#016「骨付鶏」
#016「骨付鶏」
@シュエットの家、ホームシアター
――亜人の生物学的見解についてシュエットに訊いたところ、亜人となる劣性遺伝子が発現して亜人になるらしい、というところまでは解明しているが、どうして変身できる能力を持つのかは、個体数が少ないので完全には解明されていないそうな。推論と仮説と憶測が飛び交っている状態で、トリガーが何なのかハッキリさせられたらノーベル賞を貰えるレベルだという。ともかく、片親が人外生物という訳ではないことは理解できたのでヨシとしよう。鰻と犬でウナギイヌになるという具合に単純なものではないのだな。だって、そうなるんだもん。それで良いのだ。
ビクトリア「ショージ。これ、ハッピーエンド?」
ビクトリア、東海林の片腕を掴む。
――スプラッタは平気なのに、ホラーは駄目なのか。怖がるのは結構だけど、そんなに強く握られたら脈が止るし、腕が折れるから止めて欲しい。いくら利き腕とは反対だとしても。
東海林「大丈夫。この二人は、最後まで生き残りますから」
――ヒートアップする暗闇での追いかけっこ。徐々に距離を詰めるサイコパス。
ビクトリア「アー、もう聞いてられない」
ビクトリア、両手で耳を塞ぎ、顔を伏せる。
フィッシャー「何だ、ビッキー。ビビッてるのか? 弱虫だな」
――フィッシャーはビッキーと逆で、ホラーは平気なんだな。アイスの空き容器に入れて食べてるのは、見てるほうが胸焼けしそうな量のフライドチキンだけど。ウーム。今ひとつ、二人の感情のツボが分からない。
シュエット「ここぞとばかりに煽りますね、フィッシャー。あとで痛い目に遭っても知りませんよ?」
フィッシャー「平気、平気」
フィッシャー、人差し指でビクトリアの背筋をなぞる。
ビクトリア「ヒヤッ。フィッシャー、この野郎」
フィッシャー「俺じゃないって。背後霊だよ」
*
――鑑賞後、フィッシャーとビッキーが某アメコミの猫と鼠よろしく仲良く喧嘩したあと、もしもホラー映画の世界になったらという話になった。
シュエット「後先考えずに飛び出したフィッシャーが、第一被害者でしょう」
ショージ「なかなか帰ってこないフィッシャーに痺れを切らして、不用意に探しに行ったビッキーが第二被害者ですね」
ビクトリア「二度の銃声に怯えてパニックになったショージが、第三被害者か?」
フィッシャー「第二と第三は逆じゃないかな?」
シュエット「そうですね。ビッキーが痺れを切らすのではなく、ショージが心配して捜索に当たるほうが自然ですね」
ショージ「どちらにしても、最後に樹の上でマスケットを抱えてニヒルな笑いを浮かべるのは、シュエットで決まりです」
ビクトリア「違いないね。それ以外ありえない」
フィッシャー「上から狙い撃ち出来るもんな」
シュエット「僕を犯人にしないでください」
ショージ「そんなに嫌がらないでくださいよ」
ビクトリア「そうだ、そうだ。あくまで仮定の話なんだからな」
フィッシャー「そうそう。現実にビッキーを襲ったら、どんな魔物だろうと返り討ちに遭うだけだろうし」
ビクトリア「オイ、フィッシャー。それは、どういう意味だ?」
フィッシャー「そういう意味だよ。血の気が多い狼さん」
――第二ラウンド突入。シュエットも、やれやれ面倒なことになったという様子。心中、お察しします。自分も同感ですから。喧嘩するほど仲が良いとは言うけど、もう少し平和に付き合ってほしいところだよね。問答無用のドツキ合いになってるもの。話せば分かるだろうに。




