23話・逆境の中の光
こちらの出方を伺うモグラモドキA、B、C。
どうも戦い慣れてる感じだ。
不意打ちで二匹を倒しておいて本当に良かった。
五匹を相手にしていたら確実に死んでいただろう。
個では劣っても、群で勝てばいい。
彼らの選んだ強さは後者だった。
「だが!」
地面を蹴る。
本調子では無いのは向こうも同じ。
本来なら五匹のグループなのだ。
その役割分担を三匹で補っている。
連携の綻びは、必ずある筈。
もう、そこを狙って突破するしかない。
モドキAに向かって突撃する。
迎え撃つモドキA。
片手剣とモドキAの爪がぶつかり合う。
鈍い、金属が擦れ合う音が響く。
「ゴボボッ!」
モドキBに背後を取られる。
だがそれは予想済みだ。
「ウォーターフォール!」
「ゴボボ!?」
現れる水の障壁。
ウォーターフォールがモドキBの行く手を阻む。
これで少しの間、一匹は止められる。
その隙に残りを確実に倒す。
「ふ、はっ!」
「ゴボボボボ!」
モドキAと斬り合う。
モドキCが石飛礫を飛ばして援護をしてくるので、深く踏み込めず決定力に欠ける。
中途半端な力ではモグラモドキに押し負ける。
彗星剣を使って一気に倒したいが……
「っ! 発動、しない!?」
使おうと意識する。
だが、彗星剣は発動しなかった。
まさか……魔法を使っているから?
それしか考えられない。
くそ、必殺技と魔法の併用は出来ないのかっ!
或いは俺のレベルが足りていないからなのか。
とにかく、今は彗星剣を使う事が出来ない。
ウォーターフォールを消せばいいのだが、その場合モドキBが拘束から解放され、自由に動き回る。
彗星剣で二匹同時に斬るのは困難だ。
三匹……
そう、この三匹という数が絶妙なのだ。
どうしても一匹に隙を見せてしまう。
だから一匹でも倒せれば……!
「く……!」
MPが削れていくのが分かる。
ウォーターフォールの持続に必要なMPだ。
残された時間は多くない。
何もかもが足りないこの状況。
光が、必要だ。
闇を切り開く、強烈な光が。
「はあっ!」
剣を突き立て、モドキCに向けてナイフを投げる。
ナイフの本数もあと僅か。
飛んでいくナイフだが、無情にも叩き落される。
「ゴボボボボッ!」
笑い声のようなものをあげるモドキC。
激しく地面を叩き、削り、石飛礫を作り上げる。
それを散弾のようにばら撒いた。
勝機と思っての行動だろう。
俺は最後の力を振り絞り、大きく飛び跳ねた。
倒れるように避ける。
その衝撃で魔法も解けてしまった。
モドキBが自由になる。
「ゴボボ……!」
「ゴボボオッ!」
モドキAとモドキBが爪を打ち付ける。
金属音がギンギンと響く。
モンスターの習性は分からない。
しかしそれがトドメの合図なのは分かる。
俺は左腕が使えず、援護も無い。
対してモドキ達は消耗こそあれどしっかり動けるし、数の有利に加え地の利もある。
誰がどう見ても、俺の敗北は濃厚。
––––普通ならな。
「はは……土壇場で、閃いたぜ……!」
咄嗟に残りのナイフを全て投げる。
三本の小業物ナイフが宙を舞う。
だが、モドキCは石飛礫を飛ばす。
これでナイフは叩き落されて、終わり。
奴はそう思っているだろう。
その時点で、俺の勝ちだ。
「ゴボボ!?」
ナイフは石飛礫に……当たらない。
どういう訳か、全ての石飛礫を避けていく。
海中を泳ぐ魚のように。
スルスルと石飛礫の雨を掻い潜る。
そして、三本のナイフはモドキCに突き刺さった。
首、胸、顔。
急所三つにナイフが刺さる。
モドキCはゆらりと倒れた。
「ゴボボオ!?」
「ボボッ!?」
「おい、よそ見するなよ」
動揺する残りのモグラモドキ達。
俺は容赦なくモドキAを斬りつける。
咄嗟に飛び退くモドキB。
だが遅い、俺は奴の左腕を切り落とした。
「ゴボボ……!」
「分からねえって顔してるな、おい」
切断面から黒い血を流すモドキB。
俺はモドキCからナイフを回収する。
「今のは俺の新しい必殺技、スナイプスローだ」
「ボボ……」
投擲スキルの必殺技、スナイプスロー。
狙った箇所へ必ず命中させる技。
途中の障害物も乗り越える、優れものだ。
最後にモドキCへナイフを投げたあの時。
丁度熟練度が溜まったのである。
「最後まで諦めない、か。あながち嘘じゃないな」
無論、これは奇跡では無い。
必殺技は最初から存在したシステム。
俺が投擲スキルを使い続けた結果の賜物。
それが偶然、この局面で来ただけ。
奇跡は祈るものじゃない。
自らの力で、手繰り寄せるものだ。
「それじゃあ、決着つけようか……」
「ゴボボッ!」
片手剣……カーバンクルジュエルソードを頭上へ掲げ、最早お馴染みとなった青い光を纏わせる。
そして一直線に振り下ろした。
「––––彗星剣」
青の極光が、モグラモドキを斬り伏せる。
気付いた時には、全てのモドキが塵と化していた。
◆
「総司さま!」
戦闘終了後。
俺は自らの足で琴音達の元へ向かう。
周りに他のモンスターの姿は無い。
少しばかり休憩してもいいはずだ。
すると、顔を青白くさせた琴音が駆け寄ってくる。
ああ、確かに今の俺はボロボロだ。
心配させてしまったかな。
「こちらへ! 直ぐに傷を癒します!」
「ああ、頼む」
岩の柱に背中を預ける。
琴音に左腕を見せて治癒魔法を掛けてもらう。
ただ、直ぐには治らない。
傷によって治癒時間が変化するようだ。
その最中に例の大学生グループが話し掛けてくる。
「あのっ、助けてくれてありがとうございます!」
開口一番、大人しそうな女の子が頭を下げる。
それに続き他のメンバーも頭を下げていく。
「それより、どうして奥に進んだんだ?」
「それは……」
「お、俺が! む、無理に連れて行ったんです……」
俺と同年代くらいの男が言う。
体はカタカタと震えており、顔色も悪い。
相当ダンジョンにやられたようだ。
「出入り口近くは、人が多くて……ロクにモンスターも倒せないから、奥に行こうって……」
「誰もが考える事だが、その結果死んだら意味無いぞ? もうそんな馬鹿な事は考えるな」
「はい……」
これは協会に報告する必要がありそうだ。
奥へ進ませないように、見張りを置いた方がいい。
口で言っても聞かない奴らはもっと現れるだろう。
命を落としてからでは遅い。
それが理由でダンジョンは危険だとか言う世論が広まって一般開放が無くなったら大変だ。
「それにしても……あんた、凄く強いんだな」
別の若者が言う。
勇気とか呼ばれていた奴だ。
腹の傷はしっかり癒えていた。
「そうでもない、慣れてるだけさ」
「いやでも、あの数を纏めて倒すなんて……」
面倒になってきたので適当に返す。
余り詳しく話すと危険だ。
プライベートダンジョンの事もある。
そうだ、ステータスを確認しよう。
レベルが上がってるかもしれないし。
[ササキソウジ]
Lv16
HP 90/160
MP 50/125
体力 26
筋力 32
耐久 26
敏捷 32
魔力 16
技能 【片手剣術】【投擲】【ウォーターフォール】【】
SP 14
やっぱりレベルが一つ上がっていた。
だけどHPもMPもそこそこ減っている。
あのままジリ貧になってたら本当に死んでたな。
多対一の戦い方も覚えていくべきだ。
常に琴音と連携出来る訳じゃないのだから。
「総司さま、終わりました」
「ありがとな、助かったよ」
「総司さまがご無事で、何よりです」
微笑む琴音。
その瞳には、僅かだが涙が溜まっていた。
「よし、じゃあお前ら帰るぞ。まだモンスターは出てくるだろうから、絶対に俺と琴音から離れるなよ?」
「は、はい!」
「あと、ここで俺達と出会った事は他言無用だ。破ったからと言って俺から何かする訳じゃないが……まあ、人間の良心ってヤツを信じてみるよ」
「わ、分かりました!」
返事だけは良いな。
この素直さをもう少し早く出していればな。
だが彼らもこんな馬鹿な真似はもうしないだろう。
こんな目にあっても冒険者を続ける気があるかどうかは分からないし、そもそも俺の関与する領域を超えている。
最終的に人生を選ぶのは、自分自身なのだから。




