30話・戦いの始まり
邪竜ファブニールを倒す。
それはこの騒動の解決にも直結している。
どうやらワイバーンはファブニールの配下のようで、ファブニールを倒せばワイバーンも消滅するとか。
眷属召喚というスキルの力らしい。
ファブニールはそれを使っている。
代償に、自らは移動を制限されるそうだ。
だから埼玉ダンジョンから動かない。
より正確に言うならば、動けないだが。
「我々は、君を埼玉ダンジョンまで送り届ける」
「大丈夫なのか?」
「安心してくれ、必ずやり遂げる」
目黒自衛官は真剣な声音で言う。
他の隊員達も同じだ。
違う、そうじゃない。
俺が言いたいのは。
「あんたらの身の安全だ、ワイバーンの中を突っ切って進むなんて、自殺行為と変わらないぞ?」
「それが最短ルートだ」
「……いいのかよ、あんたらはそれで」
集まった自衛官の数は一万人に届くかどうか。
対してワイバーンの数は……およそ三万匹。
とてもじゃないが対処仕切れない。
だからこそ、ファブニールを倒す方が効率的だ。
奴の強さがどれ程のものか、実態は掴めてないが。
ワイバーンを三万匹倒すよりかは現実的だ。
「君も命を懸けている、大切な人を守る為に」
「……まあ、そうだな」
「我々もそうだ。家族、友人、恋人……ここで放っておけば、大切な人達がやがて命を落とす。だったら、少しでも可能性のある君に、私は賭けたい」
誰にだって、大切な人は居る。
皆、失いたくないのだ。
もっと一緒に居たい、だから守る。
自分の命を差し出す事になっても。
「責任重大だな」
「重すぎるか?」
「いや、肩に丁度良い重さだよ」
「なら問題あるまい」
ニヤリと笑う目黒自衛官。
この人も相変わらずだ。
「それでは、行こうか」
「ああ–––行こう」
戦力差は絶望的。
勝てるかどうかも分からない。
そんな決戦の幕が上がった。
◆
「グオオオオオッ!」
「魔法を撃ちまくれ、近付けさせるな!」
竜と炎の街と化した埼玉某所。
元々どんな街並みだったのだろう。
今ではその面影は、カケラ程にも無い。
焼け落ちた建物。
食い殺された民間人の遺体。
自分が如何に平和な世界で生きていたか実感する。
人は失って初めてその有り難みを理解するもの。
しかしこの戦いは、失わない為の戦い。
守る為の、戦争だ。
「矢を撃ちまくれ! 容赦するな!」
「グオオオオオッ!」
「ぐ、ぎゃっ!?」
ワイバーンの群れ。
その中を、数台の装甲車が走る。
しかしその装甲車は改造されていた。
天井部分が外され、気分はさながらオープンカー。
そこに自衛官が乗りながら、敵を迎撃する。
これが今回の作戦だ。
数の面で圧倒的に劣る俺達。
だったら無駄に数を並べても意味がない。
そこで、輸送部隊を少数精鋭に絞った。
最高の速度と火力で最短ルートを突っ切る。
それは地獄の行軍だ。
「ファイアランス!」
「プラズマボール!」
「ウインドカッター!」
身を乗り出した自衛官達の魔法攻撃。
炎、雷、風。
様々な属性の魔法が、ワイバーン達を撃ち落とす。
だが、ワイバーンは強い。
硬い鱗は魔法にもある程度の耐性があるようで、魔法の雨の中を掻い潜る個体も珍しくなかった。
そういったワイバーンは、近接武器で倒す。
「ふんっ!」
「グオオッ!?」
目黒自衛官が大剣でワイバーンを叩っ斬る。
首を切断されたワイバーンは瞬時に塵と化す。
ドロップアイテムは放置だ。
この状況では拾う余裕もない。
用意された車両の数は五つ。
乗っている人数は運転手含め、一台につき六人。
二台が先行し、残りの車両が後に続く。
俺が乗っている装甲車は中央に位置していた。
「撃て撃て撃てっ!」
「ぐあああああ!?」
「相崎! くっ、おおおおおおおっ!」
ワイバーンと自衛官の激しい戦い。
弾幕を潜り抜けたワイバーンが、一人、また一人と自衛官を空中に攫い、血の雨を降らす。
仲間の死を看取る暇も無い。
かく言う俺も、必死に剣を振り回していた。
「はああああっ!」
「ギャオオオ!」
一匹のワイバーンが近付く。
すかさず剣を抜き、噛みつき攻撃を振り払う。
レベルにより強化された俺の腕力は、例えワイバーン相手にも引けを取らない。
強化進化した片手剣術は、より鮮やか剣技を生む。
返す刃で冷静に首筋を斬った。
「ギャオオオオオ……!?」
崩れ去るワイバーン。
これで一体何匹目だ?
斬っても斬ってもきりがない。
「笹木さん、前に出すぎだ!」
「目黒さんこそ、張り切りすぎですよ」
「ここで気張らずにいつ気張る!」
「俺もそういう事です、よ!」
会話しながらもワイバーンを斬る。
体力の温存なんて出来やしなかった。
それだけワイバーンの猛攻が激しい。
まるで、何かを守っているようだ。
「あともう少しです!」
運転手が叫ぶ。
俺はチラリと前方を見た。
盛り上がった瓦礫の山。
その頂点に君臨する、巨大な竜。
「あれが、ファブニール……」
デカイ、とにかくデカくて大きい。
目視の体長なんて、考えるだけ無駄だ。
軍畑自衛官はよく生き残れたな。
だが俺はこの後、奴を相手にしなくてはならない。
頭の中で戦い方をシュミレーションする。
いきなり首や心臓、頭を狙うのは無理があるな。
まずは厄介な翼を根本から斬る。
そのあとに手足を攻撃していく。
無論、こんなのは机上の空論も良いところ。
あくまでもシミュレーション。
脳内だけのイメージ。
それでも身体を動かす指標にはなる。
「一号車、大破しました!」
「っ、迷わず進め!」
通信連絡が入る。
先行している一号車がやられたようだ。
見れば破壊された装甲車の跡がある。
乗っていた人達は……既に肉塊と成り果てていた。
屍を乗り越え、進む。
彼らの犠牲は決して無駄にしない。
だから、考えろ。
神話の邪竜に勝つ方法を。
「神話……か」
邪竜ファブニールを倒した英雄、ジークフリート。
彼はどうやってファブニールを倒したんだ?
俺は別に神話に詳しい訳じゃない。
大筋を少しばかり知ってるだけだ。
確か、ジークフリートは……
「目標到達まで、あと僅か!」
「皆、あと一歩だ! 笹木さんは準備を!」
「あ、ああ」
ワイバーンの追撃が激しくなる。
どうやら本当に近付いているようだ。
ここまで来たら、俺の出番は一旦休み。
協会の……自衛隊の皆さんを信じるしかない。
「五号車は生きてるな!?」
「はい、無事のようですっ」
「よし! 二分後に予定通り、射出を行う!」
俺は片手剣を鞘に収める。
射出の準備だ。
屈んで衝撃に備える。
輸送作戦最後の要であり、ラストの工程。
それは俺をファブニールの元まで飛ばす事。
装甲車ごと近付かせるのは難しい。
そこで、風の魔法で俺だけを飛ばす。
距離を大幅にショートカットできるって寸法だ。
人間砲弾とも言えるな。
こうでもしないと、奴の元へは辿り着けない。
既に皆んなも満身創痍。
これ以上の接近は困難だ。
やはり、俺一人で戦う事になりそうである。
「笹木さん……いや、総司くん」
「ん?」
目黒自衛官が突然呼び方を変えてくる。
いや、別に呼び名なんて何でもいいけど。
「最初に会った頃、私は君に何と言った?」
「長い付き合いになるかも、だったか?」
「ああ、そうだ」
バシンと背中を叩かれる。
それが彼なりのエールなのは、すぐに分かった。
「だから死ぬな、総司くん」
「……ほんと、勝手な人だな、あんたも」
「はは、君に言われたらおしまいだな」
「おいおい、どういう意味だよ、それ」
軽口を言い合う。
彼とは短い付き合いだ。
なのに今は、数年来の友達のよう。
「射出準備、整いました」
「俺はいつでも行ける」
「彼の言った通りだ、直ぐにやってくれ!」
「了解!」
後方の装甲車に乗る者達が一斉に魔法を唱える。
瞬間、強烈な旋風が俺を持ち上げた。
唸りをあげる竜巻。
その中心でふわふわと浮かぶ。
「駒野、支援魔法を彼に!」
「はい! ストロングポイント! タフネスポイント! スピードポイント! マジックガード!」
駒野さんが支援魔法を掛けてくれる。
そのおかげか体が軽くなった。
丈夫になった感覚もある。
射出にも、問題無く耐えれそうだ。
やがて––––
「トルネイド!」
複数人が同時に魔法を放つ。
ぐわんと、視界が大きく揺れる。
必死に耐えながら、風に運ばれた。
乾燥機の中ってこんな感じか?
「おおおおおおおおおおっ!」
ものの数秒で、目的地まで辿り着く。
叩き付けられるような衝撃が俺の身を襲う。
だが、全くのノーダメージ。
駒野さんの支援魔法がかなり効いていた。
そして俺は遂に立つ。
邪竜ファブニールの前に。
「……GAaaaaaa」
「よお、長い昼寝だな」
邪竜ファブニールが、目蓋を開けた。




