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38話・デュアルキャスト

 

 数秒間だけ空中を舞う。

 トレントは枝の雨を乱れ打ちしてくる。

 速度だけなら俺の方が速い。


 楽々と枝の雨を避ける。

 そのまま接近したところで翼を消す。

 トレントの体に飛び移り、剣を突き立てた。


「ギッ!」

「彗星剣!」


 突き立てた状態で彗星剣を発動させる。

 刀身が伸び、トレントの体に深々と刺さった。

 枯れた木のような体は脆い。


 あっさりとトレントの体を貫通する。

 その状態のまま、トレントから飛び降りた。

 重力に従い地上へ落ちる。

 突き立てた剣の持ち手は、しっかりと持つ。


 すると、どうなるか?

 彗星剣によって強化された刀身は、折れる事なく俺が落ちると同時に体を斬り裂いていく。


 ズガガガガッ!


 斬り裂く感覚はまるで発泡スチロールだ。

 そんなに力を入れずとも斬れる。

 とは言えダメージは与えられていない。


 斬った途端にトレントの体が再生を始める。

 だったら、何度でも斬るだけ……!


 地上に着地した瞬間、トレントの左手から伸びた無数の枝が囲むようにやって来る。

 完全に囲まれる前に、跳躍して回避。

 その勢いでトレントの右手を斬る。

 更に空中で回転しながらナイフを投げた。


「スナイプスロー!」


 投げた本数は二本。

 二本のナイフは真っ直ぐ飛び、トレントの目を抉る。

 だが差して効いてないようだ。

 あの目玉は飾りか?

 トレントは平然としている。


「ギ、ギ!」


 ザワザワと、奴の体から魔力が発せられる。

 この雰囲気……魔法か!?

 地上に着地したと同時に、素早くその地点を離れる。


 直後にその場所の地面が崩壊した。

 地割れだ、大地が沈んでいる。

 トレントは土属性の魔法も操るようだ。


 続いて幾つもの岩石が飛来する。

 大きさは約二メートルほど。

 走り回りながら回避する。


 全て避けたつもりだったが、最後の一つに当たった。

 とてもつもない衝撃に襲われる。


 両腕を交差して体への直撃は避けた。

 それでもエネルギーは殺し切れてない。

 結果、大きく後方へ吹き飛ばされる。


 まだだ……!


 俺は強引にウォーターフォールを唱える。

 背後に滝が現れ、そこに突っ込む形に。

 そのおかげで幾分吹っ飛ぶ速度が弱まった。


 転がりながらも、トレントを見る。

 既に体の傷は再生していた。

 こちらに両手を向け、追撃の準備も完了している。


 ちらりと琴音の方を伺う。

 こくりと、彼女が頷いた。

 準備完了の合図である。


 だったら、最後の仕上げだ。


 傷付いた体に鞭を打つ。

 跳躍を真上ではなく、正面に向けて発動。

 地面スレスレを跳ぶようにして進む。

 その速度は普段の移動速度とは比較にならない。

 あっと言うまにトレントの足元へ。


 三度の彗星剣で、トレントの片足を根本から斬る。

 続けてもう片方の足も斬った。


 ガクンと倒れるトレント。

 だがそれも一時的だ。

 既に傷の修復が始まっている。


 だから––––


「今だ! 琴音、叩き込め!」

「お任せを!」


 刹那、琴音の魔力が爆発的に上昇した。

 その間に宿す魔力。

 それが一箇所に集まり、練り上げられていく。


「《デュアルキャスト》……!」


 彼女がそう呟く。

 直後、二つの魔法陣が背中に現れる。

 魔力はそこに集中していた。


 色合いは黄と緑。

 黄の魔法陣には雷が、緑の魔法陣には風が。

 それぞれ形作られている。


「ギ……?」


 僅かに意識を琴音へ向けるトレント。

 もう遅い。

 俺は跳躍してその場を離れる。


 そして––––


「《サンダーレイン》、《ストームプリズン》!」


 二つの魔法が同時に炸裂した。

 雷と風。

 どちらも空に由来する属性。


 相性は抜群だった。

 風の牢獄を作り出すストームプリズン。

 トレントはその中に閉じ込められる。


 ストームプリズンはそれだけで終わらない。

 閉じ込められる間も、風の刃で切り裂かれる。

 トレントの手足はズタボロになった。


 加えて頭上から降り注ぐ雷の雨、サンダーレイン。

 天の雷が、トレントの体を高電圧で焼き焦がす。

 二つの強力な魔法を同時に受けたトレント。


 その体は、少しずつ崩壊に向かっていた。


「ギ、ギ……!?」


 その事実に驚愕したのは、他でもない本人。

 風の牢獄から逃れようと暴れるも、持続的に降り注ぐサンダーレインに阻まれ手足が動かない。


 そもそも、その手足が再生し切っていなかった。

 再生すらも凌ぐ連続魔法攻撃。

 琴音の魔法は、トレントの再生速度を凌駕していた。


 これぞ琴音が新たに習得したスキル。

 その名もデュアルキャスト。

 二つの魔法を同時発動させるスキルだ。


 通常、魔法は一つの作用を同時に展開出来ない。

 雷魔法を使ってる最中に、風魔法も発動させる事は、本来ならどうやっても不可能な行為。


 しかしデュアルキャストは、それを可能にする。

 違う系統魔法の同時発動。

 非常に強力だが、コントロールも難しい。


 琴音の表情は今も強張っている。

 魔法を維持するだけで相当に消耗していた。

 更に、琴音は独自のアレンジを加えている。


 意図的にMPを消費し、魔法の威力を底上げする……提案したのは俺だが、彼女はそれを成し遂げた。

 荒れ狂う二つの魔法。


 その二つが合わさり、更に強力になる。

 相乗効果は単純な足し算レベルではない。

 規模と威力は最早、一つの災害だった。


「ギ、ギッ、ギギギイイイッ!?」


 トレントはデタラメに枝を撃ち出す。

 それは自分の身を焦がす諸刃の剣。

 通常なら、直ぐに体が再生するだろう。


 だが、今は違う。

 再生よりも損傷の方が圧倒的に早い。

 このタイミングでその攻撃は、ただの悪手だ。


 焦ったな、トレント。

 お前の勝ち目は、たった今ゼロになった。


「琴音、体力は持つか?」

「……な、何とか……いえ、申し訳、ございません。正直に申しますと、もう、限界……です」


 琴音の顔色は明らかに悪い。

 手足は震えていて、汗の量も尋常じゃなかった。

 これはかなり無理をしてるな……


「琴音、もういい。休め」

「ですが、まだ……」

「お前の勝ちだ、ほら見ろ」

「あ……」


 視線の先のトレントは、木屑と化していた。

 まるで台風が過ぎ去った後の森林だ。

 完全に倒し切れては無いが無力化には成功している。

 琴音の勝利なのには、変わりない。


「帰りの体力は残ってるか?」

「は、い……何とか」


 魔法を解く琴音。

 ふらりと足元が疎かになり、倒れる。

 予測していたので、優しく抱きとめた。


 相変わらず華奢な体だな。

 そんな子に無理をさせてしまっている。

 もっと俺自身も、強くならないと。


「そ、総司さまっ、もっもう、大丈夫、ですっ!」

「そうか、それならいい」


 パッと離れる琴音。

 今更照れる必要も無いのに。

 そこら辺の基準は、彼女にしか分からない。


 トレントは既に虫の息だ。

 適当に踏み付けるだけで死ぬだろう。

 何せ弱点と思われる核が丸出しだ。

 ヘルフォレストの核と似ている。

 同種同系統のモンスターだったんだろう。


「琴音、お前がここまで追い詰めたんだ。お前が倒して経験値を手に入れろ」

「では、お言葉に甘えて……」


 琴音は前足を高く上げる。

 踵落としの要領で、足を振り下ろす。

 体術スキルを持つ彼女の一撃は破壊力抜群だ。


 トレントの核は粉々になって吹き飛ぶ。

 破片も塵になって消え、ドロップアイテムを生む。

 薄緑色のチョーカーだ。

 拾ってどんな物か確認する。



 幽樹木のチョーカー

 ランク:B+

 朽ち果てた聖なる大樹の慣れ果て。

 装着者が育てる植物の成長を促進させる。



「見ろ琴音、面白そうなアイテムだ」

「これは……確かに、珍しい品で、ございますね」



 生活に関するアイテムだ。

 折角だし、畑でも耕そうかな。

 土地はまだまだ余ってるし。


「さてと、三階層への階段は……あれか」


 トレントが陣取っていた位置。

 そこにいつの間にか階段が発生していた。

 ボスを倒したら発生する仕組みのようだ。


 直ぐにでも降りたいが、少し消耗しすぎたな。

 今日はもう帰った方がいい。

 琴音の体調も心配だ。


「琴音、今日は帰ろう。三階層はまた今度だ」

「お気遣い、感謝致します、総司さま……」


 こうして二階層のボスとの戦いは終わった。

 琴音のレベルは上がり、ドロップアイテムも入手。

 俺の中で、また疑念が再燃する。


 トレントはしっかりと、ドロップアイテムを残した。

 ボスモンスターに相応しい。

 じゃあ、ファブニールは?


 あの後何度もドロップアイテムを探したが、一向に見つからず冒険者協会も匙を投げた。

 ドロップアイテムが無い。


 これが意味する事は……


 とはいえ今回は誰も死んでないし消えない傷も無い。

 二人とも無事な事が、何よりも嬉しかった。

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