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22話・覚悟

 

「あれは……?」


 俺と琴音が元居た場所から少し先のエリア。

 そこに悲鳴の主と思われる人物達が居た。

 数にして七名、男性四人に女性三人。

 数匹のモンスターに囲まれている。


 見た感じ大学生っぽい。

 いやまて、ていうかアイツら、見た事あるぞ?


 ……思い出した!

 講習会で舐めた事を聞いてたグループだ!

 正確には、グループの一人が、だけど。


 しかしどういう事だ?

 記憶が正しいならアイツらは冒険者見習い。

 レベルも1になったばかり。

 なのにどうしてこんな奥にいる?


 受付で散々説明を受けた筈だ。

 ダンジョンの奥に、下へ潜る程危険だと。

 つまり忠告を無視して来たってワケだ。

 はあ……自業自得だな。

 正直見捨ててもいいが……


「あ、ああ……神様……たすけて……」

「だから言ったじゃん!? やめようって!」

「う、うるせー! 仕方ねーだろ! 人が多すぎてロクにモンスターと戦えないんだから!」

「こんな時に喧嘩しないで! それより勇気が!」

「う……う、い、痛い……、う、う!」


 どうやら一人は既に重傷のようだ。

 腹から血を流し、倒れている。

 彼を庇うように円を組んでいた。

 更にその円を囲うように、モンスターが。

 さっきのモグラモドキだ。

 五匹は居るな、奴ら群れる習性もあるのか?


 どちらにせよ、選択肢は二つ。

 彼らを見捨てるか、助けるか。

 生殺与奪は俺の手にあると言っても過言ではない。

 さて、どうするか……


 俺にとって助けるメリットは殆どない。

 そもそもモグラモドキ五匹を纏めて相手にする。

 まず単純にこれが難しい。


 倒せる事は倒せるが、奴らは厄介な動きをする。

 それが一度に五体。

 先程は数の利を活かした連携で倒したが……今度は逆に俺達が数の有利を取られ敗北する可能性もある。


 冒険者見習いだし、見返りも期待出来ないだろう。

 メリットデメリットで考えたら、助ける価値なし。

 だが人道的に考えたら、どうだろう。


「琴音、お前はどうしたい?」

「琴音は、総司さまのご意思に、従います」

「いや、そうじゃなくて……琴音本人の意思は?」


 もう一度問う。

 彼女は僅かに間を置いてから答えた。


「総司さまの意思に従うのが、琴音の想いです。ですがこの場合……助ける理も、助けない理も無い、と琴音は考えております」

「どっちでもいいって事か?」


 意外だ。

 見捨ててもいいと、彼女は言っている。

 何となく、そういうのは嫌いだと思っていた。


「我々も、命を懸けているのです。絶対の勝利など、常世の何処にも、ございません。なれば、救わない事に対して、罵詈雑言を浴びせられる事など、あり得ません。覚悟の無かった、あの者達の、過ちです」


 琴音は真摯に言う。

 覚悟……覚悟か。

 確かに俺達は命を懸けている。

 彼らにはその覚悟が足りなかった。

 だからこうして、危機に陥っている。


 俺は……どうだろう?

 覚悟なんて大層なものは抱いてない。

 単純に、楽しいからダンジョンに挑んでる。

 死ぬつもりも毛頭無い。

 だけど、仮にダンジョン内で命を落とす場面に遭遇しても––––後悔は無いと、断言出来る。


「俺は、俺の為に生きている。その結果死ぬのなら本望だと、常に思っている……これは、覚悟か?」

「はい。琴音は、そう思います」

「––––そうか、これが『覚悟』なのか」


 ドクンと、鼓動が高鳴る。

 胸の奥底から熱いモノが込み上げてくる感覚。

 空白に墨を垂らしたような気分。

 覚悟なんて考えてもいなかった。


 ダンジョンという存在に出会わなければ、俺は一生適当に過ごして適当に死んでいた。

 それはそれで悪くない。

 だけど後悔はしていただろう。


 偶然の出会い。

 それが俺を変えたのだ。

 ならば。

 チャンスは、誰の手にも渡る。

 そうは考えられないだろうか?


 俺は静かに、片手剣を鞘から抜く。


「琴音、俺は今からあいつらを助ける。嫌なら協力しなくていいから、待っててくれ」

「琴音は何処までも、総司さまのお側におります」

「そうか……ありがとな」

「っ……光栄です、総司さま……」


 モンスターを倒す時でさえ崩れない琴音の表情。

 それが、柔らかく崩れた。


 こんな事に意味は無いのかもしれない。

 自己満足、何だろうな。

 それでも一向に構わない。

 まさに俺らしいやり方だ。

 俺は、俺の為に生きているのだから。


「琴音、まずはモンスターの注意を逸らす。俺が突っ込むから魔法で適当に援護してくれ。そのあとは俺が時間を稼ぐから、傷を負ってる奴を癒して、出来るだけ遠くに避難させるんだ」

「構いませんが、危険では?」

「楽勝だ、そろそろ暴れたいんだよ」

「ふふっ……それなら、心配無用、でございます」

「おう。じゃあ、やるぞ」


 カーバンクルジュエルソードを強く握る。

 感触を実感した後、俺は飛び出した。

 全速力で駆け抜ける。

 あっという間に現場へ到着し、モンスターの注意をこちらに向ける為あえて挑発した。


「こっちだモグラモドキ!」


 ナイフを一匹のモグラモドキへ投げる。

 弾かれたが、俺の存在を認識させた。


「お前ら、死にたくないならさっさと逃げとけ」

「えっ!?」

「だ、誰……!?」

「早くしろっ!」


 戸惑う大学生達。

 突然知らない奴が来たら、こうなるか。

 だが彼らもモンスターが怖いのか、直ぐに俺の指示に従い逃げ始める。


「ゴボボ、ボボ!」

「ゴボボッ!」

「ひっ……!」


 そんな彼らの前にモグラモドキが立ち塞がる。

 数は二匹。

 俺はそっちに向かって大きく飛び跳ねた。


「おおおおおおっ!」

「ゴボボッ!?」


 着地と同時に剣をモグラモドキに突き立てる。

 予想だにしない、空中からの一撃。

 剣はしっかりと首筋に差し込んでいる。

 まずは一匹を倒す。


「ゴボボ!」

「ちっ!」


 すかさず残った一匹が攻撃してくる。

 着地の反動が残っており、動けない。

 仕方なく身を屈めて防御姿勢を取る。

 だがその必要は無くなった。


「プラズマボール」

「ゴボボ!?」

「助かったぜ、琴音!」


 モグラモドキが雷の球に撃ち抜かれる。

 痺れて動けないのか、奴の動きは鈍い。

 形勢逆転だ。

 反動から回復した右腕で、剣を振るう。

 これで二匹目。


「さあ、こちらへ」

「あ、ありがとう……!」

「う、うう……」

「……治します。エイド」


 琴音が治癒魔法で傷付いた大学生を癒す。

 直ぐに処置しなければ命を落とす程の傷だ。

 一瞬、治癒魔法を見せた事へのリスクに思考が曇る。


 俺が知っている限り、治癒魔法は希少だ。

 と言うか琴音以外で見た事が無い。

 オンリーワンのスキルなんて聞いた事が無いから、珍しいだけで他にも持ってる人は居るかもしれない。


 ただそれでも、琴音が治癒魔法を持っている事が知られたら……小さくない騒ぎが起こるだろう。

 最悪、彼女を強引に勧誘しようとする者も現れる。


 そうなったら少々面倒だ。

 とは言え、一度助けると決めた以上は助ける。


 それにもし治癒魔法の存在が露呈し、琴音が多数の冒険者に狙われる事が起きても……彼女が自らの意思で望まない限り、俺が蹴散らせばいいだけの話だ。

 そう考えたら、思考の曇りが晴れた。


 琴音も大学生達を上手く誘導出来ている。

 あとは俺が三匹のモグラモドキを倒すだけ。

 なのだが、少々面倒だ。


「ゴボボ!」

「ゴボボ、ボボボボッ!」

「ゴッ、ゴボボッ!」


 いつの間にか三匹に囲まれていた。

 琴音の援護も、今は来ない。

 純粋に俺の力で突破するしかないこの状況。

 はは、楽しくなってきた。


「来い!」

「ゴボボ!」


 二匹のモグラモドキがほぼ同時に襲いかかる。

 ややこしいのでモドキA、B、Cと呼ぶ。

 モドキAは頭を、Bは足を狙ってきた。


 同時攻撃は対処するのが難しい。

 横に飛んで、攻撃を避ける。

 その瞬間、石飛礫が弾丸のように飛んできた。


「ぐはっ……!」


 咄嗟に左腕でガードする。

 胴体へのダメージは防いだ。

 しかし代償に、左腕は使い物にならなくなる。

 片手剣は片腕でも振れるのが強み。

 戦闘を続けるのに問題は無いが……


「二匹が前衛で、一匹が後衛……やりにくいな」


 モドキ達は連携している。

 二匹が前衛で、後衛が一匹。

 前衛を二匹にする事で一匹があっという間に倒される事を防ぎ、後衛が動きやすくもする。

 三匹とも良い動きだ。

 正直、活路は未だ見出せていない。


 前衛に集中すれば、後衛に狙われる。

 後衛から倒そうにも、前衛に阻まれる。

 想像以上に完成度の高い連携だ。

 伊達に群れで行動してた訳じゃないってか。


「だけどな––––俺も、負けられないんだよ!」


 死ぬ覚悟は出来ている。

 だがそれは、今じゃない。

 俺はもっともっと先へ行く。

 ここではない、何処かへ。


 その為に……強くならなくちゃ、いけないんだ!

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