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揺らめく心と揺らがない心

「……って、ラカ様がそう言うから、何も言えなくなってしまって」


残酷な真実ではあるが、できる限り真摯に答えてくれた。皆に話してもよいとまで。

その誠実な態度を前に非難の言葉が言えるわけもなく。そのまま引き下がって今だ。それが正しかったのかはわからない。


「このことを皆に話したとして……その反応が怖いんだ」


話したところで信じてもらえるのだろうか。信じたとして、その後の反応を想像するだけで怖くてたまらない。

でたらめを言うなと拒否するかもしれないし、ラカ様を貶めるなんてと排除にかかってくるかもしれない。

シダリ自身、この真実を受け止めきれていない。嘘だと信じたい。でも真実なのだ。この葛藤を皆に背負わせてしまうのが怖い。


「じゃぁさ! 皆に話す役は私がやるよ。それならいいでしょ?」


それなら、とミズキが提案する。皆に話し、伝える役は自分が負おう。シダリは引き続き、さらに隠された情報がないか探りに行けばいい。もしかしたら、もっと驚きの事実があって、この真実だって真逆の意味にひっくり返るかもしれない。


「いいの?」

「いいよ。シダ姉だって、まだ納得できてないでしょ」


こんな残酷な真実が鹿神の底だと納得しきれてないから受け入れがたく感じているのだ。ちゃんと納得できるように鹿神のことをもっと調べるべきだ。

そもそも調べ始めたのだって、好きな人のことをきちんと知るためだ。その純粋な恋心がこんな真実で踏み潰されるのはあんまりだ。

ラカが調べることを止めず、むしろヒントさえ与えて答えに誘導するのも、真実を知った大人たちが実を食べることを否定しないのも、きっとさらに何かあるからだろう。ただの残酷な真実にしか見えないこれが根底からひっくり返るようなことが。


「シダ姉だって、好きな人に『騙された』なんて思いたくないでしょ」

「そうだけど……」

「じゃぁ、行動だよ! 話すのは私がやるから、シダ姉は引き続き調べ物を頑張って!」


クズノたちにはショックが少ないよう、できるだけ頑張って話してみよう。話術の腕の見せ所だ。

ぐっと袖をまくって気合を入れる。ふっとシダリが笑った。余計な肩の力が抜けたような微笑みだった。


「……わかった。お願いね」

「うん! 任せて、シダ姉!」


***


と、いうことで。決めたらじっとしていられない性分なのでさっそく行動に移すことにした。

シダリの部屋を出て、そのままカエデの部屋へ。シダリの部屋の隣のクズノから始めようと思ったのだが、あいにく入浴中らしかったので後回しだ。


「カエデ、起きてる?」


確かカエデは体調不良で寝込んでいたはず。扉を開けて顔を覗かせ、そっと声をかける。その真横を空の湯呑みが掠めた。


「ちょ……っ! 投げないでよ、危ないなぁ! ただお見舞いに来ただけなのに……」

「なんの用よ! お見舞いとか言って、油断した隙にやるつもりでしょ!?」


まるで全身の毛を逆立てて威嚇する獣のようにカエデが唸る。布団から上半身を起こした状態で湯呑みを投げつけたカエデは、直後、目眩を起こしたのかそのまま布団に沈む。


「大丈夫? ほら、飲みなって」


床に転がった湯呑みを拾い、枕元の水差しから水を汲んでカエデに渡す。きっと水差しは世話人が置いてくれていたのだろう。

ほんの少しだけ梅の匂いがする水差しの底には実を薄く切ったものが沈殿していた。


「ぅ………………ありがと」


気まずそうに唸ったカエデは、それでも大人しく湯呑みを受け取った。ごくりと一口飲んだことでだいぶ落ち着いたのだろう、部屋に入った瞬間の刺々しさはだいぶ薄まった。とはいえまだ警戒はしているらしく、視線が痛い。


「警戒しないでよ。私がやりたくてやってるだけだから」


何の計略もない。軽く両手を挙げて敵意がないことを示すと、ようやくそれで話を聞く気になったのか表向きの刺々しさはなくなった。

早く用件を言え、場合によっては聞いてやる、気に入らなければ叩き出すといった感じだ。それなら本題に入ろう。真っ直ぐカエデの茶色の目を見た。


「これはね、シダ姉が言ってたことなんだけど……」


そして、シダリが突き止めた『真実』をカエデに告げた。

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