修学旅行 #15
修学旅行帰りのバスの中。
そこは比較的静かで、みなの疲れがひしひしと伝わってくる。
後ろの人に許可を取り、座席を倒して眠る子。
その寝ている子に配慮して静かに会話をしている子。
窓の外をボーッと眺めている子は隣が寝ているからかあるいはバス酔い回避のためか。
ほとんどが今上げた例の範疇内の過ごし方をしているが、例外も一部。
運転手はもとより、発車早々大粒の汗を流しながら揺れに耐え続ける宮井先生。
それを心配する通路を挟んだ隣の子。そしてバス内最後方の私たちはというと………
「いやーあの……ごめんな?」
「むぅ、幸の、食いしんぼ」
「いいよー、そんなに気にしないで。ねえ葉菜」
「そーだよ葉菜、私もまあ似たようなものだし……」
「もういいわよ中嶺さん、あんまりいつまでも謝られても居心地よくないし、いつもの中嶺さんっぽくないし」
「おー……ありがとなーみんな」
ちょっとした反省会が開かれていた。
幸は自分に落ち度を感じているのか乗車してから気分が沈んだ様子が続いている。
しかし私含め他4人はあまり気にしてはいない。
むしろあまり落ち込まずにいつもの雰囲気でいてくれた方が私たちとしても気が楽なのだが。
「幸、一人でごめんなさい、できる?」
「できるよぉ!……え、ちょっと待って夕?私一人なの!?そんなご無体な!」
「……冗談」
夕は泣きつく幸から目をそらし、してやったりといった顔で微笑を浮かべていた。
出発してから数十分。
運転手と先生を除いたほとんどの子は夢の世界に誘われていた。理由は単純、長いバス移動の中で睡魔が会話欲に勝ったか、あるいは話題が尽きたか。
そしてそれに追い打ちをかけるかのように寝心地がよくなったからだろう。
ようするに揺れが無くなったのだ。
そのわけは無論、バスが動いていないからである。
それは決してガソリンが切れてしまっただとかバスの調子が悪いなど深刻なものではなく。
「先生、この渋滞結構長そうですよ。学校へ連絡されてはいかがです?」
「そうさせてもらいますね。ちょっと失礼します」
ものの見事に大規模渋滞に巻き込まれた白峰高校修学旅行バス。
その車内は困り顔の運転手とすっかり酔いも覚めた宮井先生の話し声。
その他には寝息とエンジン音くらいしか聞こえなかった。
夕は隣に座る幸の太ももに頭を預けて静かに寝息をたてる。幸はそんな夕を優しく眺めながら頭を撫でている。
凜は黙々と、早くもレポートの下書きにとりかかっている。
ふと、左肩に重量を感じた。葉菜が私の肩を枕に夢に落ちたようだ。
動くに動けなくなった私は幸にはならって葉菜の頭を撫でてみたが、気恥ずかしくなってすぐに手を引っ込めた。
あれは幸と夕だからできるのかなー………なんて思いながら、ついぞやることの無くなった私はレポートを書く気にもならず。
逆らう必要もないため素直に睡魔に従うことにした。
一時間と数十分後。
バスは無事高校へ到着。
高速を降り、一般道を走った方が早いのではという運転手の提案に従った結果だ。
先生が携帯で高速の状態を調べると、未だ渋滞は続いているようだ。運転手の提案は正しいものだったと言えるだろう。
「みなさん、そろそろ着きますよ。寝ている子を起こして上げてください………オプ」
一般道に降りてから再度酔いに苛まれている先生がつとめて元気に話す。
その声で起きた子が近くの寝ている子を起こそうと体を揺する。
凜もまたレポートと筆箱をしまい、まずは手前の葉菜と幸を起こす。
「ほら永咲さん中嶺さん起きて、着いたわよ」
肩を掴んで前後にゆっくりと揺らすと、二人はほとんど同時にうっすらと目を開け、全く同時に大あくび、そしてきれいに重なって、
「んんー……着いたぁ?」
と細い声で言う。夢の中で打ち合わせでもしてたのかと思うくらいのシンクロぶりに内心苦笑いしつつ、
「ええ、着いたわよ。ほら隣起こしてあげて」
言われるがまま、幸は自分の脚ですーすーと寝息をたてる夕の頬をぷにぷにと指でつつきながら
「ほら夕、着いたってよ、起きな」
つつかれた夕は半分寝ぼけたまま幸の手を掴み、幸の顔を見上げて「おはよ」と呟く。
「ねえ凜、幸と夕も」
葉菜の呼びかけに三人がいっしょに葉菜に視線を向ける。
当の葉菜は3つの視線を確認すると、隣の友達をみながら一言。
「第1回!紗愛をどうやって起こすか選手権!」
どーもどーも僕です。イロハです。はい。
あと2話以内です。絶対です。約束します。
修学旅行編いよいよ終わりますー……
バスの中。若干百合百合しい雰囲気を持つ
2組のキャラ。決して凜をはぶったという
わけではないです。断じて。信じてください。
それでは終わります!
なんか暗い感じの後書きになったな……
次回更新予定は 5月1日 です。




