第6話
会談当日。会議室の内装はギリギリ間に合った。嗚呼なんて優秀なのかしら、うちの侍女ったら。
「王妃様。そろそろお支度を。」
「そうね。」
私の今日の仕事場は園遊会。両国の橋渡しとなれるよう努力致します。…とはいってもエスターニャ公爵家長男、アルフレッド・エスターニャとは母国で主に大人が困る方向の伝説を(もちろん色恋沙汰ではないですがね。)共に立て続けた仲なので身構える必要はない。若気の至りというものです。
よし、ここは1つ人妻っぽさを見せつけてやろう!…方法は今ちょっと思いつかないけど。
などと考えているうちに、支度が終わっていた。
「王妃さまっ!とってもお綺麗です!」
「世界中の健全な男が振り返る事まちがいありませんっ!!」
いや、リアリティ無いけど既婚者だからね、私。
「ありがとう。さっ、行きましょうか。」
今日のパーティーはごく内輪なもの。エスターニャ公国からのご一行と、王、王妃は当然だが、宰相、大臣や役人とその家族。その程度だ。
「王妃。」
もう少しで会場入り口の控え室。という所で私を呼び止める声がした。声の主はもちろん国王陛下だ。同じ時間に同じ場所に向かっているのだからこういうこともある。
「王様。会談の方はどうでしたか?」
「首尾よく進んだ。特に問題は無い。」
「そうですか。よかったです。」
「そうだ。テーブルの装飾を褒めていた。良かったな。」
何が『良かったな』よ!どんだけ頑張ったと思ってるの。まったく。
「それと、そのドレス。よく似合っている。」
え?何?何?今の?王様が?外見を褒めた?・・怖いんですけど。
「あっ、ありがとうございます。」
「・・何をふるえている?」
「少し寒気が・・」
「体調が悪いのか?」
「いえ。恐ろしい幻聴が・・」
「幻聴だと?すぐに俺の主治医を呼ぼう。ちょうど王宮にいるはずだ。」
「いや!冗談です!冗談ですから、主治医は結構です!」
あなたの主治医すぐ注射したがるから嫌なのよ。人間の皮膚に針を刺すのよ。なぜ傷害事件として立件されないのか謎すぎるわ!別に注射が怖いとかそういうわけでは断じてないのよ。不思議なだけよ、ええそう。そういうこと。
「おい、何をぶつぶつ言っている?それと冗談はもっとそれらしい顔で言え」
いけない、いけない。口に出ていたなんて。
「王様に言われたくありません。」
あなたの冗談なんて聞いたこと無いけど。
「…まあ、いい。行こうか。」
彼はそういうと私に手を差し出した。素直に手を差し出すと
「今日はよろしく頼む。」
そう言って私の手の甲に口付けた。私の感想はただ1つ。
…女の扱い手慣れてるわねー。
ただでさえ超が付く程美形の彼がこんな事やったらそりゃ一発よね、罪作りな男め。
「王様、他国との橋渡しも王妃の仕事のひとつです。ご安心ください。私、優秀ですから」
そういうと彼は一瞬フリーズしてから微笑して
「そうだな。」
と言った。微笑して。・・微笑して?・・・微笑して!?・・どうしちゃったのかしら王様、外見を褒めてみた次は笑った?今度は『分かりやすい顔』で冗談を言ってみたつもりだったんだけど。
これもレイアの影響なのかしら?だとしたらたいしたものだわ。このまま少しずつ王様の心の角が減って行く。それも良いことかもしれないわね。
そんな事を考えながら、私は『完璧な微笑み』をたたえて、王の一歩後ろへ下がり、園遊会への一歩を踏み出した。