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翌朝

雀の鳴き声で目を覚ました。


「んぁ……? え? 朝?」


寝てた。状況を把握するなり呆然と呟く。寝てた。

あんなことがあってもしっかり寝られるなんて。心を落ち着かせる薬湯の効果なのか、案外自分は図太かったのか。


いつの間にか布団で寝かされ、生成りの単衣に着替えさせられていた。記憶にないのでおそらく世話人がやってくれたのだろう。

着ていた服は洗濯されて枕元に置かれている。色々と言いたいことはあるがとりあえず布団から起き上がって着替えることにした。


のそのそと袖を通す。板戸の向こう、隣の部屋からも誰かが起き出して活動を始める気配がしている。

そういえば隣は誰なんだろう。ふと気になって、板戸を軽く叩いてから呼びかけた。


「ねぇ」

「……わ……!!」


そっと声をかけると、控えめながらも驚いたような声が返ってきた。この声は確かニイカだったか。

大丈夫かと踏んで、静かに板戸を開ける。ミズキと同じく起きたばかりなのだろう。単衣姿のニイカが布団の上に座っていた。じっと動かない様子は警戒しているようだ。


「おはよう。調子はどう? 大丈夫?」

「……おはよう」


敵意がないことを示すため、柔らかく問いかける。見るからに全身を強張らせていたニイカが警戒しながらも挨拶を返してきた。

とりあえず、隣人との第一回目の交流はこのくらいでいいか。あまり馴れ馴れしいのもそれはそれで警戒させてしまうし。

挨拶したかっただけ、と付け足してから板戸を閉じる。朝の支度の続きに戻ることにした。


部屋に備え付けられていた鏡台で身だしなみを整える。ミズキが朝の支度を終えると同時、部屋の戸が開いて世話人が入ってきた。その手には朝餉の膳。


「おはようございます、未嫁さま。よくお眠りになられていたようで」

「おはよう。えぇと、着替えさせて布団に入れてくれたのよね? ありがとう」

「もったいなきお言葉」


すっと膳を差し出され、受け取り、穏やかな朝の時間が始まる。

白米に味噌汁、焼いた魚。野菜の煮物の小鉢を添えて。さらには食後の茶まで。すべて美味しくいただき、それから、と意識をこれからに向けたところでようやく現状認識に昨日の記憶が追いついた。


「……今日は、私、なのよね」


すっかり忘れてしまっていたが、そうだ、エンゲージの2日目なのだ。

昨日のカエデとサクラの姿を思い描く。今度は自分があぁなるのだろうか。カエデの立場かサクラの立場か、どちらかに。

自分もあんなふうになってしまうのか。殺すのか、殺されるのか。そう思うと怖くてたまらない。


いや。ラカは『戦いの手段は問わない』と言っていた。何も殺し合いじみたことでなくてもいいのだ。でも、その対決には異能を使うのが必須。それを踏まえると手合わせにしかならず、手合わせになる以上は殺し合いじみたことになってしまう可能性が高い。

殺し合いを避ける方法を考えようとしても、結局、そこに帰結してしまう。


「やるしかないのかな……」


ミズキの対戦相手はハギネ。見るからに気弱そうな子だった。

だったら、殺し合いになんかならないかもしれない。最初にちょっと脅したりすればあっさり負けを認めてくれるかも。

強く当たって降参狙い。よし、そうしよう。時間だと呼ぶ世話人に応じつつ、ミズキは心にそう決めた。


***


やらなきゃ。やらなきゃ。やらなきゃ。部屋の中で一人、ハギネはひたすらに繰り返していた。


やらないと。じゃないと叱られる。せっかく鹿神さまのお嫁さんになる資格があるのに、その資格を無駄にしてしまったらきっと怒られる。


「わたしは、ラカさまのお嫁さんにならないと……」


じゃなきゃ叱られる。お前はダメな娘だとまた罰を受けてしまう。見損なった、呆れたと溜息を吐かれてしまう。

だからやらないと。絶対に鹿神さまのお嫁さんにならないと。そうじゃなきゃ叱られる。きっと、1日飯抜きじゃ済まない。


「ラカさま……ラカさま……ラカさま……」


優しいラカさま。役立たずで無能でダメな娘のわたしを叱らない唯一のひと。

あのひとは絶対にわたしを責めない。できなくても叱らない。ぶたないし飯抜きにしない。


だから応えないと。ラカさま。お嫁さんにならないと。


「そのためなら…………」


そのためなら、なんだってしてみせる。ハギネは覚悟を決めた。

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