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花水木の枝

「ごめん、急に重い身の上話なんてしちゃってさ」


重くなった空気を切り替えるためか、カエデはあえて明るく言って話を締めた。

重い話だったろう。その証拠にミズキは瞠目したまま何も言わない。


「あんまり気に病まないで! この通り元気だしさ!」

「あ、ううん。私が驚いたのはそっちじゃなくて……」


気を使ってもらってすまないが。ミズキが驚いたのはカエデの身の上話の重さではない。

その身の上話が自身と共通する部分が多かったからだ。


「私もさ、親に……ね」


ミズキもまた小さい頃に両親を喪っている。しかも、両親がこちらを害そうとし、その防衛として異能の力が発動した。

両親に殺されかけたことで異能の力が目覚めたカエデと同じだ。

そして、両親を喪った心をラカが優しく慰めてくれたこと。それをきっかけとして鹿神に対する畏敬の念とは別に恋愛感情が芽生えたこともまたカエデと似通う。


エンゲージが始まるまでまったく見知らぬ他人で、日々の鍛錬の中でたまにぶつかる程度。ろくに知らぬ間柄だったが、なんとこんなに共通点があったのか。


「そうなの? え、よく生きてたね!?」

「あ、ううん。殺されかけるとか、そんな物騒なことにはなってないんだ」


自分の場合はカエデと違い、殺されかけるだとかそんな物騒な事態にはなっていない。両親からの抑圧が行き過ぎ、害をなしてきたというだけだ。

それに異能の力が発現したタイミングも違う。ミズキの場合は両親の喪失の前から異能の力があった。


「私の場合はね……」


それは10歳になったあたりの話だ。ある日、異能の力が発現した。高い場所のものを取ろうとして本棚に登り、バランスを崩して落ちたとかそんなきっかけだったと思う。身を守るように防御壁は展開され、落下の衝撃と頭上から降ってくる本の雨を防いだ。

それを知った両親は、どうしてだか異能の力があることを隠せと言ってきたのだ。知られてはいけない。隠し通せと。


「でもさ、なんで隠さないといけないんだろ? って、その時の私にはわからなくて」


その時もわからなかったし、今もわからないが。

強いて理由をつけるなら、異能の力がある以上未嫁としてエンゲージに参加しなければならない。鹿神の嫁になって手の届かないところに行ってしまうより、手元で小さな幸せを掴んでほしかったのかもしれない。親の束縛欲など知ったこっちゃないが。


なぜそうしなければならないのか、わからなかったので納得できず、納得できないから隠さなかった。まだ未熟だったせいで異能の力はいつでも出せるわけではなく、出そうと思っても出せないことのほうが多かった。

だからまだ隠し通せる。幼い子供の憧れになりきって『ある』ような言動をしているだけだと言い逃れができる。そう思った両親は隠し通せと抑圧を煽り、そしてあっという間に不仲になった。

それが決定的になったのが、それから一週間後のこと。ラカが我らが一族の皆に実を配る日だ。ラカの目に触れれば異能があることが露呈する、鹿神を前に隠し通すことは不可能だ。ならば娘そのものを隠し通す。そう判断した両親によってミズキは地下の物置に閉じ込められそうになった。


「その時に……ね?」


閉じ込められそうになり、それに反発した結果、両親を殺めてしまった。

あとはカエデと似たようなものだ。そしてカエデと同じくここにいる。今更やめることもできず突き進むしかないことも同じで。


「似た者同士だね」

「もうちょっと別のところで似たいもんだけどね」

「はは……確かに」


カエデの軽口に軽く肩を竦める。


「どんなに似た者同士でも負けないからね!」


そう。すっかり忘れていたが、トーナメントの形式上、シダリ対ニイカの戦いが終われば次はミズキとカエデの激突が控えている。

共通点を知り、親しみを抱いたところで戦うことになるのは避けられない。似た者同士だから友達になりましょうと握手したところで、次の瞬間には握手したその手で殴り合うのだ。


「ふふん、泣いても許さないから!」

「こっちのセリフよ!」


ぐっと拳を握って睨み合い、そして、どちらからともなく噴き出した。


「ふふ……っ」

「あははっ」


入室した時はあんなに剣呑で、殺伐とした真実を話して深刻な空気になって、重い身の上話をして、それなのに今、良きライバルとばかりに拳を突き合わせている。ころころとよく変わるものだ。ついおかしくて笑いだしてしまう。

しばらく笑い、そしてその笑いもおさまった頃、はぁと息を吐いてから立ち上がる。


「じゃ、私、他の子にも話してくるね」

「うん。気を付けて」

「あはは。カエデみたいにいきなり湯呑み投げてこないといいなぁ」

「何をぅ!?」


そんな冗談を交わしながら部屋を出る。次はニイカの部屋を訪れることにした。

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