#015「通り雨」
#015「通り雨」
@シュエットの家、ダイニング
――二階の出窓から外を眺めていたら、ガレージからビッキーが、何やら毛布に包んだ物をバンから俵担ぎにして家に持ち込む姿が見えたので、一階に降りることにした。気になる中身は、雨でズブ濡れになってしまったフィッシャーだった。
ビクトリア「脚は生えてきたか、フィッシャー?」
フィッシャー「デックショイ。まだ鮫のままだよ。早く乾かないかなぁ」
シュエット「昼に予想した通り、一雨来ましたね、ショージ」
東海林「そうですね、シュエット」
――そういえば、あまりに自然に振舞ってるから疑問に思わなかったけど、服を着たまま変身しても、乾けば変身する直前の状態に戻るのは、不思議な仕組みだよな。分子構造が組み替えられるんだろうか? どこぞの愛の戦士、如月さんみたいに。
フィッシャー「あんまりジロジロ見ないでくれよ。戻る過程は見られたくないんだからさ」
シュエット「裸になる訳でもないのですから、普通にしていれば良いでしょう。それとも、水をかぶる前は服を着てなかったのですか?」
フィッシャー「ちゃんと水着を穿いてるよ。仕事帰りだったから」
東海林「見つめられると、そんなに恥ずかしいものなんですか?」
ビクトリア「そうだな。私も狼になった姿は、出来れば見られたくない。だから、満月の夜は部屋に入ってくるなと言い聞かせてるんだが」
ビクトリア、フィッシャーを睨む。
フィッシャー「ヒイッ。だって、見るなと言われると余計に見たくなるじゃないか」
――鶴の機織しかり、青髭の小部屋しかり、禁じられるとタブーを破りたくなる衝動に駆られるもの。あぁ、何だかビッキーの部屋のドアに、猛犬注意のシールか熊出没注意のステッカーを貼りたくなってきた。飢えた狼には、ご用心。
シュエット「その好奇心を理性でコントロールして抑えられるかどうかが、子供と大人の分水嶺ですよ、フィッシャー」
フィッシャー「それなら子供で結構だよ。俺は苦いビールより甘いコーラが良いもの。ショージだって、そう思うだろう?」
東海林「そうですね。自分もアルコール類は苦手ですから、なるべく敬遠したいところです」
ビクトリア「アレ? 酒を呑んだことがあるのか、ショージ?」
東海林「はい。成人してからは、付き合い程度に」
フィッシャー「エッ?」
ビクトリア「ン? ショージは、今いくつなんだ?」
シュエット「二十一歳ですよ。伝えてませんでしたか?」
フィッシャー「聞いてないよ。酒も呑まないし煙草も吸わないから、てっきり未成年だと勘違いしていた」
ビクトリア「私も、フィッシャーと同じでティーンズだと信じて疑わなかった。何だよ、大人ぶって先輩風吹かせて損した気分だ。未成年でないなら、初日から酒を勧めたのに」
東海林「そんなに若く見えますか? 特別に童顔ということはなく、日本人として平均的だと思いますけど」
シュエット「顔の彫が浅い分、東洋人は西洋人より幼く見られるんですよ。明日にでもタバコ屋に行って確かめましょう。きっと、二人と同じような反応を示されますよ」
――小柄で平たい顔だと、国際的には実年齢より若く見積もられるのか。嬉しいような、困るような。
東海林「逆に聞きますけど、二人の年齢は?」
フィッシャー「俺は十七歳。この秋に飛び級で大学に入学するよ」
ビクトリア「私は二十三歳。この夏に大学を出たところ」
東海林「フィッシャーは、まだ十代で、ビッキーは、自分と二歳しか違わないんですね」
フィッシャー「大人っぽいと思った? ――ヨーシ。脚が乾いたぞ」
――異文化交流とは、毎日が驚きと発見の連続だ。




