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勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている  作者: まる
【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている⑪ ~Road of Refrain~】
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【第五章】 VIP待遇?



 グランフェルトのお城を出た僕はシルクレア王国からの遣いであるリチャーズさん、シモンズさんの二人と共に馬車で町の外まで送って貰った。

 見送りがてら付き添ってくれた二人の兵士に操縦してもらい、少しして関所を超えた所で下ろされるとさっそく移動の段取りを取る。

 言わずもがなそうした理由は城下で移動用のアイテムが使えないからに他ならない。

 送ってくれた兵士へお礼を告げ、改めて三人が手を取り合いシモンズさんの詠唱によって目の前の景色が歪んでいく。

 やはり慣れることのない独特の浮遊感や混沌としていく視界に気持ち悪さを感じながらも目を閉じてその時間をやり過ごし、ものの十秒足らずで再び地に足ついた感覚が到着を告げた。

 出発時と同じく到着したのもシルクレアのお城がある町ではなく一つ隣の町とのことだ。

 では参りましょう。

 と、リチャーズさんが先導して歩き始めた所で三人が揃って歩き始める。

 ここから関所を通った先にあるのが以前一度だけ行ったことのあるこのシルクレア王国の王都だ。

 グランフェルト王国やサントゥアリオ共和国がそう呼んでいるからという理由で無意識に【王都】と呼んでしまったけど、直後に教えてもらったところによるとこの国で同じ意味を持つ町は【首府】と言われているのだとか。

 そうして帰国場所として決まっていたその町に用意されていた馬に跨り、二十分程の移動を経て関所に辿り着くと今回は誰がどーーーー見てもシルクレア兵が一緒である上に二人はクロンヴァールさんによるものだと思われる出入国許可証を持っているため何一つ訝しまれることなく通ることを許された。

 前に来た時はここでだいぶ変な目で見られたっけな……後で聞いたら案の定『変な奴を通した』と報告がいっていたらしいし。

 今にして考えると、あの場で不審者として取り押さえられていれば僕は爆弾魔にならなくて済んだろうに。

 そうなっていればAJと知り合うこともなく、何ならクロンヴァールさんが巻き込まれていたかもしれないので結果から言えば不幸中の幸いだと思いたいところだけどさ。

 とまあ過去を懐かしんでいる間に身分紹介も滞りなく終わり、すんなり通されるのかと思いきや二人は何やら衛兵と一つ二つ話をしている。

 かと思うと、リチャーズさんの方が後ろにいる僕の方にやってきた。何故かとても申し訳なさそうな顔で。

「コウヘイ殿、大変申し上げづらいのですが……」

「はい? どうされました?」

「どうやらクロンヴァール陛下はまだ城を離れたまま帰っておられないようなのです。帰りは夜中か明け方になるゆえ面会は明日の昼以降にと衛兵が言伝を預かっていたらしく……」

「はあ、僕は今日でも明日でも特に問題はないですけど。それまでどうすればいいかだけ教えていただければ」

「は、部屋を用意させているので本城で一晩過ごすも良し、町の宿に泊まるも良し、本人の希望に合わせて手配せよ。とのことです」

「そうですか。では、せっかくなので町の宿にお世話になろうと思います」

 招かれている身であることを考えても、明日クロンヴァールさんの都合が良くなった時間に合わせて行動しやすいという意味でも城で止まるのが普通なのかもしれないが……ものすごーく気を遣ってしまって落ち着かなそうだから正直言って遠慮したい。

 ついでに言えばあの人の側近の方々には良い印象を持たれていなさそうなので気まずいです。

「承知致しました。それでは本城に近く、一晩を過ごすのに不自由のないよう大きめの宿を手配しますのでひとまず町の方へ向かうとしましょう」

「はい。よろしくお願いします」

 リチャーズさんとシモンズさん、ついでに何故か衛兵の方にまで一礼を受け改めて王都……ではなく首府へと向かう。

 前回来たときはまず自分がシルクレア王国に降り立ったことすら気付いていなかったし、それでいて密入国者という自覚があって落ち着かないわ人目が気になるわで色々と一杯一杯だったっけ。

 ジャックのおかげでだいぶ楽になっていたとはいえ、この世界で一番大きな国の最も広く栄えた町というものをじっくり見たり感じたりしたのは無事牢の中から解放され、帰ることを許されてからのことだったのだから印象が曖昧でも仕方あるまい。

 そうしてまた五分十分を馬で走り、町の入り口で徒歩に切り替えると広い広い町の中を歩いていく。

 来るのは二度目だけど、やはりグランフェルトの城下やサントゥアリオの王都バルトゥールに比べても発展ぶりの賑わいも人や店の数も頭一つ抜けているのが明らかと言っていいだけの町並みだ。

 行商と思われる荷馬車も多く、警邏している兵もあちこちに見えており、それでいて道もしっかり整備されているし治安の良さを象徴する様に活気もあるしと、まさに世界一と言われる国の象徴たる本城が建つ町といった感じである。

「コウヘイ殿、こちらが本日お泊まりになっていただく宿でございます」

「え……また随分と立派な所ですね」

 右を見たり左を見たりと、明日以降に待ち構えているであろう一大事もすっかり抜け落ちて観光気分のまま二人に続いて食材や日用品を売っている店が並ぶ大通りを抜け、一本逸れた道に入り少し人気が少なくなった裏通りにやってきた頃。

 不意に立ち止まったかと思うと、シモンズさんは目の前にあるえらく大きな建物を手で示した。

 この世界でいう民家の造りや立ち並ぶ店の数々とは明らかに雰囲気が違う、石造りで箱形の立派で格式の高い感じがありありと伝わってくる四階建ての小さなビルみたいな建物だ。

「えっと……すいません、僕はここに泊まるんですか?」

 思わず聞くまでもない質問をしてしまった。

 なんだか高級ホテルに案内された様な気分になって、正直場違いというか分不相応な物を突き付けられた感じがして入ることすら躊躇われる。

「左様であります。ここは玲瓏館といいまして、貴族や商人ご用達のこの国で一番大きな宿になります」

「れいろー、かん……いや、あの、そんなに気を遣っていただかなくても普通の宿で十分なんですけど」

「どうかご遠慮はなさらないでください。全ては無礼のないようにとの主君の命ですゆえ」

 遠慮ではなく純粋に居心地悪そうだし落ち着かない気しかしないから言っているのだけど、クロンヴァールさんの名前を出された上に二人揃って深々と頭を下げられてはこれ以上食い下がることも出来ず。

 げんなりしながらリチャーズさんの後ろを追ってそのれいろーかん? とかいう宿に入っていくしかない状況が出来上がる。

 例えばエルシーナ町、例えばフェノーラやウェスタリア王国といった他所の国に迷い込んだ時に使った宿屋みたく質素なカウンターに部屋着のおじさんおばさんが立っているという受付ではなく大礼服というのか宮廷服というのか、燕尾服みたいなデザインと色合いのいかにも貴族な格好のきちっとした身なりの男性二人が大理石っぽいチェックインカウンターの向こうで出迎えてくれた。

 こんな上流階級専用みたいな場所なのに、全力でただのパーカーを着ているだけの僕はドレスコードとかに引っ掛かったりしないのだろうか。

 というか、むしろ引っ掛かっていれば追い出してもらえたかもしれないのに……とか思ったり。

 いや、仮に今僕が全裸であったとしてもクロンヴァールさんがここで一晩を過ごせと言った時点でそうはならないんだろうけどさ。

「うわぁ……」

 結局、抗う術もないまま支配人を名乗るダンディーなおじさんに案内されて三人で四階まで上がると、さっそく部屋へと通される。

 何かもう三十畳ぐらいあるし、セミダブルぐらいのベッドは二つあるし、これ絶対一人用の部屋じゃないだろと言いたくなる無駄な広さにまたげんなりだった。

 加えて階段を上がる最中に聞いた話では最上階であるこのフロアは僕のために貸し切りにしてあったとのことだ。

 城で一晩過ごすか、それを遠慮し町の宿に泊まるか。

 僕がどちらを選んでもいいように、とのことだけど……そもそも僕が明日の移動を選択していた可能性もあるわけで、そんな国賓みたいに万全のもてなし準備をされても気を遣う度合いが増していく一方なんですけど。

「こちらが当室の鍵になります。各階にそれぞれバトラーが待機しており、ベルを鳴らしていただければすぐに参りますので何なりとご用命くださいませ」

「承知した。代金は普段通り城へ請求書を回しておいてくれ、先日と同様ナタリア・レイン宛てで届けてくれればよい」

「畏まりました」

 それでは良い夜を。

 とか何とか、深いお辞儀と共に何か格好良いことを言って案内してくれたダンディーな人は去っていく。

 かと思うと、付き添ってくれている二人までこんなことを言い出した。

「コウヘイ殿、慣れぬ土地では何かとご不便もおありでしょう。迷惑でなければ我々も近くで待機させていただきますが」

「お気持ちはありがたいんですけど、流石にそこまでさせてしまうとこちらも気を遣ってしまって落ち着かないのでどうかお構いなく。夕食を食べてお風呂に入ったら明日に備えて寝るだけですし、出歩いたり何かが必要になることもないと思いますので」

「分かりました、では仰せの通りに。衛兵によりますと明日の昼時に迎えをやると伝えておくよう陛下から言い付けられているとのことですのでそれまではどうぞごゆっくりと英気を養っていただければと」

「分かりました、何から何までありがとうございます。あ、最後に一つだけ聞いておきたいことがあるんですけど」

「何でしょう」

「この辺りでご飯を食べるならどこがいいですかね」

「食事、ですか。この玲瓏館では時間問わず好きなときに飲食物を持って来させることが出来ますが……」

「そうだとは思うんですけど、明日の昼までは部屋に籠もっているでしょうし、夕食ぐらいは外の空気を吸いに外食しようかなぁと」

 勿論これだけ高級感溢れる宿なのだから食事ぐらい取れるのは僕にも分かる。

 だからといって一人であんなスイートルームみたいな部屋で過ごしていたってリラックス出来る気がしないじゃない?

 そんな庶民感覚を理解してくれたのかそうでないのか、シモンズさんは迷い無く一つの提案をしてくれた。

「なるほど、そうでしたか。この周辺でお食事をとなると、やはりオススメはクイーン・キャロルでしょう」

「……クイーン・キャロル?」

「この通りを少し先まで真っ直ぐ奥に進むと右手に見える店なのですが、先代の王妃であるキャロライン様が作らせたことからそのような名前になったのだとか。食通な方であったこともあり料理の味も素材もこの町この国で一、二を争う質の良さだと有名な所なのですよ」

「へ~、それは楽しみなものですね。でも、一見で行って入れるものなんですか?」

「王妃様を始めかつては上流階級の方々もよく利用はされておりましたが今はどちらかというと大衆向けといった色合いの方が強くなっておりますのでご心配には及びません。ただ、時間が遅くなり夜も更けた頃になりますと酒飲み客ばかりになりますので一応はご注意を。聞けば質の悪い酔いどれなども稀にいるようですゆえ」

「分かりました、ありがとうございます」

「恐縮であります。では我々は城に戻ろうと思いますが、問題はありませんでしょうか」

「はい、お世話になりました」

 改めて感謝を述べ頭を下げると、あちらもあちらで九十度のお辞儀を見せたのちに踵を返し、廊下の向こうへ消えていく。

 途端に孤独感に襲われるがそこはもう言っても仕方なかろう。

 まずは荷物でも置いて少しゆっくりするか。

 そう決めて、今受け取ったばかりの鍵をポケットにしまい八割方が無駄なスペースになるであろう広い広い一室へと足を進めることにした。


          ○


「…………しまった」

 目が覚めた。

 外を見たら真っ暗だった。

 おしまい。

 いやいやいやいや、おしまいではない。

 やることもないし、家で昼寝をし損ねたしということで少し転た寝をするつもりが……しっかり眠ってしまいました。というわけさ。

「というわけさ、じゃなくて……はあ、寝過ごした寝過ごしたっと」

 ま、寝ちゃったものは仕方がない。

 別に誰と約束しているわけでもなく、明日までこの部屋で過ごすだけの身だ。

 寝坊しようと人に迷惑が掛かるでもなし。単に時間を無駄にしてしまった感が己を責めるだけだ。

 このままシャワーでも浴びて明日までぐっすり、という案も悪くはないのだろうが……。

「体は正直、ってね」

 こうも露骨にお腹がなってしまってはそういうわけにもいかず。

 数時間の睡眠のせいで重い頭で顔を洗って、この世界でお金を持ち歩くのに使うために雑貨屋で買ってきたガマ口の財布をポケットに入れると僕はノコノコと部屋を出ることに。

 今が何時ぐらいなのか分からないけど、外の様子を見るにもう随分と遅い時間になってしまっていることが予測出来る。

 いっそホテルのサービスを利用しても良いのだろうけど、せっかくこの町で一番とまで教えて貰ったのだから例のクイーン・キャロルとかいう店の料理とやらを体験してみたいという興味だって当然あるわけだ。

「ご苦労様です。少し外に出てきます」

 いってらっしゃいませ。

 と、階段の脇にあるカウンターで座っていたバトラー? とかいうサービス係の人がわざわざ立ち上がってお辞儀をしてくるのでこちらも礼儀として挨拶と目的を告げて下の階へと歩いていく。

 そうして外に出るとうっすらと肌寒く、案の定辺りは真っ暗で灯りが付いている建物は少ない上に人通りも壊滅的になくなってしまっていた。

 下手をすると日付が変わっているのでは? と考えてしまう静けさではあるが、日本と違ってこの世界では日が暮れて少しするだけで大抵の町がこういう感じになるので正確な時間なんてサッパリ分からない。

 二つの意味で身震いをしながらシーンとした感じといい、それだけで何の根拠もなく物騒に感じてしまう暗さに若干の後悔を抱きながらも教えて貰った方向へと足を進める。

 数十メートルおきに建物の壁に発光石が設置してあるだけという風景はいきなり襲って来られても絶対回避しようがないよなとか、そんなロクでもない妄想ばかりが頭には浮かんでいた。

 いくら夜中にも見回りの兵士がいるとはいっても、たぶん出歩くだけで不用心という認識が当たり前の用に存在しているからこそ暗くなった時点で意味もなく外出する人間が極端に減るのだろう。

 その辺りも文化や科学の差とイコールであるのだから元の世界とは本当に何もかもが大違いといった感じだ。

 言わずもがな娯楽の数の差ではあるのだろうが、ネオンで光り輝く町中でたむろしたり夜遊びをする若者もいないし、一般人には夜勤という概念もなく開いている店が宿屋と飲み屋、そしてカジノぐらいなのだからそもそも出歩く理由が見当たらなすぎるわけだ。

 夜は早く、朝も早い。

 きっと江戸時代とかってこういう生活だったんだろうなぁ。

「あ、あれだ」

 二つほど分岐を通り抜けた所で、件のお店を発見。

 差し掛かる前からその一角だけ明るくなっていたので把握はしていたが、実際に見てみると確かに今までに入ったことのある店とはひと味違うのが明らかだった。

 大抵が定食屋みたいな親しみやすい作りなのに、このクイーン・キャロルは外装も凝っていて洋風のレストランみたいだ。

 流石に木造ではあるものの広さもあり、二階建てで入り口の真上にはでかでかと【Queen・Carol】と彫られた鉄製の看板が発光石に照らされている。

 そんな有り様に、これはこれで入りづらいなぁと一瞬の逡巡を挟みながらもここまで来て引き返せるものかと意を決して入り口の扉を開いた。

 空腹極まっていたせいもあって、予想外のトラブルに巻き込まれることも知らずに。


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