#023「命短し」
#023「命短し」
@シュエットの家、東海林の部屋
――ハンガリー名、ルビク・ラースロー。英語名は、ラズロ・ルービック。それがシュエットの本名。元モデル。現在、三十七歳。
東海林「ハンガリー名は、姓名の順が日本と同じなのか」
――先程の女性の名前はルチア。もしくは、ルーシー。元ダンサー。現在、二十五歳。七年前、双方の事務所には内緒で交際。半年ほどして、ルチアが子供を身篭ったことで熱愛スキャンダルに発展。人気は墜落し、胎児は流産してしまったそうな。一人の女性の人生を大きく狂わせてしまった過去の消えない罪悪を背負い、人間不信になったシュエットは事務所を退職し、誰にも知らせずに天使島へと渡った。
東海林「そして、現在に至る」
――産声聞けなかったのは天罰で、居候の世話をするのは罪滅ぼしだというけれど、ここに一つ疑問がある。裁判でも争点になったらしいのだが、避妊には万全を期していたので、本当にシュエットの子だったか、未だに謎のままなのだという。
東海林「シュエットの御人好しさに付け入り、都合よく利用しようとしたとの懸念は払拭できないよな。短時間だったけど、二面性がありそうな感じがアリアリと伝わってきたし」
♪ノックの音。
東海林、ベッドから起き上がり、ドアを開ける。ビクトリア、僅かな隙間から滑り込み、素早くドアを閉める。
東海林「ビッキー! ライブハウスの練習は、どうしたんですか?」
ビクトリア「抜けてきた。良いか、ショージ。私は、しばらく出掛けると言って、どこかへ行っている。そういうことにしてくれ」
東海林「何かあったんですか?」
ビクトリア「チャーリーが来る。アイツが嗅ぎ回ってる気配を濃厚に感じるんだ」
東海林「チャーリー? モガッ」
ビクトリア、片手で東海林の口を塞ぐ。
ビクトリア「説明は後回しだ。ともかく、しばらくワードロープを借りるぞ。くどいようだが、私は」
東海林、ビクトリアの手を両手で引き剥がす。
東海林「プハッ。『しばらく出掛けると言って、どこかへ行っている』ですね?」
ビクトリア「それで良い」
ビクトリア、ワードロープの中に身を隠す。
――危うく、呼吸困難になるところだった。一難去って、また一難。今度は、どんな嵐がやってくるのやら。退屈しないけど、こうも矢継ぎ早に出来事が乱立すると、寿命が縮みそうだよ。




