緊張への対処
『フィリ!』
『大丈夫だったのか!?』
初の実機訓練を終えたフィリが、よろけた足取りで待機室へと帰ってきた。
入口付近に立つ彼女はただでさえ白い肌を、青みがかったものにしており、普通の状態でないことは明らかだ。
傍目に見ていても事故、トラブルであったとわかる先の出来事が、珍しくフィリを堪えさせたのだろうか。
『こ、怖かったんだよ……………』
らしからぬ、弱々しい声を吐きながら、倒れ込むように近くにいたマヤへもたれかかる。
『ちょっと!大丈夫なの!?』
『フィリ、これからマヤが訓練の番だから、こっちおいで』
手を差し出し、ぐったりしているフィリを呼ぶ。
フィリはそれに従い、ヨタヨタと葉菜の手に抱かれにきた。
『じゃあ私行ってくるから。フィリをよろしくね』
『うん、頑張ってね』
『なんか、母親と保育士と園児の図だな』
朝、仕事へと向かう母親が、信頼のおける保育士へ我が子を預ける構図が完成している。
フィリのおかげで緊張を忘れたらしいマヤが、普段の足取りでグラウンドへと向かっていった。
=======================
『それで、フィリ、一体どうしたの?』
私たち3人は、フィリからの話を聞くために一旦部屋の外へ出た。
腕の中でうずくまるオレンジの毛玉のようになったフィリに対し、優しく語りかける。
日頃から年齢よりよっぽど幼く見えるフィリだが、今の様子ではリアの言う通り本当に園児のようだ。
『えっっとね、フィリも、よくわかってないんだけど………………』
薄氷のような声で、事について話し始めるフィリ。
その右手は葉菜の服の裾を掴んでおり、服のシワは話が進むにつれ、より多く、深くなっていく。
『リアも葉菜も、今日はなんだか様子がおかしいって、言ってたじゃん?』
『言ってたな。今日のフィリはいつにも増してやかましかったぞ』
朝、登校してからのフィリの言動を思い返す。
他の子へのスキンシップが多かったり、そもそも声が大きかったりと、野性味がマシマシだった。
『多分ね…………………………これが、緊張だと思うんだよ……』
『フィリが……………緊張?』
少々驚いた様子で、リアが聞き返す。
『うん、緊張しちゃったか』
葉菜もリア同様、意外ではあるが、その動揺をフィリに悟られないよう、綺麗なオレンジ色の髪をすきながら話を促す。
『今まで、緊張なんてしたことなかったから、どうすればいいのか分からなくて………………。それで、落ち着かなかったんだよ』
フィリの発言が、少しずつ震えを帯びていく。
縮こまっている体が、より萎縮していくのを感じる。
『落ち着けなくて、無意識に暴れてたってことか』
『それでも、ちゃんと原因が把握出来てる。偉いよーフィリ』
そう言って、葉菜は右手でフィリの体を抱き込む。
すると、フィリが花をすする音が聞こえ始めた。
『そのまま……………………落ち着き方が分からなくて、胸も、お腹も……………フワフワしたまま、P1に乗ったら………………』
『パニックになっちゃったんだね』
途切れ途切れのフィリの言葉を引き継ぐと、フィリの首が上下に動いた。
『しょうがないね、初めてだもんね。よく頑張ったよ』
いよいよ、フィリの涙腺が決壊し、泣き出してしまう。
それが緊張からなのか、事故の恐怖からなのか………………はたまた何れでもないまた別の理由なのかは分からないけれど。
リアは、何も言わずに待機室へと戻っていった。
葉菜もまた、それ以上言葉を発することなく、ただフィリが落ち着くまで瞳を閉じて、フィリの背中をさすっていた。
みなさまこんばんは、イロハです。
あるいはおはようございますこんにちは。
第122話を迎えました、
お読みいただきありがとうございます。
今回は少々ネガティブめな内容となっております。
久しぶりにこういったお話を書いたような
気がしますが、いつもと違って新鮮ですね(笑)
フィリの意外な面を存分に
出せたのではないかと思っております。
それでは、今回はここで終わります。
また次回もぜひよろしくお願い致します。
宜しければ、感想をくださると嬉しいです!
【次回投稿予定日は 7月15日 22時 です】




