【第十九章】 鶏の化け物
激戦と言っていいものかどうか、実質虎の人とオーガの肉弾戦という壮絶な戦いが決着を迎え目的の鍵を手に入れた僕達は元居た四つの扉の前へと戻った。
誰もに、特に虎の人には疲労や痛みも残っているだろうけど、休息の時間はそう長く取ることは出来ない。
精々数分程度の、水を飲み息を整えるぐらいの猶予だけだ。
ここで時間を食ってしまってこの洞窟を出た時に日が暮れていては結局そこで詰んでしまう可能性があるためリスクを承知で時短を優先することにした結果の結論である。
それぞれが一息吐くと早くも次なる選択を迫られることになるわけで、これまた何の拘りなのか再び剣によるルーレットを勝手に始めたジャックの独断により次に進むのは鶏の像の扉ということとなった。
じゃあ行くぜ。
と、確認のために一度振り返ると、それでいて返事を待つことなくそのジャックが三つめの扉を開く。
恐る恐る後に続き中に足を踏み入れると先程の殺伐とした雰囲気は一切無く、最初に入ったギルマンの時と似た自然溢れる光景が広がっていた。
一面の草原、そして四隅にやけに高く大きな木が立っているだけの、本当に見た目だけは長閑な空間だ。
それでいてオーガの居た場所程の広さはなく、精々縦にも横にも三十メートルぐらいしかない。
そして何よりも気になるのは、待ち受けているはずの化け物の姿が見当たらないことにある。
魚人、鬼ときて鶏……と言うとちょっとマシにも思えてくるが、まあそういうわけにはいかないだろう。
そもそも見た目が鶏っぽいというだけで絶対に別の生物だろうし……。
「あっちだ」
キョロキョロと敵の姿を探していると、ジャックが前方を指差した。
その先、右側の角に立つ大木の上にそれはいた。
全身を覆う羽が緑色だからすぐには気付かなかったが、ダチョウぐらいのサイズはあろうかという、まさに巨大な鶏がこちらをジッと見つめている。
今はまだ畳んでいる翼の部分だけが赤くなってはいるが、本当に緑色の巨大鶏としか言い様のない珍妙な生物は、その上なぜか尾が生えている上にどう見てもただの尻尾ではなく先端が蛇の頭部みたいになっていて完全に独立した生物として蠢いていた。
名はコカトリス、ということ以外に持っている情報はない。
しかしそれでもただならぬ何かであろうことは容易に想像出来るだけの不気味な風体であることが否応なしに伝わってきていた。
「思っていたよりも大きいですね、あの図体で飛ばれると厄介です」
早くも戦闘態勢のアイミスさんは視線を怪鳥に固定したまま剣を抜く。
逆に真剣味の欠片も無いのは傍らに立つジャックだ。
「なーに言ってんだ、天鳳に比べりゃあんなのヒヨコみてえなもんだろ」
「うん、いや……それはどうだろう」
思わずツッコんでしまった。
確かにあっちはダチョウどころか象の何倍もでかかったけども。
「ま、デカかろうが小さかろうがぶっ潰すしかねえんだ。相棒はここにいな」
「分かった」
ここ、という言葉が指すはほとんど入り口から離れていない扉の真ん前だ。
最悪一人だけでもいつでも逃げれるように、という意味だろう。
一旦は素直に聞き入れ、逃げようと思った時に邪魔になる可能性のあるバッグを地面に置く。
念のため手に入れた二つの鍵はポケットに入れてあるので万が一荷物を奪われても行く道を閉ざされる心配はない。
言うまでもなく皆を置いて逃げろ、なんて指示には死んでも従いたくないけど、今ここで僕が何を口にしたって納得してくれないのは分かりきっている。
だからこそ僕に出来るのは、それだけは絶対にしないと心に誓うことだけだ。
そんな心の内に気付いているのかいないのか、三人は一呼吸置いてゆっくりと前に出る。
「さて、どうすっかな」
ポンポンと、鞘に収まった剣を肩で弾ませ遙かな高みからこちらを見下ろしている巨大な怪鳥を眺めながら何気なくジャックが漏らした時。
なぜかその横に立つ虎の人が額を抑えて呻き始めた。
「ぬ、待て……まだ早いと言ったはずだ。ぐ……」
独り言の様に小さく何かを呟くと、とうとう頭を抱える。
見ようによっては苦しんでいる風にも映り、そのただならぬ様子によからぬ事態が起きているのではないかと心配になるが声を掛けようとした瞬間、驚くことに自慢の巨体が縮んでいった。
混乱する余り固まったのも刹那の話で、そんな非現実的な光景を目にしながらも何度か見た経験のおかげかすぐに事実に辿り着く。
分かりやすく言えば、虎の人からラルフに入れ替わろうとしているのだ。
何故このタイミングで? と思う気持ちは当然あれど、そんなことを指摘する前に肉体は高さにして三分の二に、横幅は半分にまで縮小して女の子のそれへと完全に変貌していた。
初めて目の当たりにしたのかアイミスさんは唖然と、ジャックは若干呆れた様な目でただ無言のままに見守る中、純度百パーセントの少女となったラルフはぶかぶかになったマスクを乱暴に引っ張って脱ぐとそのまま地面に叩き付け、
「今度こそにゃーの出番にゃ!」
と、相当場違いなテンションで両手を上げるのだった。
色々言いたいことはあるが、ダントツで優先度が高いのはこれしかないだろう。
「ラルフ、服!! あと靴も!!」
「にゃ?」
ラルフは今初めて気付いたかのように自分の体を見下ろした。
上半身裸の状態だった虎の人がそのまま縮んだのだから当然ラルフも同じ格好でいるわけで、ついでに加えておいた裸足の足下なんてどうでもよく思えるぐらいの不可避な現象がいちいち心臓に悪い。
それでいて本人がうっかりで済ませているのだから十代半ばに差し掛かろうという女性としてもう少し羞恥心やモラルを持ってくれまいかと願うばかりである。
「にゃはは、忘れてたにゃ」
やはりラルフは特に慌てる様子もなく足下に置いた布の袋から替えのシャツと自分用の靴を取り出し身だしなみを整える。
そこでようやくジャックが呆れ顔と共に溜息と感想を漏らした。
「ったく、しまらねえな」
「今度こそにゃーの出番にゃ!!」
「やり直さなくていいっつーの。そもそも何で急に入れ替わってんだ、大丈夫なのか猫娘」
「兄者はまだ回復が必要にゃ、それに相手は鳥にゃんだから素早いにゃーの方がいいに決まってるにゃ」
「どうにも一抹の不安が拭い切れねえが……まあいい、いつでも入れ替われるならひとまずやってみっか」
「さっきは兄者まで活躍してしまったからにゃ、今回は任せるにゃ」
「口振りだけは一人前だなおい」
「アネット様、ここはラルフを信じるとしましょう」
定番化しつつある二人の緊張感皆無なトークを苦笑いしながら見ていたアイミスさんの大人なコメントで空気がまた少し引き締まり、三人は揃って大木の頂上に座するコカトリスを見上げた。
緑色の巨大鶏は出口に近付こうとしていないためか、依然としてこちらを見ているだけだ。
「まずは、野郎をどう引きずり下ろすかだな」
「やはり前例に漏れず首に鍵が掛かっています、倒す他に道は無いようですね」
空間の四隅に立つ木は全てが十メートルを超す高さを備えている。
確かにこのままでは木登りでもしなければ闘うことすらままならない状況だ。
「無論、ここを通り抜けようとすれば問答無用で襲ってくるのでしょうが……」
「ならあちらさんから下りてきてもらうっきゃねえだろうな。猫娘の言い分じゃねえが、さっきはアタシもロクに役に立ってねえからな。ここはアタシが先陣を切るとしようじゃねえか」
シャキンと音を鳴らして剣を引き抜くと、ジャックは宣言した通りに鞘を放って先頭を歩いていく。
二人がそれに続き、僕を残して化け物と呼ぶ他に表現のしようがない怪鳥へと揃って向かっていった。
元々がそう広くはない空間であるためそこまで遠退いていった感もなく、奥の方まで行かない限り僕が駆け付けることも十分に出来そうだ。
なまじ三人が三人とも優しいというか、僕に対してやや過保護なのでそんなことは望んでもいないだろうが……僕にだって譲れないものはある。
見ているだけ、守られるだけ、怖がっているだけはしないという誓い。
それは元来不干渉主義であり事勿れ主義の僕が凡そ赤の他人には抱かない感情を生み出すだけの付き合いがあるからこそ、生死を共にした仲間と呼べる人達とは対等な関係でいたいと思う気持ちが抱かせるものだ。
今はまだ肩を並べるには到底及ばないけど、なんて自虐的な考えが沸きそうになるのを咄嗟に払拭しつつ見守る三つの背中。
位置関係にして中間付近まで進んだ辺りで、初めてコカトリスが反応を示した。
首を伸ばす様に上体を起こすと真っ赤な翼をバサバサと上下に動かし、今にも飛び立たんとする仕草を見せている。
「あちらさんも戦闘態勢のようだ」
どういった攻撃を仕掛けてくるのか、それが不明な状況で無茶は出来ないと判断したのかジャックは一度立ち止まる。
しかし、どういった攻撃を仕掛けてくるのかが不明だからこそ様子見を選択し防戦を強いられる状況から戦闘が始まるのを良しと考えなかったのか、短い返答を残したアイミスさんが何の宣言も無しに先手を打った。
「牙龍……翔撃!」
呟く様な声と共に右手に持った剣の先端をコカトリスへ向け、距離のある状況下にして渾身の突きを放つ。
まるで大砲でも放ったが如く旋風が周囲に迸り、通常の十倍にもなろうかという巨大な筒状、いや槍状の斬撃波が真っ直ぐに大木の頂上へと飛んでいった。
随分と前に見たことのある、船上で遭遇した超巨大なイカの化け物を一撃で倒したアイミスさんの必殺技だ。
数秒もすると目的地点である太くがっしりとした巨木は上部一帯が丸々消し飛び、それどころか貫通して岩壁を抉っている。
だが、標的であるコカトリスは直前に飛び去り、僕達の頭上で弧を描く様に飛行することで事なきを得ていた。
「こらこら、鍵ごと消し飛ばす気かおめえは」
「失礼、しかしこの距離からあれを食う程度の楽な相手ではないかと」
「そらそうだ」
ほとんど真上に首を向けながら交されるそんな会話。
初撃にしてはあまりにも強大過ぎる一撃をどう捉えたのか、コカトリスは二度三度と天井付近の高さを旋回していた軌道を唐突に変え、急激な降下を見せたかと思うと真正面から突っ込んできた。
手出しするのが難しい位置から二メートル程にまで高度を下げ、大きな嘴を開いて甲高い鳴き声を上げながらかなりの速度で迫ってくる。
一番前にいるジャックはすぐに剣を構え、迎え撃つ意志を示すだけではなく真っ向からやり合ってやると言わんばかりに自らも走り出した。
しかし、
「なっ!?」
勢いよく駆けようとするジャックが、何故か二歩目を踏み出したところで転倒する。
その驚いた声から予期せぬ事態に見舞われたことは予測が付くが、外から見ているだけでは何が起きたのかを把握することは出来ない。
言うまでもなくその間にもコカトリスは迫ってきていて、二本の足に光る鉤爪が今にもジャックを切り裂かんとしていた。
普段なら瞬時に起き上がるなり転がるなりすることで敵の攻撃を回避するジャックは未だ起き上がっていない。
左手で右足を押さえながらも剣を構えてどうにか対処しようとするが、幸いにも体勢を崩したのが走り出して間もなくだったこともあり寸前でアイミスさんが割って入り危機的状況を救っていた。
アイミスさんは剣を真横に向け、人の体など簡単に貫いてしまいそうな鋭い爪をぎりぎりで受け止める。
それによってコカトリスの動きは一時的に止まり、それを隙と見たのかすかさずラルフが真横から背中に飛び乗った。
やはり鍵をまず手にしてしまおうと考えたのだろうが、別段ダメージを負っているわけではない怪物がそう簡単にそれを許すことはなく、翼をばたつかせ体を振り回す様にアイミスさんの元から離れるとラルフはあっさりと振り落とされてしまう。
流石は猫耳の少女、というのは無関係だろうが、ラルフが上手く着地するとコカトリスはそのまま上昇し再度手の届かない高さへと退避していった。
すぐにアイミスさんがジャックに寄っていく。
「アネット様、どうなさったのです」
「わけが分からねえ……急に右足が動かなくなりやがった、どういうわけだ」
どうにか片足で立ち上がるジャックだったが、見るからに動きづらそうにしている。
「奴の能力でしょうか」
「それ以外にはねえだろうよ。ったく、厄介極まりねえなおい。解明しねえと戦いようがねえぜ」
「そうですね……ちなみにですが、痛みなどは?」
「いや、そういうのはねえな。ただ急に右足が動かなくなった。まるで石になったみてえによ」
「では仮に石化能力としましょう。発動条件や有効範囲、持続時間を把握しなければ迂闊に攻めることも出来ませんが……」
「持続時間はそう長くねえようだな。完全じゃないにせよ、徐々に動くようになってきてるからよ」
「なるほど、その辺りの分析力は私などよりもアネット様の方が長けています。私が囮になりますゆえ、しっかりと観察していただくとしましょう」
「言うまでもねえだろうが、リスクがたけえぞそいつは」
「ですが、そうしてでも得なければなりません。お任せしました」
視線を合わせることなく交された会話はそこで途切れ、返事を待つことなくアイミスさんは扉を目掛けて一直線に走っていく。
通り抜けようとする行為を力尽くで阻止する、という性質を狙った行動なのだろう。
囮という言葉に偽りの無い、仲間のため勝利のために選んだ危険極まりない決断だ。
「猫娘っ、フォローに回れっ!」
「任せるにゃっ」
ジャックの指示によりラルフがすぐに後を追う。
そんな動きが悟られぬはずもなく、上空を旋回していたコカトリスは再び急降下を始めた。
やはり扉を抜けようとすることを見過ごすまいとする動きを取るのは同じで、翼を広げることで尚のこと大きく見える巨体は迷い無くその背中を追っていく。
どうしたって走る人間と飛んでいる鳥では速度で分が悪く、見る見るうちに距離が縮まると数メートルの距離まで来たところでコカトリスの目がキラリと光った。
そうは言っても人の倍はあろうかという早さを誇るするアイミスさんだがその瞬間、先程のジャックと同じ様に何かに躓いた様な不自然な動きで転倒し、前のめりに地面を滑っていく。
そして立ち上がろうにも立ち上がれない、といった左足を気にする素振りを見せるところまで同じだ。
そうしている間にもコカトリスは迫っていき、ほとんど真横から食い千切ってやろうとばかりに大口を開いて襲い掛かった。
「猫娘っ」
再びジャックがその呼び名を大声で口にする。
まさに絶妙のタイミングで呼応したラルフが後方から追い付き、片膝立ちの状態で対処しようとするアイミスさんへの攻撃を阻止した。
「にゃにゃっ!!」
とか何とか言いながら、勢いよく飛び上がり真横から首を伸ばすコカトリスの側頭部に跳び蹴りを見舞う。
体重が軽く、虎の人に比べて腕力でも劣るラルフではあるが、視線が完全にアイミスさんに向けられていたことで不意打ちの形となっている上に頭部への攻撃ということもあって思いの外あっさりと体勢を崩させ、その蹴りは大きく巨体を弾き飛ばしていた。
それでも両翼をバタつかせながら倒れ込むことを防ぐと、コカトリスは扉の前に立ち塞がる。
更には距離の近いラルフに向けて尻尾の代わりに生えている蛇が伸び、攻めの一手まで同時に繰り出していた。
毒があるのかどうかなんて見ただけでは分からないが、灰色の蛇が二本の牙を剥きだしにして予想外の俊敏さでガチガチと何度も口を開閉し的確に喉元へ噛み付こうと縦横無尽に動き回る。
しかし、さしものラルフも動きの身軽さを長所として挙げるだけあって避ける動作に淀みはなく、にゃーにゃー言いながらもボクサーさながらに上半身を上下左右に揺らして絶え間なく襲い来る牙を上手く躱し、徐々に後退しながらアイミスさんの元へと近寄っていった。
「銀色、早く下がるにゃ」
そうしてすぐ傍にまで到達すると、背後に居るがゆえに目に入らることのないアイミスさんの状態を確認しようと振り返る。
それは明確なミスだと、僕ですら分かった。
「ラルフっ、目を切るな!」
「にゃ?」
言われて初めて気が付いたといった反応を示すラルフ。
最後に少し距離を置いたつもりでいたのだろうが、伸縮性に富む蛇はコカトリスが動いたことによって射程距離を伸ばし、今一度ラルフに襲い掛かっていた。
再度首元に向かって牙を剥きながら迫るが、棒立ちのラルフがようやく振り向いた時、その胴体は一刀両断される。
未だ片膝を立てたままのアイミスさんが、ぎりぎりの所でどうにか剣を伸ばしたのだ。
不自由な体ながらも間一髪で腕を振り上げると、真っ二つにされた蛇はボトリと鈍い音を残して地面に落ち、分断された半身だけが転がった。
生命力の高い蛇は首を切り落としても数時間は生きているらしいが、動きらしい動きは見せずにピクピクとしているだけだ。
その一撃に対しコカトリスは大きく体を仰け反らせ、天に向かって苦しげに吠えるとバサバサと今まで以上に真っ赤な両翼を暴れさせる。
痛みに悶えている様にも見えるそんな仕草は数秒続き、ラルフはその隙にアイミスさんの脇に手を添え、早足で引き摺ってジャックの居る位置まで戻ってきた。
「お、おいラルフ。もう少ししっかり運んでくれ」
と、漏らす気持ちも理解出来る不格好な移動ではあったが、腕力的に人一人背負って走って来いというのは少々無理があるか。
そうして二人が扉から離れたからか、コカトリスはまたしても上空に舞い上がっている。
丁度ジャックの所まで到達したラルフはアイミスさんから手を離すと、額を拭った。
「ふぅ、重かったにゃ。中々に疲れたにゃ」
「私の体重のせいであるような物言いはよせ。これはあくまで装備の重量であろう」
「言ってる場合か。見ろ、ブチ切れてるみてえだぞ」
コカトリスはこれまで同様に手の届かないぐらいの高さを飛んでいるが、先程までとは違い旋回はせず、バサバサと羽音を響かせながら宙に留まり三人を見下ろしている。
そしてジャックの言葉通り、その目には明らかな殺意、敵意が宿っていた。
「やる気満々、ってとこだにゃ」
「尻尾の蛇が原因、なのでしょうね」
「蛇がどうよりは明確に傷を負わされたことがきっかけだとは思うがな。なんでケツから蛇が生えてんのかはサッパリ分からねえけどよ」
「してアネット様、奴の能力に関しては?」
「目……だな。発動の瞬間僅かに光っていたことは間違いない、その瞬間に微かながら魔法力を感じたしな」
「つまり、あの眼に見られることで一時的な硬直をする、と。全身ではなく体の一部であることが救いではありますが……」
「それとて今までは、って話でしかないがな。あからさまに魔法力の量が増してるくせえし、全力でやられりゃ勝手が違ってくる可能性も大いにあり得るぞ」
そこで三人は改めて迎え撃つ構えを取る。
ジャックは足が元に戻ったようで、不自由さが無いかを確認する様にトントンと右足で地面を突きながら。
アイミスさんはまだ完全ではないらしくやや左足を引き摺りながら。
そしてラルフは虎の人の真似をしているのか謎の格闘家風なポーズを取りながら。
今度こそ怪鳥を倒し、鍵を奪取する。
そんな気概をありありと醸し出すその眼前で、コカトリスもまたここまでの阻止や妨害を主とした動きからは逸脱した明確な敵意を差し向けようとしていた。