#028「的外れ」
#028「的外れ」
@シュエットの家、ビッキーの部屋
ビクトリア「舌がお子様だから、ミートボールやフルーツサンドを用意すると喜ぶぞ。……そうそう。そういうのもチャーリーの好物だ。……それじゃあ、おやすみ」
ビクトリア、スマートフォンをタップし、大の字で背中からベッドに身を投げ出す。
ビクトリア「少しでも情報を引き出そうと一生懸命すぎるだろう、あの砂漠のアサシンめ。いや、暗殺者というより狙撃手かな。荒野のシモ・ヘイへ。待てよ。ダンサーだったから、マタ・ハリか」
ビクトリア、上体を起こし、電灯を消す。
ビクトリア「馬鹿なこと言ってないで、さっさと寝よう」
*
@シュエットの家、屋根裏部屋
フィッシャー「ありがとう、ショージ。ワクワクしてきたよ」
――明日の朝に知らせたほうが良かったかな。このまま興奮して眠れないかもしれない。遠足や運動会の前日に張り切りすぎて、当日に寝不足になるのと同じパターンだな、これは。
東海林「明日は忙しくなるだろうから、今夜は早めに寝たほうが良いよ」
フィッシャー「オッ! そうだな。明日に備えて身体を休めなきゃ。オヤスミ!」
フィッシャー、電灯を消す。
――オイオイ。梯子を降りる前に電灯を消さないでくれよ。エーッと、このまま壁伝いに行けば良いんだよな。抜き足、差し足、忍び足。地雷を踏まないように気を付けなければ。アーア。数字のかいてあるブロックがあれば、避けて通りやすいのに。
東海林、手探りで梯子口まで歩く。
*
@シュエットの家、一階洗面所
チャールズ「よくも騙してくれたな。ルチアが蠍の亜人だと知っていたんだろう?」
シュエット「お互い様でしょう。種族を聞かずに早合点する君が悪いのです。それに、綺麗な薔薇には棘がつきものですよ。――そこのフェイスタオルを取ってください」
チャールズ、シュエットにタオルを渡す。
チャールズ「尻尾で脹脛を刺されたんだぞ」
シュエット「毒なら、ありません。僕も一度、脇腹を刺されたことがあります。――そこの戸棚に、替えの洗顔フォームがありますから、出してください」
チャールズ、洗顔フォームを渡す。
チャールズ「何か対処法を知らないか? 知ってるなら隠さずに教えたまえ」
シュエット、タオルで顔を拭う。
シュエット「特効薬があるなら、とっくの昔に僕が用いてると思いませんか? 何にしても、重い愛をぶつけてきますから、相応の覚悟しといたほうが良いですよ。今まで僕に向いてた愛情や憎悪のベクトルが、今度は君に向いた訳ですからね」
チャールズ「冗談じゃない。これまでのことは謝るから、助けてくれ」
シュエット「謝罪する必要など無いでしょう。次期当主らしく、毅然とした態度であしらえばよろしいではありませんか。むしろ詫びるなら、朝早くから他人の家に上がりこみ、洗面所までついてくる非礼のほうにしてほしいですね」
ビクトリア、入場。
ビクトリア「ここに居たのか、チャールズ。愛しのルーシーが、昼食を詰めた籐のバスケットを片手に、玄関先まで来てるぞ」
シュエット「ホラ。早速、胃袋を掴みに来ましたよ。そのまま心臓を掴まれないように用心してくださいね」
チャールズ「何故に、ここに来てると判ったんだ?」
ビクトリア「さっき、私のスマートフォンに『チャーリーの姿を見なかったかしら?』と電話があったから、ここでシュエットにイチャモンを付けてるって伝えた」
チャールズ「貴様の仕業か、この裏切り者め!」
ビクトリア「もとより結託した覚えは無い。傲慢な弟より、恋する乙女を応援して何が悪いんだ?」
シュエット「迎えも来たことですから、お帰りください」
チャールズ「クッ。覚えてやがれ!」
チャールズ、足早に退場。
ビクトリア「何を記憶すれば良いのやら」
シュエット「本当。顔を洗って、出直してきてほしいですね」




