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#029「ユニバ」

#029「ユニバ」

@桑港の病院、病室

春麗「シュエットが抱くと、まるで全然違う生き物みたいに見えるね」

雪梅「本当。体格に差がありすぎるわ」

石黒「首が据わってないから、激しく揺さぶらないように」

シュエット「わかりました。――小さな命の誕生には、感慨深いものがありますね」

フィッシャー「俺、末っ子だから実際に赤ん坊を見るのは初めてなんだ。こんなに小さくて、ひ弱そうな存在なんだな。フフッ。君は、甘くて美味しそうな匂いがするね」

フィッシャー、手の甲で口元を拭う。

東海林「食べないでくださいよ、フィッシャー。――自分も一人っ子なので、初めて見ました。とても可愛らしいですね」

――ひょっとしてシュエットは、屋根まで飛ばずに消えた命を思い出して、オーバーラップさせているのだろうか。その昔に儚く壊れた、シャボン玉を。

春麗「呼び名は決めたのかい?」

雪梅「えぇ。レイレイと呼ぶことにしたわ」

石黒「レイの字は、蕾と書くんだ。この子の愛らしさを端的に表した名で、かつシュエメイの娘であることも踏まえた名だと思うのだが、どうだろう?」

シュエット「素敵な名前だと思います」

フィッシャー「レイレーイ。フィッシャーだよ」

東海林「そんなこと言っても、まだ言葉を理解できないよ、フィッシャー」

――地域や民族によって差はあるらしいが、家族以外、誰にも教えない本名とは別に通称を付けるのが、中国では当たり前の風習なのだという。風習自体は封建制の武士や騎士みたいでカッコイイけど、付けられた名前は、思わず動物園のジャイアントパンダを連想してしまった。カンカンがオスで、ランランがメスだっけ?

  *

@桑港の病院、待合室

――春麗が雪梅と二人でガールズトークに花を咲かせ始めたので、ボーイズは一時退却することにした。シーヘイのことを詳しく知りたくもあり、本当に二百歳か確かめたくもあったので、過去のことを色々質問してみたのだが、返ってきた回答は予想の遥か斜め上に飛躍したものばかりだった。

石黒「偶然、ペリーに会ったことがあるよ。早く上海に渡って四つ足の獣肉が食べたかったから、日本では強硬姿勢に出たと言ってたな」

東海林「エッ。それじゃあ、朝廷や幕府は、一人の男の食欲に負けたってことですか?」

石黒「無論、それだけでは無かろうが、要因の一つとして無視できない点だろうね。歴史の舞台裏とは、案外、呆気無いもので、偉人の素顔とは、存外、人間臭いものだよ」

フィッシャー「へー。他には、誰に会ったことがあるの?」

シュエット「フィッシャー。あまり質問攻めにしないほうが良いですよ。昨日の今日で疲れてるでしょうから」

石黒「いや、ちっとも構わないよ。若者の知的好奇心に応えるのは、年長者であり、大学教授でもある僕の使命だ。ところで、どうだろう? 僕の勤めてる大学に入らないかね? 白栗校なら、天使島からのアクセスも悪くないだろう。研究室で、もっと色んな話を聞かせられるし、面白い資料を見せることも出来る」

フィッシャー「スッゴク興味をそそられる誘い、なんだけど」

石黒「何か気懸かりな点でもあるのかね?」

フィッシャー「気軽にコーラが飲めないのは、ちょっと」

――言っちゃったよ。食欲と知識欲を天秤に載せて、食欲が勝っちゃったんだな。

石黒「ホッホッホ。これは、ペリー以来の逸材かもしれないね。飲み物くらい、いくらでも僕が用立てると言っても駄目かな?」

フィッシャー「入学します!」

シュエット「シーヘイ。物で釣らないでくださいよ」

――結局、語彙力や情報処理能力を見たいというシーヘイの要望で、フィッシャーは簡単なレポートを提出することになった。歴史に残る名文に仕上げてやると息巻いてるけど、どうなることやら。でも、迷わず自分の気持ちに素直に行動できるところは、フィッシャーの美点だと思うし、羨ましいところだ。


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