21話・千葉ダンジョン
「……」
「……」
俺と琴音は絶句する。
ちょっと前までダンジョン関連の話題は風化していたのに、この人の集まりようは異常だ。
何者かの強い意思を感じる。
誰かが流行るように仕向けているのか?
広いはずの空間が、とても狭いと感じる。
全員走り回っているので少し危ない。
殆どが今日冒険者になったばかりの人達だ。
装備を見れば一発で分かる。
貸し出し用の武器を使っているからな。
もしかして、俺が考えている以上に儲かるのか?
とにかくもっと先へ行こう。
この辺りのモンスターは狩り尽くされている。
元々経験値効率が悪すぎるので、浅い階層のモンスターは相手にするつもりが無かったので問題ない。
「行くぞ、琴音。出来れば二階に降りる」
「はい、総司さま。心得て降ります」
人混みの中を縫うように進む。
しかし、これだけの人数が一箇所に集まっていると、何かの拍子にパニックが起こりそうで怖い。
そしてここは外と隔絶された世界、ダンジョン。
実際になにか起きても不思議では無い。
モンスターパニック……
嫌な想像をしてしまう。
よそう、俺は俺の目的を果たすだけだ。
三十分程要して人混みを抜ける。
すると、辺りの地形に変化があった。
捻れた岩の柱、とでも言おうか。
それが何本も生えている。
普通に歩く分には問題ないが、もしここで戦闘を行うなら視界の邪魔になるだろうな、厄介だ。
とは言え、冒険者の数もかなり少人数になる。
以前から潜っていた連中だろう。
ここなら気にせずに戦える。
なんて思っていたら、早速モンスターに遭遇した。
「ゴボボ、ボボッ!」
「モグラか?」
「……両手が、金属の爪のようです」
岩の柱にくっ付いていたモンスターが現れる。
大きさは百五十センチほど。
外見はモグラに似ている。
但し、両手が凶悪な金属の爪のようだ。
斬り裂かれたらひとたまりも無い。
とりあえずは琴音を下がらせる。
まずは俺が前衛だ。
彼女には魔法によるサポートをしてもらう。
さあ、千葉ダンジョンでの初戦闘。
存分に楽しませてもらおうか!
「はあっ!」
「ゴボボッ!」
カーバンクルジュエルソードをモグラモドキに向け振り下ろすも、奴は素早い動きで別の柱に飛び移る。
そのまま柱を爪で削り、石飛礫を飛ばす。
「っ、危ねえっ!?」
まるで弾丸だ。
レベルを上げてない人間は即死だぞ!?
強化された動体視力で何とか見切る。
俺はお返しとばかりにナイフを投げた。
モグラモドキは爪で弾き、またも石飛礫を飛ばす。
しかし、今度は琴音の魔法で撃ち落とされた。
モグラモドキが琴音を睨む。
奴のターゲットが彼女に切り替わる。
だが、そんな事は百も承知。
俺は全速力でモグラモドキに近付く。
モグラモドキは石飛礫で迎撃しようとするが、琴音がプラズマボールで全て撃ち落とす。
これが、数の有利を活かした連携。
次第に焦り出すモグラモドキ。
もう遅い、チェックメイトだ。
「彗星剣!」
「ゴボッ!?」
煌めく青い一線。
カーバンクルジュエルソードの刃は、しっかりとモグラモドキの体を斬り裂き、その命を刈り取る。
岩の柱から崩れ落ちるモグラモドキ。
地面に激突したと同時に、体は霧散した。
残ったのはいつもの魔石。
俺と琴音の勝利だ。
「今の連携は良かったな」
「お褒めに預かり、光栄、です」
ドロップした魔石を回収する。
モグラモドキはそれなりに面倒な相手だった。
動きは素早く、遠距離攻撃も仕掛けてくる。
戦い慣れてないとキツイモンスターだ。
千葉ダンジョンも思った以上に手強そうである。
それに心なしか、プライベートダンジョンよりも、同じ階層なのにモンスターが強い。
これは戦い続けないと分からないが。
「暫くここでモンスターを狩るぞ」
「はい、援護は任せてください」
モンスターを探して歩く。
次に見つけたのは巨大な蛇のモンスター。
岩の柱に巻き付いている。
体長は目視で約四、五メートルほど。
体表青く瞳は獰猛。
ブルースネークと名付けよう。
ブルースネークは俺達を見つけると、直ぐに長い尻尾を振り回すような攻撃を仕掛けてきた。
タイミングを合わせ、ジャンプして避ける。
しかし、それがブルースネークの作戦だったのか、口からドロドロの液体を吐き出してきた。
嫌な予感がする。
俺は慌てずにウォーターフォールを唱えた。
目前に小さな滝が現れる。
ブルースネークの液体は流れる水の障壁を突破出来ず、地面に流されながら叩き落ちた。
ギョッとするブルースネーク。
怒りに触れたのか、岩の柱から身を離し、大顎を開けながら俺に向かって突撃してくる。
俺は再び、魔法を唱えた。
「ウォーターフォール!」
「シャッ!?」
滝の水で強引に口を閉ざさせる。
そのままナイフを両目目掛けて投擲。
見事に命中、ブルースネークは視力を失った。
「シャアアアアアアアッ!」
まさに怒り心頭。
手当たり次第に暴れ出すブルースネーク。
そのパワーは決して侮れない。
それに鱗は硬そうで、肉も分厚い。
片手剣で斬れるかどうか、怪しい。
なので、彼女に任せる事にした。
お膳立ては既にしてある。
トドメを決めてもらおう。
「琴音!」
「……はい、準備は既に、完了、しております」
「なら頼む!」
「了解、です」
琴音がサンダーロッドを前に構える。
魔力が杖の先端に集まり、発動する魔法の威力を向上させる杖の機能が働いている事が伺えた。
魔力は次第に、雷へと転換されていく。
ビリビリとした空気が蠢く、そして––––
「プラズマレーザー」
興奮も、恐れも、緊張も、何もない。
敵を倒す、ただそれだけの為の魔法。
琴音は一切の動揺無く、容赦無く、魔法を使う。
雷の主砲はブルースネークを正確に捉える。
生み出される雷光。
光の本流となって、杖の先端から発射される。
一方的なまでの暴力。
上から、下へ。
強者から振り下ろされる、弱者の烙印。
この場合の弱者とは?
それは––––弱いこと。
ダンジョン内は弱肉強食。
ゆえにブルースネークは、弱者だ。
今から死する運命に抗う強さを、ブルースネークは既に失っているのだから。
そして……ブルースネークの頭部は、吹き飛んだ。
「蛇の蒲焼きか、不味そうだな」
「地方によっては珍味だそうで」
「少なくとも、コレは食用じゃないだろ」
プスプスと焼き焦げたブルースネーク。
まるで雷に打たれたかのようだ。
そのまま数秒で塵と化す。
今回のドロップは……お、三つも落ちたな。
「魔石と……藍色のローブと……牙?」
「確認してみましょう」
「そうだな」
魔石はいつもの袋に回収する。
藍色のローブと牙を手にとって調べた。
しかし反応したのはローブだけ。
牙はランクD以下ってことになる。
けれど何かの素材に使えそうだ、取っておこう。
さて、ローブの方は、と。
隠蛇のローブ
ランク:C+
纏うとスキル【気配遮断】と同じ効果を得られる。
自らの体温をある程度調節する事も可能に。
「これはそれなりに良いアイテムだな」
隠蛇のローブ、良いアイテムを引き当てた。
気配遮断と同じ効果か……
「琴音、これはお前が着ろ」
「琴音が? よろしいのですか?」
「ああ、お前が着た方が良い。気配遮断で、敵から姿を隠しながら魔法を打てるようになれる」
姿を隠し、一方的に遠距離から攻撃する。
かなりのアドバンテージを稼げるだろう。
ダンジョン内では卑怯もクソもない。
勝って生き残った奴が正義だ。
「では、頂きます。貴方さまに、感謝を」
その場で隠蛇のローブを羽織る琴音。
杖も合わさって、魔法使いっぽく見える。
実際は魔法が無くても戦えるのだが。
「それじゃあ、またモンス「きゃああああっ!?」
突然悲鳴が轟く。
声量からして、そう遠くない。
「一体、何事でしょう?」
「さあな……たく、最近はトラブル続きだな」
無視してもいいが、気になる。
よし、一応様子だけ見に行こう。
で、面倒そうなら逃げる。
琴音にそう話し、小走りで現場に向かった。




