第8話
「陛下、この度はこのような素晴らしい園遊会を開いていただき大変光栄に思います。」
「気持ちばかりの会だが是非楽しんでくれ。」
「ありがとうございます。王妃様、お久しぶりです。お元気でしたか?」
「ええ。また殿下にお会い出来て嬉しいですわ。殿下は?おかわりありませんか?」
「はい。帝国の方々もお元気ですよ。」
見よ。この鍛え上げられた外面の発表会を。
その後少し雑談をして王様が会話を閉めると、彼は来賓だが来れない予定だった元大臣だという人が来たという報告を受けてそちらに向かった。国に大きく貢献した人物で王も無視出来ないし、あの様子だと大切な部下だったのだろう。私はアルと2人になった。(各自侍女はつけてるけれどね。)
「あなたの『仕事』の顔を見るのは初めて・・いや、2度目かしら?」
「あんなのは仕事のうちに入らないさ。幼馴染みのよしみで、だ。」
実は私がこのエルグランデ王国に文字通り『輿入れ』するとき、エスターニャ公国を通ったのだ。その時私の輿の周りに馬にのってはりつき護衛する『近衛』の隊長をアルフレッドがやっていたのだ。本来侯爵家の長男がやる仕事では無いから『仕事』といえばそうだが『私事』といえばそうともとれるというわけだ。
「こっちの暮らしはどうだ?」
「思ったより悪くないわ。言葉も通じるし、お料理もなかなかでしょ?」
2人になると昔のように言葉を交わす。別にやましい事があるわけじゃないけど王様の前ではこんな風には話せないわよね。
「そうじゃないだろ。日常の生活とか、待遇とか。大国の王女が、しかも王妃の長女が来たんだ。お前がアクションを起こしにくい壁とかは無いのかって意味だ。」
「なによ。アクションって。」
「お前のことだ。なにもやってないわけないだろう?」
人聞きの悪い言い方だけど、あながち間違ってはいない。さすが、付き合いの長さは伊達じゃないわね。
「まだこの国に独自の情報収集ルートを作るくらいしかしてないわよ。手を付けたい事は山ほどあるけどね、まずは『王妃』を国民に受け入れてもらわないといけないでしょ?それにどうやら早急に対処しなきゃいけない問題が出て来たのよ。忙しいわ。」
「相変わらずだな。俺に出来る事は・・」
「あっ、もうあなたの所の戦力を一人借りてるわ。」
「あぁ?」
「もうあなたの力は借りてるから、1つお願い。あなたの滞在期間は3日の予定でしょ?それを5日にできないかしら?」
「・・ったく、相変わらずだなあ。手を貸してやろうかとおもったら、俺の『手』は既に奪われてたってわけか。いいぜ。滞在期間延長のフォローも、『手』の貸し出し期間終了の報告もいらん。その代わり5日だ。5日目の15時にはこの国を発つ。それまで思う存分コキ使え。」
「ありがとう。」
実は園遊会に参加する直前、ミランダに『エスターニャ公国の侍女に渡しなさい』と言って、ある内容を書いたメモを預けたのだ。今頃はちゃんと動いているはず。向こうの侍女達は私の事を知っている者が多いから私のお願いも届くはずだ。
「そうだ。ソフィアの事、頼むわよ。」
ソフィアは私の妹で、先日アルとの婚約が成立した。
「・・ああ。分かってるよ。・・でも俺はてっきり俺のそばにはお前が来る物だと思っていたからな、実感がないよ。」
「あら、これって愛の告白?」
「おいおい。なんで人妻をこんな目立つ所でくどかなきゃならないんだ。それに今のお前は俺には落とせないよ。お前は『王妃』として恥ずべき不義はやらかさない。あいにく落ちない女には最初から手を出さない主義なんでね。」
「分かったような事を言うのね。・・でも私も、もしかしたらあなたの国に行くかもしれないって心の片隅で考えていたからエスターニャには積極的に関わってたのよ。」
「意外だな。」
「そう?わたしだって女として国に出来る事を真剣に考える皇女だったのよ。」
その時鐘の音が聞こえた。来賓であるアル達は席に戻らなければならない。
「ソフィアの事は任せろ。決して不幸にはしないさ。」
「あなたもついに年貢の収め時かしら?あの子、強がりだけど以外と神経質なんだから。・・お願いね。」
「ああ。・・だが、お前も辛くなったら後先考えず、亡命して来い。お前一人を養うくらいなんてことないからな。家出でもいい、とりあえず無理はするな。」
「あなたの国に亡命なんて冗談じゃないわよ。舐めないで頂戴。」
冗談まじりにそういうとアルは一瞬眉間にしわを寄せてからすぐに笑顔を取り戻し
「じゃあな。またいつか会おう。」
といった。さっきの言葉は本気で私のために言ってくれたのだと実感した。
「そうね。」
久しぶりに心からの大きな笑顔が溢れ出るのを感じた。私にもまだ自然に感情が出てしまう事があるのだと自分でも驚いて、それからほっとした。
アルも驚いたような顔をしてから微笑んで席へ戻って行った。
私も王様のところへ歩き始めた。ずっと共に歩いて来た私たちが逆の方向へ歩いて行く。まるで何かの皮肉のように感じた。
「王妃。」
「王様、遅くなりました。」
「いや、問題ない。・・アルフレッド殿下とはよく話せたか?」
「・・もしかして王様、わざと・・」
「言うな。俺が母国での2人の関係を知らないと思ったか?・・どっちにしろ俺はマクベル名誉大臣に会いに行っただけだが。」
「はい。王様。」
あなたにこんな気遣いが出来たなんて。やはりあなたは世で言われる程非道で無情で冷酷なひとではないのですよね。そんなことは言えなかったけど、やはり私も旧友に会える事で高揚していたのでしょう。一本とられました。
「なんだ。俺の顔をジロジロと。」
「いえ。なんでもありません。」
「何だ?」
顔をしかめたままでも充分美しい端正な顔が鼻があたりそうな距離まで近づいた。
「なんでもありませんって。」
近いっ。
「嘘だろう。言いから言え。」
「分かりましたよ。分かりましたから顔ひいて下さい。」
「・・ああ。すまん。」
「王様が女性に人気なのはお顔が魅力的なのは勿論ですが、お優しいからなのだなと思っただけです。」
「・・優しい?俺がか?」
王は初めて言われた。というような呆けた顔で私を見て来る。それがおかしくてまださっきの余韻が残っていたのだろうか?少し笑ってしまった。
「いいんです。王様は分からなくて。」
そういうと今度はムッとして言い返して来る。こういうのも悪くない。
退場の時アルの前を彼を見ずに通った。
『私は簡単にあなたに逃げたりしないわよ。あなたならどんな事をした私でも許して、受け入れてくれるでしょうけど、私はとなりにいるこの王を支えて生きて行きます。』
アルの本気の言葉にはすごく励まされた。だからこそ私は絶対あなたの所に逃げたりしない。
私はもう、皇女ティーナではない。エルグランデ国王の妻なのよ。私はどんな物にも負けない。強く、正しく生きて行きたい。
そう思わせてくれるあなたはやはりいつまでも大切な戦友で、親友です。




