プロローグ
読者の皆さん:作者さん、一体どれくらい自由な時間があるんですか?!これで3作目ですよ。
私:私は優秀すぎるのでしょうか?私が私だからこそ優秀なのか、それとも優秀すぎるからこそ私なのか?どちらを選ぶかはあなた次第です。
「つまり、俺たちは東ゆうすけって男を追い詰めろってことか? どうしてだ? ただのガキじゃねえか」
闇の中に、低く唸るような声が響いた。
その男の向かいには、仕立ての良い黒いスーツを身にまとった男が立っていた。問いかけられても、彼はまるで動じる様子を見せなかった。
「第五部隊からの命令だ」
しばし、二人の間に沈黙が落ちた。
次の瞬間、ケンジは突然、腹を抱えて笑い出した。
「フハハハハ! そいつは傑作だ!」
彼は席から立ち上がると、信じられないといった様子で首を振りながら、その場を立ち去ろうとした。
これまで何年もの間、数え切れないほどの馬鹿げた命令を受けてきたが、今回の命令は、その中でもとりわけ侮辱的なものかもしれない。
そもそも、二人がいるのは人通りのない路上だった。
いったい、これは何の会合だというのか。
真夜中の路上で、二人の物乞いが誰かの暗殺を企てているとでもいうのだろうか。
「重要犯罪者のリストに名前すら載ってねえようなガキを追い回せだと?」
ケンジは鼻で笑った。
「上層部の連中は、とうとう暇を持て余すようになったのか?」
「ケンジ」
男は立ち去ろうとする彼を呼び止めた。
「君は気づいていないようだが、あの少年には相当な懸賞金が懸けられている」
ケンジの足が止まった。
ゆっくりと、彼は顔だけを振り返らせた。
男の言葉に、何かが引っかかったのだ。
懸賞金そのものではない。
彼が自分の名前を、あまりにも気軽に口にしたことだった。
ケンジ。
他の部隊の人間が、彼をそんな馴れ馴れしい呼び方で呼ぶことなど、本来あってはならない。
それ以上に、許可もなく自分の情報を知っているというのは、見過ごせる問題ではなかった。
ケンジは完全に身体を向け直した。
「一つ、覚えておけ」
その声からは、先ほどまでの陽気さが消えていた。
「俺は第三部隊の人間だ。情報は、俺の領分だ」
彼の顔に、歪んだ笑みが浮かんだ。
ケンジはゆっくりと男に歩み寄り、少しずつ距離を詰めていった。
頭上では、月が静かに夜空に浮かんでいた。
真夜中を過ぎた日本の街には、どこか不気味なところがある。
見慣れた世界が普段の姿を脱ぎ捨て、その奥に潜む、もっと古く、得体の知れない何かをさらけ出すような感覚。
人々が代々語り継いできた言い伝えによれば、街から人影が消え、生きている者たちが固く扉を閉ざす頃、奇妙な出来事が起こるのだという。
もしかすると、そうした話には、人々が認めたがらないだけで、いくらか真実が含まれているのかもしれない。
頭上の街灯が、ちらちらと不安定に明滅していた。
その弱々しい光が、舗道に病的な色合いを落としている。
その下に立つ二人の男は、まるで異なる世界からやってきた存在のように見えた。
ケンジが身にまとっていたのは、簡素な貫頭衣だった。
粗末な布地は、くすんだ生成り色をしている。伝統的で、飾り気のないその装いは、余計な華美を嫌う男によく似合っていた。
一方、彼の連れは、寸分の隙もなく仕立てられた黒いスーツを着こなしていた。身なりの細部に至るまで、すべてが計算され尽くしているようだった。
死にかけた街灯の下で、伝統と近代が向かい合っていた。
「自分の立場もわきまえねえくせに、ずいぶんと口が達者じゃねえか」
ケンジはそう言いながら、目の前の男を見下ろした。
彼は長身で、肩幅が広く、がっしりとした体格をしていた。その手には直刀の柄が握られており、まっすぐに伸びた刀身が月明かりをかすかに反射していた。
それに比べると、スーツの男はひどく華奢に見えた。
それでも、彼には恐怖の色など微塵もなかった。
「トランプでもしないか?」
そう言うと、男はポケットに手を入れ、一組のトランプを取り出した。
そして、慣れた手つきでカードを切り始めた。
カードが擦れ合うかすかな音が、人気のない通りに奇妙なほど大きく響いた。
実に滑稽な光景だった。
片や、剣を手にした大男。
片や、その男を前にして、まるでこれからゲームでも始めるかのように、悠然とカードを切る男。
ケンジは彼をじっと見つめた。
そして、再び笑い出した。
「本当にこの街をひっくり返すつもりらしいな! ハハハハハ!」
彼は首を傾け、男の顔を観察するように見つめた。
「なるほどな。お前が噂の第三部隊のスパイか。『ジョーカー』」
ジョーカーはため息をついた。
「その呼び名は、あまり気に入っていないんだがね。何しろ、私の仕事は人知れず動くことが前提だ。それなのに、いつの間にか顔を知られるようになってしまった。まったく、失望したよ」
その言葉には、皮肉がたっぷりと込められていた。
しかし、彼の顔に浮かぶ笑みを見る限り、本人はその知名度を存分に楽しんでいるようだった。
ケンジは鼻を鳴らした。
「そりゃそうだろうよ。剣を持った自分の倍はありそうな大男を前にして、トランプを取り出すような正気じゃねえ奴は、そうそういないからな」
ジョーカーは肩をすくめた。
「そうかもしれないね」
「くだらねえ話はもう終わりだ」
ジョーカーの表情が真剣なものに変わった。
「お前の任務は、東ユウスケの抹殺だ」
ケンジの笑みが消えた。
「俺は手応えのある相手が好みなんだ。自分の限界まで追い込んでくるような奴。勝つために本気を出さなきゃならねえような相手がな」
彼は嫌悪感をあらわにして首を振った。
「これまで何千人もの犯罪者と戦い、その大勢を地面に埋めてきた。それなのに、今度は第五部隊の連中が、どこの馬の骨とも知れねえ奴を追い回せって? そんなくだらねえ仕事に、俺の時間を使えっていうのか?」
彼は長いため息をついた。
「第十一部隊が頭の足りねえ連中だって言われる理由が、少しわかった気がするぜ」
ジョーカーの表情は変わらなかった。
「好きなだけ笑っていればいい。だが、あの少年は、お前が考えている以上に、我々にとって大きな脅威となる可能性がある。それに、懸賞金も破格だ」
彼は短く間を置いた。
「三十四万ユーロ。日本円にして、およそ六千万だ。多少の誤差はあるがね」
その夜、初めてケンジは、まったく別の理由から心底呆れたような顔をした。
彼は首を横に振った。
「断る」
その返事に、迷いは一切なかった。
「俺の人生は金と戦いと女で回っている。だが、まともな戦いが期待できねえなら、そのどれにも興味はねえ」
彼は両手をポケットに突っ込み、背を向けた。
「とはいえ、第五部隊からの命令は命令だ。部下の誰かに、そいつを始末させる」
そう言って、彼は路上に唾を吐いた。
あんなちっぽけなガキの、いったい何が特別だというのか。
いつから、あの組織は一般市民を標的にするようになったのだろうか。
疑問はいくつも頭に浮かんだが、どれもわざわざ追究するほどの価値があるとは思えなかった。
少年がどんな秘密を抱えていようと、自分の手を煩わせるほどのものではない。
少なくとも、そのときのケンジはそう考えていた。
「その判断を、いつか後悔することになるぞ」
ケンジの足が止まった。
ジョーカーの声から、先ほどまでのふざけた調子が消えていた。
「忠告しておく。弱い奴を差し向ければ、あの少年に成長する機会を与えることになる。どんどん強くなり、やがては――お前自身の命を奪う存在になる」
数秒間、二人の間に沈黙が流れた。
やがて、ケンジは天を仰ぎ、腹の底から笑い声を上げた。
「フフフハハハハ! こいつは傑作だ! 本気でそんなことを信じているのか?」
彼は直刀を高々と掲げた。
月明かりの下で刀身が閃く。
次の瞬間、ケンジはその切っ先を地面に突き立てた。
衝撃音が、静まり返った通りに響き渡った。
ケンジは足元の刀を見下ろし、それから再びジョーカーへと視線を戻した。
「この刀すら使わずに、あのガキを叩きのめしてやる」
彼の顔に、自信に満ちた笑みが浮かんだ。
彼はもう決めていた。
ジョーカーが何を言おうと、その決断を覆すことはできない。
やがて、二人はそれぞれ別の道へと歩き出し、夜の闇へと姿を消していった。
夜は、ゆっくりと朝へ移り変わろうとしていた。
通りには、依然として人影がなかった。
影はまだ残っていた。
そして、屋根の向こうでは、夜明けの最初の兆しが現れ始めていた。
だが、二人とも気づいていなかった。
頭上から、彼らの様子を見つめていた人影の存在に。
「なるほどね」
夜の静寂に、少女の声が溶け込んだ。
「そういう計画ってわけ。新しい懸賞金、か」
少女は電柱の頂上に立ち、離れた場所から一部始終を見届けていた。
彼女は会話が始まってからずっとそこにいた。自分の在を悟られないよう、細心の注意を払っていたのだ。
知るべきことは、もう十分に知った。
これ以上、ここに留まる理由はなかった。
次の瞬間、彼女の姿が消えた。
音もなく。
動きの痕跡もなく。
まるで、最初からそこには誰もいなかったかのように。
「女王様のお出ましだ」
声は、すぐ近くから聞こえた。
影の中から、一つの人影が姿を現した。
ジョーカーは驚かなかった。
少女が姿を現すと決めるよりも前から、いや、正確には、彼女が立ち去ると決めるよりも前から、彼はその存在に気づいていたのだ。
「尾行されていることにも気づけないようじゃ、第三部隊には入れないさ」
彼はそう言うと、ポケットからタバコを取り出し、火をつけた。
小さな炎が一瞬だけ彼の顔を照らし、すぐに消えた。
彼は煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。白い煙が、冷たい夜気の中へと流れていく。
しばらくの間、彼はただ地平線を眺めていた。
やがて、彼の口元に笑みが浮かんだ。
「まさか、すべてがこちらの思惑どおりに進むとはね」
その目が鋭さを帯びた。
「作戦名――『ヘヴンズ・ウェイ』」
その瞬間、何かが変わった。
彼を取り巻く空気が、ずしりと重くなったように感じられた。
闇の中で、見慣れぬ気配が蠢 き始める。
それは、普通の人間が持ち得るはずのない、危険な何かの気配だった。
それでも、ジョーカーは何事もなかったかのようにタバコを吸い続けていた。
「おや?」
彼のすぐ隣から、声がした。
「君も楽しみにしているんだろう? ジョーカー」
青白く、異様なほど細い手が、彼の肩に置かれた。
指は長く。
肌は、まるで幽霊のように青白かった。
そして、彼の背後では、何かが笑っていた。
ジョーカーは、もう一度タバコを吸い込んだ。
屋根の向こうでは、太陽がゆっくりと朝の空へ昇り始めていた。
淡い光が、日本の街並みを少しずつ照らしていく。
夜は終わった。
だが、その闇の中で始まった何かは、まだ始まったばかりだった。
この章をお読みいただき、ありがとうございました!SodaKun Out ☆!




