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勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている  作者: まる
【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている④ ~連合軍vs連合軍~】

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【第十三章 その⑦】 都市奪還七番勝負 邪曲vs一路

   ~another point of view~



 白十字軍(ホワイト・クロス)第七分隊が目的地であるダンジュの手前にある山を越えたのは本隊を除く他の部隊が都市に到着してから随分と経ってからのことだった。

 隊を率いるは背が高く、ぬめりとした長髪と首下に覗く大きな傷が特徴的な冷たい目をした男だ。

 その名はヘロルド・ノーマン。

 どこか陰険さを感じさせるその風貌通り、大層狡猾な男だった。

 王国護衛団(レイノ・グアルディア)副隊長の地位にいながらも正義や平和、或いは民のためにと剣をとったことは過去に一度もない。

 代々護衛団で高い役職を勝ち取ってきたノーマン家に生まれ、自身も一度はそのトップである総隊長にまで上り詰めた。

 いつ何時も一定に保たれている冷たい目と表情、抑揚の無い口調や情け容赦のない采配は多くの兵士から徹底した冷血漢として恐れを抱かれているが、ノーマンもまた総隊長だった頃からの側近である兵士以外をあてにしていないため気に留めることもない。

 見る者によれば私情を挟まず、感情に流されない職務への取り組み方は結果的に治安の回復と部隊の規律改善に繋がり、それらが評価されたこともあって先代国王の時代から総隊長を務めるに至った。

 しかし、それから四年後。現在から七年前のことだ。

 些末な事件をきっかけに体面上必要なことだと罰を与えられる形で副隊長への降格を言い渡されることとなる。

 言い渡したのは当時まだ十代であり、王位に就いたばかりの現国王パトリオット・ジェルタールだ。

 その事実にも、後任の総隊長を務める者が同じく当時十代のエレナール・キアラであったことにもノーマンは未だ腸が煮えくり返る程の憎悪を抱いている。

 それでも、両名がともに自分よりも高い地位に居ることは事実なのだ。

 あからさまに敵視し、己の立場を悪くすることに意味はない。

 いずれ返り咲くためにも、今はピオネロ民族の末裔を殲滅することを優先するべき時だろう。

 それがノーマンの出した結論であった。

 その考え方が指す通り、ノーマンはその血を引く帝国騎士団に対しても根深い恨みを持っている。

 地位に執着する理由はただ一つしかなく、それが一族の名誉のためであることを知る者は居ない。

 それは何代遡るかという遙か昔、バルカザール帝国が健在であった頃の話。

 当時サントゥアリオ王国の部隊長を務めていたヘロルド・ノーマンの祖先は帝国の戦士達にそそのかされ、無謀とも言える戦いに挑んだ結果、国が一つが消滅するという無惨な結末を迎え敗走するに至った。

 それにより国内での立場や積み重ねた尊敬を失ったその祖先のみならず、ノーマン家は数代に渡って冷遇されることとなる。

 ピオネロ民族のせいで一族の名誉は傷付けられ、彼等は苦汁を舐めた。

 ヘロルド・ノーマンは()()()()()()()

 ゆえに、その末裔が今度はこの国で戦争を仕掛けてこようというのであれば、必ずや根絶やしにしてやるのだと、決して表情や態度に出すことのない強い怨恨を沸々と燃やしているのだった。

 文献にも残っていない当時のそれらの出来事における真実を知るものは今やほとんど存在しない。

 ノーマン自身、言い伝えられてきた一族にとって都合の良い様に歪曲された話を事実だと信じて疑っていなかった。

 後にバルカザール帝国の消滅を招くその戦いは件のノーマン家の戦士がピオネロ民族を利用し、己が名声を得るためのものでしかなかったという真実をヘロルド・ノーマンが知る術はない。

 ただ一度の敗走によってその祖先であるグラディミール・ノーマンの名前からサントゥアリオ王国、バルカザール帝国に英雄気取り(グラディミール)という言葉が生まれ、今なお歴史を知らぬ連中がそれを口にしている。

 そんな不名誉な歴史を刻まれたことに対する憎しみだけでもノーマンにとってピオネロ民族は報復の対象であるに足りる存在であった。

 しかし、ノーマンは今この場で戦闘をする意志など初めから一切持ってはいない。

 部隊を後方で待機させ、直近の部下のみを引き連れてダンジュ町へと向かったものの、他の部隊の様に単身で結界の領域に踏み込むことはしなかった。 

 過去に受けた兵士達の報告とこの日受けた報告から推測するに、この場に現れるのはエリオット・クリストフである可能性が高い。

 ノーマンにとってその名前は帝国騎士団を率いる男でありバルカザール帝国皇帝の血を引く男でもある最も憎らしいものではあったが、天武七闘士に数えられるクリストフとまともにやり合って勝てるだけの強さを持っているとは思っていない。ただそれだけのことだった。

 他の六部隊の半数には自身の部下を置いている。

 それは隠れて各部隊の戦況や情報を送らせるためであり、既にほとんどの隊が敗走し撤退していると秘密裏に手紙を受け取っていた。

 まさか全ての報告がそうであるとは予想外の展開であったが、この状況ならば自身がここで撤退してもそれを咎められる謂われはないだろう。

 他の隊の動向を知り、それに合わせて自身がどう立ち回るかを判断する。

 そのためにノーマンは敢えて一番到着までの時間が長い都市を引き受けたのだった。

「…………」

「…………」

 城壁に囲まれるダンジュ町のすぐ手前。

 ノーマンは直接攻撃など到底届かない距離を維持し、馬に跨ったまま目の前に立つ若き青年と睨み合った。

 その背後には十数名の兵士が武器を手に控えている。

 肩と胴、両の手足に黄金の鎧を纏い、背にノコギリ刀を携えているその青年の名はエリオット・クリストフ。

 ノーマンの予想の通り、都市奪還を阻止すべく現れた帝国騎士団団長として反乱軍を率いる男である。

 クリストフは戦闘の意志を見せず、ただ冷たい目で自分を見ているノーマンに対して挑発的な笑みを浮かべる。

「ヘロルド・ノーマンだな。立ち去るつもりならば止めはしない、我らにとってお前の命一つに然したる意味などありはしない」

「蛮族の末裔風情にこの名を口にすることを許可した覚えはない。今のうちに存分に革命児を気取っておくことだ。じきに国と同様歴史から消え失せる運命が変わることはない」

「ふっ、勇ましいことだ。だが、すぐにこの国は地獄に変わる。いつまでその顔が冷静な振りをしていられるか、楽しみにさせてもらうとしようじゃないか」

「フン、精々抗うがいい。貴様等の哀れな末路を、誰よりも近くで見届けてくれる」

 ノーマンは吐き捨てる様にそう言って最後にもう一度侮蔑の目を向け、馬を反転させてその場を去っていく。

 クリストフはただその姿を不敵な笑みを浮かべて見送った。

 その気になれば多少離れていようとも攻撃を加える力を持っている。

 しかし、占拠した都市を奪い返されないためのこの作戦はあくまで時間稼ぎでしかない。

 敵が自ら去っていくのであれば、それはそれで都合の良いことだと判断した結果だった。

 誰よりも秘めたる復讐心を持つクリストフとて他の団員と同じく力の限りこの国に血の雨を降らせたいという欲望がないわけではない。

 それでも、長き宿願の為に少しの我慢をするぐらいのことなど今に始まったことではないと、殺戮願望を押さえ込んだ。

 あと少しだ。

 あと少しで長らく待ち侘びた時が訪れ、その後は全ての歯止めを捨てることが出来る。

 その時こそが真の復讐の始まりであり、この国を奪い取りバルカザール帝国の再建を果たす時だ。

 そんな野心と純粋に戦を待ち望む戦士の性に心を高ぶらせながら、クリストフもその場から姿を消した。



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