【第三十五章】 使命
翌朝、屋外で一夜を過ごすという初めての体験はアルバートさんに起こされたところで終わりを告げた。
以前サントゥアリオで半野宿みたいな経験をしたことはあるにはあるのだけど、あの時は馬車の中で眠ったので正確に言えば空の下で眠るのがという意味になるのだけど。
「ふわぁ……」
大きなあくびと共に伸びを一つ。
辺りは確かに夜明けという景色ではあるものの森の中ということもあってそこまでの明るさはない。
真っ赤な炎が辺りを照らしていたとはいえ少なからず就寝に当たっての不安があったのだが、それでも今日に備えるためにと思えたのは二人が外で見張りをしてくれていたからだろう。
のんびりと過ごしている時と場合でもないため軽く挨拶を返し、既に朝食の準備をしているハイクさんにも挨拶してリズを起こすことに。
「お二人ともご苦労様です。体調は大丈夫ですか?」
「一晩でどうこうなる程ヤワな訓練しちゃいねえよ、要らん気を遣うな」
ハイクさんは平然と言ってのけ、煙草の煙を天に向かって吐くだけだ。
さすがは軍部や国家の中核を担う人物といったところか。
そんなやり取りの間にアルバートさんは小屋の扉をノックし、クロンヴァールさんに呼び掛けているしとことん役割分担が徹底されている洗練された組織という感じだ。
とうに起きていたらしい二人はすぐに小屋から出て来たのだが、着の身着のままで旅をし野宿をした一団に属しているとは思えない程にキッチリとした身なりだった。流石王様である。
まだ半分寝息を立てているリズを起こして服を着てもらい、クロンヴァールさんやユメールさんと共に昨夜魚を取ったという川で顔を洗って皆が揃ったところで朝食をいただくことに。
それぞれがパンを一つずつ。
これはウィンディーネさんの所で貰ってきた物だ。
贅沢を言うものではないけど、日本と比べて味が薄いなぁとか思いながらモサモサとパンを頬張りながら黙ってクロンヴァールさんが夜間の報告をさせているのを隣で聞いていた。
二人はまさに業務連絡さながらにあった事、なかった事、気付いた事をすらすらと述べていく。
表情も態度も寝不足すら感じさせない普段と変わりない様子だ。
この人に限らず誰もが体力的な面でもそれ以外の面でも弱音を吐くタイプではないので実際にはどうなのかというのがあまり分からないのが悩み所である。
とはいえ僕などとは基礎体力も肉体の強さも比べ物にならない程に差があるのでお門違いな心配だった場合のことを考えるとしつこく口にするのも憚られるのがいつだってジレンマといったところか。
先程本人も口にしていたけど、軍隊に属している以上は当然そういう訓練もあるのだろう。
見る限りでは今のところ少なくとも目に見える影響は特に無いし、ぐっすり眠っていた僕が言うのもなんだけど寝不足がどうのと言っていられない状況であるのも事実。
「ダン、アルバート、体調に問題はないな?」
「だから問題ねえっての、たかだか一晩寝ずの番をしたぐらいでどうにかなるかよ。マードックのオッサンにどんだけやらされてきたと思ってんだ」
「ふっ、そう言われては返す言葉も見当たらん」
「ま、敵が出た時にゃウチがちゃちゃっと蹴散らしてやっからてめえは後ろの方で寝てりゃいいさ」
「是非そうしてくれ。今日もこっちで一泊なんてことになりゃ次はお前とユメ公の番だからな」
「はっ、途中で寝落ちする自信しかねえや」
「右に同じく、です」
「何で揃ってドヤ顔してんだ、ぶっ飛してでも叩き起こすぞ」
露骨にイラっとするハイクさんだったが、そうして一応は話も纏まり最後に昨日の残りである洋梨みたいな果物をいただいて朝食の時間を終え、それから軽く僕とユメールさんで小屋を片付け、火の始末をしたところで出発の時を迎える。
言わずもがな目的地は森を抜けた先にあるメリアという最後の都市だ。
地図上では小さな大陸……なのかイメージの通り空にでも浮いているのかは分からないけど、この天界における最北部にある町であり、その先には神の中の神とされている天帝がいる楽園へ繋がる道があるだけの最果ての地というわけだ。
ハイクさん、アルバートさんが言うには周囲一帯に人らしき気配は無いらしく、それすなわち追っ手や刺客に包囲されていたり襲撃されたりという心配はないらしい。
迂回して回避するには時間が掛かり過ぎるぐらいに横に広く、結構な奥行きがある森だ。
かといって通り抜けるにしても大雑把な地図であるがゆえに真っ直ぐに抜けられるのかも、道中に何があるのかもさっぱり分からないのが不安要素であることも間違いないだろう。
なんて夜な夜な一人で考えたりもしたのだけど……流石は経験豊富な二人。
明け方に中程まで下見に来てくれていたらしい。
出来るだけ見通しが良く障害物の無い道を選び、目印に剣で木に傷を付けて辿れる様にしておいたというのだから本当に頭が上がらない。
おかげで特にトラブルやハプニングに行き当たることもなく森をしばらく歩き、半ばを過ぎ、やがて木々に遮られた景色が薄れ始めたことで前方が明るさを増してきたのがはっきりとしてきた頃。
不意に先頭を歩くリズが足を止めた。
「おい、ありゃ一体何だ?」
「……子供?」
思わず声が漏れる。
前方やや離れた位置、木々の群れの中の開けた原っぱみたいな場所に小さな人影がある。
まだ薄っすらとしか見えていないけど、少なくともシルエットは間違いなく子供のそれだ。
「この地をよく知らん私達にしてみれば不可解な光景だな。襲ってくる類いの何かだとは思えんが……」
「ひとまず接触してみましょう。皆も一応の警戒を」
「旦那、俺が行こうか?」
「ウチもガキを黙らせるのは得意分野だぜ~?」
「いやいや、君達みたいな悪人顔が近付いて行ったらあっちが警戒しちゃうでしょ」
「そりゃそうだ」
と愉快そうに笑うリズに『少し待っていてくれ』と言い残し、アルバートさんが一人で子供に近付いて行く。
まあ確かにこの中で一番子供を怖がらせなさそうなのはアルバートさんか僕かという話になる。
だからといってここで僕が単独行動をするのはおかしな話だし、この人選も致し方なしか。
「あんな子供がこんな森の中に一人で居るということは、少なくともこの辺りは平和ということでしょうか」
手持ち無沙汰というわけではないが、待つだけの時間になるとまた三人による不毛な言い争いが始まるかユメールさんがイチャイチャし始めるので先回りして話を振ってみる。
その何者かから決して視線を外すことなく、クロンヴァールさんは皮肉っぽく笑った。
「この地の連中にとっての平和が何を意味するのかは分からんが、少なくとも何らかの脅威に晒されている状況ではないのだろう。我々の世界と違って魔族だの魔獣だの神の手先だのが世を荒らすでもなし。むしろ連中にとっての脅威というならば今の我々がそれに該当するともいえる」
「なるほど……それは確かに」
「盗賊だの革命家などが存在するのかどうかは知ったことではないがな」
そこには国という概念がなければ争いもそうは起こらない、という有り方が定着しているのかもしれない。
この天界には支配する者とその下にいる者がいるだけ。
各都市や町、村を治める神がいて、その神を支配する天帝がいる。
中立という立場の存在が許されても対立は許されない。
それが今までに聞いた追放されただとか自ら神の座を降りただとかという現状に繋がっているわけだ。
ウィンディーネさんの自称やクロノスの言葉を信じるならば神という肩書を持つ人達は何百年という人生を持っている。
ならばその体制や統治はいつから続くものなのだろうか。
考えれば考える程に疑問が湧いてくる本当に不思議で謎が多い世界だ。
無事に帰れたら一度この世界の歴史書を読んでみようかな。いや、それだったらノスルクさんに貰った本の方が先か。
「首尾は?」
あれこれ考えながら待つこと数分。
特に何が起きるでもなく、しゃがんで子供らしき人影と会話をしていたアルバートさんが戻って来た。
すぐにクロンヴァールさんが報告を求める。
「至って普通の女の子でした。この先にあるメリアに住んでいるらしく、ここには花を摘みに来たとのことです。特に僕を警戒したり怖がる様子もなかったので庶民には我々の存在は伝わっていないのかもしれませんね」
「伝わっていないにしても戦いを経てここまで来ていることは分かってんだろ? 安易に、それもガキが町の外に出ることが許されるってのは少々お粗末な対応に思えてならねえが……」
「ダンの言い分ご尤もではあるが……コウヘイはどう考える」
「どういう方法でどこまでが伝わっているかによりけりではないかと。情報をどういう手段で伝えているのかは分かりませんけど、最初の村を過ぎて以来僕達が遭遇したのはウィンディーネさんとクロノスの二人。僕達が不利になる様な報告を敵対することを分かった上で回すかといえば少なくともウィンディーネさんはそうはしない気もします。中立を宣言するクロノスは難しいところですが……最初にバーレさんが来た時みたく各地で見張っている誰かがいないのであれば対処の前に僕達がここまで来たことが伝わっていない可能性もあるのかなと。最初のサラマンダーからして与えられた役割をしっかりとこなすタイプではないと言っていましたし、下手をすれば侵入者、侵略者の存在すら知らないパターンもゼロではないですけど、最悪でも洞窟を突破したことぐらいは把握しているという前提で臨むべきだとは思います」
「ふむ……それも概ね納得のいく見解だな」
「不安を与えないために一般市民には知らせない、というのは分からなくもないですけど……その上で通常どういった対応を取るものなのかは僕には想像が及ばないので何とも」
「下手に外出禁止令などを発布すれば何かあったと周知しているも同じだからな。脅威の度合いにもよるだろうが、私なら少なくとも全ての門を閉ざし町への出入りを制限する。無論その脅威を迎え撃つための軍を配備出来るならばという話だが」
「なるほど……」
と、僕が納得していると隣で『小難しい話してんなぁ』みたいな顔で聞いていたリズが何かに気付いた風に割って入った。
不安、というよりはむしろちょっと楽しそうなのが逆にこちらにしてみれば不安だ。
「てことはよぉ、次のカミサマは全軍総出で待ち受けてるってことかい御姫」
「我々の理屈であればそうするというだけの話だ。敵が同じ思考なのであればやはり子供が一人でこんな所に来ているのは不自然だと言えよう」
「それらの準備、行動に出る前に町を出ていただけ……という可能性は否定出来ないんでしょうけど、さすがにおかしいですよね」
「そう、そんなものまで憶測の要素に加えていてはキリがない、ということだ。余計なことまで考えていても仕方がない、分かったなエリザベス」
「へいへい、要するに出て来た敵は片っ端からぶっ潰せってことだな」
「そもそも僕達の情報が伝わっている、伝わっていないの話からして憶測だからね。ウィンディーネさんは少なくとも僕達が来るのを把握して待ち構えていたわけだから、自分の領地周辺を見張っていることはほぼ間違いないだろうし。何なら最初のサラマンダーみたく民草の事の生活や治安維持に無関心なだけって可能性もあるだろうし」
「ま、ダーリンに分からねぇもんはこの世の誰にも分からねえって話だな。考えたって無駄ならサッサと進もうぜ、森林浴なんざ趣味じゃねえ」
「そうするとしよう。アルバート、他に聞き出せた情報はないな?」
「はい。執拗に質問を続けて怖がらせるのもどうかと暗くなる前に帰るようとだけ伝えて打ち切りましたので」
「けっけっけ、そりゃあんたの人生のおける最高のジョークだぜロン毛隊長よぉ。その頃には帰る家ごと町がなくなってるかもしれねえってのによ」
「リズ……そういうこと言っちゃ駄目だってば」
とてつもなく後味悪いよそれ。
罪悪感が増すというか、こっちが悪いことしてるみたいな気持ちになっちゃうから。
いや……相応の正当性だとか大義名分はあるにせよ間違っても良い事をしているとは言えないのだろうけど。
そんな僕の心の内に何人が同調してくれているのかは分からないが、何はともあれ敢えて傍を通り過ぎて例の少女を怖がらせるものでもないだろうと少しばかり回り込んで森の出口を目指すこと十分少々だろうか。
ようやく森の出口まで辿り着いた僕達は、すぐそこにある目的地を前に一度足を止めた。
およそ三百メートル先には既にメリアと思しき町が見えている。
対比出来る唯一の要素である地図にある通り、アプサラスほどではないにせよそれなりの規模がある大きく広い町のようだ。
しかも全体が丸太で作られた柵の様な物で覆われているため敵襲対策もばっちりという始末。
高さは軽く五メートルぐらいはある上に見るからに頑丈そうなので一つだけある出入り用の門を通る以外に中へ足を踏み入れることは難しいだろう。
といっても組み上げた丸太ぐらいならまとめて吹き飛ばす能力をお持ちなんだけど……その必要性を疑わざるを得ない一つの人影が、まさしく僕達が立ち止まった理由であった。
森の途切れ目から前方に見える町。
その間には砂埃の舞う一面の砂地が左右いずれも地平線にまで続いている。
位置関係で言えば僕達とメリアのちょうど真ん中辺りだろうか。
そこに、一人の男の姿があった。
身長は虎の人ぐらいの大きくがっちりとした体格の誰かは、微動だにせずこちらの存在に気付き仁王立ちで視線を向けていて動く気配はない。
「どうやらウチ等の動向はきっちり把握されてみたいだぜ御姫よぉ」
「そうらしいな。だがあの女神も然り、一人で待ち受けるのは軍隊を持たぬがゆえか所持していながらにして巻き込むまいとしているのか」
「単に一人で勝てると思ってるだけって線もあるぜ」
リズとクロンヴァールさんの会話に割り込んだハイクさんの目付きはいつになく鋭い。
恐らくではあるけど、ただならぬ雰囲気を肌で感じ取ってのことだろう。
これだけ離れていても漂ってくるピリピリした空気は僕ですら分かるぐらいだ。
あれが推測通りこの地を治める神なのだとしたら……なるほど確かに只者ではない様子を否応なしに理解させられるだけの威厳と風格が見た目や雰囲気からも伝わってくる。
「そうは言うですがダン、そこまでやる気満々って感じでもないぞです」
「今のところは、だけどね」
ユメールさんの言っていることの意味までは僕には分からない。
が、アルバートさんが同意するあたりは事実だと考えてよさそうだ。
このパターンはウィンディーネさんの時と同じであるならばこちらが問答無用で攻撃を仕掛けたりしなければ少なからず話をする余地が残されている可能性が高い。
「クロンヴァールさん、あちらに対話の用意があるのならひとまず行ってみましょう」
「いきなり攻撃をされるでも伏兵が潜んでいるでもなさそうだ。それが最善だろうな」
「では僕とエリザベスちゃんが先頭を歩きます。エリザベスちゃん」
「はいよ」
そういう感じや雰囲気ではない。
という根拠が無警戒でいいという理屈に繋がるはずもなく。
万が一の奇襲、強襲に備えるアルバートさんとどちらかというと戦闘になった場合に我先に参加したいという理由の方が勝っていそうなリズが素直に前に出る。
何らおかしな話ではない。
ナディアの仲介で戦闘を回避出来たウィンディーネさんとは違って目の前にいるノームは最初から交渉の余地はないという話なのだ。
今この瞬間に相手がどういう腹積もりであろうと、僕達にある選択肢はその一つだけ。
相手は天帝に従順であるという話で、戦いを回避出来る可能性は低いどころかほぼない。
それでも進む方法がそれしかないのなら互いが互いの譲れない物のために……力と力をぶつけ合うしかないんだ。
「全員有事に備えろ、行くぞ」
クロンヴァールさんの号令によって歩き出したアルバートさん達の後ろに続き、砂地を進んでいく。
その距離が数メートルにまで近付いたところで、もう一度全員が立ち止まった。
いきなり舌戦が始まるわけでもなく、双方がただ無言で静かに視線をぶつけ合う時間が自然と出来上がる。
こちらが持つ情報は【大地の守護者】の肩書きを持つノームという神であるということぐらいか。
見た目の年齢は四十前後に思えるけど、昨日知ったばかりの神の寿命を考えると実際に何年生きているのかは一切分からないな。
外見はというと、他の神と似た丈の長い白と青が混ざったワンピース型の司教みたいな服装で、頭には布の部分が眉間と側頭部の辺りにまで垂れている帽子と一体になった様な王冠をかぶっているという何とも独特な格好をしている。
いかにも高貴さ神聖さを感じさせる佇まいと風貌。
それだけでも恐ろしさが伝わってくるのは神という存在の強さを前例が示しているからだろう。
ならばどう出るべきかと、考える中で静寂を破ったのは意外にもノームの方だった。
「貴殿等が地上の民であるか」
低く、およそ怒りや敵意を感じさせない落ち着いた声色。
言葉を返すのは当然のことクロンヴァールさんだ。
「いかにも。ああ、念のために聞いておいてやるが大人しくこちらが欲する物を寄越すつもりは?」
「あり得ぬ。こちらにもメリアと天上門を守るという使命がある」
「なるほど、ではこれ以上の問答は必要ないな」
「一つ問う」
「聞くだけは聞いてやる」
「ここに来る途中で娘を見なかったか」
「森の中で花を摘んでいる女児ならば一人見掛けたな。怖がらせるものでもないと一声二声掛けて別れたが……貴様の娘だったか?」
「左様、一人で町の外に出ないようにと言ってあるのだがどうにも好奇心が勝ってしまうらしい。しかし、貴殿等も単に狼藉者というわけではないようだ。ならば敢えて守護者と侵略者という認識は捨てよう。だが互いに譲れぬ物があるその事実を変えることは出来ん、ゆえに……仕合うとしようぞ。私が勝てば天界を去れ、貴殿らが勝てばオーブは譲ろう。無論、町に手出しせぬと約束するならば、の話ではあるが」
「初めから無関係な者には指一本触れておらぬわ。攻撃されぬ限りこちらから手出しすることはない。貴様も吐いた唾を飲み込んでくれるなよ」
「承知した」
会話が止んだ少しの間で、前にいるアルバートさんとリズの間に割って入ったクロンヴァールさんが剣を抜く。
続いて二人も同じく武器を手に取ると、その剣の先をノームに向けた。
「最後に一つ、こちらからも聞いておく」
「聞くだけは聞こう」
「民を思い単身そこに立つ貴様は、ここで敵を前に一端の父親面を見せる貴様は、本当にその使命に準ずることを是と思っているのか?」
「…………」
「我々の世界の何十万、何百万という命を根絶やしにしようと謀り、結果こうして報復のために攻め込まれている現状を目の当たりにしても、己の言に誇りを持てるのか?」
「…………」
「こちらが少数精鋭を選択したからよかった様なものの、判断一つ違えば万を超える軍勢でやって来ていたかもしれん。貴様等がそうした様に無関係な民草を根こそぎ巻き添えにしながら進軍してきたかもしれん。それでも、その使命とやらを言い訳にする己を恥じる心はないとはっきり言えるのだな?」
「それ以上は言うな。例え大義がどこにあろうとも、この天上門を通すわけにはいかぬのだ!」
その問答を続けることに苦痛を覚えたのか、ここいきて初めてノームが感情的に声を荒げた。
そして何らかの前動作なのか、ゆっくりと両腕を広げる。
「我等には戦う以外の道は無い! この先に進もうというのであれば我が屍を超えて行け。このノーム、兵を持たずとも百の軍勢で天上門と我が都市を守ることは出来る!!」
大きく広げた手をバチンと合わせると、ノームは両目を大きく見開いた。
そして……。
「土人形!!」
大きな声が風の音を掻き消すと同時に地面から無数の何かが現れ、僕達の目の前を埋め尽くしていった