シャルル、監獄で体が動かなくなる
貴族用の監獄は薄暗かった。北にしか窓が無く、太陽は差し込まないからだ。だから夜になれば魔導書で呪文を唱えて明かりをつける。でもものすごく明るくしてはいけない。刑務官に見つかるから。
とにかく書きまくって、書きまくっていた気がする。刑務作業で写本を書いてお金を得るけど、それでも安かった。だからたくさん書かないといけなかったし、それでも難しかったら、自分の物を売ろうと考えていた。
休憩時間も部屋の中でずっと写本をしていて立ち上がる時、体が重かったり腰が痛かったりした。それから間もなく座るのも辛くなってしまい、ベッドの中で写本をしていた。
そんな日々が数年続いたある日、私は椅子から立ち上がった瞬間、体が動けなくなるくらい痛みが走った。
「えーっと、シャルル、さん。あなたの病名は、ギックリ腰ですね」
呆れたような口調で私の病状を話したのは最近、医師見習いとして入ってきたアンリと言う男性だった。年齢は三十代くらいかな?
「まずもってあなたの生活リズムがあまりにも酷い。部屋から出ないでずっと机に向かって写本をしている。これじゃ、腰が悪くなりますよ」
「そうですね」
「せめて休憩時間は散歩とか運動した方がいいですよ」
「ところでアンリさん。お願いがあるんですが」
「何でしょう?」
「写本の道具を持ってきてほしいのですが」
私の言葉にアンリは「人の話しを聞いていましたか?」と丁寧な言葉だが呆れた感情はありありと浮かんでいた。
「とにかく休んでください!」
「無理です! 私は、とにかく写本しないといけないんです!」
それからアンリと言い争いになり、最終的には「もう知らん!」と怒って彼は医務室から出て行ってしまった。
え? どうしよう……。ここは医務室で私のいた監獄は別の練だ。あそこまで行きたいが体が言う事を効かない。あ、でも、肩と腕なら動かせる。じゃあ、ほふく前進をして行けばいいか。でもベッドから床に降りる時、腰を痛めるかも……。
様々な葛藤の末、先に毛布を落としてから、自分が毛布の下に降りようとした。その前に魔法で自分の体を守る。動けないけど、ある程度は痛くない。
よし、床に毛布は落とせた。次に自分を……。ベッドでほふく前進をしたけど、それでも大変と思いつつ、毛布の下に降りた。
ガチャ。
「あ」
「……って、何やってんですか!」
先ほど部屋を出て行ったアンリがまた戻ってきた。ものすごく恥ずかしい気持ちになった。ベッドの下に隠れたい。
苦し紛れに「ベッドから落ちました」と言ったら、アンリは「そんな訳ないでしょう」とあっさりとバレた。
そうして丁寧に私の身体をベッドに戻す。意外と優しい。
「それから写本の道具、持って来ましたから」
「あ、ありがとうございます」
「根詰めないようにやってください」
一応、分かりましたと言ったが守る気は無く、アンリからかなり怒られた。
まず真夜中でも写本を寝ながらやっていたら怒られたり、リハビリのため散歩に行かせようとするが私は聞かないからだ。
「なんで、そんなに写本をするんですか。そもそも、この書って刑務作業じゃないでしょ」
アンリは【法の書】を見て言う。
私もこの時はアンリの小言にイラついていて「この書を完成させると無罪になるの」と正直に言ってしまった。
それを聞いた瞬間、アンリは目を大きく見開いた。
「私はやっていないの! だけど、誰かに罪を擦り付けられて……」
ここまで言って私はマズイと思った。チラッとアンリを見ると呆然と私を見ていた。馬鹿にされるかと思ったが、彼は何にも言わずに立ち去った。
最初にアンリと会った時から危機的な状況だったので、私は焦っていて結構、いろんなことを無意識に話していたと思う。ここですでに家族との会話よりも、かなり砕けた言葉遣いになっている。
それからアンリと言う男も貴族と言う身分に気おくれはしないし、丁寧な話し方ではあるけれど言いたいことははっきりと言う人間で、割と気さくに話しかけるし、話しかけやすかった。それに文句は言うけど、お願いしたことはやってくれるのだ。
一週間ほど医務室で写本をするが、あまり進められなかった。それに刑務作業も滞ってしまい、給料もほとんど無くなってしまった。
実を言うと監獄は割とお金が必要になってくる。ご飯は固いパンと冷たいスープが出されるがお金を出せば、良い物が食べられたりする。他にも新聞や本などの娯楽も刑務官にお金を出せば、買ってきてくれるのだ。
私の場合、美味しいご飯も本などの娯楽も必要ないのだが、写本の道具である羊皮紙とインク、羽ペンは自分のお金でださないといけないのだ。
「どうしよう」
結局、自分の持っていたドレスを売りに出す事にした。普通だったら親しい人間か親族にお願いをするのだが、私には居ないのでアンリにお願いした。
「……これを売るんですか?」
「そう。お願い」
「でしたら、条件があります」
アンリの事だから「しょうがないな」と言ってやってくれるだろうと思ったが、条件を突きつけられて私は驚いた。
とりあえず「条件はなんですか?」と聞くとアンリは答えた。
「もし【法の書】が完成したら、付き人にしてください」




