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37話・トレント

 

 草原地帯を二人で歩く。

 現れるモンスターも今なら秒殺だ。

 障害でも何でもない。


 なのでゆるりと奥まで進める。

 知っての通り、第二階層は緑豊かな空間だ。

 しかし、歩みを進めるとそれも変わる。


 段々と緑が少なくなってくるのだ。

 枯れている植物が多く、灰色の世界になっている。

 植物よりも鉱石の方が多い。


 二面性を持った階層だ。

 ボスはどんなモンスターなのやら。


「総司さま」

「どうした、琴音?」

「この先から、強い魔力を感じます」


 キッと目を細める琴音。

 彼女は魔力の感知能力に長けている。

 スキルの力ではなく、そういう体質。


「本当か? 俺の敵感知には反応は無いな……」

「恐らく、まだ射程範囲外かと。それに琴音では、正確な位置までは把握出来ません故」

「それじゃ、気を引き締めて行くか」


 大雑把な位置なら琴音は分かる。

 しかし、正確な位置までは分からない。

 ナニカが居るって事は確かだ。

 きっとそいつがボスモンスターだろう。

 もう少し近付けば、俺の敵感知スキルが反応する筈。

 だが––––


「この開けた空間の、何処に潜んでるんだろうな」

「申し訳、ありません……琴音にも、さっぱりで」


 二階層エリアは広い草原が殆どだ。

 遮蔽物も少なく、モンスターが居ても直ぐ分かる。

 現在、俺達の前には何もない。


 なのに琴音は、何かが居ると感じている。

 ヘルフォレストのように擬態するモンスターか?

 その可能性は十分にある。


 同種のモンスターかもしれない。

 ヘルフォレストは明らかに強すぎた。

 ゲーム風に言うと、中ボスレベルか?


 今なら確実に倒せる自信はある。

 しかし当時の俺ならば、そうはいかない。

 ゲームなら勝つまでやり直せる。


 だが、現実は違う。

 負け=死なのだ。

 あの戦いは、それを強く意識させられた。


「いや、それならいいんだ。周りを注意深く––––」


 観察しよう、と言おうとしたその瞬間。

 俺の敵感知スキルが警報を鳴らした。

 モンスターの気配がギンギン感じ取れる。

 この反応は……正面!?

 馬鹿な、何も無いぞ!


「琴音! 敵が真正面に居るぞ!」

「なんと……」


 俺は剣を、琴音は杖を前へ構える。

 彼女は既に魔法を放つ準備を進めていた。

 出会い頭に攻撃するつもりのようだ。


「あれは……!」


 ぐにゃりと、目前の空間が歪む。

 信じられない光景だ。

 ぐるぐると渦を巻くように空間が変質する。


 そして黒い影が、姿を現した。


 見た目は巨大な樹木だ。

 一本の大木、そこに手足が付いている。

 手足は絡み合った枝で構成されていた。

 模様のような目玉と引き裂かれた口元。


 俺はある怪物を連想した。

 トレント……木のお化けだ。

 以前にも似たようなモンスターと遭遇している。


 だが、そいつとは何もかもが違う。

 サイズも威圧感も、比べ物にならない。

 同じと考えるのは危険だ。


 体長は10メートルくらいか?

 ギロリと見下ろされる。

 奴は、俺達を認識した。


「琴音、頼む!」

「はい! プラズマレーザー!」


 刹那、俺は琴音に命じた。

 彼女は瞬時に応じ、魔法を放つ。

 電流の束がトレントを穿った。


「…………ギ、ギ?」


 が、しかし……全くの、ノーダメージ。

 トレントは平然と立っていた。

 何かしたか? と言わんばかり。


 これまで何体ものモンスターを屠ってきた雷魔法。

 それが全く効いていない。

 恐るべき魔法抵抗力だ。


「……ならば、これは、どうでしょう」


 琴音は怯まない。

 彼女の周りに幾つもの雷球が浮かぶ。

 そして一斉に射出した。

 今度は数で勝負ということか。


「ギ、ギ!」


 トレントはそれを、一振りで防いだ。

 右腕による横薙ぎ。

 それだけで全ての魔法が消し飛ばされる。


 流石の琴音も、冷や汗を流す。

 何より魔法を連発しずきた。

 若干だが、疲労の色がうかがえる。


 今度は俺のターンだ。

 魔法が駄目なら、物理でどうだ!


「琴音、下がってろ」

「総司さま、私は、まだ!」

「いや、もしもの時の援護を頼みたいだけだ。頼りにしてるぜ、琴音」


 そう言ってから俺は駆け出す。

 一足で飛び出し、直後に右へ方向転換。

 素早くトレントの背後へ回る。


 真正面から戦う必要はない。

 トレントの背中はガラ空きだった。

 そこは目掛けて必殺技を放つ。


「彗星剣! はあっ!」


 青色の斬撃が刀身から伸びる。

 彗星剣はトレントの背中を斬り裂いた。

 傷そのものは与えられている。


 だが、直ぐに治癒してしまった。

 これじゃあラチがあかない。

 奴の体に引っ付いて、一部を集中攻撃するか?


 あれやこれと考える。

 中々妙案は浮かばない。

 そしてトレントも、悠長な時は与えてくれなかった。


「ギ!」


 ぐりんと、トレントの体が捻れる。

 胴体がボルトのように曲がった。

 奴の顔が、背中に付いている。

 口元はニヤリと笑っていた。

 くそ、そんな事まで出来るのかよ!


 トレントの体から、無数の枝が飛んで来る。

 先端が尖った鋭い針のようだ。

 当たれば串刺しになるのは間違いない。


 俺は慌てて跳躍スキルで高く跳んで回避する。


 初手の攻撃は防げた。

 しかし、空中では回避行動を取れない。

 トレントもそれを分かっているのか、射出している枝を方向転換させて空中に向ける。


 甘いな、それじゃあ今の俺は捉えられない。

 俺は竜の叡智を引き出す。

 そしてこの状況を打破する魔法を唱えた。


「ドラゴニック・ウイング!」


 迫り来る無数の鋭利な枝。

 それを間一髪で避けた。


「ギギ……?」


 困惑するトレント、それもそうだろう。

 今の俺の背中には一対の翼が生えている。

 その翼で空を舞い、枝による攻撃を避けた。


 ドラゴニック・ウイング。

 竜の叡智に付属している魔法の一つだ。

 竜の翼を生やし、自由に空を飛び回る。


 非常に強力な魔法だ。

 それだけに、制約も色々と多い。

 MPの消費が半端ではないのだ。


 一分間も使っていたら、俺のMPは空っぽになる。

 だから飛べるのは精々十秒程度。

 それでも今のように空中でも動けるようになる。


 一旦翼を消して地上に降りる。

 琴音が駆け寄り、傷を負ってないか確認してくれた。

 そして俺の翼について聞いてくる。


「総司さま、今のは?」

「ドラゴニック・ウイング、新しい魔法だ」

「流石、総司さまです。雅なお姿、でした」


 うっとりとした表情を浮かべる琴音。

 雅って、大袈裟な。


「それより琴音、地上からは何か分かったか?」

「あの木怪なモンスターは、琴音には目もくれず、総司さまだけを、狙っていました」


 確かに、俺ばかり狙って琴音は無視していたな。

 取るに足らない雑魚と思っているのか?

 そうならば、少し頭が足りない。

 あれだけの攻防で琴音を測った気になるなよ?


「琴音、例の技、使うぞ」

「今、ですか?」

「ああ。お前の力を、あいつに見せつけてやれ」

「……それがお望みならば、琴音は応えてみせます」


 彼女の瞳が細くなる。

 獲物を仕留める、狩人の目だ。


「俺が注意を惹きつけるから、準備しててくれ」

「少々、危険では? 琴音は不安です」


 フッと、彼女の目から殺気が消える。

 そこに居るのは一人の少女だった。

 ジッと俺を見つめてくる。

 ズルいな、その視線。

 何も言えなくなっちまうよ。


「……はは、ありがとな」


 だから、こうやって誤魔化す。

 ファブニールの時とは違う。

 玉砕の覚悟なんて無い。


 五体満足でモンスターを倒す。

 生きて家に帰るんだ。

 ソラにも、また会いたいしな。


「ギ、ギ、ギギギギギギッ!」


 それまで静観していたトレントが動き出す。

 身体中の至る箇所から枝を生やしている。

 向こうも準備は整っているようだ。


「信じてくれ、俺のこと」

「……はい。いきすぎた、進言、でした。琴音はいつ、どんな時も……総司さまのお側に」

「ああ、頼む」


 スキルの力で跳躍する。

 トレントは枝を伸ばしてくるが、全て斬り伏せた。


「ドラゴニック・ウイング!」


 十秒間だけの飛翔。

 だが、動きの遅いトレント相手なら、充分だ。

 幽騎士の剣の持ち手を握り直す。


 さあ、暴れるぞ……!

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