表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/50

46話・自宅で混浴

 

 結果だけ述べると峰打達のレベルは8まで上がった。

 本当はレベル10を目標にしていたが、初日で詰め込みすぎるのも体調的によろしくない。


 峰打達は疲れ果てていたが、達成感に満ちている。

 次も指導してくれと笑顔で頼まれた。

 やる気があるのは大変結構。


 俺としても、最近は伸び悩んでいた。

 初心に帰る良い機会だと考えている。

 焦って無理に攻略しても、良い事はない。


 全ては命あってこそ、だ。


 どんなに金を稼いでも、死んだらそこでお終い。

 引き際を見定める能力も、冒険者には必要だ。

 これは冒険者に限らず全ての人に言えるが。


 時には妥協する事も大切だ。

 常に全開全力で物事に取り組む事など出来やしない。

 人間はそこまで万能では無いのだ。


 出来るとしても、それは一握りの才ある人のみ。

 そういう人種と無理に張り合う必要はない。

 自分のペースで進めばいいのだ。


「それじゃあ、今日は解散だ」

「はい。笹木さん、今日はお疲れ様でした」

「ありがとうございます!」


 最後に挨拶をしてから、大学生達と別れた。

 思った以上に素直な奴らだったな。

 危惧していたような事は起こらなかった。


 お調子者の高山も峰打が上手く諌めていたから、あの時のように暴走せず、自分の役割を全う出来ていた。

 良いチームになりそうだな。


 そういえば、峰打はいつか、ギルドを作りたいと言っていたな……うん、悪くないギルドになるだろう。

 ギルド、か。

 今現在は何処のギルドにも所属するつもりはない。

 当たり前だが、集団にはルールがある。


 ギルドに入ればメリットもあるだろうが、デメリットである規則に縛られる方が、俺には大きい。

 今はもう少し、自由にやりたいのだ。


 国家冒険者である時点で、ある程度は束縛されているが、そのくらいは利益の為の拘束。

 何でもかんでも思い通りに行くほど、世は甘くない。


「琴音、俺達も帰ろう」

「……はい」


 力のない声で応答する琴音。

 元気がないのは明白だ。


「ライドワイバーン」

「ぎゃおおお!」

「ソラ、今日も頼むぞ」

「ぎゃお!」


 ソラを呼び出し、二人で跨って大空に舞う。

 琴音は俺の腰にぎゅっとしがみ付く。

 帰ったらゆっくり聞き出そう。


 もし、本当に喋りたくないのなら、それでもいい。

 琴音の過去には干渉しないと決めている。

 向上の件は確実に琴音の過去に関係しているだろう。


 だけど、もし。


 彼女が俺の為に無理して気持ちを押し殺しているなら……その時はちゃんと、話し合おう。

 もう、すれ違いたくはない。



 ◆



「ふう……」


 風呂に浸かりながら、今後の事を考える。

 暫くは峰打達に付き合ってやるか。

 千葉ダンジョンはやがて攻略したいと思っていた。


 プライベートダンジョンは、後回しでいい。

 三階層はまた未知の世界だ。

 挑むならキチンと準備してから行きたい。


 今の琴音の心理状況的に、万全とは言えないだろう。

 ダンジョンでは一瞬の油断が命取り。

 例え瑣末な事でも、心配事は取り除いておきたい。


 それが琴音の為にもなる。


「……そろそろ出るか」

「––––総司さま」

「ん、琴音?」


 浴槽から身を出そうとした時、琴音がやって来る。

 ドア越しでも、綺麗な声音はそのままだった。


「どうかしたか?」

「いえ……宜しければ、入浴をご一緒したく思い」

「っ!?」


 ざぶん!


 思わず足を滑らせ、再び浴槽にダイブしてしまう。

 ど、どどどどういう事だ!?

 琴音は普段、一緒に風呂に入りたいなんて言わない。


 そりゃ、若い男女が一つ屋根の下で暮らしているんだ、夜のほにゃららは何度かしてるから、お互いの裸体なんてとっくに見飽きている……が、しかし。


 それとこれはまた別だと、俺は内心で叫んだ。


「総司さま……? 今、凄い音が……」

「何でもない、ちょっと潜水したい気分だった」

「そ、そうですか……?」


 因みに我が家の入浴場は、一般家庭に比べ広い。

 浴槽は余裕で成人男性四人は入れる。

 前の家主の趣味なのか、風呂はやたらと凝っていた。


「お、俺は別に、構わないぞ?」

「では……失礼致します」


 がらら……と、入浴場の扉が開かれる。

 俺は何故か、扉とは正反対の方向を向いていた。

 まるで思春期の中学生だ。

 いや、でも、これはなあ……


「……総司さま、何故お顔を……?」

「い、いや、別に」


 ドア越しではなく、ダイレクトに声が風呂場に響く。

 琴音が風呂場の床を歩く音が聞こえる。

 いつまでもそっぽを向いてるワケにもいかない。


 意を決して、顔を彼女の方へ向ける。


「……!」


 当然と言えば当然だが、琴音はタオルを纏っている。

 凹凸の少ないラインが浮き彫りになっていた。

 それでも白い肌が艶かしい。


「その、今日はまた、どうしてこんな事を?」

「……本当に、何故、でしょうか」


 くすりと、彼女は笑う。

 自虐的な笑みだった。

 自分を嘲笑うかのような、蔑むような。


 要するに、自分の心がコントロール出来ていない。

 事態はかなり深刻なようだ。

 そこまで思い悩んでいたのか……


「……」

「……」


 琴音はまず髪を洗い始めた。

 女性にしては短めなので、比較的早く洗い終わる。

 次に身体。


 その様子をぼーっと眺め––––るのは流石に変態的すぎるので、俯いて時が過ぎるのを待つ。

 身体を洗う音が生々しすぎて、耳に毒だった。


 そして、いよいよ浴槽へ。

 彼女は遠慮がちに、右足からお湯へ浸かる。

 人の体積が増えた為、浴槽のお湯が僅かに上昇した。


 女の子と共に風呂へ入る。

 初めての体験だった。

 既に顔はいつも通り上げている。


 赤く火照った顔色の琴音が、真正面に居た。


 それが照れているのか、湯による体温の上昇なのかは定かでは無いが、少なくとも俺の顔は真っ赤だろう。

 後者の所為にして、心情的には平静を保つ。


「……聞いて、いいか?」

「はい……」


 白い湯気が、室内を曇らす。

 互いの顔が湯気によって見え隠れしていた。


 俺の問いに、琴音は頷く。

 彼女も覚悟はしていたのだろう。

 本当はそのつもりで、風呂場にやって来た。


「申し訳ありません、総司さま」


 開口一番、彼女は謝罪の言葉を口にした。


「琴音は……酷い女です」

「そんな事ない」

「いえ……琴音は先日、貴方さまが、その、他の女性と逢引していると思い込み、疑ってしまいました。にも関わらず、琴音は……自分に、婚約者が居た事を打ち明けず、ずっと、隠していました」


 震えながら、彼女は話した。

 俺に嘘を付いていたと。


「そんなの、嘘にならないさ。琴音、お前自身が選んだ婚約者じゃないんだろう?」

「はい、父の、命で……」

「だったら琴音は何も悪くないし、俺に気を使う必要もない。昔の話だろ? 今はもう、関係無い」


 そう言って、琴音の濡れた頭を撫でる。

 いつもとは違う感触だ。


「琴音は優しいな」

「え……?」

「俺の事を考えて、思い悩んでくれたんだろ?」

「は、はい」

「だったら俺の気持ちは変わらない。いや、例えお前がアイツの元に行くって言っても、全力で止めて、俺に振り向かせてみせる。俺はもう、琴音が居ないとやっていけない、駄目な男になっちまったんだ」

「総司さま……!」


 ぱあっと、琴音の瞳に光が宿る。

 活力が湧いてきているようだ。

 いつもと変わらない表情だが、口元は綻んでいる。


 俺の想いは、何があろうと変わらない。

 もう失いたくない、絶対に。

 だから守ってみける。


 誰からも、どんな奴からも。

 琴音は……誰にも渡さない。

 過去と、今の、そして……これからの自分に誓った。


「流石にのぼせてきたから、俺はそろそろ出るよ」

「琴音の我儘に付き合ってもらい、ありがとう、ございます」

「いや、俺も良い思いが出来たから、構わないさ」


 ざばっと湯を滴らせながら、浴槽を出る。

 それがいけなかった。

 どうやら俺は、既にのぼせていたようだ。


「そ、総司さま……っ!?」

「ん?」

「あ、その、琴音は……い、いつでも、じゅ、準備は出来ておりますゆえ……!」

「は? 何言って––––」


 ピタリと、固まる。

 そう、俺は最初、一人で風呂に入っていた。

 だからタオルを巻いていないワケで。


 琴音の身体を見て、俺の一部は知らない内に––––

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ