【第二十一章】 魔神パズズ
例によって扉と銅像の並ぶ空間へと戻った僕達は息を整え、水分補給をするだけの小休止を取っていた。
今回は幸いにも傷や大きな痛みを負った者はおらず、次戦に向けての憂いは体力を除けばほとんどない状態だ。
ちなみに、なぜかラルフは虎の人と入れ替わることなくそのままでいる。
お兄さんはまだ万全の状態まで回復するには時間が掛かるらしい。ダメージを片方が受けたり体力を消耗しても兄妹が交代すればそれらは引き継がないというのだから改めて凄い体だ。
間違っても羨ましいだとか便利だなんて言ってはいけないのだろうけど……。
「よし、休憩はもういいな。そろそろ行くぜ」
空になった瓶を地面に放ると、ジャックは口元を拭いながら立ち上がった。
戦闘の有無に関わらず僕はひたすら歩いているだけの半日というだけで体力の消耗を感じるというのに、あれだけ激しくやり合っても全然そんな素振りを見せないのだから本当に頭が上がらない。
ラルフはさすがに『疲れたにゃ~』とか言っているが、僕に至っては緊張度が体力面に影響しまくっているだけに心身共にもうくたくたである。
「私は大丈夫です」
「にゃ~もOKにゃ」
「僕も同じく」
続いて答えると、よしと答えジャックは頷き扉に向かいかけるが、何かを思い出したように立ち止まった。
伸ばし掛けた手を一度引っ込め、こちらを振り返る。
「そうだ、一つ言っておくぜ」
「どうしたの?」
「オーガの時は虎とアイミスが活躍した。さっきは猫娘も良い仕事をしたし、相棒も男を見せた。ぶっちゃけアタシだけ今日あんま役に立ってねえ。そこでだ、次こそはアタシが仕留めるぜ」
ジャックは謎の自信満々な表情で、サムズアップと共にそんな宣言をした。
言いたいことは分からないでもないが、誰もそんなことを気にしていないと分かってもらいたいと思うのは僕が僕であるからなのだろうか。
「ジャック、ラルフの時にも言おうと思ってたんだけどさ、あんまりそういうのに拘らなくてもいいんじゃないの? 僕にしたって別に一回走ったぐらいで貢献したって程のことはしてないしさ」
「相棒」
「なに?」
「キスして欲しいのか?」
「どういう話の飛び方!?」
「いやぁ、その口を塞ぐにはアタシの口を使うしかねえと思ってよ」
「ごめん、全然意味が分からない」
「何が言いたいかっつーとだ、相手は神じゃなくただのその手下だろ? そんな段階で苦戦するようなら先々が思い遣られるからよ。連携が大事じゃねえと言うつもりはねえが、ここらで一丁全力で闘っておきてえんだ」
「それが戦士にとって大事なことだって言われると反論は出来ないけどさ、それでも皆が無事であることを優先したいのが僕の心情だよ」
「そりゃ痛いほど分かってるさ、どんだけ濃い付き合いだと思ってんだ」
と、ジャックは僕の頭にポンと手を乗せて、
「何も手出しすんなって言ってるわけじゃねえさ、アタシだって死んでまでサシに拘るつもりはねえ」
「それならいいけど……あ、勿論他の二人が同意するならね」
言って、二人の顔を見てみる。
信頼からか矜持を理解してか、特に異論を唱える様子はない。
「私とて最後の一撃を見舞っただけでさして貢献したとは言えませぬが……アネット様がそう仰るのならひとまずはお譲りしましょう。あくまでひとまずは」
「にゃーもご主人が許すなら許してやるにゃん」
「何でお前だけ上からなんだ。つーかいい加減虎と代わった方がいいんじゃねえのか?」
「ノーにゃ!!」
「その頑なな拒否姿勢は何なんだよ……」
「兄者には引っ込んでいるよう強く言ってあるにゃ。にゃーがピンチになったら無理矢理出てきそうにゃけど、それまではにゃーの時間にゃ」
「……おめえらは一体どういう力関係なんだ?」
「ご主人が替われと言うならそうするにゃん?」
ラルフは首を傾げ『駄目?』みたいな目で僕を見る。
闘うという行為自体には虎の人の方が向いている気がするけど、さっきみたく違った方向で力を発揮してくれる例もあるので決定権を委ねられても難しいところだ。
とはいえ直接的な攻撃をアイミスさんとジャックが担うのなら、僕の盾も含めオーガの時みたく全員が攻撃要員みたいにならない方が戦法としては幅が広がることも間違いない。
「まあ、危なくなったら交代するって前提ならひとまずはいいんじゃないかな」
ということで認める旨を口にしてみると、ラルフはパッと表情を明るくさせて僕の背中に飛び乗ってくる。
この辺りは年相応……なのかは分からないが、無邪気な女の子という感じを随所に見せてくるのがラルフたる所以だろうか。
「やっぱりご主人にゃ~」
肩と背中に全力で体重を掛けてくるラルフを落とさないように図らずもおんぶの格好になってしまっている傍らで、ジャックはやれやれと呆れた様に首を振る。
逆にアイミスさんは微笑ましげに見ていて何だか恥ずかしい。
「相変わらず、お前さんは誰にも彼にも甘いなほんと。まあいい、相棒がそう言うなら文句はねえさ。てことで改めて、行くとしようぜ」
一言告げ、ジャックは今一度扉に手を伸ばすと、躊躇無く押し開いて中へと入っていく。
僕のポケットには三つの鍵が揃っているその事実が意味する、最後の試練へと挑むために。
「また一気に様変わりしちまったもんだなこりゃ」
全員が扉を潜ったところで周囲を見渡すジャックが誰しもに共通していたであろう感想を言葉にした。
それもそのはず、一面の湖、薄暗いだけの空間、そして草原風の部屋からは想像も及ばない奇妙な風景が広がっている。
どこかしこに高低も大小も様々な岩が散らばっていて、地面が見えている部分の方が面積としては小さいのではないかというゴツゴツとした岩場が数十メートル四方に広がっているといった具合だ。
その岩のせいで見通しが悪く、死角だらけであることが何とも物騒な印象を抱かせるのだが……それよりもいい加減言わせて欲しい。
一部屋一部屋がこれだけの広さを持っているのに、どうすればそれが四つ並んだ扉の奥に存在出来るというのか。
これもまた何らかの魔法的要素によるものということなのだろうが、種別としては随分と前にこの目で見たサミットの会場みたいなものなのかもしれない。
さておき、これでは岩の影に姿を隠した上で奇襲でもされてはたまったものではないと危惧する気持ちが真っ先に浮かぶ中で、その必要が無いことを示していたのは他でもない番人としてこの空間で待ち受けているべき存在だった。
散り散りに転がっている岩が邪魔をして三十メートル向こうの様子など把握することは出来ないが、最深部の恐らくは扉があるのであろう壁の脇にある一番高く大きな岩の上に、ここまでの三体に勝るとも劣らない異形の生物が居た。
既に僕達に気付いているらしく、すぐにこちらに目を向け立ち上がって遠くから見下ろしている。
知っているのは【魔神パズズ】と呼ばれる生物であることだけであるその怪物は、相も変わらずこの世の物とは思えぬ末恐ろしい風貌以外に語れる点がない。
ライオンなのか豹なのかと言った頭部、それでいて二本の足で立っている様は人型の生物でありながら両腕を含めた上半身はその頭部と同じく橙色の体毛が揺れる獣のそれである。
更に下半身は鳥の物であると思われる鷹や鷲を連想させる猛禽類みたいになっていて、背中には同じ類の鳥類が持つ様な真っ黒い大きな翼が左右二つずつの四つも見えているという、ラルフの境遇ではないが人とライオンと猛禽類を合体させたかの様な姿だった。
見上げる僕達の誰もが言葉を失い息を飲むか形容し難い唖然愕然とした声を漏らす中、パズズはバサバサと何度か翼を前後に動かし羽音を響かせたかと思うと、そのまま岩の上から飛び立ち緩やかに滑空しながら中央付近にある別の岩の上にまで近付いてくる。
接近したことではっきりと見える様になったその足はどう考えても鳥の物であるのにがっちりと太く、爪も鋭く光っていて、まるでひくいどりみたいな蹴られたり引っかかれたりたりしようものなら命に関わるのではないかというレベルの物騒さを主張していた。
体格自体は虎の人より少し小さいぐらいなのに、見た目や雰囲気は先程までのコカトリスとほとんど違わない強靱さを感じさせる。
扉の外にあった銅像そっくりであることもあって予想出来ていなかったわけではないが、毎度ながら直接目にすると本当にどういう生物なんだと言いたくなるぶっ飛び具合だ。
「回を追うごとに化け物具合が増していきやがるなおい」
「まるでにゃーと同じ合成獣みたいな奴にゃ。さては順番を狙ってたにゃ?」
「誰が狙うかそんなもん、それが出来るなら逆にしてるっつーの」
「それはさておき、やはり飛行能力を持つ生物のようですね。我々にとっては厄介極まりない」
「ああ、だが高さがある岩もある分だけ攻撃する手段も多少はありそうだがな」
「これだけ岩が散らばっていると隠れたり死角を突くことは出来そうではありますが……相手の出方、能力次第ですか」
「だな。さっき言った通りだ、取り敢えずはアタシが攻める役をやる。地の利をどっちが生かせるかっつー勝負になる可能性がたけえだけに手を出すなとは言わねえ、仕留められる隙があったなら迷わずいけ。各々の判断に任せる」
「御意」
「また飛び乗ってやるにゃ」
「やめろ馬鹿、今回は土の地面な上に岩だらけなんだぞ」
「うにゃにゃ……流石にここに落ちたら痛そうにゃん」
そんな会話を交えつつ、剣を持つ二人と丸腰のラルフが僕の前で化け物を見上げている。
意思の疎通と方針はあらかた固まった。
喋っていても今まで以上の警戒心とピリピリした雰囲気を纏うのは、ここに来て前例が覆されたことと無関係ではないだろう。
ギルマンは別としても、オーガやコカトリスは僕達が現れても認識した上で様子を窺うだけだった。
しかし、今目の前にいる化け物は自らこちらに近寄ってきているのだ。通り抜けようとすれば襲ってくる、という性質など無いと言わんばかりに。
この環境に加え相手は飛べるだけではなく肉弾戦にも長けている可能性が高いとなれば、僕の出る幕など中々見つかりそうもない。
ならばどうするべきか。今にもどちらかが動き出しそうな状況で必死に考えていると、僕以外の三人がいきなり身構えた。
ほとんど同時にパズズの背に生える四つの翼が前後にバタバタと羽ばたき始める。
「来るぞっ」
その声が耳に届いた時、僕に分かったのは『何かが見えた』ただそれだけだった。
視覚と聴覚がそれぞれ違った情報を頭に伝えたことを自覚するなり体はすぐ傍にあった岩の影へと引っ張られる。
気付けばアイミスさんの腕に抱えられ、目の前で岩の端々や地面に次々と亀裂が入っていくのを戸惑いながら見ていた。
落ち着け、冷静になれと繰り返し脳裏で唱え、冷や汗が流れるのを感じながらどうにか分析することでようやくそれがパズズの生んだ風圧によるものだと理解する。
所謂かまいたちみたいな物なのか、翼の動きだけで殺傷能力を持つ風の刃を無数に放ったのだ。
「ありがとうございます……というかすいません」
「構うことではない、だがあれは中々に厄介だ。下手に岩陰から出ると標的にされかねぬ、ラルフ」
「ほいにゃ」
「コウヘイを頼む」
「任されたにゃ」
ラルフはすぐに同じく身を隠していた一つ向こうの岩の影からこちらへと素早く移動して合流する。
そのための隙を作ろうとしたのか、はたまた偶然タイミングが重なったのか、体がはみ出さない様に攻撃が飛んできた方向を覗くとジャックがパズズに迫って行く姿が目に入った。
大小様々な岩を飛び移りながら、前後で変わらぬ位置にいる翼の生えたライオンの化け物へと向かう背中に迷いが感じられないのは有言実行に拘っているからなのだろうか。
やっぱりそんな理由で無茶をするべきではないと思う僕と同じ理由からというわけではないだろうが、ラルフが僕の横で屈むとアイミスさんが入れ替わりで飛び出していく。
この距離、高さでは中々僕が割って入ることも難しいかと見守る中、既に数メートルの距離にまで近付いているジャックが先に仕掛けた。
直前の岩を足場に大きく飛び上がると、剣を横に振り斬撃波を放つ。
飛翔でもしない限り岩の上では簡単に動き回ることも難しいのではないかと思われたが、パズズは身を守る様に片側の翼を体の前まで畳むと何事もなくそれを防御してしまった。
それでもその間に距離を詰めているジャックは休む間を与えることなく剣を振り上げ、真上から斬り掛かることで反撃を許さない。
その攻撃自体は寸前で後方に下がることで躱され剣は地面を叩いたが、攻撃が空振った上にこれ以上ない距離にまで接近したことを好機とみたらしいパズズは反撃の姿勢を見せると同時に腹部から血を噴き出させてその動きを止めた。
頭上から振り下ろした剣が何故に腹部を切り裂いたのか。
それはジャックが編み出し斬撃の再現と語る唯一無二の能力【リフトスラッシュ】によるものだ。
上から攻撃して注意を逸らし、その力で無警戒の胴体を斬り付ける。
ジャックの得意とする戦術の一つである。
だが……見事に決まったと、そう思えたのも束の間。パズズはすぐに反撃の動きを取り戻す。
腹筋の辺りに確かに切り傷が見えるが、オーガの時と同じく人が到達し得る領域を超えた肉体の頑丈さがそうさせるのか、素人目にも致命傷には見えないぐらいに浅い。
その結果、逆に身動きが取りづらい環境が仇となり次の瞬間には後ろ回し蹴りをもろに腹に受けたジャックが軽々と飛ばされていた。
岩一つの上に二人がいればいくらジャックといえど機敏さや体術による優位性を発揮することが困難になるだろう。
それを承知で向かっていった選択が裏目となった、そう言わざるを得ない光景だった。
更にパズズは防御に使ったのとは反対側の翼を羽ばたかせ、苦しげな声を漏らし背中から落下していくジャックへと追い打ちを掛ける様に何かを発射する。
白い筋状の何かは斬撃波に似通った見た目をしていて、すぐにそれが先程のかまいたちなのだと理解した。
ジャックは落下しながらも三筋のかまいたちを剣で掻き消し直撃を避けることには成功しているが、高さや落下の速度が両方に気を配る余裕を奪ったのか別の岩がその姿を隠してしまうなり着地に失敗し地面を転がる音だけを伝えてくる。
「いてて……」
直後に聞こえた声が無事を知らせてはくれるものの障害物だらけの環境であるせいで本人の姿は一切見えない。
こうなってしまえば頼りはアイミスさんだが、援護に出るべく飛び出していったアイミスさんもジャックがやられてしまったことで逆サイドから突っ込んでいこうとする軌道を咄嗟に変えている。
それどころか、ジャックの元へ駆け付けようとする方向転換すらもすぐに断念し近くの岩へと降り立つ動きを見せていた。
一体何があったのか。その疑問は、すぐに身を以て知ることとなる。
無意識に目を向けたパズズは大きな翼を激しく前後に動かしていて、それを認識した直後には生温い風が当たりに充満し始めていた。
咄嗟に真似をして覗き込もうとするラルフの肩を抱いて岩の影へと身を隠す。
温い、暖かいと思っていた緩やかな風は急激に温度を増していき、数秒後には完全なる熱風へと様変わりしているのだ。
岩のおかげで直接浴びずに済んではいるが、もしもそうでなければこの場に居るだけで火傷してしまうのではないかというレベルの、まるでサウナの中に放り込まれた様な焼け付く熱さが全身から伝わってくる。
ラルフを引っ張り込んだはずがいつの間にかラルフに覆い被さられている僕には冷静に解明しようという考えよりもこの状態が続くことへの危機感の方が勝ってしまう。
「な、何なのこれ……」
「にゃ~にもさっぱりにゃ。分かるのはおかしな風ってことぐらいにゃ」
そりゃそうだ。
パズズの能力であるということ以外に、僕でなくとも分かる要素があるはずもない。
だがそうも言っていられないのも事実。現実問題として既に直接浴びていなくてもキツくなりつつある。
「にゃ~にお任せにゃっ」
ラルフはやや得意げな顔で僕を見ると、背筋を伸ばし少し尖らせた口から真上に向かって薄白い息を噴き出した。
頭上で広がっていく冷却の息は瞬く間に一帯を包んでいる熱気を中和させていく。
ここでも窮地を救うのは随所で役立つラルフの特殊な能力の一つになるとは、入れ替わるか否かの話をした甲斐もあったといったところか。
「ありがとうラルフ、これなら何とか耐えられる範疇になったよ」
「にゃけど、炎じゃないせいで凍らせることは出来ないにゃ」
「それでも大違いだよ」
そう言っている傍で、ラルフは再び【凍て付く息】を噴き出している。
自分達の周辺だけではなく、広い範囲でこの灼熱の風を打ち消そうと考えたのだろう。
そうなればアイミスさんやジャックも行動に出る余地が生まれるはず。今にして思えばこの岩が無ければ逆にどうなっていたことやらという感じだ。
「コウヘイ、出てはならぬぞ!」
その最中、近くからアイミスさんの声が響く。
互いに岩を壁にしているため姿は見えないが、どうやらすぐ傍に身を隠しているようだ。
大声を上げてパズズの気を引いてしまうことだけは避けなければならないため返事は出来ないが、こんな状況でも自身がその危険を犯してまで僕の身を案じてくれているその一言を決して無駄にはしないと心に刻む。
その状態で耐えること十数秒ほどだろうか。
パズズも対抗策を持たれている以上この戦略は無意味だと悟ったのか、煩いぐらいの翼の音と共に温風がピタリと止んだ。
すると、まるで初めからその時を狙い澄ましていたかのようにアイミスさんが間髪入れず飛び出していく音が辺りに響いた。
「アネット様、ご無事ですか!」
改めて顔を覗かせると、その身を案じつつも敢えてジャックの元に向かうのではなくパズズへと向かって岩を跳ねていく姿が目に入る。
そうしたのは安否不明のジャックへと追撃の手が及ぶのを避けようと考えたのか、それに限らず相手に一方的に攻め続けられる状況を回避しなければと考えたのか。
心中は計り知れないながらもアイミスさんが二度三度と岩をステップし剣を持つ両手を正面に構えた時、
「ああ、無事だよ……ギリギリだがなっ!」
そんな声と共に、ジャックも別方向から飛び出してきた。
どこか痛めたのがアイミスさんとは対照的に片手で剣を握っていたが、それでも動きそのものの俊敏性は失われておらず最後の一蹴りで大きく飛び上がると二人が同時に斬り掛かる。
迎え撃とうとアイミスさんに照準を絞っていたパズズは一瞬ジャックへ視線を移したが、左右からの攻撃を纏めて迎撃するのは困難だと判断したらしく次の瞬間には真上に飛び上がることで距離を置いてしまった。
「逃がすかっ!」
空振った剣をすぐに構え直すと、今度は二人同時に突きによる斬撃波を放つ。
飛翔していることで逆に機動力が下がっているのならああいった中距離攻撃は有効な手立てになるのではないか。
と、微かな希望を抱かせた絶妙なタイミングの斬撃波は、しかしながらまたしても掠ることすらなく空中を通過していく。
パズズはまるで空を舞う鳥の如く急激に降下し、Uの字を描く様な軌道で再び浮き上がることで回避だけではなくそこからの急接近までをも不意打ちの性質を維持したままやってのけていた。
狙いは今度こそアイミスさんだ。
一気に元の岩まで迫るとパズズは太い鳥の足で踏み付けんばかりの勢いでアイミスさんに掴み掛かるが、二人もすぐに後ろに飛び退くことでその危機を脱する。
狭い岩の上に二人が居ては素早く動くことも出来ないためやむを得ない選択なのだろう。
それでもパズズは似通った攻防を繰り返す展開を打破しようと考えたのか、逃げられたところで一呼吸置くことなく更に距離を詰めていく。
無人になった岩の上に一度着地し、そこからより勢いを付けるとアイミスさん目掛けて突撃したのだ。
先程とは逆に宙に浮く状態でいることで行動の自由が奪われたアイミスさんに太い腕と鋭い爪が襲い掛かる。
落下していく中で咄嗟に剣を構えることで顔の付近こそ守ってはいたが、その一撃は殴り付けるように胸部の防具を切り裂いた。
「くっ……」
アイミスさんは苦しげに声を漏らし、そのまま弾き飛ばされる様に軌道を変えて背中から落ちていく。
剣の先で突くことで真後ろに迫っていた岩への直撃こそ避けはしたが、それでも着地しきれずに不自然な形で片足だけ地面を蹴って体勢を崩すと倒れる様に背中を打ち付け何メートルも転がっていった。
陰から出ないよう気を遣いつつ、覗いていたのとは逆側から奥の方を伺うと少し向こうの別の岩にもたれ掛かっているアイミスさんが目に入る。
常に身に着けているあの防具のおかげで肉体には傷を負っていなさそうだけど、鉄製の胸当てにハッキリとしたひっかき傷が刻まれていた。
金属を削り取るだけの鋭利さと腕力……あんなのを生身で受けたら到底無事では済まないだろう。
頭上ではパズズが獣さながらに吠え、更なる攻撃に出ようと距離を詰めるべく迫ろうとしているが未だ胸を押さえたまま息も整っていないアイミスさんはすぐに動くことは出来ない様子だ。
その上ジャックは逆方向に飛んでいったためフォローに入れる状態ではない。
僕が割り込むか?
いや、この距離と僕の脚力では無謀だ。
だったら敢えて囮になることで矛先を変えるか?
それならば危険はあっても少しの時間ぐらいは稼げる可能性がある。
「え?」
腹なら最初から括れてる、迷う時間は無い、行ってやるぞ。
言い聞かせる様に心で反復し立ち上がろうと手を地面に当てた時、予想外の光景がそこに生まれる。
目の前にあるのは脇を通り抜け遠ざかっていく少女の背中。
驚くべき事に……同じ事を考えていたラルフが僕よりも先にそれを行動に移していた。
何の予告もなく、僕よりも遙かに早く、仲間を守るべくその判断を下したあの子の行動に僕に対しての先走らないようにという意味が含まれているかは不明だが、それでもラルフが向かっていった以上僕が無駄に足を引っ張るわけにはいかない。
ひとまずはその背を見守り、機を見て動く。
ラルフがアイミスさんの方ではなくパズズ本体に向かった以上はそれが最善だろう。
チームワークの善し悪しは未だ何とも言えないけど、僕としても傍に一人ついていてもらわなければならない状況でいるよりはそうしてくれた方がずっといい。
「しゃ~っ!!」
とか何とか『怒って牙を剥いています』アピールのためだけの必要かどうかも分からない演技を織り交ぜつつ、ラルフは真横からパズズへと迫っていく。
それによってその存在に気付いたパズズはすぐさま標的を入れ替え、こちらは本当に牙を剥き殺意に満ちた猫科独特の細くなった獲物を狙う眼をラルフに向けた。
かと思うとすぐに飛行状態で軌道を変え、間にあった岩へと着地すると翼を羽ばたかせて例の熱風を巻き起こすことで行く手を阻みに出る。
先程あれを無効化した技がラルフによるものであると把握していないがゆえに不意を突く横槍への迎撃手段としてあれを選んだのだろうが、当然ながらその要素がどちらに優位となるかは明らかで、熱風を浴びるよりも先に噴き出された薄白い息が空中で混ざり合いこちらにまで伝わってくる熱気はすぐに生温い空気へと変わっていった。
「ひっかくのは猫の特権にゃ~!」
アイミスさんやジャックとはまた違った軽快な動きで岩をトントンと踏み台にして飛び上がりパズズへと急接近していくと、ラルフは謎の宣言と共に殴り掛かる。
というよりは発した言葉からするに引っ掻こうとしたのか、その攻撃は思いの外あっさりとパズズの胸元へとヒットした。
が、その巨体はまるで時が止まったかの様に何の反応も無く、また何の動きも無い。
「にゃ?」
あれ? という意味であろう気の抜けた声が届くのとほとんど同時にラルフの体が浮き上がる。
面食らい動きを止めた大きな隙は完全なる油断となり、太い腕が首を鷲掴みしてそのまま頭上にまで持ち上げられてしまっていた。
僕の位置からでは横顔しか見えていないが、呼吸が止まりラルフの表情が歪んでいることだけははっきりと見えている。
「アホか、相手はライオンだろうがっ。お前の上位互換じゃねえか!」
その危険極まりない光景に慌てて飛び出したのはジャックだ。背後を取ろうと考えていたのか、直前までの位置からは大きく変わっている。
僕から見て左側から突っ込んでいくジャックはすぐに射程距離にまで近付くが、なんとパズズは掴んだラルフをジャックに向けてぶん投げることで虚を突いた。
塞がった手を空ける目的、そして行く手を阻む目的、それだけではなく仲間を助けようとするこちらの心理や性質を利用し攻撃の手を止めさせようとする狙いも含まれていたのかもしれない。
力任せに叩き付ける様な腕の振りによって投げ付けられたラルフは真っ直ぐにジャックへと向かって飛ぶ。
しかし、僕自身の予想にも反してジャックはそれを躱し、そのままパズズへと攻撃を仕掛けた。
「許せ猫娘っ」
兄と違って腕力を持たないラルフは勢いに逆らうことが出来ず、あの身体能力を以てして落下の勢いを制御出来ずに背中から岩へと叩き付けられる。
ドスンと鈍い音が響き、『うにゃっ』という声が耳に届くと同時に姿が見えなくなるという凄惨で目を背けたくなる光景であったが、その身を案じる気持ちもさることながらジャックの動向が気になってしまって咄嗟に動くことが出来ない。
決断しかねているのではなく、直接攻撃の結果如何では自分の行動を選び直さなければならないのではないかという判断からだ。
近距離からの目眩ましかつ行動制限が不発に終わったためか、斬り掛かるジャックに対するパズズの反応は遅れる。
右腕を目一杯に伸ばした鋭い一閃。
その先にある細身の剣を咄嗟に受け止めたのは、同じく剣咄に突き出した左手だった。
いかに強い肉体を持っていてもジャックの突きを素手で受け止めることなど出来るはずもなく、剣の先がまともに掌を貫通する。
ここに来てようやく与えることが出来たまともなダメージにパズズの動きが僅かに止まるが、逆にそれが更なる闘争心を呼び起こしたのかジャックが剣を抜き去ると憤怒の形相を伴った逆の拳が顔面を狙って伸びた。
だが焦る気持ちも束の間のこと、怒りに身を任せた攻撃は単調さを生み、逆に対応を容易にさせる。
柔軟な体で胸に触れるぐらいまでに片膝を追ったジャックは渾身の右ストレートを食らうことなく、その伸びきった拳を踏み台にパズズの頭上まで飛び上がった。
そして空中で体を回転させ、棒高跳びよろしく体を反り返らせるとその状態から両の足首でパズズの首を挟み込み、遠心力を利用した動きで上半身を一気に地面へ落下させることで振り子の原理が働き、しゃちほこばり反った体の最後部である両足は必然的にパズズの頭部を地面へと叩き付ける。
「…………」
思わず言葉を失う程の凄まじい体捌き。
後ろ向きに真っ逆さまの状態で頭蓋から落ちたパズズはえげつない音を残して地面に突き刺さる様な体勢となったのちに俯せで倒れ込んだ。
それでも意識は残っているらしくすぐに起き上がろうと腕で体を持ち上げようとするが、頭部へのダメージは重度のようで見るからに肉体に悪影響をもたらしており完全に立ち上がることが出来ずに力無くふらついている。
一緒に倒れ込んだジャックはその間に後転から倒立を経て素早く立ち上がり、その動作の中で構えを整えると再び渾身の突きを放った。
何度目になろうかという至近距離からの眉間を狙った一撃は惜しくも寸前で意識を取り戻したパズズの反応を許すが、逸らした首を掠め血を噴き出させた剣はその後ろに佇む翼の一つを切り裂き羽根を舞わせる。
一気に優劣が入れ替わった攻防はジャックがそのまま畳み掛けるかと期待や希望を抱かせるには十分の光景を作り出してはいたものの、ただ一方的にやられてくれる程相手も甘くはなく勝機を見出したがゆえに近付きすぎた距離が逆にカウンターを許すに至ってしまっていた。
剣と交差する様に繰り出された拳はまともに腹筋へと突き刺さる。
渾身の一手への返す刀とあって防御の態勢を取れておらず、ジャックは息や唾を噴き出しながら後方に飛ばされてしまった。
それだけに留まらず、パズズは深い切り傷を負った左の翼を含め両翼を羽ばたかせることでかまいたちを発生させ追い打ちを掛ける。
岩をも傷付ける風の斬撃はあらゆる角度からジャックへと襲い掛かり、真正面の物こそ剣で打ち消すが、先程のアイミスさんと同じく宙に浮き弾き飛ばされている状態では全ての攻撃を防ぎきれず四肢と肩口をいくつかが掠めていった。
絶えず続く攻防はそこで止まることはなく、翼を斬られたことにより飛行能力に支障を来しているのかパズズは風を操る能力でもなく飛行能力を駆使するでもなく直接攻撃によって更なる反撃に出る。
上から飛び掛かる形となった直線的な動きは体重差もあって距離が縮まるまでに要する時間は翼を使うよりもずっと短い。
これではまず間違いなく落下しきる前に追い付かれてしまうだろう。
空中戦が不利に働くのはここまでの戦いから明らかだ、そうなっては不味い。
他ならぬジャックも十分過ぎる程に理解してはいても、舌打ちを漏らしながら苦し紛れに剣を投げ付けることしか出来ず。
ブンブンと回転しながら飛んでいく刃はパズズを斬り付けることなく通過してしまったもののパズズは身を捩ることで躱そうとしたために飛び掛かる勢いは失われ、離れていくジャックを諦め着地することを選択させた。
ひとまずの危機は脱した様にも思えるがしかし、不運にもその背後にある岩の亀裂へと柄が挟まってしまっている。
身長を超えるぐらいの高さで剣先を斜め上に向けがっちりと嵌りこんでおり、ああなってはいくら接近状態を脱したにせよ拾いに行くにも苦労が伴いそうだ。
ならば僕がそれを実行するべきだろうか。
だがこの空間の中心付近となればパズズに気付かれる可能性が大いにある。そうなれば事態はより悪化し逆に足を引っ張るだけになってしまう。
となるとここはアイミスさんに任せるしかない。
「ふぅ……」
緊張状態が長く見ているだけで疲弊してしまうのをグッと堪え、一度呼吸を整えると視線を彷徨わせてアイミスさんの姿を探す。
急いで右に左にと視線を彷徨わせてようやく見つけたアイミスさんはパズズの背後に回り込み、密かに上段の構えを取っていた。
例の必殺技を放とうとしていたのだろうけど、ジャックと密接していたことでタイミングを見出せずにいたといったところか。
そんな中で姿が丸見えになる中央の高い岩の上から移動してしまったことで標的を見失ってしまった。
その結果は果たして幸か不幸か、集中していたアイミスさんの注意がそこで一度途切れ、それによって数メートル離れた位置で名前を呼んででもいいものかと目線を送っていた僕に気が付いた。
目を合わせた時間は二秒となかったが、ただ目配せをして頷き合うとそこで揃って体の向きを変える。
それだけで意思疎通が出来ることの何とありがたいことか。
こちらは任せておけと、確かに伝えてくれた彼女を信じ今度こそ慎重に身を隠しながら岩の陰を移動し、「こっちだ化け物っ!」とアイミスさんが飛び出していく音を耳にラルフの元へと向かった。
四つんばいになっているため最早確認することも出来ないが、頭上では激しい戦闘の音が聞こえてきている。
殴り合う様な音や岩が削れてパラパラと舞う音、そしてジャックの罵詈雑言の声が入り交じりながら。
「ラルフ、大丈夫?」
生き死にに直結する数十秒の移動を経て、ようやくラルフの傍へと辿り着く。
疲れた顔でぐったりとした状態で小さめの岩へともたれ掛かっていて自ら動く様子がない。
「にゃ~……背中が痛くて立てないにゃ」
直接岩に叩き付けられているのだ。
ただでさえ細身で小柄なラルフとなれば相当の痛みがあるだろう、無理もない。
「とにかく、ここじゃ距離が近くて巻き込まれかねないから移動しよう。背中に乗って」
中心地から近くはあるが、アイミスさんの参戦のおかげか激戦が生み出す音は岩の向こう側へと遠退いている。
その隙に安全な位置へ向かわなければと、背を向けラルフを負ぶって運搬することにした。
素直に体重を預けられると、今度は移動速度が遅いのを考慮し一気に駆け抜け入り口付近の岩の裏へとラルフを下ろす。
そこでようやく二人はどうなっているのかと顔を覗かせると、これまでの戦いから想定されるどの憶測にも当て嵌まらない恐ろしい光景が広がっていた。
何がどうなってそんなことになったのか、屋内ではなく洞窟の中であるはずのこの空間に巨大な竜巻が発生しているのだ。
見るからに凄まじい風速の渦が天井付近にまで湧き上がり、その上アイミスさんが中に取り込まれ円を描きながら舞い上がるように浮上している姿が見える。
風の渦は僕が認識してから数秒で形を失い消失しつつはあったが、大きなダメージがあるのか、或いはあまりの威力に体が自由を失っているのか、アイミスさんは離れた位置で気流に合わせて回転しながら落下していった。
いくら風を操る能力を持っているからといって、意図してあんな物を発生させられるのかという驚きは勿論真っ先に浮かんでいる。
愕然とし、心配になる気持ちはあろうとも、だからといって何をどうすればあの状況が出来上がるのかという疑問の答えが心に突き刺さることですぐに一掃されてしまった。
中央の物とは別の岩の上に立つパズズは右腕の肘から先を失っている。
危険を承知の上で、攻撃されるのが分かった上で、玉砕覚悟で突っ込み、僕がラルフを救出する時間とジャックが勝負を決する一撃を見舞うことの出来る環境を作り出したのだ。
「これでしまいだっ!!」
その証拠にほとんど時間差無く血を流すパズズへ向かって大きく飛び上がったジャックが特攻していく。
片方の翼と腕を奪われた獅子にこれまでの俊敏さを生かしたり力任せの反撃に出る余裕は無く、未だ素手のジャックは空中からのタックルの様な格好で上半身へとブチ当たると首と肩の辺りをがっちりと掴み、そのまま倒れ込む形で岩の上から二人揃って落下していった。
それでもパズズは狂暴性全開の見開かれた目で吠え、残る片腕でジャックに掴み掛かると噛み付こうと牙を剥く。
食らえば間違いなく致命的となるライオンの牙。
ジャックは眉間に手を当て必死にそれを押し返し、噛み付きを阻止しつつも全体重を乗せて上から抑え込む様に、それでいて意地でも離すまいとしがみつく様に密着し上から抑え込んだまま背後の岩へと落ちていった。
何故素手のままそんな戦法に出たのか。
自身がやられたみたく岩に叩き付けようと考えているのか。
「…………違う」
その寸前で気が付いた。
今にも到達しようというパズズの背後にある岩には、ついさっき刃が上に向けいたまま亀裂に嵌り込んだジャックの剣がある。
狙いは最初から、その一点だったのだ。
「決まった……にゃ?」
下ろしたはずがいつしか僕の背に乗っかる様にして共に見守っていたラルフが疑問混じりの声を漏らす。
それもそのはず、僕達の目の前では一人で地面に落っこちていくジャックと、そのジャックの剣に胴体の中心を貫かれ宙吊り状態のパズズが映っていた。
パズズは何度か血を吐き出し、苦しげに手足を動かそうと足掻くがすぐに一切の動作を失い、最後にはがっくりと首を垂らして絶命を告げる。
慌ててラルフと二人でジャックの元へと走ると、背中から落下したのか仰向けに寝っ転がったまま息を切らしながら天井を見上げていた。
すぐ向こうにはアイミスさんが倒れているのも見えている。
「二人とも大丈夫!?」
すぐにジャックの上半身を抱えて起こす。
腕や脇腹、肩口には小さな傷があるが、パッと見た限りではそれ以外に大きな怪我を負ってはいないようだ。
「ああ……なんとか生きてるわ。やっぱキツいな連戦はよ」
「アイミスさんはどこか不味い箇所とかは……」
「いや、私も命に関わる程の傷は負っていない。だが……アネット様の言う通り、さすがに三連戦は厳しいものがあるな」
二人ともすぐには起き上がろうとせず、天を見上げたまま満身創痍で一息吐いた。
地獄の様な三連戦だったけど、今回もなんとか全員が生きたまま終わったことに僕もようやく安堵の息を漏らし、脱力する。
あとはパズズの首から鍵を取って、ここを出るだけだ。
思っていた何倍も恐ろしい体験ではあったけど、どうあれこうして全ての鍵を手に入れることは出来た。
残るはクロノスという神がいる神殿と最終目的地の手前にいるノームという神の治める地、そして支配者たる天帝がいるという楽園のみ。
まだまだ困難だらけではあるけど、それでも神に挑もうという旅路は半分を過ぎた。
後のことはこれから考えるとして、今はとにかく無事を喜ぶぐらいは許されるかな。
そんなことを考えながら、僕も二人と同じ様に倒れ込んで真上を見上げた。
そのままの状態で少しの休息を挟み、そして僕達は長い長い洞窟での戦いを終え半日かそれ以上かぶりに日の下へと戻るに至るのだった。