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勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている  作者: まる
【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている④ ~連合軍vs連合軍~】

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【最終章】 敗走、されど戦火は燃えて

7/7 台詞部分以外の「」を『』に統一


 僕達がサントゥアリオ本城に戻ったのは夕日が沈み始めた頃だった。

 城からの距離が一番長いこともあって他の部隊は既に帰還しているとの知らせを受けた僕とクロンヴァールさん、ユメールさんはすぐにジェルタール王の待つ部屋へと向かい、クロンヴァールさんの指示によってそこに他の部隊長を召集させた。

 やがて現れた彼等の姿にまず愕然とさせられ、順に報告を聞いていったその内容は出発前に誰が予想出来ただろうかという程に悲惨なものだった。


「何たる体たらくだ! 三国の誇る戦士が全敗だと!? 民の思いを何と考える、この国を賊や魔族にくれてやるつもりか!」


 全ての報告が終わると同時に、クロンヴァールさんの怒声が部屋に響き渡る。

 周囲に立つ面々を順に見渡したその顔は怒りに歪んでおり、責め立てる様な口調に隊長達は揃って沈痛な面持ちで俯いた。

 全敗。

 その言葉が重々しく室内に居る者全てにのし掛かっている様な錯覚を覚えると共に、静まりかえった雰囲気がまず彼等の身を案じる言葉を投げ掛けたかった僕にそれをさせてはくれなかった。

 全員が敗戦したという結果には心底驚いたとはいえ、その中で死者が出なかったという事実は最悪の状況だけは避けられたのではないかと僕は思う。

 そういう世界ではないことは重々承知しているけど、この人達がそういった状況になるのだからそれだけ相手が人を殺傷する能力に長けていたということだ。

 負けて責められるというのはいささか酷過ぎやしないかと思う気持ちをどれだけ甘い考えだと言われようとも僕はまず生きて返ってくることが何よりも大切だといつ誰にだって言ってやるつもりでいるのだが、そもそもこの謁見の間に来てからほとんど発言する機会すら無いのでそれも出来ず。

 僕はただそれぞれの報告を黙って聞く他なかった。

 僕達が帰るまでの間にクロンヴァールさんの国から同行している白魔導士という主に治療を専門としている魔法使いの人達の手当を受けているという話だが、それでも大多数がそれはもう痛々しい格好をしている部隊長を務めた人達の中にあって一番初めに遠征先での出来事を説明したのはアルバートさんだ。

 アルバートさんは大怪我を負っているというわけではないが、腹部に包帯を巻いている。

 初めの話にあった都市への進入を阻む帝国騎士団を名乗る戦士との一騎打ちはこの段階ですでに大前提が大きく崩れ、行った先の町に現れたのは魔王軍の魔法使いだったという話だった。

 それも魔王軍四天王という存在の一人だかで、化け物軍団の中でも幹部中の幹部でありその強さはその地位に足るだけの規格外のものであったということだ。

 加えて物理的な攻撃が一切効かないという異常な能力を持っているらしく、魔法を使えないアルバートさんでは相性が悪かったという意見もあったものの本人がそれを言い訳にするつもりはないとはっきり言ってしまったのでそれまでとなってしまった。

 腹部に鎧を貫通するだけの魔法攻撃を受けて気を失ったという話で、日頃服の上に身に着けているらしい魔法攻撃によるダメージを和らげる効果を持つという特殊な防具が無ければ死んでいただろうとも語っていた。

 いずれにしてもこの段階で魔王軍の介入があるという事実が明らかとなり、その強さは例え他の誰かが相手をしていたとしても簡単に勝てるレベルではないだろうと、そう付け加えたところでアルバートさんの報告は終わった。

 次に報告をしたのはハイクさんだったのだが、彼に至ってはもっと酷い。

 顔を含む全身が包帯まみれでほとんどミイラ状態のハイクさんは見るからに立っているだけでも辛いだろうに、煙草を咥える姿や口調に落ち着き払ったテンションまでもが普段のままを維持して淡々と事の経過を述べていた。

 それでも随所に負けたことに対する自身への憤りが感じられたし、クロンヴァールさんの面子を潰してしまったと歯痒そうにしていた姿からはプライドの高さや責任感の強さは伺えるが、そんな姿になってなお負けて帰って来たことを恥じるかの様な態度は僕にしてみれば見ていて気持ちの良いものではないし受け入れがたくもある複雑な心境だった。

 相手は帝国騎士団二番隊隊長の女性だという話で、鞭状になる剣を扱うだとかおかしな能力だとかの説明の最後にただ純粋に強い奴だったとハイクさんは付け加えて締め括り、次のコルト君に報告の順番を譲る。

 そんなコルト君の説明はいまいち要領を得ないのだが、気付いたら気を失っていて目が覚めた時には一人だった。そんな話だ。

 コルト君自身に特に怪我などはないし、それは不幸中の幸いであることは間違いないのだけど、相手が誰であったか以外にほぼ情報が無いことをクロンヴァールさんに咎められて涙目になっている姿は僕が口を挟めないのがもどかしく感じる程に気の毒な光景だった。

 更に悪い報告は続き、サミュエルさんの戦果へと話は移る。

 まず前提としてサミュエルさんはこの場に居ない。

 刺客にやられ意識を失ったままだったサミュエルさんが目を覚ましたという知らせが届いたのはつい先程のことで、代わりにレザンさんがこの場に呼ばれている。

 そのレザンさんの話では状況からしてサミュエルさんは高さ数十メートルの崖から突き落とされたことは間違い無いだろうという洒落にならない状態で発見に至ったらしく、川の上に落ちたことで奇跡的に無事だったと推測されると補足して報告を終えた。

 僕とてこの世界に来てからというもの自分達を殺そうとする意志を持った相手と対峙した経験は数あれど、同じ人間同士で、しかも味方側がこれだけ一方的に死んでもおかしくないだけの傷を負わされている姿を見た経験はない。

 鬼の様に強いセミリアさんやサミュエルさん、そして二人に勝るとも劣らない人達がそうなってしまうという事実に戦争という言葉の意味を痛感し、そんな気持ちが昨日の港での光景をフラッシュバックさせ、心身が押し潰されない様にすることで精一杯となってしまっていた。

 魔王軍の最上位である四天王とやらが複数混じっていたとはいえ、国の大きさや兵数兵力で世界一、二の大国を含むこの連合軍のトップクラスの精鋭を派遣したにも関わらず、少なくとも対等以上の戦いを繰り広げた結果の敗戦であったと語ったのがキアラさんと覚醒魔術の存在を除けばと前置きしたハイクさんぐらいなのだから僕に限らず失望は大きいはず。

 その二人ですら他のほぼ全ての人と同じ様に意識不明の状態で兵士達に連れ帰られてどうにか無事だったというその有様は、果たして当初の反体制派数百人の排除を目的に合計一万を超える大連合を結成した頃に誰が予想出来ただろうか。

 比重で言えば戦争そのものよりも武力による排除を阻止出来ないかと参加を決めた僕だってこの国に到着するまでは予想出来ていなかったし、大勢の生き死にに関わる問題だからこそこの国とこの国の人々のためにと戦うことを決めた大国の選りすぐりの戦士達を以てしてこの結果となればいよいよ都市奪還を第一にだとか、余計な怪我人を出さないために戦闘は部隊長がという、いかにも優勢な立場から生まれる方針の瓦解も現実味を帯びてくる。

 それはすなわち、後に退けなくなる道を選ぶということ。

 この白十字軍が、或いはクロンヴァールさんやジェルタール王がそれを選ばなくとも戦況がそうさせるであろうことは間違いないけど、その時点で今後どう転ぼうとも凄惨な結末を迎えることは必至だ。

 その時、この場に居る者やそれ以外を含め、怪我で済んで良かったと言える様な場面がどれだけくるだろうか。

 そんな風にネガティブなことばかりが止め処なく頭に浮かんでくる中、レザンさんに続く形で順番が回ったセミリアさんの報告に僕は驚愕することとなる。

 セミリアさんの前に現れた刺客の名はエスクロ。

 漆黒の魔剣士エスクロという魔王軍の男だったとセミリアさんは確かに言った。

 その男が魔王軍四天王の一角であることも、かつてクロンヴァールさんですら勝てなかったという情報も今この場で初めて聞いた事実ではあるが、僕にとって最も驚くべきはその男が生きてセミリアさんの前に現れたという現実に他ならない。

 僕が初めてこの世界に来た時に対峙した相手の一人であり、間違いなくセミリアさんが倒した相手であるはずのその男がなぜ……。

 そんな当然の疑問を抱く僕とは裏腹に、セミリアさんは既にそんな疑問に固執する段階は過ぎていると言わんばかりに、その強さと操る能力の異常さについて淡々と述べていった。

 かつての対戦はエスクロにとっては遊びの様なものだったこと、そして他の人達と同様に真の力を発揮した状態でやり合うことで分かったその理不尽なまでの強さを悔しさや己を責める感情を隠しきれない表情で語る姿は見ているだけで辛くなってくる程に痛々しいものがある。

 肩を刺された傷は魔法だけでは完治しておらず、今なお包帯が巻かれたままなのに加え火傷まで負っている状態で戻ってから唯一会話が出来た相手でもあるセミリアさんは心配する僕に対して『私は平気だ。コウヘイが無事でよかった」と、力なく笑った。

 それだけで返す言葉すら見つけることが出来ない僕のなんと無力なことか。

 まさかセミリアさんに限って。

 そんな気持ちを抱いていなければ違った結果だったという程単純な話ではなかったかもしれない。

 それでも。

 もっと自分に出来ることは無かったのだろうかと、今になって思う分だけ僕の中にも自己嫌悪が増していくのだった。

「彼奴の強さは私も知っている、地獄の業火とやらの厄介さもな。バジュラという男も含め、魔王共どころか魔王軍四天王であれだけの強さがあることは我々にとって想定外と言えるだろう。それが残り二匹居て、魔王、大魔王とさらに上が居る。言いたくはないが、それが魔王軍の真の戦力ということだ」

 クロンヴァールさんがそんな言葉を返したところでセミリアさんの報告も終わり、キアラさんへと移る。

 キアラさんもまた、背と腹に相当なダメージを負っており肩を斬られた傷も合わせて女性が包帯を巻く姿の痛々しい様は見ているだけで辛い。

 相手にも相当なダメージを与えたはずだが、その異様なまでの肉体の強さと己の判断ミスがこういう結果を生んでしまったと全体に頭を下げるキアラさんの相手は三番隊の隊長である男だったそうだ。

 負けた、或いは勝てなかったという報告をしなければならない以上は当然なのかもしれないが、誰もが相手の強さや能力をしたくもない言い訳の如く口にしなければならないことが歯痒くて仕方がないと思っていることがその表情から容易に分かる。

 喉を刺してもダメージを与えられなかった。

 舞い落ちる花びらの様なものに全身を切り裂かれた。

 地面が突然爆発した。

 黒い炎を操っていた。

 雷を切り裂いた。

 誰かが語る度に他の者がまともじゃないと表情を歪める。

 そんなことを何度繰り返しただろうか。

 キアラさんの報告が終わり、最後にノーマンさんの話を終えたところで我慢の限界を迎えたクロンヴァールさんによる冒頭の怒声が響き渡ることとなる。

 不甲斐ないと思う気持ちからか、それとも情けなさを感じているがゆえか、誰もが言い訳一つせず沈痛な面持ちで黙り込んだ。

 誰からも言葉が返ってこないことを受けてか、クロンヴァールさんは唯一そんな表情をしていないノーマンさんの方へと体の向きを変えると怒気を孕んだままの低い声でギロリと睨み付ける。

「ノーマンと言ったな。貴様一人が戦うこともせず撤退したというのはどういう料簡だ。国を守る立場たる副隊長が、よくもぬけぬけとそんな報告が出来たものだな」

 疑いようもない責める意志からくる問い詰める様な口調。

 しかし、ノーマンさんはいつもの如く感情が一切現れない平坦な声と変化の無い強面を維持したまま淡々と言葉を返した。

「何やら誤解があるようですな」

「誤解だと?」

「クロンヴァール陛下もご存じの通り、私の向かった都市はこのサントゥアリオ本城からは最も距離があるダンジュ。到着までの時間が長かったこともあってか、都市にはあの戦争麒麟児のみならず別の町から駆け付けたらしい他の隊長共も揃っているという状況だったのです。この場にいるそうそうたる御仁ですら勝てぬ相手を複数人同時にとなれば私などには到底敵いますまい。討ち死にも本望と兵士を総動員する考えが浮かばぬわけではなかったものの、不要な犠牲者を出さぬようにという陛下の方針ゆえに撤退した次第で」

「戯言を……」

「この争いが既に戦争であるという認識は私とて同じ。クロンヴァール陛下、キアラ隊長殿の両名が命尽きるまで戦えと仰るのであれば私も護衛団及び連合軍の一員として当然ながらそれに準ずる意志を持っているつもりでおりますが……何の成果もなくのこのこと帰ってきたという点においては何ら差異の無い陛下がそれを口にしたところで少々説得力に欠けると言わざるを得ませんな」

「貴様……」

 クロンヴァールさんはノーマンさんに詰め寄った。

 二人は至近距離で睨み合う格好になる。

 慌てて割って入ったのはジェルタール王とキアラさんだった。

「クロンヴァール王、どうか落ち着いて下さい。内部で言い争いをしていてる場合ではないはずです」

「ノーマン副隊長も控えなさい。この場で無礼を働くとは何事ですか」

 ジェルタール王がクロンヴァールさんを、キアラさんがノーマンさんを誘導してどうにか二人を引き離す。

 それでもノーマンさんを睨み続けていたクロンヴァールさんだったが、その視線がジェルタール王に移ると同時にここにきて初めて今後どうするかという話を口にした。

「ジェルタール王よ、十日だ。十日間、防衛に徹し王都を守りきってくれ」

「その十日間というのは……一体どういう意味を持つ期間なのです、クロンヴァール王」

「私達は一旦国に帰り体勢を立て直す。コウヘイの言う様に今の敵の狙いが時間稼ぎであるならばどうにかなるだろう。傷を癒す時間が必要なことも含め、今のまま戦いを続け戦況の好転を目指すよりも戦力の再編が優先されるべき局面だ。騎士団隊長とやらも、魔王軍四天王共も我々と同等以上の力を持っていることが分かった以上もはやこの国の内乱で済む問題はとうに過ぎているのだ。負けてこの国、ひいては世界が滅ぶか戦って未来を勝ち取るか。この戦争はそういうレベルの話であることが分からんわけではあるまい」

「分かりました……祖国と世界を守るため、これ以上の被害を生まぬよう、城下の民を守ることに徹するとしましょう」

 少しの葛藤の末、ジェルタール王は同意した。

 その表情は争いに巻き込んだ負い目と反論の余地がないクロンヴァールさんの言葉に揺れ、いずれの選択をしても余りにも暗い先行きに対する絶望を感じているように見える。

 しかし、誰が何に悩み心苦しさを感じようとも一度決断をしたならばその時間を不要なものだと切り替えるのが連合軍を指揮するこの人であり、そんなクロンヴァールさんはすぐにジェルタール王から目を離すと次なる指示を下した。

「クリス、すぐに城に鳥を飛ばせ。次に来る時にはロスとAJにも同行させる。追加の兵士二千を準備しておけとな」

「わ、分かったですっ」

 ユメールさんは返事をするなり部屋を出て行った。

 他に誰も口を挟む者はおらず、そうする他ないという雰囲気のまま話は纏まった。

 こうして、十日後に再集結することが決まり僕達は一旦サントゥアリオを去ることとなる。

 滞在期間は僅か三日。

 見るも無惨な敗走という形で、いつしかこの世界の未来を賭けた戦いへと姿を変えてしまったこの戦いに再び臨むべく、傷を癒しさらなる戦火をもたらすための準備をするために。



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