表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/50

30話・戦いの始まり

 

 邪竜ファブニールを倒す。


 それはこの騒動の解決にも直結している。

 どうやらワイバーンはファブニールの配下のようで、ファブニールを倒せばワイバーンも消滅するとか。

 眷属召喚というスキルの力らしい。

 ファブニールはそれを使っている。


 代償に、自らは移動を制限されるそうだ。

 だから埼玉ダンジョンから動かない。

 より正確に言うならば、動けないだが。


「我々は、君を埼玉ダンジョンまで送り届ける」

「大丈夫なのか?」

「安心してくれ、必ずやり遂げる」


 目黒自衛官は真剣な声音で言う。

 他の隊員達も同じだ。

 違う、そうじゃない。

 俺が言いたいのは。


「あんたらの身の安全だ、ワイバーンの中を突っ切って進むなんて、自殺行為と変わらないぞ?」

「それが最短ルートだ」

「……いいのかよ、あんたらはそれで」


 集まった自衛官の数は一万人に届くかどうか。

 対してワイバーンの数は……およそ三万匹。

 とてもじゃないが対処仕切れない。


 だからこそ、ファブニールを倒す方が効率的だ。

 奴の強さがどれ程のものか、実態は掴めてないが。

 ワイバーンを三万匹倒すよりかは現実的だ。


「君も命を懸けている、大切な人を守る為に」

「……まあ、そうだな」

「我々もそうだ。家族、友人、恋人……ここで放っておけば、大切な人達がやがて命を落とす。だったら、少しでも可能性のある君に、私は賭けたい」


 誰にだって、大切な人は居る。

 皆、失いたくないのだ。

 もっと一緒に居たい、だから守る。

 自分の命を差し出す事になっても。


「責任重大だな」

「重すぎるか?」

「いや、肩に丁度良い重さだよ」

「なら問題あるまい」


 ニヤリと笑う目黒自衛官。

 この人も相変わらずだ。


「それでは、行こうか」

「ああ–––行こう」


 戦力差は絶望的。

 勝てるかどうかも分からない。

 そんな決戦の幕が上がった。



 ◆



「グオオオオオッ!」

「魔法を撃ちまくれ、近付けさせるな!」


 竜と炎の街と化した埼玉某所。

 元々どんな街並みだったのだろう。

 今ではその面影は、カケラ程にも無い。

 焼け落ちた建物。

 食い殺された民間人の遺体。


 自分が如何に平和な世界で生きていたか実感する。

 人は失って初めてその有り難みを理解するもの。

 しかしこの戦いは、失わない為の戦い。

 守る為の、戦争だ。


「矢を撃ちまくれ! 容赦するな!」

「グオオオオオッ!」

「ぐ、ぎゃっ!?」


 ワイバーンの群れ。

 その中を、数台の装甲車が走る。

 しかしその装甲車は改造されていた。


 天井部分が外され、気分はさながらオープンカー。

 そこに自衛官が乗りながら、敵を迎撃する。

 これが今回の作戦だ。


 数の面で圧倒的に劣る俺達。

 だったら無駄に数を並べても意味がない。

 そこで、輸送部隊を少数精鋭に絞った。


 最高の速度と火力で最短ルートを突っ切る。

 それは地獄の行軍だ。


「ファイアランス!」

「プラズマボール!」

「ウインドカッター!」


 身を乗り出した自衛官達の魔法攻撃。

 炎、雷、風。

 様々な属性の魔法が、ワイバーン達を撃ち落とす。

 だが、ワイバーンは強い。


 硬い鱗は魔法にもある程度の耐性があるようで、魔法の雨の中を掻い潜る個体も珍しくなかった。

 そういったワイバーンは、近接武器で倒す。


「ふんっ!」

「グオオッ!?」


 目黒自衛官が大剣でワイバーンを叩っ斬る。

 首を切断されたワイバーンは瞬時に塵と化す。

 ドロップアイテムは放置だ。

 この状況では拾う余裕もない。


 用意された車両の数は五つ。

 乗っている人数は運転手含め、一台につき六人。

 二台が先行し、残りの車両が後に続く。

 俺が乗っている装甲車は中央に位置していた。


「撃て撃て撃てっ!」

「ぐあああああ!?」

「相崎! くっ、おおおおおおおっ!」


 ワイバーンと自衛官の激しい戦い。

 弾幕を潜り抜けたワイバーンが、一人、また一人と自衛官を空中に攫い、血の雨を降らす。

 仲間の死を看取る暇も無い。


 かく言う俺も、必死に剣を振り回していた。


「はああああっ!」

「ギャオオオ!」


 一匹のワイバーンが近付く。

 すかさず剣を抜き、噛みつき攻撃を振り払う。

 レベルにより強化された俺の腕力は、例えワイバーン相手にも引けを取らない。

 強化進化した片手剣術は、より鮮やか剣技を生む。

 返す刃で冷静に首筋を斬った。


「ギャオオオオオ……!?」


 崩れ去るワイバーン。

 これで一体何匹目だ?

 斬っても斬ってもきりがない。


「笹木さん、前に出すぎだ!」

「目黒さんこそ、張り切りすぎですよ」

「ここで気張らずにいつ気張る!」

「俺もそういう事です、よ!」


 会話しながらもワイバーンを斬る。

 体力の温存なんて出来やしなかった。

 それだけワイバーンの猛攻が激しい。

 まるで、何かを守っているようだ。


「あともう少しです!」


 運転手が叫ぶ。

 俺はチラリと前方を見た。

 盛り上がった瓦礫の山。

 その頂点に君臨する、巨大な竜。


「あれが、ファブニール……」


 デカイ、とにかくデカくて大きい。

 目視の体長なんて、考えるだけ無駄だ。

 軍畑自衛官はよく生き残れたな。

 だが俺はこの後、奴を相手にしなくてはならない。

 頭の中で戦い方をシュミレーションする。


 いきなり首や心臓、頭を狙うのは無理があるな。

 まずは厄介な翼を根本から斬る。

 そのあとに手足を攻撃していく。


 無論、こんなのは机上の空論も良いところ。

 あくまでもシミュレーション。

 脳内だけのイメージ。

 それでも身体を動かす指標にはなる。


「一号車、大破しました!」

「っ、迷わず進め!」


 通信連絡が入る。

 先行している一号車がやられたようだ。

 見れば破壊された装甲車の跡がある。

 乗っていた人達は……既に肉塊と成り果てていた。


 屍を乗り越え、進む。

 彼らの犠牲は決して無駄にしない。

 だから、考えろ。

 神話の邪竜に勝つ方法を。


「神話……か」


 邪竜ファブニールを倒した英雄、ジークフリート。

 彼はどうやってファブニールを倒したんだ?

 俺は別に神話に詳しい訳じゃない。

 大筋を少しばかり知ってるだけだ。

 確か、ジークフリートは……


「目標到達まで、あと僅か!」

「皆、あと一歩だ! 笹木さんは準備を!」

「あ、ああ」


 ワイバーンの追撃が激しくなる。

 どうやら本当に近付いているようだ。

 ここまで来たら、俺の出番は一旦休み。

 協会の……自衛隊の皆さんを信じるしかない。


「五号車は生きてるな!?」

「はい、無事のようですっ」

「よし! 二分後に予定通り、射出を行う!」


 俺は片手剣を鞘に収める。

 射出の準備だ。

 屈んで衝撃に備える。


 輸送作戦最後の要であり、ラストの工程。

 それは俺をファブニールの元まで飛ばす事。

 装甲車ごと近付かせるのは難しい。

 そこで、風の魔法で俺だけを飛ばす。


 距離を大幅にショートカットできるって寸法だ。

 人間砲弾とも言えるな。

 こうでもしないと、奴の元へは辿り着けない。


 既に皆んなも満身創痍。

 これ以上の接近は困難だ。

 やはり、俺一人で戦う事になりそうである。


「笹木さん……いや、総司くん」

「ん?」


 目黒自衛官が突然呼び方を変えてくる。

 いや、別に呼び名なんて何でもいいけど。


「最初に会った頃、私は君に何と言った?」

「長い付き合いになるかも、だったか?」

「ああ、そうだ」


 バシンと背中を叩かれる。

 それが彼なりのエールなのは、すぐに分かった。


「だから死ぬな、総司くん」

「……ほんと、勝手な人だな、あんたも」

「はは、君に言われたらおしまいだな」

「おいおい、どういう意味だよ、それ」


 軽口を言い合う。

 彼とは短い付き合いだ。

 なのに今は、数年来の友達のよう。


「射出準備、整いました」

「俺はいつでも行ける」

「彼の言った通りだ、直ぐにやってくれ!」

「了解!」


 後方の装甲車に乗る者達が一斉に魔法を唱える。

 瞬間、強烈な旋風が俺を持ち上げた。

 唸りをあげる竜巻。

 その中心でふわふわと浮かぶ。


「駒野、支援魔法を彼に!」

「はい! ストロングポイント! タフネスポイント! スピードポイント! マジックガード!」


 駒野さんが支援魔法を掛けてくれる。

 そのおかげか体が軽くなった。

 丈夫になった感覚もある。

 射出にも、問題無く耐えれそうだ。


 やがて––––


「トルネイド!」


 複数人が同時に魔法を放つ。

 ぐわんと、視界が大きく揺れる。

 必死に耐えながら、風に運ばれた。

 乾燥機の中ってこんな感じか?


「おおおおおおおおおおっ!」


 ものの数秒で、目的地まで辿り着く。

 叩き付けられるような衝撃が俺の身を襲う。

 だが、全くのノーダメージ。

 駒野さんの支援魔法がかなり効いていた。


 そして俺は遂に立つ。

 邪竜ファブニールの前に。


「……GAaaaaaa」

「よお、長い昼寝だな」


 邪竜ファブニールが、目蓋を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ