#024「狼の弟」
#024「狼の男」
@シュエットの家、廊下
シュエット「ここにビクトリアという人物は居ませんと、先程から再三再四、申し上げているでしょう」
チャールズ「そんなはずは無い。ここにビクトリアが居ることは確かだ。我が一族の鋭敏な嗅覚は、どんな些細な匂いの違いも判別できる。誤魔化しは効かない」
シュエット「いずれにせよ、これは不法侵入も良いところです。家主の制止を無視して、ズカズカと上がりこんでいるのですからね」
チャールズ「こちらにも、ビクトリアを連れて帰るという使命がある。そう易々と引き下がる訳には行かない。――居るんだろう、ビクトリア! 次期当主、チャールズ・フレデリック・パーシバルが直々に迎えに来てやった」
シュエット「迷惑ですから、即時の立ち退きを要求します」
東海林、ドアを薄く開ける。
東海林「何の騒ぎですか?」
シュエット「すみません、ショージ。この人を追い出すのを手伝ってください」
チャールズ「そこかっ!」
チャールズ、ドアに凭れ、中に押し入ろうとする。東海林、反対から体重を掛け、中に入れまいと抵抗する。シュエット、チャールズの肩を掴み、廊下に引き戻そうとする。
チャールズ「二人して小癪な真似をするな。――出て来い、ビクトリア! そこに居るのは分かっている」
東海林「やめてください。ここには自分以外、誰も居ません」
シュエット「いい加減にしないと、こちらとしても法的処置に訴えますよ?」
チャールズ「警察でも弁護士でも、呼びたければ呼ぶが良い」
ビクトリア「そこまでだ、チャールズ」
チャールズ、動きを止める。東海林、尻餅をつく。ビクトリア、二人のあいだを抜け、廊下に出る。
ビクトリア「かくれんぼだか鬼ごっこだか分からないけど、逃げるのは止めにするよ。私の負けだ」
東海林、立ち上がり、臀部を摩る。
東海林「イタタタタ」
シュエット「怪我はありませんか、ショージ」
シュエット、東海林の部屋に入り、ドアを閉める。
チャールズ「やっと出てきたな、ビクトリア。事前に手紙を送った。もう届いてるはずだが、返事ひとつ寄越さないとは何のつもりだ?」
ビクトリア「読まずに捨てた」
チャールズ「フン。そんなことだろうと思った。では、特別に手紙の要件を繰り返してやろう。父上が病に臥せっている。医者によると、もう永くは保たないそうだ。そして、その病床でビクトリアのことを名指しで呼んでいる。直接伝えたいことがあるというのだ」
ビクトリア「音信不通の相手から便りが来たということで、何らかの状況変化があったとは思っていたけど、ずいぶん勝手な当主様だね。自分から追い出しておいて、自分の都合で呼び寄せるんだから。イマワの際になって弱気になったのか知らないが、今度の呼び出しだって、自分の望みを押し付けてから、この世を去ろうという魂胆なんだろう? そんな他人のことを思い遣れない奴なんか、とっととクタバってしまえ。私の知ったことじゃない」
チャールズ「ビクトリア! 口を慎みたまえ」
ビクトリア「オヤオヤ。あの泣き虫チャーリーが、偉くなったものだ」
チャーズル「子供扱いするな。もう二十一歳だ」
ビクトリア「そうやって、すぐムキになるところが子供だっていうんだよ。何にしても、こっちにもこっちの事情があるんだ。逃げも隠れもしないから、あとを頼む時間をくれ」
チャールズ「マァ、よかろう。明日、再度迎えに来る。それまでに荷物をまとめて、心の準備をしておけ」




