警戒対象出現
いつもの川に到着。
穏やかな音を立てながら流れる清い川は、みすぼらしい姿のオレとはおよそ似つかわしくない。
膝ほどまでの水深の川に入り、上の服を脱いで川の水で軽く洗う。
自分を洗ったあとは脱いだ服を擦り合わせる。
しわのよりまくった服を眺めているとそろそろ新しい服を拾ってこないとな、なんて思う。
洗い終わったあとはズボンのポケットから石包丁を取り出し、魚を探すため周囲に睨みを効かせる。
魚の捕り方は石包丁で突く、あるいは裂くことで殺す、弱らせることで捕まえる。
魚のサイズによっては石包丁を用いずにそのまま手づかみでいくことも。
成功率は低めだが石を投げつけることも。
目線で、音で、脚にあたる小波で。
全神経を用いて魚の存在、動きを感じ取る。
ふと、右膝のあたりに違和感を感じる。
目をむけると、ちょうど右前方に10cmそこそこの魚を発見。
音や波を立てないよう、慎重に魚に近づく。
今回は手づかみで行けると判断し、石包丁をポケットにしまい込む。
手が届く距離まで近づくと、下半身を動かさずに上半身だけを大きく仰け反らせる。
目標は目の前の魚。
仰け反らせた上半身を一気に―――――――
「―――フッ!」
短く息を吐き、全力で体を前へ折り込み、両手で魚を覆う。
両手の中で何かがはね回る感覚。
無事捕まえられたようだ。
逃げ出す前に水から出し、近場の大きな石をまな板代わりに石包丁で締める、捌く。
腹を裂いて腸を引き出し、川の水で洗う。
処理を終えた魚を一度代理まな板に放置し、次の魚へと目を光らせた。
しばらくして。
代理まな板の上に横たわる息絶えた魚は4匹。
まあ十分だろうと、今日の漁はこれにて終了。
脚を振って簡単に水をきる。
両手で椀を作り、川の水を一口。
冷たい水が全身に染み渡る。
川べりに腰を下ろし、数分だけ休んだあと、再び腰を上げて帰り支度を始める。
といっても服を着て、魚をまとめるだけだが。
服をバサッと翻し、未だ湿る服を着る。
そして、魚を手に取ろうと後ろへ目を向けると―――
「――――――――――っ!?」
視界に捉えた物は無論、魚数匹。
だがその隣には、オレよりいくつか年下に見える小さな女の子が物珍しそうに魚を眺めていた。
オレは警戒しつつ、本能的に後ろへ退く。
退きすぎて川に落ちそうになったがなんとか持ちこたえた。
だがこのチビは俺の警戒など微塵も気にせず、笑顔を携え近づいてくる。
『こんにちは!わたしはリュト。あなたは?』
何を言っているのかさっぱりわからない。
発言が通じず、チビは笑顔のまま首を傾げる。
『おーいリュト、何かみつけたのかい?』
『パパ!ママ!みて!おとこのこがいたの!』
『その子は?リュトのお友達?』
『ちがうよ。なにもしゃべってくれないの』
警戒対象が2人増えた。
パッと見、家族だろうか。
怪奇3人の間に渦巻く意味のわからない言葉の数々。
数年間聞いているこの国の言葉だが、意識したことがなかったため全くわからない。
目の前で繰り広げられる意味を持つ意味のわからない会話。
ここへきて数年、初めてオレへ話しかけてきた奴らを前に、オレは威嚇することしかできない。
「お……お前らだれだ!?」
突然として叫んだオレに3人がギョッとする。
一番近くにいたチビは父親らしき人物の背後に隠れた。
父親は何も言わない。
――――否、何も言えない。
なぜなら相手からすればオレの発する言語が未知のものだからだ。
相手が怯んでいる隙に逃げよう。
そう思い、駆け出そうとした瞬間、
「あなた、もしかして私と同じ国の出身かしら?」
聞き覚えのある、唯一自分が操れる言語を投げかけられ、とっさに声の主を見つめる。
母親と思わしき人物がオレに話しかけていた。
「やっぱりそうなのね。私の母国語だったもの。驚いちゃった」
間違いない、オレの知っている言葉だ。
いつぶりだろうか。
他人の言葉に心が動いたのは。
無意識に瞳に涙が溜まり、そのまま溢れ―――――ことはなかった。
溢れたのは涙ではなく、オレの意識の方だった。
青空の下、オレは未知3人の目前で気を失った。
こんばんは、イロハです!
あるいはおはようございますこんにちは!
第2章第2話です。
いきなりの新キャラ3人登場回となりました。
が、今のところ情報は殆どありません。
このあと「オレ」はどうなるのでしょうか。
と、ここで1つご報告させて頂きたいことが。
第1章の4話、「発端」の内容を再度変更しました。
宜しければ確認よろしくお願いします!
それではこの辺りで終わろうと思います!
また次回!さようなら!
【次回投稿予定日は 9月8日 です】