すが、障壁斬で防ごうにもあの規模だ。かといって回避しきれるかも怪しい。

 だが、目の前の光景は、俺の予想を裏切った。

「大切断!」

 カゲロウの二筋の大太刀がサラマンダーの首を切断したのだ。

 その首は音をたてて地面に崩れ落ち、体は直立不動となった。

 それでも首の切断面から、カゲロウに向かって炎が噴き出した。

「バリアフィールド!」

 だが彼女もそれを呼んでいたのか、障壁を張って自身を護った。

「サラマンダーはコアを破壊しない限り殺せません」

「コア?」

「胸元にある石のことです」

 それ最初に言えよ。

「空刃」

 刀で空を斬り、真空波でコアと呼ばれるものを一閃。

 それはものの簡単に壊れた。

「やれやれ、とんだ災難だったぜ」

 カストリアが笑いながら呟く。

 負傷した左腕は焼けてただれており、しばらくは安静にしておいた方が良さそうだ。

 カゲロウも大した負傷はないが、ところどころ火傷しているらしい。

「…一旦帰るか」

「その方が良さそうですね」

 このまま行っても、無駄死にするだけだ。

 少し休んだ後に、俺達はエリーゼへ引き返した。


**********************


「奴等は一度、街へ引き返すようです」

「そうか…下がれ」

「はっ」

 成る程な…サラマンダーで余程大きな負傷をしたらしい。

 しかし、あれを打ち破るだけの力があるのは確かだ。

 エルザ、お前と対面する日が待ち遠しいよ。

「ステラ、また変な顔してるわよ…」

「ほっとけ」

 さて、次はどこまでくるのかな?

 もっと私を楽しませてくれよ…陰久磔斗。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ