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勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている  作者: まる
【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている⑪ ~Road of Refrain~】
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【第三十九章】 ヘヴンズ・ゲート


 クロンヴァールさんの合図に従い、一番離れた位置に居た僕とリズもすぐに向かった。

 上空から降りて来たユメールさんに距離を置こうと離れていたハイクさん達もすぐに駆け付け、最後に僕達が追い付いたところで全員がノームの元に集まる。

 未だ倒れたままでいるノームに見た目で分かる大きな外傷はなさそうだが、最後のあれが決定打になった様で意識や呼吸に問題はないながらもすぐに立ち上がるのは難しいみたいだ。

「最後のオーブは手に入れた、これで戦いは終わりだ。私達はこのまま先に進む」

 その宣言を受け、全員が武器を収めた。

 合流の最中に土人形も全て消え、そこかしこで土の山を作り上げている。

 残ったのはいかにも戦場跡の如く、ボコボコでぐちゃぐちゃな大地だけだ。

「これより天帝の元へ向かうことになるが、町の物には一切手を触れるな」

「御意」

「了解だ」

 二つの返事を受け、クロンヴァールさんはノームといくらかの会話を交わして町の方へと歩いていく。

 どういう方法で意思や指示を伝えたのか、門番だと思しき二人の人物は何事もなく門を開き一礼を以て僕達を見送ってくれた。

「なあ姉御よ、あの堅物をどうやって説き伏せたんだ?」

 声が届かない程度に門から離れると、きょろきょろと町の様子を見渡しながら煙草に火を着けるハイクさんがふと疑問を口にした。

 それに関しては僕も気になっていたので聞いてみたいところである。

「なに、娘の話をしてやっただけだ。帰って来る我が子を待たず、負けを認めて殺してくれなどとは言うまいな、とな」

「なるほど、痛いところを突かれたわけか」

「奴にも奴なりの信念があったのだろう。己の守るべき物のため清濁併せ飲むにも覚悟がいるのだろう。耐える戦いを選んだことを否定はせんが、やはり惜しい男ではあったな」

「そういうもんかね」

 どこか興味が無さそうに白い煙を吐き、再び持ち場である『急襲に備えるための先頭』へと戻っていく。

 それからはユメールさん以外に口を開く者もおらず、これといって問題や騒動が起きるでもなく町の中心を真っ直ぐに繋ぐ大通りを歩いた。

 町並みは平素の有り様とは違っているのが一目で分かるぐらいには静かで、外であれだけの音やら揺れやらがしていたこともあって人の姿は全く無い。

 それでも最初のサラマンダーがいた村とは比べものにならないぐらいに栄えていて、道は整備されているし建物も店もたくさんあって、右にも左にも綺麗な町並みが広がっていた。

 ウィンディーネさんの所もそうだったけど、なぜ同じ神でもこうまで統治する人によって差が出てしまうのだろうか。

 そんなことを考えながら、最後の戦いが近付いていることへの緊張感を胸に町の中心を進んでいく。

 一人一本を飲み干した回復薬のおかげで体力だとか疲労度的には多少楽になった感じはするが、今からすぐに次の敵が待っているのだから洒落にもならない過酷さである。

 洞窟の化け物達を含め、この三日でどれだけの戦いを経てきたことやら。

 それでいて大きな傷を負っている人がいないのが幸いというか奇跡だ。

 世界樹がどうのという説明ぐらいは聞いたことがあるけども、だからといって何の成分が入っているのかもサッパリ分からない変な味のするあの水では体力面以外で言えば痛みを多少和らげたりする効果はあっても傷を治したりすることは出来ない。

 僕以外の方々は細かな生傷を多かれ少なかれ負ってはいたのだけど、それに関してはユメールさんの回復魔法によって治癒している。

 とはいえ体力を回復し、小さな傷を癒しても魔法力の消耗ばかりはどうしようもないのが懸念材料といったところか。

 クロンヴァールさんもリズも残り一人ぐらいならばどうということはないと口を揃えるのだから心底頭が下がる。

「おい猿、お空で遊んでただけのお前にゃ分かんねぇだろうが一番の功労者はうちの旦那だってことを忘れんなよ」

 大通りも半ばを過ぎた頃、ひたすらにクロンヴァールさんを持ち上げるユメールさんに苛立ったらしいリズが普通に後ろから蹴りを入れた。

 言うまでもなくユメールさんもノータイムで喧嘩を買う人である。

「はああん? 後ろで見ていただけのそいつに何の功があるってんです~?」

「んだコラ、ぶら下がってただけのお前より二千五百倍役に立ってるっつーんだよ」

「まあまあ……」

 また顔を突き付け合いだしたので隣にいる僕がすぐに引き離しに掛かる。

 僕の何倍も疲労や痛みは残っているだろうに、喧嘩する元気が残っているなら逆に一安心だよもう。

 他の人達が多弁なタイプじゃないだけに、この二人がいなければ変にシーンとしてしまって空気が重くなるかもしれないしね。

「僕個人の貢献度なんて微々たるものだから。皆さんの覚悟や積み重ねた技術とか経験のおかげで勝てたんだよ」

「そう己を卑下するな。水を降らせたのはお前の指示なのだろう、あれがなければ為すすべなく終わっていた可能性は十二分にあった。敵が敵だけにこういう場面は毎度訪れる、そしてその度にお前の存在が生きていると私も評価している」

「そういっていただけるのは恐縮ですけど、口だけ出しているみたいで後ろめたくもあるので複雑な心境ですね。せめて外から口を出したり手を出したりぐらいはしないとお荷物もいいところですから」

「ケンソンが過ぎるぜダーリンはよぉ」

 やってらんねぇぜ、とばかりにオーバーなリアクションで両腕を広げるリズとそれを見て微かに笑うクロンヴァールさん、そして納得がいくとかいかないではなく興味無さそうなユメールさん。

 評価は三者三様であったが、僕としては皆が無事で終われたのなら何だっていい。

 恐ろしく危ない橋を渡ったのは事実だし、あれはノームの人柄によって勝手非戦闘員ではないと判断し蚊帳の外に置いてくれていたがゆえに可能となった行動の数々なので運の要素も大いに関係していたと言えるだろう。

 なんて一人反省会をしていると、クロンヴァールさんから不意に真剣な眼差しを向けられる。

「それはさておきコウヘイ、ノームの去り際の言葉は事実だと思うか?」

「う~ん……そればかりは今の段階では何とも」

 ノームの去り際の言葉。

 というのは当然ながら町に入る直前の話だ。

 その一つにこんな質問があった。

 天帝の強さは如何ほどか、と。

 答えはこうだ。

『個の戦闘力であればノームやウィンディーネとそう変わらない』

 そして、

『それでも天帝を討つことは絶対に出来ないだろう』

 そうハッキリと口にしていた。

「ここにきて僕達を騙す様な人だとは思えないですけど、意味深な部分をどう考えるかですよね。ノームやウィンディーネさんと同等ってだけでも正直どう転ぶか分からないレベルなわけですけど、それでもここまでは来られたことも事実。それでいて絶対と断言する理由がどこにあるんでしょう」

「引っ掛かるのはそこだな。強さ以外にそう言い切れるだけの何かがある、と見るべきだろう。それは(ゲート)の性能によるものか、それとは別に独自の能力を持つのか。いずれにせよノームやウィンディーネと互角というだけでも一苦労だな」

「買いかぶり過ぎだっつーの。贔屓目がどうであれウチ等が勝ってんだ、こっちも制限無しでヤれるんなら負けやしねえぜ。そりゃタイマンでもねえのに偉そうなことは言えねえけどよ。何なら次はウチ一人でやってやんぜ」

「侮るなエリザベス、確実に勝てるのならこの期に及んで貴賤を問うつもりはない。最強の(ゲート)を持っているであろうことも踏まえると、先程と同様に戦況がどうあれ技一つで全て引っ繰り返す力を持っていることを忘れるな」

「そんなもんかね」

 あまり納得していなさそうなリズだった。

 しかしながらクロンヴァールさんの言う通り、神の持つ(ゲート)はどれだけ人知を超えた力を発揮するのか一切分からない。

 いや、人知を超えているのは僕の周りの人達も同じなんだけど、魔法を極めてだとか剣術を極めて到達する域というのとは全く別方向にぶっ飛んでいるため知らない状態で事前に対策なんて出来ないし、そういった努力と研鑽で得た力を持つがゆえに予測したり原理を解明したりという法則に外れているのが難題となって降り掛かるわけだ。

「しかしまあ、お前の言う通り次が最後だ。その先のことなど考える必要もない、思う存分ぶちかませ」

「任せときな、一撃で消し炭にしてやらあ」

 どうしてもこの二人が攻撃役のメインになる。

 そんな危険を担わせるのだから僕もさっきみたく頭をフル回転させて皆を安全と無事、勝利に導くんだ。

 密かなるそんな決意を胸に町を進んでいくことしばらく。

 大通りを抜けた先、一番奥にあったのはノームの住居であろうアラビアンナイトに出てくる様な球根型の大きな宮殿だった。

 驚きと感心を胸にそれを回り込み、その奥側まで歩くと目的の物と思しき巨大な門がある。

 町に入った当初は宮殿の影に隠れて見えていなかったけど、こうして目の前まで来てみるとただならぬ異様な雰囲気がはっきりと感じ取れた。

 幅は凡そ十メートル、高さはその倍にもなろうビルみたいなサイズの巨大かつ強固な門が聳え立ち、向こう側は一切見えない様になっている。

 これが彼等の言う天上門(ヘヴンズ・ゲート)であることは疑う余地もない。

 こうも巨大だとどれだけの力を持っていたとしても人の手で開閉出来る物なのか、と言いたくなる程の規模のせいで門というよりはむしろ壁みたいな状態だ。

 それでいて閉じた両開きの扉の中心、手の届く高さに八つの穴が空いているのが遠目からでも分かる。

 サイズからみてもここまでに集めてきた宝珠を填め込むための物に間違いないはず。

 この辺りの造りは先日通った洞窟と同じ仕様であるらしい。いや、普通に考えるとあっちがこれのレプリカなのだろうけど……。

「姫様」

「うむ、特に罠らしき何かの気配は感じられん」

「ではオーブを」

 アルバートさんが四つの球を受け取ると、皆が扉に空いた穴に視線を集める。

 左右に四箇所ずつある穴に区別するための文字や模様などはなく、つまりはどこにどれを入れてもよいということなのだろうか?

「罠があったらご愁傷様だなロン毛隊長。骨は拾ってやるから喜んで人身御供になれ」

「ははは、それは出来過ぎたジョークだ」

 リズの毒舌も華麗に受け流し、アルバートさんは扉に四つのオーブを填め込んでいく。

 その行為に意味があるかどうかは定かではないが、一応左右それぞれに二つずつになる配置で、だ。

 一つ、また一つと水晶を押し込み最後の一個の設置が終わると、ほとんど同時に頑強な扉が自動で開き始めた。

 ゆっくりとした動きで、向こう側に傾いていく二枚の鉄の塊は少しずつその先の景色を晒していく。

 動き続ける扉の角度が半分を超えた時、目に入った凄まじい光景に誰もが思わず言葉を失ってしまった。

 扉と同じだけの幅しかない道が数百メートル先まで続いていて、両脇は底など見えないぐらいに深くどれだけの高さがあるのかが分からない真っ暗な空洞がどこまでも広がっている。

 何に釣られているでもないのに浮いている状態の足下から続いている道、そしてそれ以外の全てを占める黒一色の闇。

 まるでここから先だけが別の空間であるかの様な異質さが否応なしに進もうとしていたはずの足を止めていた。

「また随分とそれっぽいもんが出て来やがったな」

「神秘的ってだけだろ。とんだコケ脅しだぜ、どいつもこいつも」

「これといって罠や敵が待っているということはなさそうですが……」

「天の帝を名乗る輩だ、乗り込まれて困ることもないとでも言いたげではないか」

「進んでも大丈夫そうですか?」

「問題があるとは思えん。ひとまずはあの扉まで行ってみるとしよう」

 平たい足場が何百メートルと続いた先には目の前にある巨大な門と似た様な扉があり、その奥には建物と思しき屋根や装飾の一部が所々に見えている。

 あの扉が天帝のいる場所に繋がっていることは一目瞭然だけど、それとは別で脇に小さな扉が並んでいるのが気になるところだ。

 それらが何を意味しているのかは近付いてみないと推測のしようもない。

 どのみちここが最終目的地だ。皆が危険はそうないと判断したのなら、行くしかないだろう。

 クロンヴァールさんの決断を受け、例によってハイクさんとアルバートさんが先頭を歩き、その後ろをクロンヴァールさんとユメールさん、最後尾に僕とリズという配列で末恐ろしくも宙に浮いた足場を歩いていく。

 柵も無ければ手すりも無い、剥き出しの吊り橋みたいな道を一人だけビクビクしながらというのが何とも情けないけど……むしろ何故あなた達は平気そうなのかといつか聞いてみたいものだ。

 そんな不安たっぷりな心の内とは対照的にこれといって何が起きるでもなく五分足らずで扉の傍まで辿り着いてしまった。

 そのタイミングで全員の足が止まる。

 やはり先程の天上門と似た造りとデザインの巨大な門の周辺は、明らかにそこだけ面積が増しておりあからさまにここで一戦交えてくれと言わんばかりの形状をしていたからだ。

 今目を向けるべきは僕達が潜らなければならないはずの巨大な門ではなく、脇に並ぶ小さな方の扉の方だと状況が物語っている。

 鉄製でも立派でも無い木の扉が右に三つ、左に四つの計七つ。

 そしてそれぞれの前に上下一体の白い装束を纏い顔が布で隠れる様になっている帽子みたいな物をかぶった男が立っており全員がこちらの動向を窺っていた。



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