【最終章】 鬼神、天に帰す
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傷を負いながらも危機一髪でどうにか追い打ちを回避した天帝は十メートル程の距離を置いて力無く蹌踉めいていた……はずだった。
しかし、憤怒から生まれた大声を響かせるなり雰囲気は一変し、今や溢れんばかりの殺気を撒き散らしながら弱っていた様子の一切を消し去ってこちらに向かってゆっくりと歩いてくる姿は痛みに顔を歪めていた直前までの様相は微塵も残っていない。
窮地に追いやられたことでその気になったのか、或いは単に性格的な問題でブチ切れてしまっただけなのか。
それは僕などには分からないがそれでも、ただならぬ気配であることに違いはなく、その据わった目が無防備にも見える男へ安易に仕掛けようとする意志を踏み留まらせていた。
「楽しむ時間は終わりだ……一気に行くぞ!!」
今一度、怒声が響き渡る。
するとその瞬間、左サイドに並ぶ木々から先程までよりも速度や勢いを増した炎がまるで意志を持っているかの様に僕達の方へと向かって放射されたかと思うと、出所が複数あるにも関わらず真っ赤な炎はその過程で一つに纏まり、大蛇の如く長く太い形状へ変化するなり渦を描いて僕達を中心に円を作り出すことで四方八方の全てを塞いだ。
直径で言えば十メートルはあるため耐え難い熱さを感じる程ではないが、そうだとしても逃げ場は奪われ天帝の姿をも視界から消してしまっている。
何を仕掛けてくるのか、何を狙っているのか。
考え、備えようにも目に見えないという現実は致命的に不利な環境だと言えるだろう。
僕を除く三人はとっくに背中を炎の円の中心に向けてそれぞれがそれぞれに背中を預け違った方向を警戒していたが、今となっては戦術の組み立てにおいて分があるのはあちら側だと言わざるを得ない状況だ。
アイミスさんの煉蒼闘気、或いは虎の人の火炎。こちら側にも炎一つであれば対処法を持っていることなど天帝にとっては百も承知。
だからこそ対処の時間、考える時間を与えてくれるはずもない。
僕が釣られて外側への警戒のために体の向きを変えようとした時には真っ赤な渦の向こうから山ほどの凶器が一斉に飛んで来るところだった。
五本の剣が、五本の槍が、それぞれ前からも後からも真っ直ぐに僕達へと向かってくる。
完全に背を向けていたら片方には気付けなかったかもしれない。
そんな、瞬間的に湧き上がった危機感は察知出来たとして一人ではどうしようもなかったのではないかという自己評価があっさりと訂正させていた。
「大袈裟な仕込みの割にゃチンケな不意打ちだなおい!」
そう叫んだジャックやアイミスさんは華麗とも言える無駄のない動きで剣や槍を躱し、僕も虎の人に腰の辺りを抱えられた状態ではあるが直撃を避ける位置へと運ばれたおかげでどうにか無事にその攻撃をやり過ごすに至る。
死角を作り出し、操る武器でそこを突く。
それは天帝が当初にから見せていた戦術ではあるが、こちらから見えないということは翻って向こうからも見えないということ。
その理屈を証明するかの様に、前後十方向から飛んできた武器は回避した僕達を追い掛けることなくそのまま通過し、炎の向こうで地面に刺さった音を響かせるだけだ。
確かに滅茶苦茶な攻撃ではあるが……あれだけ激高した天帝の奥の手がこの程度とは思えない。
他の三人が同じことを考えたかは定かではないが、アイミスさん達は武器が戻ってくる前が勝負だと判断したのか既に正面突破に出ようと走り出している。
手を拱き相手に時間を与えればそうなるのは必然という状況だ。
だからこそ攻めに転じることが必要不可欠で、それゆえに虎の人も僕を下ろすなり後を追おうとしているのだが、そんなタイミングで戦術という名の知能戦においては天帝に一歩上をいかれていたことを知る。
炎の壁は人一人が見えなくなるだけの高さで燃え盛っており、外側の景色はほとんどと言っていいぐらいに把握できない。
そのため武器による奇襲が今まで以上に肝を冷やす展開になった。
しかし、考えること警戒することが多すぎるせいか見えないのは天帝と剣や槍、そして景色だけではないという現実にまで思考が及んでいなかった浅慮さが最悪の事態を招いた。
「っ!?」
不意に、全身を包む蒸し暑い空気を突風が撒き散らす。
何が起きたのかなどもはや頭で考えるまでもない。
それは今の今までいつ何時にも起こりえる事態の一つとして常に意識していたはずなのに、危機的な状況に陥ったことによって簡単にその余裕を奪われていた他の何よりも捨て置いてはいけない要素。
あの巨大な岩が、向かって左から炎の渦を割って一直線に飛んでくるのを確かにこの目が捕らえていた。
他の誰でもなく、僕の方へだ。
「……く」
やばい、やばい、やばい。
ごく僅かな時間で頭を巡るのはそんなワードばかりだった。
避ける余裕はない。盾を使えば一時的に防ぐことは出来るだろうが、その間に逃げようとしたところで追跡でもされようものなら持続時間が切れた瞬間に直撃を食うのは必至。
たかだか十秒前後の時間で安全地帯に逃げるようにも行く先々は炎に塞がれており、かといって生身でどうにかする力なんて僕にはない。
数秒の中で計算出来たのはただそれだけ。
つまりは結果がどうあれ一旦は盾でどうにかしてみようとする、という以外に選択はないということだ。
「フォル……ってええっ!?」
今まさに盾を発動させようとしたその時、何故か僕は後ろに引き倒されていた。
目の前に岩が迫る状況で何がそうさせたのかと、混乱する頭で見上げる先にあったのは広く大きな背中。
一番僕との距離が近かった虎の人が助けてくれたのだとその光景が理解させる。
「ぬん!!」
と、気合い一閃。
尻餅をついた僕に加え、異変に気付いて振り返った二人の勇者が見守る前で虎の人は両手を突き出し巨大な岩を受け止めてみせた。
だが、最初みたく渾身の拳を繰り出すための時間が無かったために強いられたその手段では重量と速度のある物体を完全に静止させることは出来ず、勢いを殺すのが精一杯といった状態に陥った結果踏ん張りきれずに地面を滑っていく。
それでも無傷で済んだのなら御の字だと思ったのも束の間のこと。二段構えから三段構えへ、更にその上へと計算された戦略を駆使するのが今の天帝なのだと理解した時には全てが手遅れだった。
「ラルフ兄っ」
地面を削りながら数メートルの鬩ぎ合いを経てどうにか岩を食い止めた虎の人に、炎壁の向こうから現れた二つめの岩が襲い掛かる。
こちらからは見えない。
それゆえに事前の察知は困難を極め、咄嗟に出た僕の叫び声も虚しく新たに飛んできた岩は玉突きの如く停止した最初の岩へと追突し、重量と衝撃が何倍にも増して蘇ってしまったことで一度は食い止めた虎の人の体は弾かれる様に吹っ飛ばされた。
少なく見積もっても軽自動車ぐらいの重さがあると思われる巨大な岩が二つ、連なって衝突されては今度こそ力だけで抑え込むことは出来ず、押し負けた巨体は宙に浮いたまま右側の壁に打ち付けられると砕けた岩と共に落下し力無く崩れ落ちる。
壁と岩に挟まれる格好になったためもたれ掛かる様な体勢で、首も手足も力無く垂れ下がったまま動く気配はないものの胸は呼吸によって前後運動をしており喘鳴も微かに聞こえていることを考えると最悪の最悪……すなわち死という結末だけは避けられたことだけは遠目からでも理解出来たが、誰がどう見ても無事とは言い難い姿に僕達側にとっての緊迫度は限界点を迎えつつあった。
「まずは一人目だ」
成果を自身の目で確認するためか、或いは次なる一手へ移行するためか。辺り一帯を真っ赤に染めていた炎の円が消失すると天帝は動かなくなった虎の人を一瞥し、すぐにその視線を僕達へと向ける。
虎の人みたく僕を助けようとしていたのか知らぬ間にアイミスさんが先程までより近くに来ているが、こうなっては何を優先するべきかという判断も容易ではなく、結果として中途半端に立ち止まるという状態となってしまっていた。
そうなってしまった理由は無論のこと消えた炎の向こうで姿を現わした天帝にある。
当初の余裕ぶった戦い方は今や見る影もなく、視界が晴れた時には既に槍と剣が僕達を包囲しているという徹底してこちらの選択肢の余地を奪い、攻めに転じることが困難な状況を強いるという戦略の組み立て方は考える時間をほとんど与えてもらえず、パズルの様に次から次へと計算された手法でひたすらに攻められるせいで息つく間すらもろくに確保出来ない状況へと僕達を追いやっていく。
全方位に散らばる凶器の数々は瞬き一つが死に直結するのではないかという威圧感を醸し出し、やはりこちらの立場における優先度を絞らせない厄介極まりない局面が維持されたままだというのに慎重さに割り振っている余裕など何一つとしてない。
虎の人を案じている場合でもなければ相手の動きに合わせて対応を決める程の猶予もない。
攻めなければ終わる。
ただただそんなシチュエーションが戦況を一気に加速させようとしていた。
躊躇していてはどんどん相手に有利な状態を作り上げられてしまうし、だからといって退いてしまっては動けない虎の人にとどめを刺そうと考えるかもしれない。
そうでなくとも背中を見せれば即串刺しの未来しか見えない上に本体を狙おうにも盾が並んでいるせいで単調に攻めたところで成算は無いに等しく、想定以上の時間と労力、危険を要することは必至。
それでいて少しでも手間取ると炎に阻まれ、更には岩に急襲されるという絶望的な要素だらけだ。
正直に言って神の親玉という割には物を操るという単純仕様な門だ、なんて当初は思っていた。
凡そ今までに相見えた神の持つ超次元的な力と比べると見劣りしている様に感じる、とでもいうのか。そんなイメージを勝手に抱いていたというのに、とんでもない思い違いだ。
戦うに臨むにあたっての性格の違いも大いに関係あるのだろうが……実際問題ノームやウィンディーネの時よりも窮地の度合いが上なんじゃないのかこれは。
「おいてめえ等、とにかく下手に死角を作らねえように意識してろ! アイミスに脱落されると勝機はねえ、玉砕役はアタシがやってやんよ!」
どうしたって考えがまとまらない中。少し前の方にいるジャックが一瞬だけ振り返り、伝えたいことを口早に叫ぶなり反応を待たずに突っ込んでいく。
同時に、僕達を囲んでいた全ての武器がこちらに刃を向けたまま回転し始めた。
視界が開けただけ絶望感は薄れた気にさせられてはいるとはいえ先程までの炎の渦に変わる刃の渦が逃げ道を塞ぎ、意識を分散させる戦術はジャックの指示や行動に対する反応をも遅らせる。
そんな中で僕達を導いたのは誰よりも高く豊富な経験値を持つ勇者。他ならぬジャック本人だった。
周囲の武器が一斉に飛んでこようとするまさにその時。天帝へと突進していくその最中で前方、地面へと斬撃波を放つと弾け飛んだ土が舞い、砂埃が両者の間に立ち上る。
「コウヘイ、こっちだ!」
「へっ?」
呼ばれたことを理解した時には既に腕を引かれ、強く引っ張られていた。
僕の肘辺りを掴むアイミスさんは飛んでくる槍を一本弾くと、残る数本の槍をすり抜ける様に右前方へと走っていく。
「……そういうことか」
今分かった……ジャックのあれは天帝への目眩ましだったんだ。
同じ例えになるが、神官と違って武器や盾も、剣も炎も独立して動くことはない。
つまりは天帝自身に見えていない的を確実に捕らえる術はないということだ。
そこに勝機が見出せたら……まだ戦いようはある。
「私達も追うぞ、後に続いてくれ!」
「はい!」
左右と後ろから襲い来る剣が僕達の居ない場所を通過していく中、アイミスさんは僕の腕を離すとすぐに走り出した。
砂の舞う短い時間は飛び交う武器をやり過ごすには十分なものであったが、前にいるジャックは天帝との距離を縮めているものの敢えて撃ち出さなかったと思われる三本の剣による乱れ打ちをどうにか防いでいるだけで残る数メートルの位置での足止めを突破出来ずにいる。
アイミスさんがその状況を打開するべく合流を目指したことを理解してはいても、やはり後出しで優勢を奪うのはそう簡単ではなかった。
足よ動けと念じながら走り出すのとほぼ同時に、向かって右側から虎の人を戦闘不能に追いやった岩の一つがジャック目掛けて飛んでいく瞬間をこの目が捕らえている。
僕も前を走るアイミスさんも到底追い付ける距離ではなく、また追い付いたところで現状あれを攻略する手立てもない。
であるからこそジャックも岩の存在を感知するなり突破しようとひたすらに金属音を響かせながら凌いでいた三本の剣との距離を置き、後方へと二度三度と飛び退くことで回避する道を選んだ。
「馬鹿め、こういう使い方も出来るのだぞ!」
一転して遠ざかっていくジャックを天帝の見開かれた目が追う。
自身の出方に対して相手が何を考え、どう動くかまで計算して布石を打ってくるのがあの男の本領であると、痛い程に思い知らされていたはずの認識はここでも予想の上を行った。
弧を描きながら直前まで足止めを受けていた位置を目掛けて飛ぶジャック一人を狙った岩は標的が退避したことによって無人となった両者の間を通過していく。
しかし、直前で安全圏へ逃れたと思える一連の行動は既に術中と言わざるを得ない結果だけを生み出し、瞬く間に僕達全員を窮地に追いやっていた。
巨大な岩が天帝と重なりその姿を隠した瞬間にほとんど直角に軌道を変え、更には倍近い速度でジャックを襲ったのだ。
斜めから見ていた僕には天帝が杖で岩を突いたのが見えたが、果たして正面にいたジャックが何が起きたのかを理解しているかどうか。
いずれにせよ速度が上がりすぎていることに加え、なまじ距離が近いせいで危機を知らせる時間は僅かにもない。
唯一、僕よりも先に気付いたアイミスさんがジャックの名を叫んだが、もはやその声が何かを変えるタイミングではなかった。
はずなんだけど……、
「どわああっ!」
ほとんど反射的に、なのかいっそ超反応的なことなのか、なんとジャックは体を反らしながら倒れ込み紙一重で岩を躱してしまう。
が、そうなって尚、何重にも、何重にも、何重にも、張り巡らされた罠はこちらに反撃の時間を作らせてはくれない。
無事で済んで良かったと頭に思い浮かべた時にはジャックの真上を通り過ぎた岩は僅かに軌道を変え、後ろにいる僕達へと向かって来ていたからだ。
「くっ……」
前を走るアイミスさんは咄嗟に真横へと飛び退き直撃を避ける。
その間約一秒。
ジャックの位置と比較すれば倍近い時間とあってアイミスさんならば回避も可能だろうが、果たして僕はどうだろうか。
あんなピッチャーが投げる野球ボールみたいな速度で飛んでくる軽自動車みたいなサイズの岩から、一秒足らずの時間で逃げられるとでも?
答えはノーである。
考えるまでもなく、正面に向かって走っている最中にあんな巨大な岩を俊敏に躱す能力など持ち合わせているはずがない。
だからこそ、僕は思考能力という部門であの男を上回る。そのためにここに来たのだから。
「……フォルティス」
盾の存在がまだバレていない以上わざわざここで明かしてしまうことはしない。
聞こえてしまわないよう小さな声で発動の合図を口にし、僕は目の前に迫る岩へと右手を差し出した。
伝わってくるものは何もなく、触れた感触すらないが、見えない空間の切れ目に衝突したことで巨大な岩は微妙に軌道を変える。
今僕が成すべきは恐怖に耐えること、そしてタイミングを間違わないこと、その二点だけだ。
だからこそ必死に、ここぞとばかりに、ほとんど死を自覚しそうになっている極限状態の僕は斜め後ろに飛び、そのまま地面を転がった。
「コウヘイ!!」
すぐにアイミスさんが叫ぶ声が聞こえてくる。
それでも僕は瞬きを出来る限り我慢しながら、敢えて俯せに倒れたまま動かないことを徹底した。
「ふははははっ、これで二人目の脱落者だ!」
案の定、天帝は僕が戦闘不能状態だと思い込んでいる。
他でもないあの岩自体が僕を隠していたのだ。盾がどうとか、どの様にぶつかったとか、そんなものは見えているはずがない。
標的にされ無駄に二人を危機に晒すぐらいなら息を潜めその時を待つ方がいくらかマシなはず。それが僕の出した結論だ。
虎の人がそうだった様に攻め手が残っている限り動かなくなった人間に注意を向けたりはしないはず。
であれば相手の攻撃が迫る度にお荷物になる僕はこうやって動けなくなったと思わせていた方がまだいい。
サラマンダーの時も、ノームの時も、神官の時も、そうだった。
必ず僕が不意を突いて想定外の動きをすることで戦局を覆す場面が生まれる。だからこそ我慢してジッとその時を待たなければならない。
そうなる前に取り返しが付かない事態に陥ることを避けるためにも、それまでは二人の足を引っ張らないことの方が重要だ。
目で追えないので目視は出来ていないが、あの岩は後ろで壁に衝突した様な破壊音を響かせているのですぐに戻っては来ないはず。
本来ならもう少し場が煮詰まる頃にそうなっておいた方がよかったのかもしれないけど、タイミングを選ぼうにも限度があるので贅沢は言っていられない。
「くっ……」
全体を見渡すことが出来なくなり限られた景色の中。
痛ましいぐらいに不安そうな表情のアイミスさんは一瞬だけ僕の元へ駆け寄ろうとブレーキを掛けたが、すぐに背を向け天帝やジャックがいる方向へと走り出す。
どこかでそうすることも考えておかなければという程度の策であった上にいつ実行するかが不確定過ぎるせいで誰にも伝えられていないので心配を掛けたことは間違いない。
それでも遠ざかる背の後ろから複数の槍が追い掛けていくのが見えた時に確信が持てた。
呼吸であったり瞬きであったり、或いは見た目に外傷が無いことであったり、とにかく僕が無事でいることを察したからこそ巻き込んでしまわないために戦場を遠ざけようと考えたのだと。
生きている、ということが伝わったのなら今はそれで十分だ。
取り乱したり冷静さを欠いて必要な判断を見誤らせては元も子もない。
激高したり僕を案じる言葉を敢えて口にせず、槍から逃げる足でそのまま突撃することで暗にジャックにも生存を伝えているといったところだろうか。
そのままジャックのいる付近にまで駆けていったアイミスさんは追い付かれる直前で宙返りする様に高く飛び上がり、迫る四本の槍の追跡から逃れた。
だが通り過ぎた槍はジャックを足止めしていた物も含めた全ての剣と混ざり合って一斉に向きを変え、今度は数を増やした上で正面から合流を阻害した。
二人同時には近付けさせない。
明確な天帝の意図が見える切り返しではあったが、いつまでも追い回されるばかりでいられるかとばかりにアイミスさんは足を止め、両手で持った剣を顔の前で構える。
「……嵐華連斬!」
より重量のあるはずの大剣がジャックのそれを上回る速度で、腕というよりは手首を軸にして縦横無尽の斬撃を連続して繰り出した。
浮かせたり飛ばすことは可能でも空中の一点に固定させるということは出来ない武具の数々は重さの差であっさりと迎撃され、弾き飛ばされたり回転しながら辺りに散っていく。
その有り様から援護は不要だと判断したのか、包囲から解放されたジャックがすかさず天帝を狙った斬撃波を繰り出していた。
ここまでに二度その身を切り裂いた意識の外から放たれる攻撃は警戒対象が半分になっている現状では効果が薄かったようで直前に盾によるガードを許してしまったものの、大きな盾が天帝自身の視界を塞いだ一瞬の隙を利用して今度はアイミスさんが直接攻撃に出るべく突撃を始める。
脇を通り過ぎるアイミスさんの動きに合わせる様にジャックが背後からの攻撃に備えて体の向きを変える辺りさすがの阿吽の呼吸だ。
もういつぶりになるのか、アイミスさんが挑む接近戦はすぐに盾の壁が行く道を塞がれてしまうがそれでも立ち止まったりはせず、先の攻防でジャックがそうしたのを真似てその盾の一つを足場にすることで飛び上がることで防壁を難なく突破すると同じく真上から斬り掛かった。
こうなっては倒れている僕には二人の姿は見えないけれど、直後に金属音が響いたということは恐らく杖によって防御されたのだろう。
その後に聞こえてくるのは二種類の力んだ声だけだ。
「それは先程も見た手だ! 動きの速さは認めるが……この数百年、それが欠点だと分かっていて武器の扱いを磨かなかったとでも思ったか! この神を相手に接近戦ならば分があると!」
「例えそうでなかったとしても……武器の質と能力によって強化された私の斬撃が貴様の棒切れに劣る道理はない!」
そんな会話の最後に、もう一度激しい金属音が響いた。
間髪入れず天帝の呻き声にも似た絶叫が全ての音を飲み込んでいく。
「これで終わりだ!」
更にそれをアイミスさんの声が上書きすると、二人を隠していた盾が不意に移動を始めた。
そこから見えたのは、その盾を割り込ませてアイミスさんを遠ざけようとしつつ別の盾を足場代わりにしてリフトの如く上空へ浮遊していく天帝の姿だった。
胸元には今までは無かった決して浅くはない切り傷が衣服の奥にある皮膚に刻まれており、素肌を血で染めている。
それだけではなく持っていた杖は真っ二つ折れ……ているのか切れているのか、手に持たれているのは下が刃の半分のみという有り様だ。
傷口を押さえる天帝は肩で息をしながら苦しげに歯を食いしばっていて、その一撃が上空に逃げる以外の選択を奪ったのだと一目で分かる惨状だった。
「逃がすんじゃねえ!」
炎の木への警戒を怠らないためにややポジションを変えていたジャックも慌てて二人の元へと向かっていく。
既にアイミスさんの剣が届かない位置にまで浮き上がっている天帝は何をしようとしたのか、開いた右手を燃え盛る木々の方へと向けるが……特に何かが起きる様子はない。
まるで『何かをしようとしたが駄目だった』とばかりに、その顔が歯痒さに歪む。
どういった意味のある行動だったのかは不明だが、このまま手の届かない所に逃げられると千載一遇の好機を失ってしまうだろう。
そうなるともうこれほどまでに接近する機会を与えない戦法に移行する可能性が高い。
半ば死んだふりも忘れて首を起こしている僕が出した結論と決断は……ここしかない、だ。
「そこで死んでいろ!」
ひっそりと立ち上がろうとする僕に気付いていない様子の天帝は殺意一色に染まった怒鳴り声を響かせると、眼下にいるジャックへと左手を翳した。
刹那、脇に転がっていた一本の槍が地面から先端を起こしたかと思うとボウガンの様に低空で真っ直ぐに飛び足下を襲う。
幸いにも突き刺さりはしなかったが、左膝の上辺りを切り裂かれたジャックは踏ん張ることが出来ずに前のめりに倒れ込んでしまった。
あれだけ感知能力や回避能力の高いジャックが不覚を取ったのは偶然アイミスさんが蹴散らした槍が傍に一本落ちていて、更には目線が上に向いていたがために起きた偶発的な要素が重なった結果であり、こればかりは計算ではなく運が相手の味方をしたという側面の方が強いのは明らかだとはいえ最悪のタイミングで運が敵に味方したと言わざるを得ない。
それでいて全ての武器で同じことをしなかったのは、ついさっき何かを試み諦めたのと同じ理由なのだろうか。
大きな傷を負ったから、もしくは杖が破壊されたから、本来の『物を操る能力』が効力を発揮出来なくなりつつある可能性を頭に入れておくべきなのかもしれない。
「これで三人目の脱落者だな!」
考えを巡らせている間にも負傷したジャックへの攻撃は止まらず、天帝は続けて上空へと左手を向けた。
すかさず残っていた最後の岩が上昇を始め、膝を突くジャックの真上へと素早く移動し始める。
痛む足を押さえながら片膝を突くジャックはすぐに動くことが出来る状態ではないぐらいの傷を負ってしまったらしく、腕で体を持ち上げようと力を込めるも使えるのが片足ではそう簡単に立ち上がるまでには至らない。
アイミスさんも余裕の無い表情を浮かべどうにか阻止しようと剣を構えてはいるが、なまじ浮いている盾に乗っている状態であるせいで攻撃を仕掛けようにも確実性が見出せないらしく微妙に角度を変えたりしているものの実行には踏み切れずにいるようだ。
であれば今すぐに動けるのは僕一人。
例えそうでなかったとしても死んだふりとか、気付かれない様にだとか、そんなことを考える余裕はもうとっくに無かった。
上半身を起こした状態で両手を地面に添え、陸上部仕込みでも何でもないクラウチングスタートの要領で前後に並べた足を強く蹴ると二の轍を踏まないよう左右に散らばる凶器を視界に入れながら全力ダッシュの体勢に入る。
目的はとにかくジャックの救出が最優先。
本当なら勝負が決する最後の大勝負の時に割って入れるのが理想だったけど、こうなっては致し方在るまい。
「な、何だ?」
そんなことを考えながら走り出す足が五歩目か六歩目を数えた時、不意に視界に飛び込んできた異変が脳内で羅列していた『常に頭に入れておかなければならないこと』のリストを消し飛ばした。
何の脈絡も予兆もなく、突如として天帝やアイミスさん達の居る辺りを中心に現れた霧の様な何かが一帯を白く染めていくのだ。
今度は何だ……本当に霧か? それとも煙? ならば天帝の力で操られた何かか?
「いや……違う」
そのどちらでもない。
徐々にこちらにまで広がり広場全体に充満しつつある白い気体は、肌に触れるとうっすらと冷たさを感じる。
こんなことが出来るのは……僕達の中には一人しかいない。
愚かにも武器への注意を怠り進行方向右の壁際へ目を向けると、その希望的観測を事実たらしめる様に、行動不能になりぐったりと倒れていたはずの虎の人が居た場所に立っている小柄な猫耳の少女の姿があった。
言いたくはないが……上半身裸で。
「ラルフ」
思わず呟いたのとほとんど同時に僕の視線に気付いたラルフは『やってやったぜ』みたいな顔で親指を立てる。
どんどん濃くなっていくこの冷気の霧は、すなわちラルフの技の一つ。猫耳奥義第二弾【白夜】とかいうやつだ。
ものの数秒で一面は真っ白になり、徐々に離れた位置の情報を視界から得るのが難しくなってきている。
なるほど、これならば天帝はそう簡単に自分よりも下にいる僕達に狙いを定められない。
言い換えれば僕が動いても簡単には補足出来ず、足を痛めたジャックを岩で狙うことも難しくなったということだ。
それすなわち、今こそ勝負を駆けるタイミングということ。
そう思わせてくれたラルフに報いるために、僕はもう改めて速度を上げ目的地をアイミスさんのいる位置へと変えて突っ走る。
兄妹が入れ替われば前身が負った傷やダメージの影響を引き継がない。
今の今までラルフの存在を明かさずにきた。
そのラルフが起死回生の能力を備えていた。
偶然を超えた奇跡的な要素が重なり合ったこの機を逃せすわけにはいかない。これ以上長引いてしまったなら、僕達側の戦いを続ける気力や体力が尽きるのも時間の問題だろう。
加えて言えば浮遊しているがゆえに天帝の姿だけが隠れずに丸見えの状態だ。こちらからの攻撃に伴う不都合はほとんどない。
もっとも、あのまま空高くまで離れていかれなければ……の話だが。
「くっ……何だこの霧は! 今更小細工を弄したところで残るは貴様一人だということを忘れるでないぞ!」
まさに効果は覿面。
庭が広いこともあってか僕が起き上がっていることにも、ラルフが現れていることにも気付いていない天帝は見下ろす目を右往左往させながら苛立った表情で本人の言うところの最後の一人、アイミスさんの所在を追っている。
ラルフの冷気はあの近辺を重点的に濃くしているらしく僕の位置からすらアイミスさんの姿は見えなくなっているが、逆に手前の方であればまだ人影を把握するぐらいのことは難しくない。
しかし、仮に天帝からは見えないのだとしても足下にいたことが分かっている以上は標的がアイミスさん一人なら攻撃を仕掛けること自体はそう難しい話ではない。
そこに行き着くのは当然の道理で、天帝もすぐにジャックを狙うために持ち上げていた岩を眼下へと飛ばした。
右から左にと、まさしくあの辺りを手当たり次第薙ぎ払うつもりの乱暴かつ無造作な操作だ。
アイミスさんならばそう簡単に当てずっぽうの攻撃を食うとは思えないが、サイズがサイズとあってラッキーパンチでも致命的になってしまう。
そうなる前に合流し、方法なんて何一つ思い付かないけど相手が深傷を負っているこの最後のチャンスを逃さない様にどうにかする。
僕が考えるべきはそれだけだ。
「ジャック!」
逆に自分が岩で攻撃されたら今度こそ終わりだな。とか、そんな考えがふと頭を過ぎる目指す地点までの道半ば。
前方でしゃがんでいるジャックの姿が目に入った。
この冷気の霧を利用し、岩で狙われぬように痛む足でも微妙に位置を変えているのだから流石の一言だ。
ジャックはこちらに気付くと、片足を引き摺りながら立ち上がり僕を呼ぶ。
「相棒っ、やっぱり無事だったか!」
「うん、そっちは大丈夫なの!?」
「アタシも大事はねえ……が、生憎と走るのはキツいな。教えてくれ、アタシは何をすりゃいい」
「どうにかして天帝の所に行きたいんだ!」
「それぐれえなら任せろ、お前さんに託すぜ」
「うん」
「細かい調整なんざ出来ねえからよ、取り敢えず吹っ飛ばすから後は自分でどうにかしてくれ」
「……え? 何をするの?」
「こうすんだよ」
それだけ言ってジャックは腰から鞘を外し、そこに剣を収める。
かと思うと僕の服を掴み、その先端をパーカーのフードに引っ掛けた。
「このまま斬撃波を撃つ。お前さんに害はねえが、鞘ごと吹っ飛んでいった後はどうなるか全く分かんねえ」
「ええぇぇ……だいぶ不安しかないんだけど……いや、もういいや。それで天帝の所に行けるなら何でもいいからお願いっ」
「よく言った! アタシの代わりにあの野郎を引きずり下ろして来い!!」
そこまで聞こえたところで僕の体は宣言通りに吹っ飛んだ。
ゼロからの加速とは思えぬ凄まじい速度とおよそ四十度ぐらいの角度で僕の体は宙に浮き斜め上を目掛けて無造作に空中を移動していく。
直後に背後で『あり?』とか聞こえた気がすることに不安は増長するばかりだし、何よりどんどん高さを増していて怖いし、先にそういう方法なら言っておいてくれと猛抗議したいこと山の如しではあるが、体の自由が効かない今となっては目の前のことに集中するしかなさそうだ。
ほんの数メートル先には徐々に、だが確実に上昇していく天帝が見えている。
こちらから分かるということは相手からもそうであるということに他ならないわけだけど、どういうわけか天帝は真剣な眼差しで真下を見つめたままで僕の方など見ようともしない。
それもそのはず、僅かに遅れて霧の中から現れるなり数メートルの高さまで浮上していくアイミスさんが僕の視界にも飛び込んできていた。
流石にただの跳躍ではあそこまで飛べないはず。推測するに岩を足場として利用したといったところか。
天帝のいる高さに到達する前に失速し届かないまま落ちていこうとしている僕とは違いアイミスさんは今にも剣が届く距離にまで接近しようという勢いだ。
届きさえすればどうにかなるかもしれない。
「落ちるな……落ちるな……もう少しなんだ」
そんな状況を自力で作り上げてくれたというのに、これじゃ僕は落ちていっておしまいじゃないか。
なんて泣き言が出てくるのはすぐ傍にまで来て何も出来ずじまいで終わる己の情けなさが恨めしいことに加え、着地のことを何も考えていなかったことも無関係ではないのだが、そんなことを考えている間にも二人の距離は一気に縮まっていく。
「接近戦はおすすめせぬと言ったはずだ!」
どんな狙いがあるのか、落下し始める僕の上で天帝が自ら盾の上から飛び降りアイミスさんへと突っ込んだのだ。
相手から距離を詰めてくる展開は想定外だったのか振り抜く構えで剣を下に向けたアイミスさんの初動が遅れる。
その隙に懐に入り込んだ天帝は逆手で持っている折れた杖の片割れ、虎の人を弾き飛ばした先端の部分を胸当てへと突き立てた。
半分になっても効力は健在のようで、あの時と同じく物理的法則無視の速度でアイミスさんは弾かれ、重力が百倍にでもなったのかと言いたくなる様な急激な落下を始めるが向かう先が上から下では抗う方法はない。
「…………」
唯一。
本当の本当に唯一だ。
落下しつつある僕が真下付近にいたからこそ、可能性が残った。
「アイミスさん!!」
迫り来る背中に向かってあらん限りの力を振り絞って叫ぶ。
アイミスさんはすぐにこちらを向き、はっきりと僕の目を見た。
先程飛び交った岩の風圧で冷気の霧が薄れていなければ濃霧の中で正確に目視出来たかどうか。
それもまた、この機を生み出したのと同じく奇跡と偶然の産物だ。
すぐに僕は腹が上になる様に仰向けの状態を作り、真上へ目一杯右手を突き出した。
アイミスさんはそれだけで意味を察してくれたらしく、あれだけの速度があるにも関わらず器用に空中でくるりと体勢を変える。
足が僕の方を向くように。
それすなわち、もう一度飛ぶために。
「フォルティス!」
間違いなくこの日この場所での最後の詠唱になるであろう発動の呪文は、いつ何時も変わらず目に見えない透明の盾を作り出す。
透明の盾、或いは壁を。
虎の人を咄嗟に受け止めた時にいくつか身を守る以外の用途を思い浮かべシミュレーションした、その中の一つ。
足場として利用するために。
「信じていたぞコウヘイ!!」
それは果たして無事であったことを、なのか。それとも何か起死回生の介入を狙っていたことを、なのか。
アイミスさんは僕の掌から広がる盾へと着地し、もう一度飛び上がる。
落下速度に比例して反動の力も増し、浮上する速度も先程より倍ぐらいは上だ。
先程の一撃で杖が砕けているため身を守る術を失っている天帝は想定もしていなかったリターンバックに目を見開くだけで身を守ろうにも最早その方法はない。
それでも何らかの抵抗を考えたのか両手を下に向けたが、躊躇して間に合う程の時間的余裕はどこにもなかった。
既にアイミスさんは顔の横で剣を構えており、今まさに渾身の突きが繰り出されたからだ。
「蒼煌・牙龍翔撃!!」
何度も見た最強最大の一撃必殺である規模も威力も通常の何倍にもなる巨大な槍状の青き斬撃波が天帝の体の中心を貫き天高くまで立ち上る。
再び足下に戻していた盾が寸前で割り込んではいたがそれもあっさりと破壊し、天帝の体も同じぐらいに高くまで吹き飛ばしてしまった。
言いたくはないが、傍目に見ても即死確実の一撃。
それはつまり……僕達が勝ったということだ。
「よかった……けど」
それからもう一つ。
言いたくはないが、体を上に向けたせいで背中から落ちていく僕は果たして無事でいられるのだろうか。
せめてもの凄く痛い、ぐらいで済んでくれと事故レベルの衝撃を覚悟した時。その覚悟と絶望に反してどういうわけか体がくるりと半回転しそこで止まった。
目の前数十センチには地面が見ている。
「………………」
……なんで止まったんだ?
という疑問は、背中を引っ張られている感覚から解放され改めて地面に下ろされたところで理解した。
両手両足をつき四つんばいのまま顔を上げると、灰色の毛を持つ巨大な虎が僕の服を咥えている。
ああ、そうか……ラルフが虎バージョンに姿を変えて助けてくれたんだ。
「はは……助かったよ。後先考える余裕がなかったからさ、本気で肝を冷やしてたんだ。ありがとね」
戦いが終わったことと無事に地面に戻ったこと。
両方からくる安堵で全身の力が抜けていくのを自覚しながらお礼を言うと、ラルフ虎バージョンは『ガウ』と一鳴きしてすぐに人の姿に戻っていく。
一度見たことがあるとはいえ虎から人への変身はやはり凄まじい光景であったが、どうあれラルフは数秒足らずで完全に人間の少女へと戻った。
「にゃはは、言ったはずにゃん。にゃーもたまにはやる奴なのにゃ」
「うん、それは今回の旅でよーく分かったよ。だから、早く服を着なさい」
にゃ? と首を傾げるラルフに脱いだパーカーを手渡していると、直後に近くへ天帝が落下してきた。
無抵抗に地面で跳ねる神の中の神であった男の腹部には大きな穴が空き、既に絶命しているらしく白目を剥いたまま動く気配はない。
そんな痛ましく惨たらしい有り様に姿にはどうしても目を背けたくなるが、そうする間もなくすぐに全身から目映い光を放ち始めたかと思うと天帝の体は数秒ののちに発光の消失と共にその身も消え去ってしまった。
魔族の消滅とはまた違った感じな気もするけど神も死ぬと消えてしまうのか。
かつてのジェスタシアさんが昇天した時と似たような感じだし、ただの人間とはやはり存在として別の物なのかもしれない。
「何はともあれ……これで終わったんだ」
再燃する安堵と疲労と痛みが混ざりに混ざって感情はごちゃごちゃで自分でもわけが分からなくなっているけど、もう考えるのは後でいいか。
僕達は無事に帰る権利を勝ち取った、それだけがはっきりしていれば今はそれでいい。