【第十三章】 愛すべき祖国へ
サントゥアリオに住まう民達よ。
突然の声に困惑する者も多く居ろうが、どうか容赦して欲しい。
私は共和国国王パトリオット・ジェルタールである。
諸事情有りとある特殊な方法を用いて私の声を代弁させ、このように国内全ての民へと声を届けている。
どうかしばしのご静聴をお頼み申し上げる。
一方的に声を届けていながら言えた義理ではないが、長く前置きを語ることは出来ない。
非礼を承知で本題に入らせていただかなければならないこともまた、同じく詫びなければならないことの一つであり、繰り言になるがどうか容赦を願う。
……
…………
私がこの国の王となって、はや八年が過ぎた。
今にして思えば、そのほとんどが戦乱の中で過ぎていった時間だったように思う。
時には魔族を相手に。
時には同じ国に生きる者達を相手に。
そして時には、かつて共に戦った同じ人間を相手に。
図らずも先代の国王、すなわち我が父の後を継ぐ形で不相応な肩書きを背負って生きたこの八年と少し……私は多くの過ちを犯してきたのだろう。
若さを言い訳に、奮励努力しているつもりでいることを逃げ口上に無責任な言辞を弄し、あるべき姿から目を逸らし、正しい判断とは何か、あるべき姿とは何か、それを考えようともせず、するべき決断を先送りにし、その結果様々な物を失ってきた。
多くの民を、多くの兵を、それだけではなく誰よりも傍で私を支えてくれた者達を。
私は未熟で暗愚な王であった。今も、昔も。
なぜ気付かなかった。
なぜ気付いておらぬ振りをしていた。
我ながら遅すぎる後悔だ。
多くの恩を仇で返す仕儀となったこと、悔やんでも悔やみきれぬ。
全ては民のため、偉大なる祖国のため。
そのような存念はいつから中身を失ってしまったのだろうか。
この国に誰よりも貢献していた若き聡慧はかつて私に言った。
平和を願い、安住を求めるは民の権利であると。
いつの世も民が依らしむは国家であり体制なのだと。
同じ目線で願うことが国を導く我らの役目ではないのだと。
私は無自覚の内にそれらの言葉を軽んじていたのだと、ようやく気付かされた。
醜態を晒すばかりの王がどれだけ無用な血を流させただろうか。
愚かな王は祖国に何を残せたのだろうか。
懺悔の様相を装い許しを請おうとしているのではない。
全てが手遅れであったとしても、これ以上風光明媚の大地が蹂躙されていく様を見過ごすことはしたくないのだ。
王として、或いはこの国に生きる人間の一人として。
繰り返される争いの煽りを受け、この国が衰退していくのを黙ってみていることしか出来ぬなどと……身を刻まれるにも勝る痛哭だ。
これは贖罪でも罪滅ぼしでもない。
今になってそのようなことをしたとて、何かが許されるはずもない。
過去の過ちを精算したことになどなるはずがない。
私が王でいられる残り僅かな時間で何が出来るのかと考えた時、自ずと導き出される答えは一つだった。ただそれだけの話なのだ。
私は王として、この国を守る。
世界ではなくこの国の未来を。
この国に生きる民の未来を。
それが私が王として果たさなければならない責務であり、私に許された最後の役目だ。せめてもの意地だ。
自己満足ですらない身勝手だと思う者も居るだろう。
例えそうだとしても、これだけは知って欲しかった。
この嘘偽りの無い気持ちだけは伝えておきたかった。
私はこの国を愛している。
生まれ育ったこの豊かな大地を。
私はこの国の民を愛している。
共に生きた全ての民を。
そして切に願う。
偉大なる祖国よ、永遠に繁栄あれと。