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勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている  作者: まる
【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている⑪ ~Road of Refrain~】
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【第四十一章】 戦う者、見守る者、託す者


「何がどうなってんだ!」


 背後からの一振りを寸前で躱したハイクさんは巨大なブーメランを体の前に構えることで相手の接近を牽制する姿勢とし、その隙に自ら距離を置いた。

 何がどうなっているのか。

 恐らくは誰も理解してはいまい。

 血を流して倒れた剣の男が立ち上がっていて、あまつさえそれを感じさせない動きで襲い掛かって来た。

 あまりに不自然で、想定外の光景だ。

 たまたま打ち所が良かったのか?

 思っていたより傷が浅かったのか?

 否、そうではない。

 何故なら、右でも左でも正面でも、同じ光景が出来上がっているからだ。

 斧の男も、メリケンサックの男も鉄球の男も同じく立ち上がり、それどころか武器を手に攻勢に出ようとしている。

「一体何が起きている。神官の性質を持つからといって不死の能力がそう簡単に実現するとは思いたくないところだが……」

「そうですね。ではどういう理屈なのかが肝要になりますけど……」

「回復魔法ではない、かといって不死性を持つはずもない。そもそもが生き死にの概念から外れていると見るべきか。それこそノームの土人形の如く」

「ではあれが……」

「何某の言うところの分身、に類する能力なのだろう。オリジナルの魔法か、はたまた(ゲート)のもたらした力か。いずれにせよあれが七つの分身というわけだ」

「つまり解決策は一つ、ですか」

「そういうことだ。エリザベス、心構えはしておけよ」

「あ? 心構え? 何の?」

「せめて話は聞いててよ……」

 いざとなったら背中を押してでも腕を引っ張ってでも頑張ってもらおう。

 そう決めて、この想定外に対してクロンヴァールさんが加勢ではなく静観を選んだのならと、僕も今一度目の前の戦いに全精力を注ぐ。

 今や戦いが始まる前と変わらず七人の神官を前にするこちら側の三人という構図が出来上がっていた。

 それでいて先程の手痛い損害を踏まえてか、フォーメーションは大きく様変わりしいる。

 武器のサイズと重量で圧倒するハイクさんには接近せずとも攻撃の手段がある斧の男と槍の男が、逆に接近戦特化なアルバートさんには剣の男が相対し、両地点の中間辺りにいたはずの鉄球の男がややアルバートさんの居る位置に寄っており隙を窺っていた。

 それでいて先程その鉄球を封じたユメールさんを逆に封じるべく、後方にいる弓矢の男がいつでも矢を打ち出せる構えを取りつつユメールさん一人に照準を合わせていて、防御役のつもりなのか傍には素手と変わらない攻撃手段であるがゆえに武器を持つ相手には通用しないと踏んだのだと思われるメリケンサックの男が控えている。

 そして変わらずいつでも中距離からの魔法攻撃を繰り出そうという魔法使いの男。

 打って変わって複数箇所への同時攻撃や陣形を崩そうとする戦法への対策完了とでも言わんばかりの陣形だ。

 それでいて牽制なのか警戒なのか、弓矢の男やメリケンサックの男は後ろにいる僕達にも時折視線を向けており、当然といえば当然なのだろうが介入や横槍に備えている風を維持している。

 やはり七対三のまま続けさせるよりはクロンヴァールさんとリズも加わった方が戦況の悪化は防げる気がしてならないけれど、先の言葉通りノームの土人形と同じく『倒せばいい』という前提が覆っているのなら火力押しで蹴散らすことにあまり意味はない。

 あっちは人型の土であるがゆえに理解と納得も早かったが、どうみても人である神官で同じことをされては理屈無視度合いもぶっ飛んだものがある。

 別れ際のクロノスの言葉がなければそこに思い至ったかどうかすら怪しいものだ。

 では今この状況でどうそれに対抗するか。

 門の恩恵なのだとすれば現物を奪うなり破壊するという方法も思い浮かぶ一つの手段ではあるけど、あれだけ誰も彼もが武器を持っていては判別も困難だろう。

 分身を生み出す。

 それが事実であれば生み出した本人がいるわけで、ならばそれを見抜くなり別の勝敗に直結する部分の解明が優先されるというのがクロンヴァールさんの下した結論だ。

 例えばどんな怪我や傷を負っても生み出し直せば元通りになるのか、それとも度を越えた損傷を負えば難しいのか。

 つまりは刺した切ったではなく、言いたくもなければ想像もしたくないが、人体の欠損を伴うダメージであったり魔法で丸焦げになったりしても元通りになるのかという点だけど、もしもそれが困難であればやはりクロンヴァールさんやリズの火力で押し切ることも不可能ではない。

 例えば傷を治したり再生したりしているわけではなく別途姿形が同じ分身を作り変えることで『復活した』みたく見せているのであれば回数に限度があるのか。

 それも重要な要素になるだろう。

 こういう場所でなければそもそも全部が分身で本体は他にいる、なんて面倒極まりないパターンも割と重要度の高いところで考えなければならないところだったけど、幸いここには建物も隠れる場所もない。

 それ自体は不幸中の幸いというべきなのは間違いないのだろうが、それよりも驚きなのは三人の姿勢だ。

 この状況下でなおこちらに介入を求めず、三人で戦う意思をはっきりと維持している。

 それは側近としての矜持であり、恐らくではあるが謎めいた力を持つ相手に数の差を埋めて押し切ったところで同じことの繰り返しになる可能性が高いと踏んで分析や打開策の解明をこちらに託したという意味合いもアルバートさんやハイクさんならば持っていそうだ。

 だからこそこちらも急がなければならないのだが、現状手掛かりがほとんどない。

 当たりを付けるとするならば能力の性質上魔法使いの男かというぐらいだ。

 勘違いでなければ当事者達も同じ考えに至ったらしく、アルバートさんのみならずユメールさんまでもが二度、三度と魔法使いの男にやや不自然なタイミングで視線を向けている。

 出来ることならそこをまず攻めたいと考えているのだろう。

 倒しても復活する。

 つまりは倒すことに大きな意味はない。

 だからといって倒してはいけないことにはならないし、解明出来ていないからと手を止めていては神官達の思惑通りに消耗させられるだけだ。

 数で上回られ、倒しても元に戻る。

 それはつまり長期戦になれば確実に不利ということになる。

 だからこそ自分達を守るためにも攻撃に出る必要があるわけだけど、当然ながら相手もそう簡単にこちらに自由にさせてはくれない。

 少なくともこちらから見る限りではアルバートさん達の狙いは明白であったが、それを察しているのかいないのか剣の男がいつの間にか武器の間合いから外れていて、その機を狙って遠心力を存分に利用した鉄球が右から左に飛んだ。

 どう見ても何十キロとある鉄の塊を剣一本で防御することは難しく、アルバートさんは回避を余儀なくされる。

 ただ通過して終わったならまだしもプロペラよろしく何度も何度も飛んでくる鉄球を前にしては切り込むタイミングを計るのも簡単ではないだろう。

 あんな物が延々と飛び交っては各個撃破など困難極まりない。

 攻撃が目当てなのではなく、明らかにこちらの動きを制限するための行動。

 それを最初に阻止したユメールさんが鉄球の男の方へ足を踏み出し掛けたが、やはり敵のフォーメーションが邪魔をする。

 踏み出した足元に矢が刺さり、必然その足は止まった。

 そうはさせぬとばかりに弓矢の男がユメールさん一人に狙いを定めているせいだ。

 あれでは視線を逸らして援護に動こうにも無理がある。

 加えてハイクさんは変わらず多勢に無勢という状況を強いられているため二人に気を取られる余裕すらない。

 斧の男と槍の男、二人を相手にしている上に敵方はそう積極的に前には出て来ようとはせず、優位性の維持を徹底しているわ間隙を突いて魔法が飛んでくるわという形振り構わず消耗戦で削り切ろうとしている感じだ。

 やはりこっちの二人も攻撃に参加すべきか。

 そんな考えが頭を過ぎったのも束の間、相手の思惑にいつまでも乗せられている三人ではないこともまた揺るぎのない事実であった。

「アンドリュー!!! ちょっとばかり意地でも耐えてろですっ!!」

 ここには居ない誰かの名を大きな声で呼び、ユメールさんは再度糸を用いてエレベーターさながらに上空へと浮き上がっていく。

 ノームの時と同様に事前情報なくそんな姿を想定するのは困難な様で、一瞬遅れて上空へと矢が飛ぶが宙に浮きながら移動する相手を射止めるのは簡単ではなく、数本の矢は標的に触れることなく通過していった。

 そうしてまた木々を伝う類人猿の如く左右の手を交互に前に出しながら両手の糸にぶら下がり一番奥へと迫っていくと、ほとんど真上から魔法使いを狙って急速に落下する。

「どりゃあああああ! ですっ!」

 当然ながらその最中に迎え撃つ魔法使いの男が放つ魔法に狙われるものの、器用に軌道を変えて躱しながら数メートルの急降下を経て全力で男の胸元に飛び蹴りを見舞った。

 高さという威力倍増な要素に若干の遠心力を加えた全体重モロ乗りの蹴りをまともに食らった魔法使いは物凄い勢いで壁……というか後ろの巨大な門の方向へと吹っ飛び、背中や後頭部を打ち付けたのちに地面へと崩れ落ち、意識を失ったのかピクリとも動かなくなる。

 目論み自体はこれ以上ない成功だ。

 が、他の六人を見渡すも何ら変化はない。

「むむ? です?」

 ユメールさんも『思ってたのと違くない?』みたいな顔で首を傾げている。

 そして、その感想はこちらも同じだった。

 能力者は魔法使いではない?

 では誰が?

 また最初から考察し直しか。

 思いは様々あるが、頭も体も停止している場合ではない。

 何故なら間髪入れずに弓の男がユメールさんを背後から狙ったからだ。

「余所見してんじゃねえ蜘蛛猿!!」

 ハイクさんの怒号が響くと、金属音が鳴るのと同時に別の方向から飛んできたブーメランがほんの一メートル手前で矢を弾いた。

 自身も精一杯の状態だろうに、その中で仲間を守るのだからもう本当に天才としか言い様がない。

「だ・れ・が・蜘蛛猿かぁぁぁぁ!」

 すかさず怒号が飛ぶも、自分の失態だという自覚があるのかその怒りはハイクさんに向いてはいない。

 ムキーッとでも聞こえてきそうな形相で明後日の方向に走り出したかと思うと、ユメールさんはたった今弾かれて地面に転がった矢を拾い上げ、ほとんど力任せにそれをブン投げてしまった。ターゲットは弓矢の男だ。

 一見するとただ投げ付けただけに見えたものの、勢いが投擲のそれとはあまりに違っている。

 例えるならば槍投げの様な、細腕で放たれたとは思えぬ速度だ。

 いや、例え男であってもそう重量のない矢をあんな勢いで投げるのは難しいはず。

 ならば何か糸を使ってそうなる様に細工を施していると見ていいだろう。

 そんな反撃が予想外だったのか、距離が十メートル程まで近付いた上での攻撃だったこともあって弓矢の男の反応が遅れる。

 メリケンサックの男は辛うじて躱したが、防御の術を持たない男の肩口に矢が掠めると上腕を切り裂き血を吹き出させた。

 それも利き手だと思われる右肩だ。あれでは再生を伴うリセット(、、、、)をしない限り引き続き矢を放つことは出来まい。

 いや、それよりも……。

「あれだ」

「あれですね」

 クロンヴァールさんと声が被る。

 違和感に気付き、答えに辿り着いたのは横に立つ女王様も同じだったらしい。

「あ?」

 リズだけはそうではない様で、一人だけ『何わけ分からんこと言ってんだ?』みたいな顔をしていた。

「生み出す者と操る者、その二種類がいると考えるとなるほど明白だった。拳鍔の男が本体だ」

「何だって分かる」

「剣の男、斧の男、鉄球の男、槍の男は最初に絶命か致命傷を負った上で蘇ってる。そして今魔法使いの男がそうなって、他の六人に変化がない。なら残るは二択でしょ?」

「お? ああ……そうなる、か?」

「残るは弓矢の男と拳鍔の男になるわけだが、たった今の光景を見れば答えは出たも同然だ」

「何で?」

 二人でここまで説明しても分からないらしい。

 この先はもうクロンヴァールさんに任せるとしよう。

「今クリスが放った弓矢を拳鍔の男は我先に避けた。一見弓矢の男を守るための配置、であるかの様に見せておいてだ。操り手さえ無事であれば死のうが行動不能に陥ろうが復活させられ、どちらかが本体なのであれば片割れは身を挺してでも本体を守ろうとするはずだ。そこさえ守れば何度でもやり直しが可能という前提の話だがな」

「なーるへそ。それをしなかったってことは、野郎が能力者ってわけかい」

「そういうことだ。一から十まで説明させるな戯け」

「しゃーねえだろ、ウチはどうにもチェスやカードは性に合わない質だからよ。チマチマ計算だの推理すんのはかったりい」

「お前の好みなど知ったことではないが、とにかくあれを仕留めろ」

「ヘイヘイっと。ったく、物理専門の連中ってのは対応力が足りなくて困るね」

 面倒臭そうに愚痴を漏らしながらも、リズは杖を構え矢を放つ構えを取った。

 何度も見た、真っ赤な魔法の矢だ。

「ま、見物も待ち時間も飽き飽きしてきた頃合いだ。そろそろ死んでなくだらねえ(トラッシー・)インチキ野郎(コン・マン)

 赤い光の筋が、リズの手を離れる。

 向かう先は言わずもがなメリケンサックの男がいる方向だ。

 だが、見た目が派手なだけあって敵に気付かれぬ渾身の不意打ちとはならず、赤い魔法の矢は弓の男の元に到達する前に軌道上に割り込んできた鉄球によって粉砕されてしまった。

 視界の端では魔法使いが今にも立ち上がろうと動きを取り戻してはいるが間に合うタイミングではなく、そうなると弓矢とメリケンサックでは魔法に対する防御策はない。

 つまりはあの鉄球こそが唯一の妨害手段であることは間違いないが、あちらもあちらで重量があるだけではなく鎖の先に繋がれているというのに何とも器用に操るものだ。

「あり? やっちまったか?」

 失敗の二文字が頭を過ぎる。

 そんな中、その光景を目にしてなお別段焦るでもなく悔やむでもなく、どこか暢気な口調で杖を下ろすリズは何を考えているのだろうか。

 ギロリと鋭い目を向けるクロンヴァールさんの視線の意味が『真面目にやれ』という意味ではなく『いつまでチャラけているつもりだ馬鹿者』的な意味だと理解したのは直後のことだった。

 打ち消されたかに見えた魔法の矢はそこで消失することはなく、破裂する様に一帯に炎の群れとなって姿を変えて爆散する。

 繰り返しになるが盾や魔法といった対抗手段を持たない弓の男とメリケンサックの男は花火の如く飛び交う火の玉を防ぐことが出来ず、複数箇所に被弾し炎に包まれた。

 衣服が燃え上がり傷みと苦しみに悲鳴を上げ、必死に火を消そうと藻掻き続けている。

 しかし、少なからずダメージを与え戦闘の継続が困難な状況に追いやってはいるが、あれでは仕留めたとは言い難い。

 あのリズが魔法を命中させた上でそうした意味は何だろうかと考えた時、奇しくも本人が答えを口にした。

「おら三下共、お膳立てはしてやったぞ! トドメぐれえてめえ等で入れやがれ!!」

 なるほど、最後だけ横槍を入れて手柄を横取りするのを遠慮したのか。

 いや……遠慮したのか、そこまでしてやる義理はねえ的な発想なのかは怪しいところだけども。

「言われなくてもそのつもりだボケェ!」

 触発されて、というわけではないのだろうけど、戦っている時間も随分と長いこともあってハイクさんもテンションが滅茶苦茶になっている。

 気を抜いてなくとも一歩間違えば、或いは何らかの不確定要素によってあっさり、いつどのタイミングでも命を失うか、そうでなくても大怪我をする可能性が大いにある状況にこれだけ長い時間身を置いているのだ。

 僕にしてみれば精神的にまともで居られる方がおかしいとさえ思えるレベルの熾烈さ苛烈さだろう。

 だからといってあの人が冷静さを失っているとは思えないのでどちらかと言えば単純にリズにイラついただけだと信じたい。

 そんなハイクさんは対峙する二人の動きが分身を生み出した能力者だと思しきメリケンサックの男が火に包まれたことによって止まった隙を突き、巨大なブーメランを片手でぶん投げた。

 鉄球程ではないかもしれないけが、あれもあれで重量がある武器だ。

 正面から風を切る音を重ねながら飛んでくるそれ(、、)を一本の武器で受け止められるはずもなく、槍の男と斧の男は咄嗟に身を躱すという選択を余儀なくされる。

 それどころか軌道の直線上にいる、今まさに復活を成した奥側にいる魔法使いにすら回避を強いるという計算された攻撃だ。

 これも同じ話の繰り返しになるが、あの巨大ブーメランは刃も付いない打撃用の武器であるため一度投げ飛ばしてしまえば手元に戻って来るということはない。

 それでも武器を手放すという選択をしたのは、リスクを承知の上で敵がほぼ一人に絞られた現状を踏まえて勝負に出たことの証明なのだろう。

 距離があったため弓矢の男も流石に反応し直撃を避けたため巨大なブーメランは壁にぶつかり地面を転がる。

 それでも狙い通りに正面の三者全ての動きを一時的に封じることは出来た。

「旦那!!」

 そして絶妙なタイミングでアルバートさんへと合図を送る。

 直前に巨大ブーメランを投げたのとは逆の手で二本のブーメランが放たれていて、位置関係で言えば今や唯一の標的であるメリケンサックの男を仕留める役を担うに適しているアルバートさんの行く手に立ちはだかる剣の男と鉄球の男へ小さな弧を描きながら向かって飛んで行った。

 それ自体もやはり距離がある分そう簡単に仕留められるものではなかったが、まさに阿吽の呼吸とばかりにアルバートさんが気を取られた瞬間を見逃すことなく剣の男を切り伏せ、そのまま猛ダッシュでメリケンサックの男へと突っ込んで行く。

 残るは鉄球の男だが、

「させるかぁ~です!!」

 ブーメランを回避するなりアルバートさんの特攻に気付き、攻撃態勢に入った鉄球の男は上空から振って来たユメールさんの飛び蹴り……というかほとんど両足で踏み付ける様な気の毒としか言えない一撃であったがとにかく、ぐしゃりと潰される様に地面に押し付けられ動かなくなる。

 こればかりはチームワーク、すなわちユメールさんも同じく展開を先読みしていたとかではなく飛び散る炎の巻き添えになりかけたため咄嗟に上空に避難していたことが結果オーライみたいな感じっぽいけど、それでもこれでアルバートさんを阻む者は消えた。

 そのまま素早く迫っていくと、苦しみ藻掻きながらも衣服と肉体に灯る炎も消えつつあるメリケンサックの男の首筋を切り裂き、絶命必至の傷を刻み付ける。

 男は鮮血を吹き出す首を抑えながらよろよろと数歩後退するもそこで力尽き、背中から倒れ込むと一切の動きを失った。

 もしこれで何も変わらなかったらどうしよう。

 そんな不安と恐れは少なからずあったが、祈る思いで右に左にと辺りを見渡してみるも倒れるメリケンサックの男を除く六人の神官の姿はどこにもなく、ただただ地面に衣服と武器だけを残して消えていた。




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